第十二話 魔法適性
「そうじゃ、適性を調べる前に本当に講義を理解できたかどうかお主達を確かめるとしようかの」
何やら机の上に手のひらサイズの青と透明な水晶を置いたかと思えば、唐突にアデラールが顎に手を当てながらそう告げた。
机の上に置かれた水晶に視線を集めていた俺達は、アデラールの言葉にお互い目配せをして講義を全員理解できているか確認する。
冬海がドヤ顔してくる以外は特に問題ないようなので、俺達はアデラールへ揃って頷いた。
「わかりました、ではまず何から聞きますか?」
「ふーむ……では属性の事から聞いてみようかの」
俺の疑問にアデラールは暫し悩む素振りを見せると、魔法を知るにあたって基本の事から尋ねてきた。
誰から答えるか決めようかと千秋達に顔を向けた直後に、勢い良く冬海が手を挙げてドヤ顔のまま答えようとしていたので最初は任せる事にした。
「はい! この世界では属性を表す時に大まかに『基本属性』『特異属性』『原始属性』の三つに分類する事ができます! 基本属性とは──」
「おお、そこまでじゃ。他の人にも答えてもらいたいからその辺にしてくれると助かるのう」
「──あ、わかりました」
そのまま全て答える勢いだった冬海だが、アデラールに止められて渋々と口を閉ざした。
よほど説明したかったのか冬海の顔にありありと不満が表情に出ていて、俺達は揃って苦笑いを浮かべてしまう。
アデラールも冬海の様子に苦笑いすると、次に龍牙へ目を向けて続きを促してきた。
それに気が付いた龍牙は一つ頷くと指を四本立てて口を開く。
「では次は僕が。基本属性は適性によって変わりますが、基本的に誰でも覚える事ができる属性です。属性の種類は『火属性』『水属性』『風属性』『土属性』の四つがあり、この四種類の適性次第で威力や質が変わります」
「うむ、しっかり理解できておるようじゃの」
その説明にアデラールは満足そうに頷いていて、その姿に龍牙も間違いがなかったと安心しているようだ。
龍牙の説明に補足をすると基本属性は、先ほども告げられた通り子供から老人まで魔力さえあれば誰でも使える属性だ。
しかし、基本属性の使いやすさは適性によって大きく変わり、その辺は完全に才能の違いとなってしまう。
例えば、成人男性と子供が二人いたとして、男性が一の魔力で一の火属性魔法を使ったとする。
それに対して、子供に火属性の適性があれば一の魔力で十の火属性魔法を使えるという事だ。
もちろん、才能の差により一の魔力で百にも千にも変わる可能性もあるので、魔法使いは実力がピンからキリまである実力主義の世界になっている。
ちなみに、前の世界で俺が適性を調べた時は風属性と水属性だったので、この世界と前の世界では適性が変わるのかどうか楽しみに思っている。
前の世界での魔術事情と頭の中で比べていると、アデラールは次に千秋へ目を向けて合図を送る。
千秋はその合図を理解すると顎に手を当てた後、告げる内容を整理するようにしながら指を立てて回していく。
「えーっと……確か、変異属性は基本属性とは違い、適性がなければ全く使えない属性であり、別名『応用属性』とも言われている……だっけ? それで、変異属性にも四つの種類があって……『炎属性』『氷属性』『雷属性』『木属性』の四種類がある……かな?」
「うむ、その説明で合っておるからもっと自信を持って良いぞ」
「あ、ありがとうございます」
自信なさげに告げた千秋の途切れ途切れになりながらの言葉に、アデラールは安心させるように微笑みかける。
その安心させるような笑みを見た千秋は、しっかり覚えていたと安堵の息を漏らしていた。
変異属性とは千秋が先ほど告げたように応用属性とも言われており、一説によれば基本属性から壁を越えた者が変異属性を使えるようになる考えもある。
しかし、実際に後天的に属性の適性が増えた事例を聞いた事がないので信憑性が薄いと思われているようだ。
初めて聞いた時は炎属性と火属性の違いがわからなかったのだが、どうやら操れる温度が変わるのか炎属性だと白い炎まで作れるらしい。
