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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第9章 クジャタ編-2
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第95話 復活のお報せ

 駆け足でクジャタに戻ると、すでに町門で待機していたシノブ達が俺に飛びついてきた。

 シノブに到っては涙まで流しての歓迎ぶりである。リニアも珍しく心配げな表情を浮かべていた。


「アキラ! 心配したんだぞ。いや、私程度が心配する事じゃないとは思うが、それでも達人のハイレブナントと戦いに行ったと聞いて驚いたんだ! 怪我はないか?」


 それはもう、猛牛の暴走もかくやと言う速度でのタックルである。平均的体重しかない俺が吹っ飛ばされ、押し倒されたとしても無理はあるまい。

 むしろこれは、ヘルヴォルに踏みつけられた時よりもキツイ。


「だ、大丈夫だから……怪我もしてないし。リニアも、心配かけたな?」

「ええ、心配しましたとも。あの達人が更にハイレブナント化して強化されたとか聞いて、何の冗談かと思いました。その上水魔法を使うとか? これって、わたし……ですよね?」

「ああ、そうだ」

「では謝罪を。わたしの不始末を補ってくださり、誠にありがとうございます」


 いつになく真剣に謝罪してくるリニア。彼女はあの男との一件になると、らしくも無く真面目な対応を取る。

 それだけあの連れ添っていたドワーフを大事に思っていたのだと、こういう時に思い知らされるのだ。

 彼女は常日頃の軽薄な行いのわりに、情が深い。


「いいさ、お前が戦っているのを見て、俺もやってみたいと思ったから出向いた。それだけ」

「そう言ってくださると、気が楽になりますね……ではでは! 償いは何がいいですか! 夜伽ですか? エロい事ですか?」

「そこで素に戻るなよ、台無しだ!」


 腰元に纏わりつこうとするリニアを引き剥がしながら、俺は立ち上がった。

 そこでもう一人の人物に気付く。珍しく、言葉を発していないカツヒトだ。


「カツヒトも心配かけたな。どうかしたのか?」

「ああ、俺は特に心配していない。アキラの常識外れはすでに何度も、嫌になるほど、勘違いで賞金が掛かるくらい経験しているからな」

「言っておくが、賞金が掛かったのは俺のせいじゃないぞ?」


 あれは俺が森に火を着けた後、カツヒトが延焼させたのだ。俺一人の責任じゃないはず。


「いや、今はそれどころじゃないんだ」

「ん?」

「さっきの衝撃波……あれもアキラなんだな?」

「あー、うん。あの野郎、こっちの攻撃を受け流しやがるんで、つい本気を出しちまった」


 まるでそよ風のようにこちらの攻撃を逸らし、投げ飛ばすあの技。生前に目にした、激しい戦い振りとは対極の技だ。

 おそらく生前は、気性的に合わなかった技の類なのだろう。


「まぁ、それはいいとして……いや、よくはないんだが……あれがワラキアの仕業ではないかという噂が立っていてな。間違いではないんだが、(いささ)か不味い状況だ」

「……そっか。まぁ、そういう展開になるわなぁ」

「クジャタの町では、格闘家のハイレブナントと魔神ワラキアが激闘を繰り広げ、山が吹き飛んだと噂になってる。今町に入るのは良くないかもしれない」

「俺が山に向かったのは衛兵に見られてるし、このタイミングはさすがに不味いか? キオさん達はどうなった?」

「幸い大きく流されずに済んでいたので、その場で散らばった荷を拾い集めてるよ。今もあの辺りで待機しているはずだ」

「だとすると、しばらくしたら町に戻って来るかもしれないな。ひょっとして、それも不味いのか?」


 まだ山を破壊して1時間程度しか経っていない。それなのにもう俺の噂は広がっている。

 キオさん達もすぐ近くの山で魔神が暴れたという噂が広がれば、そのそばを通過するなんて思いもよらないだろう。

 まずは人のいる場所に避難してくるはずだ。このタイミングで戻ってくると、怪しまれる可能性があるだろうか?


