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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第89話 魔神、初めての敗走

拷問・ホモ表現などありますので、苦手な方はご注意ください。

 戦闘が終わって『はい、出発』と行かないのが現実の辛いところだ。

 こちらに死者は出なかったが、怪我人はそれなりに数出ている。後方を受け持った俺達はともかく、前方で闘っていた傭兵達や、爆発を生き延びた盗賊共の処置もある。

 

 傭兵の治癒術師が怪我人を癒している間、俺達とバーネットは生き残っている盗賊の尋問に入った。

 6発分の【火球(ファイアボール)】を受けて半死半生……いや、九割死んでるような連中だ。元より生かしておく必要が無い盗賊とは言え、早くトドメを刺してやりたい気分である。


「で、お前たちは一体誰に雇われたんだ? シラを切っても無駄だぞ、ここまで用意周到に待ち伏せていたんだ。俺達の情報をどこからか入手していたんだろう?」


 バーネットは腕のちぎれた盗賊の前に座り込み、そう詰問する。

 誘爆を生き延びた盗賊は3人いた。俺とカツヒトで4人倒していたので、誘爆によって3人が死んだことになるのか……いや、奇襲を仕掛けてきた2人を入れて5人だな。


「し、知らね――ぎゃああぁ!?」

「素直に吐いた方がいい。喋る口はまだ残っている」


 拒否の言葉を吐き終える前に、バーネットは男の下腹部にナイフを突き刺した。

 即死させずダメージを与え、そして精神的にも辛い場所だ。


「あーあ、腕に続いてイチモツも失ったな。次はどこを無くしたい?」

「て、てめぇ……殺してやる!」

「俺より自分の心配をしな。足を切り落として放置してもいいんだぞ? 動けない身体で生きたまま野犬に食われたいか?」

「ぐ、ぅ……」


 盗賊は自分の末路を想像したのだろう。青ざめた顔をさらに蒼白に染め、ガタガタと震えだした。

 これは失血による影響もあるかもしれない。


「お前らの話を、持ってきたのは、コーネロって……野郎だ。情報源は……なぁ、目が霞んできやがった、早く治癒術を……」

「続きが先だ」

「情報……源、は……べ、ベネット……」

「他には?」

「い……な、い」

「そうか」


 一言告げると、バーネットは手に持ったナイフを一閃させた。その一撃は狙いを過たず、男の首を引き裂いていく。

 悲鳴すら上げる事が出来ずに、男は絶命した。それを見て、生き延びたほかの盗賊は悲鳴を上げる。


「や、約束が違う! 俺達は話したじゃねぇか!?」

「話せば生かすとは言ってないな。やれ」


 バーネットの号令一下、傭兵達が盗賊に攻撃を仕掛け、次々とトドメを刺していく。

 その凄惨な光景を俺は冷静な目で見つめていた。

 ちなみにクリスちゃんはシノブの手によって目を覆われ、リニアの魔法によって声を聞こえないようにされていた。子供には些か教育に悪い場面だから仕方ない。


「クールに決めるね。図体だけかと思ってたぜ」

「これでも派遣部隊のリーダーだぞ? 締め所くらいは理解しているさ。それよりお前は大丈夫なのか?」

「剣は間一髪で避けたよ。間一髪過ぎて、こわい棒を切り落とされちまった」

「それであの爆発か……よく生きてたな」

「奇襲してきた連中が盾になってくれたんだよ」


 本来足元に落ちたのだから、斬り掛かってきた連中が盾になるなんてありえない。

 だが、俺がこうして目の前で生きているのだから、納得するしかないだろう。彼らもまさか、俺の身体がドラゴンよりも頑丈だとは思うまい。


「で、ベネットってのは?」

「砦に出入りしている商人の一人だ。食料を取り扱っていてな……なるほど、出征前なら注文する食料が増えるから、いつ出るか推測が付くのか」

「盗賊に目を付けられたのか、最初から仲間だったのか、そこが問題だな」

「それはこの後の展開次第さ。とにかく砦に連絡を入れなければならなくなった。この後は少し急がせてもらって構わないか?」


 出入りの商人に裏切者がいる。その情報は一刻も早く砦に届けなければならない。

 かと言ってここから戻る場合、来た日数と同じ3日はかかってしまうし、仕事も放棄しなければならない。


 ここで役立つのが、ギルドの連絡システムである。

 クジャタまでこのまま進み、冒険者ギルドの連絡網を使って砦に情報をもたらせばいい。

 そのために、クジャタへ一刻も早く到着せねばならない。その許可を依頼主であるキオ氏に願い出たのだ。


「ええ、それはもちろん。狙ってきたと言う事は荷の情報も流れているでしょうし、一刻も早く向かいましょう」

「ルアダンで対処してもらえれば、狙ってきてる盗賊共も、それ所ではなくなるでしょうしね」


 ルアダン近辺を根城にする盗賊ならば、ここまで出張ってくるのは時間も食料も掛かる。

 その補給線を絶たれてしまえば、彼らは孤立する事になる。犯罪者が孤立すれば、後は狩り出されるのみだ。

 そうなれば結果的に、商隊の安全も確保される。


 そうと決まれば善は急げである。俺達は急いで穴を掘って死体を埋める。

 これは死体のアンデッド化を防ぐための処置だ。モンスターに死体が食われるだけならば問題はないのだが、稀に……というかわりと頻繁に死体はアンデッドと化して旅行者に襲い掛かる。

 それを防ぐには、腰元で切断したうえで地面に埋める必要がある――らしい。


 腰で両断されていれば、アンデッドと化してもまともに動くことはできない。そして地面に埋める事で、アンデッド化の原因である邪気を地面が吸収してくれるとかなんとか?

