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第六話 魔法少女冬海ちゃん

「──ここが武器庫だ。ここでお前達の命を預ける為の相棒を決めてもらう」


 ロドリグに武器庫へ連れていかれた俺達は、そこに広がる光景に圧倒された。

 武器庫では沢山の武器が俺達の事を精神的に圧迫してきていたのだ。


 壁一面には古今東西様々な武器が綺麗に並べられており、己を選ぶ未来の主を今か今かと待ち望んでいるように見える。

 一般的に知られている武器だけでも長剣、短剣、大剣、槍に弓等……。

 別の所へ目を向けると鎌のような武器やクロスボウ、モーニングスターなんてものまである。


 始めて見る本物の武器の群れに、唖然として声も出ない千秋達にロドリグは声を掛ける。


「とりあえず、まずは気になった武器を手に取ってみてくれ。使う武器が決まったらオレに声を掛けてくれれば、その武器に合った訓練用の武器を渡すから」


 ロドリグの言葉に我に返ったのか千秋達は慌てて各々が感じた武器を探しに向かっていった。

 そんな千秋達に俺も追いかけ、武器庫の中を歩き回りながらどの武器にするか考える。


 ──うーん、ひとまず槍はパスだな。ここに来るまでは無難に剣にでもしようと思っていたが……ここまで様々な武器があるなら奇抜な武器でも良いかなって目移りしちゃうな。


 武器を見渡しながら考えていると、龍牙が一つの武器の前で悩んでいる姿が視界に入り、何を選んだのか気になり声を掛ける事にする。


「どうした、龍牙? どれで迷っているんだ……っと、それは」


 龍牙の背後から前に覗き込めば、そこには一本の槍が鈍く輝いていた。


 長さがおよそ二メートルほどの長槍は暗い銀色をしていおり、己を使うのをひたすらに待ち静かに佇んでいる。

 よく見ると槍のあちこちには細かい傷が付いているのが目に入り、恐らくこの槍は幾多の修羅場を潜ったのだろうとわかる。


 そんなどこか威圧感を感じる槍を眺めている間に、龍牙は俺に気が付いたのか振り向き俺の顔を見て口を開く。


「あ、春斗。僕はどうしてもこの槍が気になってね。でも、他の武器も見てみたいなって考えていたんだ」


 龍牙がそう呟くと、目の前の槍が抗議するように光った気がする。……武器が意思を持つ、か。

 前の異世界では喋る武器等見た事も聞いた事もなかったので、考えた事もない可能性に腕を組んで考え込む。

 暫く考え込んでいると、龍牙が不思議そうな表情を浮かべて俺の顔を見ている事に気が付く。

とりあえず、どうするのかは龍牙に任せて俺は先ほど感じた勘に従い助言を与える事にする。


「俺の勘も告げているんだが……龍牙はこの槍に惹かれたんだよな?」

「え? うん、そうだけど?」


 俺の疑問に龍牙はキョトンとした表情を浮かべて頷く。

 龍牙の頷きに俺は組んでいた腕をほどき、指を立てて龍牙へ語り掛ける。


「だったら、その槍で良いんじゃないか? こういう感覚も俺は大事だと思うぞ」

「うーん……そうだね!」


 俺の言葉に龍牙は少しの間考えていたが、結論が出たのか笑みを浮かべて頷くと、立て掛けてある槍を手に取った。

 龍牙はそのままロドリグの元へ向かうそうなので、武器探しの続きをするために俺は龍牙と別れ武器庫の探索を再開するのであった。


 ──それにしても、龍牙が槍ねえ。


 武器探しの探索を続けていると、ふと龍牙が槍を選んだ事を思い返し、友人が相棒に槍を選択した事に自然と笑みが浮かぶ。

 暫く忍び笑いを漏らしていると不意にある場所へ惹かれているように感じて、俺は無意識に武器庫の隅へと足を向けてしまった。






 他の武器に隠されるようにその長剣は立て掛けており、その真紅の色に俺は思わず目を奪われた。


 全体の長さは一メートルほどであり、過分な装飾が施されていない実用性の高い黒い鞘に納められている。

 持ち手の部分はガーネットを連想させる紅色でできており、俺はその鮮やかな紅色に目を奪われたようだ。


 その長剣に俺は引き寄せられるように近づく。

 そして手に取ろうとした瞬間、突然長剣から紅いオーラが立ち昇ったような錯覚を感じた俺は驚いて手を止めてしまう。

 そんな動きを止めた俺の様子を、その程度かとどこか嘲笑うように長剣が震えた気がした。