「いや、それは大丈夫だと思う」


 そこで俺とカツヒトにの意見に異を唱えたのはシノブだった。彼女は俺を見上げながら、理路整然と説明をし始めた。


「まず、アキラがこの町を出たのはせいぜい3時間前だ。本来だとその時間では山に着いたかどうかという時間帯だろう。衛兵もそれは理解しているから、あれがアキラの仕業だとは思わないだろう。それにこの時間だと、『衝撃波を見て戻ってきた』という言い訳がちょうどできる時間だ。山に行ってないと告げた方がよっぽど自然になる」

「……ふむ。そういえば、あそこまでは徒歩だと3時間程度掛かったか」


 ヘルヴォルを埋葬し、弔ってから山を降り、町に戻る。俺はこの行程を一時間程度で終えた訳だが、普通ならば道半ばにも達していない。

 ならば山には辿り着けず、避難してきたと言った方が筋道は立つ。


「おそらく、あと2時間もすればキオさんも町に戻ってくるだろう。そこで合流してから再度出発すればいいんじゃないか?」

「判った、そうしよう」


 シノブの意見ももっともだと思ったので、俺はシラを切りつつ町の入り口付近で待機する事にしたのだった。




  ◇◆◇◆◇




 ニブラスの領主館。

 イリシアは雑務の書類整理を済ませて、いつものように茶を嗜んでいた。

 中部同盟への参加を決め、忙しくなると覚悟を決めていたというのに、あれからキフォン町長マテウスからの接触はない。


「あー、暇。まるで狐に化かされたみたい」

「お嬢様。少々はしたのうございますよ?」


 そばに付く侍女が町娘のような言葉遣いを嗜めて来る。これにぺろりと舌を出して反応してから、お茶をもう一杯。


「ねぇ、サリーに会いに行っちゃダメかしら?」

「ここからアンサラまでどれ程あるとお思いですか。ご冗談はやめてくださいまし」

「ですわねぇ……」


 マテウスやガロアが言うには、今はまだ表立って動く時期ではないらしい。

 なので市民には同盟参加の通告はまだ行っていないが、館の側近達には知らせてある。この館に勤める者達は先代からの重鎮で、その忠誠は揺るぎない。

 彼等ならば知らせても大丈夫だと、騎士のアルフレッドも太鼓判を押してくれたのだ。


 貴族であるイリシアにとって、サリーと言う女性は非常に魅力的に見えた。

 その活動的な美貌もさることながら、彼女から見れば粗野で蓮っ葉な口調ですら魅力的に見えるから不思議なのだ。

 すでに何度か文通も交わしており、イリシアの中ではサリーはすでに友と言っていいほど親しい間柄となっている。


 今日も暇を持て余して半日を浪費するのかと思うと、自然と溜息が漏れる。

 アルフレッドが駆け込んできたのは、その時だった。


「お嬢様、至急お知らせしたい情報があります!」


 慌てた彼は、どうにも言葉遣いがおかしくなっている。その狼狽振りが少しおかしく感じる。


「どうしたのです?」

「ハッ、ご報告は二点。まず、ウェイル様が北のクロルの町を出たとの情報が入ってまいりました」 


 ウェイルとはアロン共和国に所属する勇者の名だ。

 彼は亡き父の親友たる有力者、ウィリアム=ノーマンによってニブラスの町へと呼び出されている。

 北部の戦線に参加していたが、ついにやってきたのだろう。


「ウェイル様……面倒な事になりそうですね」


 ウェイルはその性向からトラブルを起こす事も多い。女好きな性格故、イリシアにしてもあまり歓迎すべき相手ではない。

 しかも今、この町は反乱に加担すべく動いている。これを知られたら、少々不味い事になるだろう。


「来るのをどうにかして遅らせられないかしら? それともできるだけ早くお引き取り願うには――」

「それともう一点。市街に魔神ワラキアを名乗る者が現れた、と」

「ワラキアですって!?」


 椅子を蹴立てて立ち上がるイリシア。

 だがアルフレッドはそんな主人を冷静に諫めた。


「落ち着いてください、お嬢様。私は魔神ワラキアと『名乗る者』が現れたと、申しました」

「あ、ああ……そういう事……」


 アルフレッドは顔は知らないが、ワラキアの脅威を身を持って知っている。その彼がこう報告すると言う事は、つまり、偽物が現れたと言う事なのだろう。

 そこでイリシアは自らの腕の震えに気が付いた。これは【ダウジング】の能力が発動する前兆である。

 侍女はそれを見て取り、素早くペンと紙を用意してくれた。


「ありがとう、マーシャ」

「いえ、これも勤めにございます。お気になさらず」