 詳しい仕組みは俺にもよく判らないが、とにかくそんな感じらしい。


 こうして俺達は金になりそうな物を剥ぎ取り、遺体を埋めて、クジャタへと急いだのである。





 それから数日。俺達はようやくクジャタの町に到着した。

 ここは交易の中継点としてある程度の賑わいを見せている町だ。ここから東西に延びる街道に乗る事で、安全かつスムーズに旅を続けることができるようになる。


 予定ではキフォンの手前で北に折れ、ニブラスに向かうのだが、ここに立ち寄るのは少しばかり遠回りになる。

 だが急ぎの旅ではない以上、街道を行く安全性に上回る物はない。

 ここまでですら、ハーピーの襲撃に盗賊の夜襲と、物騒な事件が起きているのだから。


 キオさんの常宿に部屋を取ってもらい、俺達は一時の安寧に身を委ねる。

 シノブとリニアはクリスちゃんを連れ、早速風呂に向かって旅の汚れを落としている。

 毎夜水浴びをしていた3人だが、そこはやはり女性である。微妙に気になる点もあるのだろう。


 カツヒトは保存食ではない料理を食堂で貪り食っていた。

 いくら【アイテムボックス】を持っているとはいえ、調理済みの料理をポンポンと出す訳には行かない。結果的にこの一週間、保存食に手を加えた程度の雑な物しか口にしていないのだ。


 そして俺はと言うと……


「おう、待たせたな!」

「まったくだ。夜の時間は限られてるんだぞ」


 急いで駆け付けた俺を迎えたのは、傭兵団ご一行。

 全員真っ先に汗を流し、いつもより小ざっぱりした服を着て夜の街に集合していた。


 そう、これから夜のお店へと遠征するのだ。

 お子様なシノブやリニアにはもちろん知らせていない。いや、リニアは子供ではないが、奴に知られると俺の方が襲われかねない。

 人間、守備範囲というモノは存在するのだ。


「俺、人前で服脱いだりするのがちょっと苦手なんだけど、そういうのも対応してくれるかな?」

「安心しろ。これから行く場所はプロがいるんだぞ。その程度の要望なら応えてくれる」


 出発前にバーネットと約束していた、『その手の店』に向かい、俺もさっぱりしてくる予定なのだ。精神的に。性的に。


 傭兵団の10名と連れ立って、表通りから離れた少し裏ぶれた通りに入る。

 しばらく進むと薄暗いランタンに照らされた、ケバケバしい看板が見えてくる。ここが目的の店らしい。


 俺は期待に胸を膨らませ、その看板を読み……戦慄した。


「おい、ここ……『ゲイ』バーって書いてあるぞ」

「おう、そうだな」

「俺はノンケなんだが……」

「安心しろ。ここのホストはプロだ。ノンケでも遠慮なく食ってくれる」


 そういえばこいつ等……今まで『プロ』とは言っていたが、一言も『女』とは言っていない。

 そしてダリルも『信頼できる人選』と言っていたが……そうか、そっち方面の趣味の人なら、女には興味沸かないわなぁ。


「安心できるかぁ!?」


 俺は全力でその場を立ち去ろうとする。だが、バーネットはそんな俺をあっさりと抱え上げた。


「ば、馬鹿な! 俺の速さに付いてきただと!?」

「大抵の奴はここで逃げだそうとするんだ。その動きは読んでいたよ」

「HA・NA・SE! 俺はまだ清い身体でいたいんだ!」

「何を今更。ほら、席も料理も11人分予約してあるんだ。今更抜けられても困る」

「後生だから勘弁して!」


 バーネットは俺の背中を下にして抱え上げている。

 おかげで俺の手足は空を切るばかり。ヤバイ、このままでは本当に――掘られてしまう!


 俺は必死に身を捩り、バーネットの手から逃れると、奴が反応するよりも早くその場から逃亡した。

 この世界に来てから、これほど必死に逃げたのは初めてかもしれない。そして危機を感じた事も。


 俺は半ば号泣しながら、宿へと駆け戻ったのであった。





 宿に戻ると、ちょうどシノブとリニアが風呂から上がった所だった。

 ホカホカと湯気を立てて、上気した肌は男にはない色気を感じさせる。

 地獄を見てきたばかりの俺は、その姿が女神の如く見えた。


「うわあぁぁぁぁぁん!」

「ど、どうしたんだ、アキラ!?」


 滂沱の涙を流しながら、俺はシノブに抱き着いた。

 暖かく、それでいて柔らかい肌の感触。ふわりと漂う石鹸の香り。少々胸元が物足りないが、間違いなく女性を感じさせる身体。


「やっぱりシノブは女の子だなぁ。可愛いなぁ!」

「お、おい! こんなところで何を……そういうのは二人きりの時に……」

「ああ、シノブだけずるいです! ご主人、わたしもハグを希望します!」

「おう、来い! どんと来い!」


 片手を開けてリニアも一緒に抱きしめる。

  

「こういうのは……そうだ、クリスちゃんの教育にも悪いし、私も受け止めるのは吝かでは無いが、その……」


 いまだゴニョゴニョと言い訳をつづけるシノブに抱き着いたまま、俺は安堵の息を漏らしたのであった。


 なお、残念ながらその夜は何も起きなかった事をここに明記しておく。

 彼女達に30㎝砲は危険すぎるからね。


この話で出立編終了になります。


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