一夏
もしも君に出会えてなかったら。
たとえ出会っていたとしても、その出会いを素通りしていたら。
こんな感動は一生涯なかったと思う。
小さいけれども本人たちにはしっかりと在った輝き
大きな地球のなかで小さいけれどもしっかりと輝く宝石のように。
そんなん、しらんし!
わからんし!
あーぼー何言ってんの!
二人の始まりは全く思いがけなかった。
ある日、男は仕事帰りに情報誌を見て女将がかわいいなと思いちょとした遊び心を抱き乍一軒の居酒屋に立ち寄る。
そこには、期待以上のきれかわいい女将が切り盛りしていた。
男は、興味が湧いた。
男は、カウンターに座った。
女将は気さくに喋ってくれて美味しい肴、お酒を頂いてるとドアを開ける音、ドアが開いたのに人が居ない。
衝立の横から可愛らしい女の子が少し恥ずかしそうに出てきた。
出てきた顔は目が大きくくりっくり鼻は少し上を向いててはにかんだ笑顔は空きっ歯、背丈は大分低い
男は思わず横に座るよう進めた
女の子は恥ずかしがりながら座った。女将が「ひなた」です。太陽の「陽」と書いて「ひなた」と言います。小2です。
女の子は晩御飯を食べに来た様子。
男は女の子に喋りかけるけれど女の子は、恥ずかしいのかもごもご
男はだんだん女の子に興味が湧いてくる。
男はこのお店をすぐに気に入り通うようになって女の子も次第に男の横に当たり前のようにすわる様になって沢山お喋りもするようになって お店のカウンターのいつもの光景のようになるまでになった。
空には、入道雲が姿を現すようになった、季節は初夏
男は、そんな空を眺めてこの夏はこの女の子と本気で遊んでみようと思った。
自分も今一度童心に帰ってみよう。
この子と本気で遊んで、自分には幼いころに思った純粋な気持ちを思い出す事を、女の子には、これからの人生の中で大切になってゆくであろう感性、考え方等に少なからず良い作用する事が出来たらと思った。
二人の夏が始まった。
二人は、お店意外でも遊ぶようになった。
先ず女の子が言い出したのが
「蟻地獄がみたい!」て
「そういえばわしのお気に入りの川に蟻地獄ある!」てなって
早速、次の日、
二人で蟻地獄見に行くつもりやのにテンション上がりすぎて水着とバーベキューセットも持って行った。
何故だかスケボーまであった。(笑)
相変わらず綺麗な川、女の子もかなり気に入った様子
蟻地獄3分、二人の気持ちは、さっさと川の方に、いやいや3分の間も気持ちはと言うより魂がもう行ってた。綺麗な川を目の前に蟻地獄? そんな地味な者はふっ飛んでいた。
そっから二人は火事場から逃げるようなスピードで水着に着替え始めた筈なのにスピードダウン、聞いてみる女の子さんは、スクール水着がダサ過ぎて気に入らない様子、予定が急すぎたから水着が用意出来なかったらしい。
さすがは女の子そこらは重要みたい。オシャマさん
気を取り直して
男はバーベキューの準備
男は思った「本格的にやっちゃるばい」本気のキャンプ用のタープ、椅子、机
女の子は「すごっ!」
定番の水の掛け合い(もう水着の事などはるか彼方にいってしまってる)川の水は冷たく女の子は、身震いと嬉しさとが混じった様なで訳のわからん喜び方。
絵に書いたようなかわいく綺麗な中洲のタープの下でバーベキューで優雅な感じで嬉しそう。
「この男まあまあやるやん!」て感じ 二人の距離が更に縮まった1日。
女の子は、運動好き。
二人で「サッカーしょっ!」ってなった。
「じゃぁ、お店の前の公園で明日しょう!」
次の日男は、早速サッカーボールを買いに女の子にはシューズ、ソックスのプレゼントも用意
女の子は喜んで履いていざ出陣
公園にだんだん近寄って行くにつれ自分の格好が本格的過ぎたのに気付き照れ臭いと言う気持ちが湧いてきたらしく少し拒みはじめる。なんとなく顔見知りの同じ小学校の男の子らがいるみたい。
男は大丈夫、格好いいでと笑い乍なだめ乍、二人笑い乍公園に入って結局サッカーに夢中になった。少しベンチで休憩。
二人は仲良しなのに女の子はシャイでオシャマさんだからまだ男の名前を呼んだ事がなかった。
ふと男は女の子に言った。
お気に入りの可愛い子には「あーぼーて呼んでもらう事にしてる」
二人は再びサッカーに夢中に、
夢中になり過ぎた女の子は
思わず「あー」で我に帰ったけれど「ぼー」て言っちゃった。そして顔は少し恥ずかしそうに笑んだ。
男は自然に振る舞おうとしたけれど
多分、子供を騙すぐらいの演技しか出来てなかったと思う。
女の子との距離はなくなった。
この日から本当の仲良しになったと思う。
陽が「徒競走しよっ!」て
陽は走りが早くて得意なよう
よーいどん!
