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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第85話 北へ

 ギルドで一芝居打った後、シノブは周囲の人から同情の視線を向けられるようになった。

 それ程までに、あのダリルと言う男はこの町で一目置かれていたのだ。

 後、シノブ本人の実直な性格が、この町でも知れ渡ってきている点もある。

 ムサい男の多いこの町で、シノブやリニアは意外と人気者なのだ。


 こうして傭兵団は面子を取り戻し、シノブはヒドイ依頼者に騙された可哀想な少女という噂が広がり、事は一応の決着を見た。

 だが、それはそれとして、受けた依頼は実際に果たさないといけない。

 そんな訳で、ダリルが打ち合わせに、今日も俺の店まで訪れているのだが……


「お前、傭兵団のボスだろう。なぜ頻繁にやってくる? こういうのはダーズに任せとけ」

「そう言うなよ、ツレないな。俺としてはお前たち全員に興味があるんだ」


 シノブは戦争時、最前線で戦っていた知る人ぞ知る剣士だ。今はただの一般人に身をやつしているが……

 それにカツヒトも、ギルドでの一件で腕を見抜かれている。

 今後面倒に巻き込まれることが確実な傭兵団としては、この二人は喉から手が出るほど欲しい人材だろう。


 現在、シノブとカツヒトには、【アイテムボックス】を持っていると公表してあるので、町へ買い出しに行ってもらっている。大量の荷物を運べると知られている人間は、こういう時便利だ。

 そしてリニアは店番の仕事がある。

 つまり、こいつの相手は俺がやらねばならない。正直言うとダリルは察しが良すぎて苦手だ。


「それに二人だけじゃない。あんたも、それにそこのお嬢ちゃんも――俺の剣を見切っていただろう?」

「…………」


 俺とリニアを指差して、そんな事を言ってくる。

 ギルドでの一芝居、カツヒトもダリルも、本気で刃を向けあった訳じゃない。

 だがそれでも互いの力量は見て取れる。


「俺はあの時、結構本気でカツヒトに殺気を向けた。だがあんた達は全員、微動だにせずあの一撃を見逃した。反応できなかった訳じゃない、俺が止める、もしくはカツヒトが本気なら避けれると知っていたからだ」