変異属性に適性がある人はそれなりに珍しく、五百人に一人の割合でしか適性がないので、市販されている適性属性を調べる魔道具には基本属性の適性しか調べる事ができない。
ちなみに、魔道具とは俺達の世界にあった機械のようなもので、電気の代わりに魔力を使っていると考えればわかりやすいだろう。
なお、俺の変異属性の適性をこの世界に当てはめると氷属性を持っている事になる。雷属性使いたかったなあ……。
機械と魔道具の関連性について考えていると、アデラールが俺に目を向けている事に気が付いた。
その視線に頷きを返すのと一緒に、アデラールに習った内容を思い出していく。
「基本属性と変異属性のいずれにも属さない特殊なものを纏めて原始属性と呼んでいて、この適性がある人は大変珍しく、稀に現れる属性も原始属性に含まれる。また、原始属性は同じ属性を発現することは零に等しく、この世界で自分と同じ顔を見つける事と同じぐらいありえない……でしたっけ?」
「うむ、ちゃんと全員理解できていたようでなによりじゃ」
「流石お兄様です! 素敵です!」
「あ、ありがとうネリア」
俺の言葉に手を叩いたアデラールは、できた生徒を見るような目で俺達を見回した。
俺の時だけネリアがやたらと目を輝かせながら褒めてきたので、どう反応すれば良いか困った笑みを浮かべてしまった。
原始属性について詳しく補足をすると、とにかく希少。この一言に尽きる。
どれぐらい希少かというと、殆どの原始属性が一万人に一人の割合でしか発現しない事からわかるだろう。
何故全部ではなく殆どなのかは、この世界では『光属性』と『闇属性』は文献にそれなりに遺されているからだ。
まあ、それでも千人に一人の割合ぐらいしか発現しないのだが。
遺されている文献によると、光属性や闇属性は然るべき時に必ず誰かが発現すると世界に定められているからしいが……やはり勇者と魔王の関係なのだろうか。
その希少性からか、基本属性等とは違い原始属性を調べる方法が確立されておらず、本人がその資質に気が付けるかどうかで適性がわかるのだ。俺も空間属性を持っているのを知ったのは偶然だしな……。
恐らく、俺達を召喚したネリアの適性もこの原始属性の特殊な部類に入ると思う。ネリアって凄い才能の持ち主だったんだな。
ちなみに、元の世界に帰るに役立った俺の空間属性もこの原始属性に含まれる筈だ。
それと、魔王も『闇属性』の原始属性を持っているのではないかと専らの噂になっている。
ネリアの才能に内心で感心しながら原始属性について説明を終えて、とりあえず属性について全て話せたので俺達はアデラールへ目を向けて次の言葉を待つ。
すると、アデラールは俺達を見回した後にニッコリ笑うと楽しそうに口を開くのだった。
「では、お待ちかねのお主達の属性を調べるぞい」
「待ってました!」
……冬海の言葉は聞かなかった事にする。
アデラールの適性を調べるという言葉に冬海はもちろん、千秋達も楽しみなようでワクワクした雰囲気を隠しきれていない。
俺もなんだかんだいってもどんな適性が出るのか気になっており、どうしても無意識に笑みを浮かべてしまう。
俺達の様子にアデラールは微笑むと机にある透明の水晶を指さした。
「この水晶は属性適性を調べる魔道具での。これを使ってお主達の適性を調べようと思うのじゃ」
「はい! 私からお願いします!」
案の定冬海がいの一番に手を挙げて適性を調べて欲しいと主張するので、アデラールは俺達に了承を取ってから冬海に水晶に手を乗せるように指示をする。
アデラールの指示に従い冬海が水晶に手を乗せると水晶の中が色付きはじめ、その不可思議な現象に千秋達は目を丸くして驚いている。
冬海も突然の事に驚き腕を引こうとしたが、未知の恐怖よりも魔法適性の好奇心が勝ったのか手は離れなかった。
やがて、水晶の中は〈黄金色〉〈赤色〉〈黄色〉〈深緑色〉の順番に色が変化していくと、最後は透明に戻っていく。
水晶の色が四回変化したという事は、少なくとも冬海は四つの属性の適性があるという事だろうか?
