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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第88話 リベンジ失敗



 ◇◆◇◆◇



 なぜこうなったのか、コーネロ達には判らなかった。

 コーネロは右腕の肘から先が義手になっていた。イライザは左腕を同じように義手になっている。

 盗賊との交渉中、倒れてきた謎の塔に潰されてしまったのだ。


 大きな神殿に行けば【再生(リジェネート)】の魔法で欠損した部位を再生してもらう事も可能なのだが、賞金首と化した現状ではそれも叶わない。

 正規の術式を学んでいない裏の治癒術師では【再生】を使えるはずも無く、結局こうして義手でごまかす羽目になってしまったのだ。

 もはや生えてこない半分の髪の恨みと合わさり、コーネロの怒りは、もはや収まる所を知らない。


 それもこれも、すべてはあのダリルと言う男のせいだ。

 現に倒れてきた謎の塔も、傭兵団のアジトの方向から倒れてきた。おそらく奴の陰謀だ。

 きっと盗賊たちと共謀している自分を狙い撃ちにしたのだ、そうコーネロは考えていた。


 そこへ飛び込んできた、ダリル傭兵団の次の仕事。

 湖の反対側に広がる、ユークレスの森に棲むエルフに紫水晶を搬入するという商人の護衛。


 ダリルがこれに参加するとは思えないが、傭兵団の名を地に落とすにはちょうどいい獲物と言える。


「どうする? この話……狙ってみるか?」

「依頼を出した商人の名は判っているか?」

「たしか……キオって奴だ。大手の商人じゃなく個人で外を回ってる交易商人の一人だな。積んでいるのはダイヤじゃなく紫水晶なんで利率は低い。が、その分護衛もチャチなはずだ」

「チャチってどれくらい?」

「付けてせいぜい10人ってところだろうよ」


 そう言って説明するのは盗賊の首領であるオルテス。

 彼も塔の崩落によって、部下の半数を失った。彼のダリルに対する恨みも骨髄に到っている。

 実際は勘違いではあるのだが。


「こっちの生き残りはまだ倍以上いる。新しく部下を引き入れるにしても、実績が無ければやってこない。このままじゃ俺達はジリ貧だ」


 命を張って契約を交わし、仲間に引き込んだ盗賊達。ここで見捨てても悪くはないが、新たに使えそうな人材を見つけるのにも時間が掛かる。

 今回だけはこいつ等を使うしかない。そんな心中を欠片も漏らさず、冷静にそう分析するコーネロ。


「そうね。連中の出発はいつ? 今度こそ逃がさないんだから」

「話じゃ明日には出発するそうだ」

「急な話ね。それならこちらも早く用意しないと――」

「残念だが、出足を潰すのは無理だ。こっちの部下がまだ半数は治療中なんだ」


 盗賊団の中には、偶然だが治癒術を使えるものがいた。彼がいなければ、コーネロとイライザも命を落としていた事だろう。

 首領のオルテスと金蔓の兄妹。2人を最優先で癒しはしたが、他の部下たちの治療はまだ終わっていなかったのだ。


「なによ、使えない連中ね! 肝心な時に――」

「おいおい、お前らを治したから後回しにされた連中だぞ。そこまでにしとけ」

「……それで、いつ出発できるの?」

「最低限の襲撃人数を動かせるようになるのは、どれだけ急いでも2日だな。そこから全力で後を追って……3日後には追いつける」

「3日か。それならぎりぎりクジャタまで辿り着けないな」

「急ぎならニブラスまで直で向かう手もあるが……今回は急ぐ理由が無いからクジャタに向かうだろう。未確認情報だが、商人以外にもゲストを呼ぶらしいから強行軍はないはずだ」

「なら襲撃は3日後ね。そのゲストを狙ったら、連中の顔に泥を塗れるかも。狙うのに最適な地形はある?」


 こうしてコーネロとイライザ達の復讐計画は立案されたのである。



◇◆◇◆◇




 後方に待ち伏せしていた10人の盗賊共に俺とカツヒトで斬り込んでいく。

 先行していたカツヒトだが、敏捷値の違い分だけ俺が後から追いつくことができ、突入のタイミングは結局同じになる。


 前方にも同じく10人程度。後方に現れた敵と同じくらいの数だ。

 カツヒトと2人ならば余裕で対処できる範囲である。


 向こうが反応するより早く駆け込み、闇影を一閃。

 俺の剣は素人のそれなので、攻撃の『起こり』が見えやすく、速さのわりに受けやすいらしい。

 この盗賊もそれなりの戦闘経験を積んでいるのか、俺の攻撃に反応して見せた。


 刃を受け止めるべく(かざ)されるノーマルソード。おそらくは未強化。

 安全を期するならば、こいつ等も【識別】しておいた方がいいのだろうが……正直、見るからに雑魚を相手に【識別】など面倒くさい。


 現に振り下ろした闇影は、ノーマルソードを容易く斬り飛ばし、盗賊の身体を縦に両断して見せた。

 カツヒトの方も同様の様子を見せている。

 突入と同時に何本か矢が放たれたが、これは待機していたシノブとリニアの魔法によって迎撃され、撃ち落とされている。後方の心配をする必要も無いらしい。


「舐めんな、おらあぁぁぁぁ!」


 叫びをあげて斬り返してくる盗賊。

 だが、敏捷度の桁が違いすぎるため、攻撃を見てから回避余裕でした。

 別に今まで通り真正面から受け止めてもいいのだが、今回は他人の目もある。俺の衣服には、シノブのそれと同等の防御力を付与してあるため、鎖帷子(チェインメイル)程度の防御力はあるが、それはそれ、これはこれだ。

