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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第87話 リベンジ開始

 シノブとカツヒトが【アイテムボックス】を持っている事は町の者ならよく知っている。

 なので傭兵団に爆裂投擲弾『こわい棒』を多少分けてやっても、怪しまれる事はない。こういう事態を考えて1人か2人、【アイテムボックス】を持っていると公言しておいたのだ。


「じゃあ、こわい棒30本、お買い上げありがとーございまーす!」


 使用感を試すため、1人3本ずつダリル傭兵団が購入してくれた。儲けは1つ銀貨5枚なので、銀貨150枚の売り上げである。

 元手がほとんどタダな事を考えれば、実にボロイ。

 なお、この後実用できるようならば、大量一括購入も考えてくれるそうである。

 リニアがホクホク顔で銀貨をこちらに手渡してきた。一応俺が店の主人なので、財政管理は俺の仕事である。


「いいか? ピンを抜いたら衝撃で爆発する。固めに刺してはいるが、くれぐれも抜けないように気を付けろよ? 仮にもそれは兵器なんだ」

「ああ、判った。あの威力を目の当たりにして、注意しない奴はいないさ」


 ベルトホルダーはサービスで付けてやったので、各々が剣帯の重ねる様に腰に巻いている。

 その傭兵達の表情は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようだ。


「こ、これで俺も……魔法が使える!」

「魔法使いかぁ、俺は15歳で卒業したけどな」

「ウルセーよ! どうせ俺はまだだよ!?」


 一部の傭兵が悲しくなることを口にしていたが、まぁそこはスルーしておこう。ああ、俺も悲しくなったさ……

 他の団員も、実際に試してみたいのか、ソワソワと腰に手をやっている。


「それにしてもこれは……新しい戦闘の形を生み出しそうですね。どうです? 私にその商品を商わせてもらえませんか?」


 先ほどの戦闘を見ていたキオさんが、俺に商談を持ちかけてきた。

 確かにこの投擲爆弾と言う武器は、現実でも現在に到るまで使用されている、非常に有効な武器だ。

 それをこの中世ファンタジー風の世界に持ち込んだのだから、その有効性は目を(みは)る物があるだろう。

 だからこそ、商いには注意しないといけないはずだ。


「……いえ、残念ですがお断りさせていただきます。キオさんはルアダンの置かれた状況はご存じで?」

「は? いえ、最近災難続きと言うのは聞いた事がありますが……」

「では、お判りになれないかも知れませんが……この武器は確かに戦場の様相を一変させることも可能な物です。それだけに無分別に広める訳には行かない。下手をすれば、この武器が自分に飛んでくるかもしれないのですから」


 独立戦争に巻き込まれつつあるルアダンで、この武器がファルネア帝国やアロン共和国に流れるのは、(いささ)か不味い事態になる。

 下手をすれば、これを手にした兵士が町に攻め込んでくるかもしれないのだ。俺達が怪我を負う事はないだろうが、これは警戒しないといけない事態である。


 逆に兵力に激しく劣る独立派にとっては、喉から手が出るほど欲しい武器でもある。

 すべての兵士が簡易とは言え、爆裂系魔法を使えるようになるのだから、敵にとってみれば脅威以外の何物でもない。

 しかもその発動は通常の魔法使いよりも遥かに速い。警戒するなと言うのが無理な橋である。


 実際俺も、現状では町の冒険者以外には販売していない。これはルアダンの町が地形的に昆虫系のモンスターや動物系モンスターのように、タフで硬い敵に襲われる事が多いからだ。