この魔道具の説明を聞いていないので判断がつかずアデラールの方へ目を向けると、何やらアデラールは感心した表情を浮かべて顎をさすっていた。
ネリアもこの結果には驚いているようで口許に手を当てて目を見開いている。
ネリア達の様子に良い結果だと思ったのか、冬海は期待を宿した眼差しでアデラールを見つめていた。
「うぅむ……まさか四属性も適性があるとはのう」
「よ、四属性!? や、やったー!」
唸りながらのアデラールの言葉に冬海は喜びを抑えきれず、笑みを浮かべてガッツポーズを取ると小躍りしそうになっている。
その後に告げられた内容によると、冬海の属性は順番に『雷属性』『火属性』『土属性』『木属性』の適性があるようで、特に雷属性の適性が大きいらしい。
前の世界では俺も雷属性の適性が欲しかったけど、結局なかったから凄い残念な気持ちになったんだよな。
他の仲間に雷属性の適性があったから何時も羨ましく思っていたし。
その仲間も俺が羨望の眼差しを送りすぎたのか酷く使いづらそうで、気が付いたら殆ど雷属性を使わなくなったからなあ……。
まあ、それも俺が空間属性の適性がある事がわかると、逆にその仲間が酷く羨ましがっていたのだが。あの時は優越感に浸れてとっても楽しかった。
俺が昔の事を思い出していると、冬海も雷属性があった事が嬉しかったのか満面の笑みを浮かべている。
「やりました! 一番欲しかった雷属性の適性がかって嬉しいですぅ! ……ふふふ、この属性を使ってあんな事やこんな事を──」
冬海がまた一人不気味な笑いをしながら妄想に耽りはじめたので、その姿から目を逸らして次は誰を調べてもらおうか考えている内に、龍牙が水晶へ向かっていくのが目に入る。
龍牙が水晶に手を置く姿を視界に入れながら千秋に次は俺が適性を調べる事に了承を貰う。
そんな事をしている間に龍牙は適性を調べ終わったようで、水晶は冬海の時より赤い〈朱色〉というべき色に変わると透明に戻っていった。
──あれ、もしかして……龍牙は一属性?
龍牙が一つしか属性がない事がわかると部屋になんともいえない空気が流れだし、アデラールやネリアは揃って愛想笑いを浮かべると龍牙へ励ましの言葉を掛けはじめた。
それに乾いた笑いを漏らして応えている龍牙の元へ、妄想から帰ってきたのか冬海が意気揚々と近づいていく。
あからさまに肩を落として落ち込んでいる様子の龍牙に、冬海は肩を叩いて意識を自分へ向けさせる。
「はあ……どうしたの冬海?」
力ない龍牙の言葉に満面の笑みを浮かべてサムズアップを作ると、冬海は安心させるように口を開く。
「安心してください! 特化型主人公は属性を極めて最強になれますから!」
「そんな励まし聞きたくなかったよ!」
冬海のどこかズレた激励に龍牙は嫌な顔を作ると叫んで頭を抱えてしまい、何故龍牙が頭を抱えたのか理解できないのか冬海は首を傾げている。
確かに、そんな慰めされても嫌だろうな。俺も適性が微妙だったらあんな慰めをされるのか……。
どうやら龍牙の水晶に出た朱色は『炎属性』のようで、その結果に冬海は羨ましそうな表情を浮かべると「炎属性……それがあれば色々できたのに……!」等と悔しそうに呟いていた。
「ま、まあ。もしかしたら原始属性がある可能性も残っておるし、そう気を落とさんでも、の?」
「そ、そうですよ! 戦闘では炎属性は凄く役に立つのですから、もっと自信を持ってください!」
「そう、かな……うん。そうだね、炎は強いよ!」
ネリア達にも激励を送られ気持ちを切り替えたのか、龍牙は頭を抱えるのを止めると恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべて頷いた。
どうやら無事に立ち直れたようでなによりだ。さて、次は俺かな。
水晶へ近づいていく俺を見てネリアは胸の前で握り拳を作ると、キリッとした表情を作り口を開く。
「頑張ってくださいお兄様! お兄様なら凄い適性を出してくれると私信じています!」
「お、応援ありがとうネリア」
「はいっ!」
お兄様呼びを提案してからやたらと信頼が強くなっているネリアに、感謝を伝えて頷くと目を輝かせて満面の笑みを浮かべてくる。
その健気な姿に癒されつつ水晶へ手を乗せると、水晶が〈水色〉〈薄緑色〉〈青色〉に変化していき、やがて水晶は透明に戻っていった。
どうやらこの世界でも使える属性は変わっていないようで、新たな属性が使えなくて残念なような慣れた属性を使えて安心したような……。
俺の適性を見たアデラールは、感心したように何度も頷く様子を見せている。
「ふむ、お主は『氷属性』『風属性』『水属性』の順番に適性があるようじゃの」
「お、お兄様とお揃いです!」
同じ属性があったのかネリアは顔を喜びに染め上げると俺の手を取り、「一緒! 一緒!」等と機嫌良く呟き鼻歌も歌いはじめた。
ネリアの純粋な喜びに自然と笑いながらどの属性が一緒なのか尋ねてみれば、水属性がお揃いらしくその事がとても嬉しかったようだ。
「な、なんじゃと!?」
暫しの間楽しそうなネリアと戯れていた時、突然アデラールの驚愕の声が響き渡り何事かと全員の視線が集まる。
そこには、驚きの表情を浮かべているアデラールと首を傾げている千秋の姿。
そして、〈虹色〉に輝いている水晶が目に入るのだった。