 そこらの農民が着るような服で剣の一撃を受け止めるのは、さすがに異様だろう。

 そういう意味でも、今回はしっかりと回避しておかねばならない。


 カツヒトも、いつも以上に慎重に戦っていた。

 彼の場合身体能力が高くなりすぎて、どの攻撃がどれほどの威力を発揮するのか、いまだに把握できていないからだ。

 森で狩りをした時も、昆虫を投げ捨てて町まで飛ばしたり、俺の作った土壁を撃ち抜いたりしていた。

 先程も目潰しの風魔法を放ったら、本当に眼球が潰れてるし。


 俺も闇影による呪い効果で、いつもの大袈裟な攻撃力は発揮されていないが、それでも回避しながら敵に対応するのは難しい。

 剣術スキルが無いので、そういう細かい作業は苦手なのだ。


 結果的に殲滅速度は大幅に減少してしまったが、それでも10人――いや、8人をこの場に釘付けにする事には成功した。

 これはカツヒトの槍の攻撃範囲の広さの影響も、多少はあるだろう。


 一方、前方でもバーネット率いる傭兵団が盗賊相手に有利に戦いを進めていた。

 これは元の技量もだが、後方に控えたリニアとシノブがこまめに支援攻撃を加えているのも大きい。


 状況はやや膠着しつつあるが、それでも時を追う毎にこちらに有利になっていく。

 時間が経てば経つほど、カツヒトの熟練度が上がり、俺も戦いに慣れていくからだ。


「ふ――勝ったな……」


 俺は戦況を見据えてニヤリと凄絶な笑みを浮かべた。

 それは盗賊共にも伝わり、一瞬だが彼らの動きが止まる。


「お前ら、ここで引くなら無駄に後を追ったりは――」


 余裕の表情で降伏勧告を告げる。

 だが、そこに飛び込んできた人影があった。


 2人の男女。おそらくはまだ年若い少年少女だ。頭の半分が禿げているのが、やけに印象に残っている。

 彼らは背後の草叢から飛び出し、俺を背中から斬り裂いた。


 無論、強化された俺の身体に刃は通らない。服すら貫くことはできていない。だが、その斬撃の勢いまで消えた訳ではなかった。

 貫けなかった刃は俺の身体の表面を滑り、腰のベルトを切り落とし――




 火柱が上がった。




「ビックリした。心臓が止まるかと思った……」

「ビックリしたのはこっちだ! 一体何があった!?」


 黒焦げになった俺に、同じく爆発を至近で食らい服だけ全身ズタボロになったカツヒトが問いかける。

 おそらくは腰のベルトを切り落とされた際、剣の勢いやらなんやらでこわい棒が1本抜け落ちてしまったのだ。ベルトごと。

 そして地面に落ちた衝撃で爆発し、他のこわい棒も連鎖的に誘爆が発生した。

 更にそれは近くにいたカツヒトにも波及し、彼の腰のこわい棒も誘爆。

 計6本の爆発がまとめて発生したという訳である。


 結果的に6発の【火球(ファイアボール)】の魔法を集中した効果が発生し、盗賊達は皆一様に吹き飛ばされた。

 奇襲を仕掛けてきた2人もどこかへ飛んだようで、姿が見当たらない。

 まぁ、至近距離で【火球】の直撃を受けたのだ。タダで済むはずがないだろう。


 前方では突如巻き上がった火柱に、双方が手を止めこちらを眺めていた。

 一瞬にして後方の仲間が吹き飛ばされたのだ。唖然とするのも無理はない。


「まさか……」


 ポツリと、盗賊の一人が言葉を漏らす。

 その声には、恐怖と絶望が(にじ)んでいた。


「まさか……仲間ごと【火球】で焼き払うなんて!」

「違うぞ! 私はそんな事してない!?」


 声を上げて抗議したのはシノブである。

 彼女は今回、火系魔法を主に使用して支援に徹していた。

 【火球】の魔法は飛来する火線が見えるので、誰が放ったかは基本的にはよく判る。

 だが乱戦の最中に離れた場所の魔法をだれが放ったかななんて、一般人に判る物じゃない。


 結果として、火系魔法を使うただ1人が候補に挙げられ、濡れ衣を着せられた訳だ。


「わ、私がアキラを攻撃するはずがないじゃないか! 即時撤回を要求する!」

「わぁ、怖いでぇすねぇ。このお姉さんは味方ですら容赦なく攻撃する修羅なのですよ? このまま戦い続ければ、そちらの方々の安全も保障しかねますよー」

「くっ、後ろの2人を犠牲にして、こっちまで牽制しようってのか……外道め!」


 まさに火に油を注ぐリニアの発言に、盗賊達は大いに戦慄した。

 このまま戦い続ければ、味方ごと吹き飛ばされる可能性を示唆されたのだ。恐怖を感じない訳がない。


「いや、だから違うと――」

「こんな見境の無い連中の相手なんてやってられるか! 俺は逃げるぞ!」

「待てよ、俺を置いていくな!?」


 1人の盗賊が震える声でそう宣言し、尻に帆を掛けて逃げ出した。

 これを皮切りに、次々と盗賊達が逃亡に移る。

 傭兵達も仕事内容はあくまで護衛なので、これを追う事はしなかった。


 仲間にすれば、敵も味方も焼き払う。

 『鏖殺魔女』シノブ。その名が誕生した瞬間であった。



 こうして3日目の盗賊襲撃を、俺達は乗り切ったのである……俺、役に立ったよな?


今回の被害者はシノブかもしれない。

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