あーぼー普通の大人、負けるわけがない
それでも陽は、「めっちゃはや!」
「あーぼーやるやん!」て思って
このあいだの川の事も混ざって
無意識にすごいと思いだす。
二人はそれから公園を夕暮れを突き抜け暗隣のアパートの明かりを頼りにするぐらいまで走り回った。
陽の髪の毛は汗で岩海苔みたいにおでこに貼り付いていた。
「なあなあ、あーぼー、陽なプール行きたい!」
早速次の日曜日、またまたテンション上がり過ぎて開園前に到着、
張り切ってプールに入ったものの陽の身長は100センチ位、内容の半分は溺れてるに近いのに笑って必死にあーぼーにしがみつこうとしてくる。
男は、それがなんとも可愛くて、愛らしくて好きだった。
平日の仕事終わりも二人はプールやサッカー時には居酒屋デート行ったり焼き鳥屋デートいったりほぼ毎日遊んだ。帰り道、星空の下だったり夕焼けの中だったり並んで歩いた。
この頃には気楽にお泊まりまでするようになっていた。
お泊まりの日にはスーパー行ってひなたはあーぼーが押す買い物カートに乗るのが大好き
買い物カートもお店によって違うもので乗りやすいカートとそうでないカートがあり
スーパー選びなかなかの割合でそこ重視できめていた。
あーぼーもっと速くしてー、
怒られるわ
いいやんかーちょっと位
ちょっとだけやで
わーおへらへらへら
ひなたなキューちゃん買って
あっちあっち
ないやんか
へらへらへら
こっちこっち
キューちゃんどこや ええーかげんにせぇよ
ウフフ
何がウフフじゃ
少し悪のりが過ぎるわがままに付き合っての買い物はたいへんだ。
男の家は目の前に川の流れる二階テラスの大きな三階建ての一軒家ひなたは少しリッチな気分になれるからお気に入り。
今日は、お好み焼き。
あーぼーこれ何!メッチャうまいやん
ひなたはこの時に男が作る山芋焼きとキューちゃんを食べるのが大好きだった。
しまいに山芋焼きのきじをそのまま食べとった。
その後はベランダで線香花火大会
バケツに水をはりその小さな土俵の上に二人身を寄せて火の玉取り合い、消えるまでを競い笑って少し怒って最後には顔を赤く染められながら儚げな綺麗さに黙った。
その後は布団どれだけの高さ飛び乗れるか大会。
ひなたは本当に身体を動かすのが好き。遊びなのに踏み込みの時には顔は本気。
顔、本気やんか
そうなってしまうねん
二人で笑ってからそして寝た。
ひなたは男の大きなベッド、男は適当に
こんな調子で陽はしょっちゅうお泊まりした。
ある日、陽はあーぼーが七月の連休に趣味の波乗りに二泊三日で予定してる事を嗅ぎ付ける。
やっぱり思った通りひなたも行くと言いだす。
さすがにママの許可が下りないだろうと思いきや
あーぼーひなちゃん行きたいて言ってるから頼むね
何持たしたらいい?
だって
鳩が豆鉄砲くらった時の気持ちが
身をもって解った。
まぁ何はともあれです。
さあ待ちに待った当日、あーぼーの仕事が終わるや否や
いっくでー!