 頻繁に武器を壊す事が多い冒険者の一助になれば、と思っての事である。


「なるほど、確かに我々を襲う盗賊たちがこれを手に持って掛かってくると考えてみれば、背筋が冷える話になりますね」


 状況を説明する訳には行かなかったが、キオさんは自分の立場に置き換えてこの武器が広まる危険性を認識したようだ。

 この辺りの察しの良さは、さすがに商人と言う所か。人が良さそうに見えて、なかなかに鋭い。


「ええ、まぁそういう訳です。だから現状ではルアダンに在住している冒険者以外には販売していません。これが無差別に広まると、自分の首を絞めかねません」

「そうですね、賢明な判断だと思いますよ」


 とは言え、作ってしまった以上、いつかは広まっていくだろう。だが、その時はその時だ。

 現状では独立戦争を起こしている間、少しでも独立派が優位に立てればそれでいい。俺はそう考えていた。





 一日かけて泥濘地帯を抜け、ようやく街道に合流できそうな場所まで進む事が出来た。

 リニアは水魔法、シノブが火魔法が得意な事もあって、女性陣は簡易テントの中で手早く沐浴を済ませている。キオさんの娘クリスも一緒にいる。

 仮にも美少女――まぁ、内二人の背丈はちんちくりんだが――の入浴なのだから、野郎ばかりの傭兵団に対する警戒は必要になる。

 そんな訳で俺が見張りについているのだが……


「俺に覗かれるという心配はないのかね?」


 もっとも有り得そうな危険を除外している気がしたので、思わずそう口にしてしまった。

 するとテントの中からリニアが俺のボヤキに答えてきた。


「ご主人なら別に構いませんよ? いつも覗かせていただいてますし。なんだったら一緒に入ります?」

「そ、それは困る! 主に私の心の準備が!」

「おや、準備ができれば別に構わないと?」

「そういう訳では……いや、あるにはあるが……」

「わ、わたしも……困る」


 几帳面なシノブと、ふざけ気味なリニアのコンビは意外と相性がいいのか、急速に仲良くなっている。

 そんな二人に引きずられてか、クリスちゃんも少しずつ口をきいてくれるようになってきていた。


 俺はテントを見やると、そこにはランプに照らされた三人の影が映し出されていた。

 全員、女性的なラインを描くにはまだまだ未熟だが、それでも明確に男とは違う、独特のなだらかな陰影に思わず見てはいけない物を見てしまったような気分になった。

 シノブはまだ精神的にも肉体的にも幼いし、リニアとクリスちゃんは身長的に完全に守備範囲外だというのに、俺も女日照りが長引いているようだ。


「ゴホン、シノブをからかいたい気持ちは判らんでもないが、早めに済ませとけよ? 食事当番じゃないとはいえ、飯の支度を傭兵達に任せっぱなしなんだから」

「はぁい!」


 元気のいいリニアの返事に、思わず相好が崩れる。

 まるで近所の子供をキャンプに連れて行ったような気分になったからだ。中身は100歳越えのロリババアなんだが。


「三人の様子はどうだ? 周囲は男ばかりだから気を使うだろう」

「よう、あんた『も』覗きに来たのか?」

「いや、彼女達には興味ないよ。剣の腕には興味津々だけどね」


 そこに今回の仕事のリーダーであるバーネットがやってきた。

 派遣された傭兵団の兵士は基本的に男ばかりだ。護衛14人に護衛対象2人の16人。その中で女性はたった3人しかいない。

 しかも全員が全員、揃ってロリ系である。


「なるほど、バーネットは巨乳系と……」

「いや、違うけど。っていうか、『も』って言ったか?」

「ああ、さっきカツヒトがシノブを覗こうと暗躍していた」

「で、彼はどこに?」

「ヤツは……星になったのさ」


 リニアのアッパーカットでな。

 10秒ほど空中遊泳して地上に落ちてきたが。

 それにしても……小人(リリパット)族って、あんな(なり)でも生え――いや、なんでもない。


 バーネットは傭兵ではあったが、一般的に言う傭兵らしさというモノがあまり感じられない。

 基本的には穏やかな性格で、体格の良さも相まって、まるで動物園で昼寝している熊のような印象を与える男だ。

 対外的にも礼儀正しいし、商人の護衛のように外部の人間と接触する任務には、使い勝手がいいのだろう。