 筆を執った瞬間、腕が何者かに引きずられるように暴れ出す。

 その勢いのままにイリシアは紙に筆を落とした。

 乱暴に、そして稚拙な文字で、情報が紙に描き出される。

 数秒後、紙に書き出された文字を見て、イリシアは大きく息を呑む事になる。


「――『央天魔王、復活』、ですって!?」


 央天魔王。それは十二年前、勇者達によって最後に倒された、最強の魔王の称号である。

 彼の者はトーラス王国の勇者、『破鎧』のタロスと相打ちになり息絶えたという話だ。

 タロスの死が間接的に異界人の召喚に結び付いた事を考えると、トーラス王国を滅ぼしたのは彼の魔王と言えなくもない。


「バカ、な……彼の魔王は最後に倒された存在、それが早くも!?」

「アルフレッド、お嬢様になんて口の利き方!」

「あ、これは申し訳ありません!」

「いえ、アルフレッドの驚愕は私も同じです。南方魔法ガルベスが復活して間がないというのに、立て続けに央天魔王まで……この世界に何か起こっているというのかしら?」


 とにかく、この情報はアロンだけでなく全世界に知らせるべき情報である。

 イリシアは即座にギルドへ通達し、各地へ情報を飛ばしたのだった。




  ◇◆◇◆◇




 俺達がこそこそと町の入り口で待機してからしばらく、ようやくキオさん達はクジャタへと戻ってきた。

 傭兵達やクリスちゃんも無事なようで、とりあえずは一安心だ。


「キオさん、無事でよかった」

「ああ、それはこちらのセリフですよ、アキラさん!」


 さすがにシノブのように抱き着きはしなかったが、短くない期間一緒に旅をしたのだから、彼も俺の無事を感激してくれた。

 固く握手を交わし、お互いの無事を喜んでから、さっそく本題を切り出しておく。

 俺はあまりこの地に居座るのはよろしくないのだ。言い訳はしてあるとは言え、洪水騒ぎに衝撃波騒動。ちょっと派手に暴れすぎている。


「魔神とハイレブナントの話、聞きましたか?」

「魔神……? ああ、衝撃波騒動ですね。私が聞いたのは、あれは央天魔王の仕業だと言う話ですよ」

「はい? 横転?」

「央天魔王です。五人の魔王の中で最強の存在だった――」

「あー、あー、あれですね、あれ。ええ、怖いですね、あれ」


 全然判らないので、とりあえずごまかしておこう。後でリニア先生に講義してもらえばいいか。

 とりあえず魔王と呼ばれる連中の中で、一番強いだろうことは判った。


「先ほど冒険者ギルドで速報が入っていまして、中央地域を往来する場合は重々注意する事、との通達でした」

「なるほど。ですが、この町にあまり長く居座るのも、その……アレがコレなに、ナニですし……」

「いや、さっぱり判りませんよ、その説明?」


 無闇に手をバタバタ振りながら、説得工作に出たが、失敗した。

 手を振るだけでは、商人を言い包めるのは無理らしい。当たり前か。


「正直、魔王とやらは人里目指してきたりしませんかねぇ?」

「む、それは……確かに魔王たちは人を憎んでいましたから、その可能性も充分に有り得る……かもしれませんね」

「でしょ? ですから、ここはあまり人に紛れず、むしろ単独で町を出た方がいいのではないかと」

「ですが洪水騒ぎでかなり馬車を無理させてしまいました。一度整備してもらった方がいいかもしれませんし……」

「それなら俺が見ましょう! こう見えても俺、鍛冶師ですから!」

「ええ、知ってます」


 ルアダンの町に出入りする商人ならば、俺の名前は当然知っている。

 今から出ると夜間行軍になって、むしろ危険かもしれないが、馬車は2台あるし、人手もある。

 ちょっとやそっとのモンスターの襲撃くらい、あっさり撃退できるだろう。むしろ危険なのは俺とかカツヒトの方だ。


「そうですね……判りました。アキラさんの言葉にも一理あります。ここは夜を徹してニブラスへ向かいましょう。あそこなら遠見の巫女がいます。危険が迫れば、きっと前もってそれを知る事ができるはず」

「そいつには極力会いたくないんだけど……」

「はい? なにか?」

「いえ、納得いただいて幸いです。ではさっそく準備をしてきます」


 こうして俺達は、夜逃げ同然にクジャタから旅立ったのだった。


ツギクルと言うサイトができたようなので、そちらにも登録してみました。

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