四時間半ほどの道中、何故だか陽は全爆睡この意味は今でも分からん。
現地に着いてからの翌朝目の前には碧い海と初心者向けの柔らかい波。男は自分的にはつまらないとおもったけれど。
陽には最高で自分が感じる感覚が少しは共感出来るかなと喜んだ。
陽は初めてのサーフィンでおおはしゃぎ
そこには久しぶりの友達も現れてわいわいガヤガヤ一日おもっきり遊んで、でっかい太陽の夕焼け二人で堤防に座って真っ赤に染められて足ぶらぶら。
それから皆で居酒屋またわいわいガヤガヤしてお店を出てまだ飽きたらず自分らの寝る駐車場の車に帰ってキャンプ様の椅子出してまた宴会。
最後は二人オートフリートップの車になだれ込んで並んで爆睡
次の日もこんな調子。
そして海とさよならいつもいろんな感動や気持ちや命の源迄をも与えてくれる。大切にしなくては
陽はこんなふいんきをすこぶる気にいった様子で楽しそう。
男は自分の好きな世界を陽も気にいってくれたのが嬉しかった。
男と陽の不思議な関係は深さをましてゆき出会ってから数ヶ月なのに思い出もだいぶ増えてきた。
二人の振り付けを作った。
「あーぼと、ひーなであぼあぼひーなひな~」
ある日の朝、男は朝早くに目が醒め退屈になりドライブに行こうと思いそこはやっぱり陽を誘う。
陽は寝てた様子めんどくさそうに応対まぁいいでてな感じ真っ赤なスポーツカーでいざ出掛けてみると気持ちの良い気候のせいかノリノリ道の駅寄ってぷち朝ごはんして高速乗って陽の好きな曲ながし、少し飛ばして二人でご機嫌
お家へ送った。
陽がバイバイて走ってゆくとこを男は呼び止めた。
陽がふりかえった。
陽、愛してるっ!て冗談まじりで言った。
陽は、何故だか何も言わずに走りだした。
雨の日、二人で何しよ、て、暫く考えて屋内のアミューズメント店に行く事に、そこにはロッククライミングがあった。
陽が、あーぼーこれ登れる?と聞いてきた。
その高さは七メートルまあまあ高い。
陽の前ではスーパーマンでいたい男は、少し緊張しながら多分と言ってしまった。失敗は許されない。
命綱を装着して壁の前に、さらに緊張。
前に立ってみて嫌な事に気づく少しボロいせいか突起物が沢山取れている。ヤバい
そんな事は陽の知ったこっちゃない。陽が望んでいるのは、ただただ登って欲しいだけだ。
男は登り初める。やはり予想以上にきつい。コースがなかなかとれない。なんとか七割位のところまでたどり着いたけれどもう心が折れそう。
振り返り下を見ると少し怖い高さと何より怖かったのがくりんくりんのお目目が更に大きくなってこっちを見つめている事。
あかん!期待は想像以上みたいだ。やっぱりやめられへんのか。
男は、陽のお目目のお蔭で見事にてっぺんの鐘を鳴らした。
潜在能力の何割かが出た世界感じた気がした。
この子は僕の潜在能力までをも引き出してくれるのか。と、不思議にも思った。
命綱に吊るされ下に降りた時には若干腰が抜けて動けなくなりそうな感じになったがそこは陽の前平然を装った。必死だった。
さっすがあーぼー すごいなぁ! 陽が言った。
後は卓球して大笑いしてカレー食べてジュース飲んで雨の降る何でもない一日が陽のお蔭で思い出に残る素敵な一日になった。
そしてお盆休み女将とお姉ちゃんも誘って遊園地、陽は断然絶叫派で女将とお姉ちゃんはそれが苦手
陽は断固譲らない陽とあーぼー絶叫チーム 女将とお姉ちゃんメルヘンチームに別れる事で治まり行動開始
二人で大空の下のジェットコースター大声あげて大喜び真っ暗なジェットコースター大喜びその他あれもこれも大喜びソフトクリーム食べて大喜びフランクフルト食べて大喜び楽しすぎて気~くるうわいな。後は女将チームと合流して演奏のアトラクションで教養とリラックスを養ったらいいかなと女将と言っていたら後者のほうが勝ち過ぎてほぼ寝そう。
ほんまにかわいい奴や
ほんとに楽しい一日やった
また一つ大きな思い出が出来た一日
陽はほんとに素敵なものをくれる
色々やっていろんな感動をした夏。
お盆も終わりその夏も終わりに近づく男は盆休み明けにかねてから願っていた海外の仕事に就くように勤め先から勧められそれに就く事を決意する。
出立の前日、女将のお店にいつもの様に訪ねいつもの様にカウンターに座りお酒を飲みいつもの様にしてるといつもの様に陽が来ていつもの様に横に座った。
いつもと違ったのは陽がいつもの様に明るく喋らなかった。
陽は、女将から聞いて知っていた様子。陽が口を開いた。
あーぼー、一杯ありがとう、陽なあーぼーに会えて、めっちゃ良かった。
そして大きな目は潤潤で今にもこぼれ落ちそうになっていた。
そしてこぼれて止まらなくなった。
男の胸もとてつもない嗚咽が込み上げてきていっぱいだった。
陽が
「あーぼとひーなであぼあぼひーなひな」
「あーぼとひーなであぼあぼひーなひな」
てやりだした。
顔はぐしゃぐしゃなのに精一杯の笑顔をつくって。
男は、ありがとう、て陽の頭を胸に抱き寄せた。
男は、もうたまらず店を出た。
涙がこぼれないように上を見上げたけれど涙の勢いに勝てなく結局人目も憚らず思い切り泣いた
こっちの方がありがとうやわ。と思いながら