「そうか……まぁ、飯が食えるなら問題ないが」

「それはちょっと怪しいかもしれん」


 なにせ股間を強打されたからな。もちろんリニアも本気で殴った訳じゃないだろうが。


「……程々に頼むよ。食事の支度ができたから、彼女達が出たら知らせてやってくれ」

「それは必要ないだろう。ウチのリニアは耳が非常にいいんだ」

「ハーイ、聞こえてますよー。ご主人もお望みならアッパーカットしてあげますよ?」


 リニアのアッパー。それは男の股間を打ち上げてくる、鋼の拳の事である。

 だから断固として俺は遠慮する。


「やめろ。俺にそんな特殊な性癖は無い! それに、ダメージが無くても精神的に痛いから」

「本当に程々にな!?」


 気持ちは判るが、そればかりは保障しかねる。





 そんな調子で3日ほどは順調に旅が続いていた。

 クリスちゃんはシノブにべったりと懐いており、例外的にシノブは彼女と一緒に馬車に乗せてもらっている。

 シノブの方も妹ができたようで、まんざらではないらしい。彼女自身がしっかり妹系だから、こういうシチュエーションは新鮮なのだと思う。


 対してリニアは、やはり年齢的な差異が出てしまうのか、あまり懐かれてはいない。

 とは言えそれはシノブと比較しての話で、他の男達に比べれば遥かに懐かれている訳だが。

 モンスターの襲撃も、森を出て街道に入ってからは一切なく、平穏な旅路が続いていると言えるだろう。


 だが、もう少しでクジャタの町……と言う所で、街道が倒木で塞がれている事に気付いた。


「これは……怪しいな」

「ああ、道を塞いで獲物の足を止めるのは常道だ。総員、警戒態勢。バッツとアランは馬車の護衛に付け。残りは倒木を調べに行くぞ。なにも無ければそのまま撤去する」

「おう!」


 男達がそう声を掛け合い、8人が怪しい倒木に向かって近付いていく。

 キオさんとクリスちゃんは馬車の荷台に隠れ、遠距離からの攻撃に備えていた。この辺りの冷静さはやはり町の外に出る商人なんだな。


「おおっと、そこまでだ!」


 傭兵達が馬車から離れ倒木に近付いた所で、木の向こうから、如何(いか)にも盗賊と言う感じの連中が姿を現す。

 だが、バーネットは彼らの話が終わる前に、すかさず攻撃を命じた。


「敵襲、かかれ!」


 前もって警戒態勢にあった傭兵達は、すでに武装済みだ。

 号令一下、盗賊に襲い掛かった傭兵に、逆に盗賊の方が虚を突かれた形になる。


「なっ、おい、ちょ――話を聞けよ!?」

「知るか、死ね!」


 もはやどっちが盗賊か判りはしない。そんな乱戦にあって、問答無用を察知した盗賊のボスは別の命令を発する。


「ええい、仕方ねぇ! おい、囲め!」


 今度はその命令に応じて、馬車の後方に10人ばかりの盗賊が現れる。

 こちらは弓も装備しており、遠距離戦にも対応していた。


「バーネット、背後に敵が!」

「なに――? くそ、見落としていたか! バッツ、アラン。是が非でも食い止めろ!」

「は、はい!」


 倒木の撤去と待ち伏せの可能性を考え、バーネットは前方に戦力を集中させていた。

 それが今回は仇となった結果になる。

 今回のメンバーには斥候職がいないため、潜伏している盗賊を見落としてしまったのだ。


「いや、ここは俺達が防ぐ。バッツとアランはキオさん達の護衛を!」


 カツヒトはそう宣言して単独で駆け出して行った。

 この直情径行こそが、彼が前線に出してもらえなかった理由である。


「おい、カツヒト……!?」

「ああ、もう。シノブとリニアはここから援護兼護衛を。まだ敵が伏せている可能性もある。馬車から離れるなよ」

「え、あ、うん。了解した」

「俺はカツヒトを援護してくる。俺達なら10人程度は余裕だ。任せろ」

「アキラ、気を付け……る必要はないか」

「ま、そうだな」


 俺はシノブの心配を一笑に付す。盗賊程度ではどうあがいた所で俺にダメージを与えられないだろう。

 俺は闇影を引き抜きつつ、盗賊たちの群れへ駈け込んでいったのだった。


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