 武器に馬鹿にされたように感じて自然と顔が引き攣っていき、そんな筈はないと思い浮かぶ想像を頭から追い出す。


 改めて気を取り直して長剣を手に取ると、ずっしりとした重量を感じ取る。

 鞘から刀身を抜き取ると──真紅の水晶が目に入る。


 ありえない現象に鞘を持った左手で目を擦りもう一度長剣を見ると、どうやら刀身の薄い紅色に水晶と勘違いをしたようだ。

 刀身は綺麗に磨かれており、光を反射して俺の顔が映っているのが見える。


 ──これは、相当の業物だな。俺が今まで見た中でも最高峰に位置する武器だ。


 あまりにも艶やかな輝きに俺は暫しの間魅入られていたが、我に返ると刀身を鞘に戻す。

 風鈴が鳴るような音と共に刀身は鞘に仕舞い込まれ、俺は改めてじっくりと長剣を観察する。


 見れば見るほどこの長剣の出来映えに心を奪われ、俺の心は固まっていく。

 一応他の武器も見渡してみるが、やはりこの長剣以上に惹かれる武器はなく、俺はこの長剣を選ぶ事にした。

 己の命を預けるための相棒の出来に満足しつつ、すでに武器が決まったようでロドリグの所に集まっている皆の元へ俺も向かうのだった。











「──よし! 各々が気に入った武器を選んだな。まずは、何を選んだのかオレに見せてくれ」


 武器庫の前まで戻った俺達はロドリグにそう告げられ、それぞれが決めた武器を取り出す。

 俺達の取り出した武器を見渡したロドリグは、俺の武器を見ると一瞬渋い顔をする。

 ロドリグの表情に内心で首を傾げている内に、ロドリグは直ぐに快活な笑顔に変わると口を開く。


「では、龍牙の武器から説明していくか。それにしても、これを選ぶとは中々センスがあるじゃないか、龍牙!」

「そ、そうですか? そんなに褒められると照れちゃうな」


 ロドリグの褒め言葉に満更でもないようで、珍しく龍牙は頬を赤らめ照れている。

 龍牙が選んだ槍を改めて見てみると、長さも龍牙の背丈と上手い具合に噛み合い、確かに良い感じに使えそうだと納得する。


「その槍はこの国の歴代の将軍達と共に死線を潜り合った古兵でな。名前は《銀槍アテナル》という」

「銀槍アテナル……」


 ロドリグの言葉に暫く龍牙はアテナルを眺めており、やがて笑みを浮かべるとそっと手で触れる。

 それに応えるように、アテナルがキラリと光った気がする。


 龍牙の様子を見たロドリグはこめかみを指で押しながら何かを思い出そうとしていて、やがて思い出したのか手を叩くと頷きながら口を開く。


「そう、そうだ。思い出した! 確か銀槍アテナルには特殊能力があってな」

「特殊能力……?」


 龍牙のオウム返しの呟きにロドリグは何度も頷くと、機嫌良く指を立てるとアテナルの能力を挙げる。


「そう、このアテナルは敵に攻撃を当てると、当たった対象の魔力を奪う性質を持っているんだ。だから、戦場等の長期的な戦いでは凄く強い武器でな。今までの遣い手達もこの能力に何度も助けられ──」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「──て、うん? どうした?」


 そのままロドリグがアテナルの薀蓄(うんちく)を垂れようとした所に、今まで黙って話を聞いていた冬海が思わずといった様子で声を上げる。

 途中で話を遮られた事にも気にしないでロドリグは首を傾げて冬海に目を向けると、冬海は興奮しているのか鼻息を荒くして口を開く。


「い、今ロドリグさんは魔力と言いましたが……も、もしかしてこの世界には魔法があるのでしょうか!?」

「お、おう……確かに魔法はあるが?」


 冬海が手を震わせながらも怒涛の勢いで尋ねてくる様子に、ロドリグはやや引きながらも律儀にも答える。

 すると、冬海は満天の星空のように瞳を輝かせはじめ、ガッツポーズを取ると突然立ち上がり叫び声を上げだした。


「──やったー! やりました! ま、魔法が使えるようになる日が訪れるなんて! キャー! 嬉しい、嬉しすぎます!」

「お、落ち着いて冬海ちゃん……きゃっ!」


 兎のようにピョンピョン飛び跳ねて全身で喜びを表す冬海に、珍しく千秋がたじたじになりながらも声を掛けるが、冬海は気にした様子もなく満面の笑みを浮かべると千秋へ勢い良く抱き着く。

