表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
n=1から始める魔界方程式  作者: 辛味庵
一章 始まりの魔界
2/15

再誕

──世の中にはテンプレというものが存在する。


 それは隣の家の幼馴染であったり、隠された能力を持つ落ちこぼれ少年であったり、異世界転生する引きこもりニートであったり、そんな物語なんかでよくある展開、設定。

 そして、そんなテンプレ要素をふんだんに取り入れた、いわゆる「テンプレ作品」なるものが今の世の中には溢れかえっているわけだが、舌の肥えた読者はこう思うことだろう。


「またこの展開かよ──」と


 しかしながら、そんな物語の美食家たちの意見を無視してか、はたまた本当に知らないのか、世の中には今日もテンプレ作品が次々と生み出され、もとい量産され続けている。

 なぜだろうか。その答えは簡単だ。


──テンプレというのはそれが『正解』であるからだ。


 おにぎりに一番合う飲み物が緑茶なように、ラブコメにはウブで健気な幼馴染が一番合うし、少年漫画には能力を覚醒させる主人公が一番合うのだ。

 そして逆説的に言えば、これらのテンプレをあまりにも外れた物語というのは、少しばかりの例外を残して、散っていくのが運命さだめである。


 いまだかつてない繊細かつ緻密に設定された世界観? うんうん、いいだろう。誰も予想できない奇想天外で衝撃的な展開? うんうん、いいだろう。

 ──読者の理解が追いつかないことを除けば。


 テンプレを避けるあまりに、オリジナル路線にこだわる者の末路は一つ。ただの一人よがりの公開オ〇ニーだ。そんな過激なストリップショーは、ビギナーやニワカはおろか、テンプレ嫌いなマニアにさえも『理解される』ことなく消えていくのだ。

 だが、まぁ考えてみれば当然のことだろう。誰がおにぎりを食べながら甘ったるいカフェオレで口直しをしたいと思うのだろうか。誰が給食のわかめごはんについてくる牛乳の味に喜べるのだろうか。思えばあの時が初めてである。『世の中が常に正しいわけじゃない』ということに気づいたのは。

 話が逸れたが、物語にしたってそうである。誰が隣の家のおばちゃんとのラブコメが見たいのか。誰が特徴もないし覚醒もしない凡人ヒーローに自分を重ねたいと思うのだろうか。

 結局は『普通が一番。テンプレこそが原点にして頂点』ということなのである。


 というわけで、彼──九條誠くじょうまことは偉大な偉大なテンプレのもと、『異世界転生』なるものをしたわけなのであるが──


「ちょ、ちょっと待て──」


 まぬけな声を上げながら、自分がやってきた世界を見渡す誠。だが、誠の頭を違和感が覆う。いや待て、彼がやってきたこの世界、異世界なのだから違和感があるのは当然だ。

 だが、あまりにも。あまりにも誠が思っているモノとは違う。


──ここで一つ、言い忘れてたことがある。異世界転生がテンプレだとするのなら、そのテンプレを成り立たせるための前提、条件というのもまたテンプレであるべきだ。


 つまりは異世界転生をするというのなら、主人公が冴えなくて、転生先の舞台が中世ファンタジーで、転生時に神からギフトないしチート能力がもらえて、美少女たちが狂ったように主人公を取り合うようなハーレムを築くのは必然であって──


 いや、確かに冴えないという条件は満たせそうだ。九條誠高校二年生、かろうじて学校に通ってはいるが、行ったり行かなかったりで、このまえの長期休みに至っては一歩も外に出てないニート生活ぶり。それに、心技体どれをとってもなんの特徴もないし、こういった主人公によくある目つきが悪いといったマイナスの特徴さえない。THE平凡OF平凡。ここまでくれば冴えないといってもいいだろう。

 だが、二つ目の条件。舞台が中世ファンタジー。ここですでにテンプレのためのテンプレが崩壊してしまっている。なぜなら──


「なっ……なんだよここは──!?」


 誠の眼前に広がる世界。そこには中世ファンタジーのような石造りの建造物も甲冑を来た亜人の姿もない。そこにあるのは街はおろか木々も生えない枯れた大地、むき出しの岩盤に荒れ狂う山脈。そして、視線の向こう、遠くには溶岩を垂れ流した広大な火山。

 そんな火山の尾根から一匹の鳥が飛び立つのが見える。その鳥は轟音を鳴らしながらこちらの方へ飛んでくる。否、あれは鳥などではない。空を穿ちながら飛翔するその姿はまるで──


「ド、ドラゴン!?」


──一頭のドラゴンが誠の頭上を咆哮しながら飛び立っていった。


「ま、マジかよ」


 呆然と立ちつくす誠。彼の呟きがドラゴンの鳴き声でかき消されてしまう。


「……ま、まさかな。ウソだろおい」


──ここまで来たら、認めざるを得なかった。


 あれだけテンプレは正解なのだと言っときながら、テンプレが一番だと言っておきながら。この世界、テンプレする気がない、と。

 それはつまり──


「お、俺、魔界に転生しちまったってことかよ──!?」


──魔界での物語の始まりであると


 かつておにぎり公式飲料を目指した紅茶というものがあった。彼らは夢を見たのであろう。紅茶でもおにぎりは食えると。ならば我々も夢を見ようじゃないか。


 魔界でも異世界転生はやっていけると──



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