 滅多にない冬海からのスキンシップに千秋が目を白黒していると、冬海は笑みを浮かべたまま千秋の耳元で早口でまくし立てはじめた。


「何を言っているのですか千秋さん! 魔法ですよま・ほ・う! これを喜ばずして何に喜べばいいのですか!? はぁー、何度魔法が使えればいいと思った事か……やはり定番の火の玉でしょうか嫌でも風の魔法とかにも興味がありますし──」

「は、春斗ぉ……たすけてぇ」


 冬海に耳元で呪文のように呟かれ、千秋は涙目になりながら俺の方へ手を伸ばして助けを求めてくる。

 冬海の変貌に俺達は唖然としていたが、千秋の声に我に返ると慌てて千秋達の方へと向かい、冬海の背後へ回り込むと後ろから冬海の頬を引っ張る。


「──それでそれで速読の魔法を覚えるのも良いですねこのお城になら沢山の本がありそうですし速読の魔法で沢山の本を読むああなんて至福の時間にゃのでひょうかあいふぁいいふぁいでしゅはりゅとしゃん!」

「はぁ……冬海、周りを見てみろ」


 頬を引っ張られる痛みに意識を取り戻したのか冬海が俺に抗議をしてくるが、周りの状況を見てから言って欲しい。

 俺の呆れた視線に気が付いたのか冬海の身体が見事に硬直する。


 そっと引っ張っていた頬から手を離すも冬海は硬直したままで、暫くすると冬海は油の切れたロボットのようにゆっくりと周囲を見渡した。


「ち、千秋さん……」

「春斗ぉ、冬海ちゃんが怖かったよぉ」


 冬海はまず近くにいた千秋へ目を向けたが、千秋は泣きながら俺の胸にしがみつき冬海から少しでも逃げようとしており、俺が千秋を受けとめて頭を撫でて慰めている状態だ。

 その様子に冬海の頬がひくりと引き攣り、次に龍牙の方へと視線を転じる。


「り、龍牙さん……」

「あ、あはは……」


 一見龍牙は朗らかに笑っているように見えるが、よく見ると笑い声は掠れているし、冷や汗を流して冬海から決して目を合わせようとしない事がわかる。

 龍牙の必死の抵抗に冬海の頬は益々引き攣り、ロドリグの方へと勢い良く目を向ける。


「ロ、ロドリグさん!」

「うぉ! ……まあ、何だ。個性的でいいんじゃないか?」


 ロドリグの微妙にズレているフォローに冬海はいよいよ自分がとんでもない醜態を晒した事に気が付いたようで、最後に俺へと泣きそうな表情を浮かべながらゆっくりと顔を向ける。


「は、春斗さぁん……!」


 どこか縋るように尋ねてくる冬海に、俺は千秋を撫でていた手を冬海へ向けるとサムズアップを作る。


「魔法少女冬海ちゃんに期待しているな!」


 爽やかな笑顔と共に告げた俺の言葉に、冬海は完全に身体が硬直した後に俯く。

 その様子に首を傾げていると、冬海が何かを呟いているのに気が付き耳を傾ける。


「魔法少女冬海ちゃん……冬海ちゃん…………う」

「う?」

「うわぁぁぁぁぁぁん! はるとさんのばかあぁぁぁぁぁぁ……!」


 俯いていた顔を突如もの凄い勢いで上げると冬海は真っ赤な顔で俺を睨みつけ、涙を流すと俺達とは反対方向へ走り去っていってしまった。

 冬海の唐突な行動にロドリグが慌てて止めようとするが思いの外冬海の足が早く、あっという間に冬海の背中が小さくなっていく。


 ──しまったなあ……冬海を弄り過ぎたな……あ、転んだ。


 流石にやり過ぎたと罪悪感を感じていると、冬海は足がもつれて転んでしまい、どこかいたたまれない空気が流れ出した。

 周囲の空気の変化を感じ取ったのか、千秋は俺の胸から顔を離すと首を傾げている。


「あー……オレが迎えにいってくるよ」

「……お願いします」


 ロドリグが頭を掻いてそう告げると、転んだ状態のまま動かない冬海の元へ走っていった。

 走っていくロドリグを黙って見送っていると、ロドリグへ冬海を頼んだ龍牙が真剣な表情を浮かべて俺の方へ顔を向ける。


「春斗……今回は流石に謝った方が……」

「ああ……そうするわ」


 龍牙からの心からの忠告に素直に頷き、遠くにいる冬海を見て益々首を傾げた後、冬海が転んでいる事に気が付き慌てている千秋の頭を撫でて落ち着かせていく。


 ロドリグに助け起こされて目を擦りながら戻ってくる冬海見ていると、次に冬海を弄る時は気を付けようと自然と決心するのだった。

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