「……まぁ、そうだな」


 カツヒトは頭こそ残念なところはあるが、槍とそれを補佐する魔法の腕は一流である。

 しかも俺の強化を受けて、その実力はこの世界でも比類ないレベルまで上昇していた。

 如何にダリルが歴戦の腕利きとは言え、今のあいつに一撃入れるレベルではない。


「それに町の人間に聞いたら、あの二人は【アイテムボックス】持ちらしいじゃないか。傭兵団として、これを見過ごせというのは、さすがに無理」


 俺があの二人の【アイテムボックス】スキルを公表したのは、それなりに理由がある。

 この町で俺が鍛冶師としてやっていく以上、大量の金属や装備を運搬する機会が多くなってくるのだ。

 最初はそれに気付かなかったので、能力を隠していたのだが、今後、『運搬量』という問題が俺の前に立ちはだかる事も想定しておかねばならない。

 そこでシノブ達の【アイテムボックス】を公表しておき、世間の目をごまかそうと企んでいたのだ。


 【アイテムボックス】のスキルを持っていない俺が、いきなりその能力に目覚めるのは、さすがに怪しまれるだろうから。


「やらんぞ」

「くれ……と言いたい所だが、ガロアの手前だ。無理にとは言わん。あいつは俺も苦手なんだ」


 大真面目に拒否する俺に、これまた大真面目な顔で本音を漏らすダリル。

 俺はその顔を見て、どうにもならないと判断し、溜息を吐いて本題を促した。


「それで、今度の依頼は誰を、どこに運ぶんだ?」


 聞いていた話では、商人とその商隊をクレーターの反対側まで護衛する任務らしい。


「ああ、護衛する商人の名はキオ。娘が一人いるな。運ぶ荷は紫水晶を600㎏。これは俺達で荷を確認済みだ」

「間違いないのか? 怪しい荷物を運ばされるのはゴメンだぞ」

「大丈夫だ。そんな真似をされたら、泥を被るのは俺達の方だぞ?」


 稀に積み荷をごまかして、後ろ暗い荷物を護衛させるという事件が、この世界でも存在するらしい。

 シノブの時の例もあるように、依頼人の身元と積み荷の確認はしっかりとやっておかねば、いつ足を掬われるか判った物じゃないのだ。


「それと、向かう先は湖北側に広がる森の中」

「森の中ぁ?」

「ああ、そこにいるエルフ達に紫水晶を届けるのが、今回の依頼だ」

「エルフ!?」


 エルフと言えば、美形揃いで有名な森の種族だ。

 一部のゲームでは水の種族になっているものもあるが、総じて妖精の一種で美しい者が多い。

 この世界でもエルフは美形という認識が一般化しており、俺はこっそり彼等――と言うか、彼女等に出会うのを楽しみにしていた。

 なにせ、今まで出会った事が無いのだ。


 その理由の一つとして、北側でいまだ続く小競り合いの影響がある。

 こちらはアロン共和国とファルネア帝国が直接接してはいない。その境目にエルフ達の住まう大森林があるからだ。

 だが両国は今、この森の確保に腐心している。

 エルフ達は精鋭ではあるが、数が少なく、そして森を手に入れれば強固な防衛線を手に入れる事ができるからだ。


 森の中を軍が進む事は難しい。

 つまり、ここを確保すれば森そのものが領土として拡大する事ができる。

 おまけにエルフ達は美形揃い。色々と不埒な企みを持つ連中も湧いて出る。


「そう、つまりこの大陸における最前線だな。そしてエルフは魔法に優れ、紫水晶は魔力を貯め込む事ができる」

「北部戦線への支援物資って訳か」

「ま、そう言う事だな。ルートは一度南の街道に出て、『魔神の亀裂』を渡り、湖を迂回しつつ北へ向かう。途中の山脈ではモンスターが頻出するらしいから、武装は忘れずにな」


 魔神の亀裂とは……あまり思い出したくないが、俺がカツヒトとのトレーニングで刻んだ、大地の裂け目の事だ。

 今ではあの亀裂はそう呼ばれ、ちょっとした観光名所になっている。


「そのルートだと……途中、ニブラスに寄るな」

「そうなるが、なにかあるのか?」

「いや、なんでも……」


 シーサーペントを町のド真ん中に叩き落した経緯があるので、できればあまり寄り付きたくない場所でもある。

 だがそれをダリルに知られると、俺の正体までバレてしまう。あの町では極力出歩かないようにしよう。


「旅程は片道で一か月。往復で二か月を予定している」

「了解した。他に必要な物は? 俺達は馬とか持ってないぞ」

「それは俺達も大差ないさ。砦には馬は確保しているが人数分揃っている訳じゃない。今回お前達と同行する兵も、徒歩で追従する事になっている」

「水とか食料は大丈夫なんだろうな?」


 俺達だけなら【アイテムボックス】に放り込んでおけば問題ない。だが傭兵達の分まで用意してやる義理はないのだ。


「それはキオの方から提供してくれるそうだ。それに途中の街で補給しつつ進むから、途中で飢える心配はないはずだぞ」

「なら問題ないな……いや、もう一つ」

「なんだ?」

「俺達と一緒に行く傭兵、信用できるのか?」


 傭兵団とは言え一枚岩ではない。しかも女日照りな上に、こちらはシノブという美少女を連れていく訳だ。あと、おまけでリニアも。

 ()()かあっては、俺的に困る。


「ああ、その点は大丈夫だ。部下の中でも紳士的な奴を優先して選んでおくから」

「そうしてくれると助かる。なにせシノブは見ての通り飛びっきりだからな。それに自覚はあるのにその辺の警戒心が薄い。そっちに変な気を起こされたら困る」

「まぁ、長旅ではあるが、途中で頻繁に町に寄るから。そこでしっかり解消しておくように言い含めておくさ。なんだったらお前も一緒に行くか?」

「なん……だと……?」


 それはアレか? イヤンでアハンな感じのお店に連れて行ってくれると?

 アンサラではそういう店は厳しく取り締まられていて、なかなかお目にかかる事が出来なかった。

 そもそも俺は人前で無防備を晒す事に忌避感を持っているので、そういう店にはあまり近付こうと思った事はない。


 だが……俺だって男である。興味はもちろん人並みにあるし、最近ではリニアが付きまとっていて、色々処理するタイミングに苦慮しているのだ。

 服を着たままお相手してくれる方とか、絶賛募集中なのである。プロの人なら相手してもらえるか……?


「ふむ、満更でもなさそうだな。同行の兵には告げておくか。しかし、あれほどいい女と一緒に暮らしているんだから、そっちは困ってないと思っていたんだがな……」

「シノブに手を出すのは罪悪感がな……ちなみにリニアは種族的に守備範囲外だ」

「あの嬢ちゃんも可哀想に」


 気分は保護者な最近である。

 そんなやり取りを終え、翌日の出発に備えたのだった。





 翌朝、俺達四人はルアダンの町で商人のキオと合流した。

 今回の仕事、本来ならばシノブとカツヒトだけでも充分なのだが、まだ若い二人だけを旅に出すのは心配である。

 まぁ、この二人に過ちは発生しないだろうが……そこはそれ、長旅である。どこで誰に出会ってムニャムニャな展開になるとも限らない。

 正直カツヒトはどうでもいいが、シノブに関しては心配が尽きないのだ。几帳面で頑固なこの少女は、ある意味手玉に取られやすい。


 そんな訳で、結局俺は店を閉め、同行する事に決めたのだった。


「初めまして、私が今回の依頼人のキオと申します。この度は護衛を引き受けていただき、ありがとうございます」

「いや、これはこっちの都合もあるから、気にしなくていい」


 丁寧に挨拶をし、握手を求めるキオからは実直そうな印象しか沸いてこない。

 ある意味彼は、シノブと同類かもしれない。


「よろしく。俺は今回の護衛のリーダーを務めるバーネットだ」

「鍛冶師のアキラだ。こっちは付与師のリニアと……シノブとカツヒトに関しては別にいいよな?」

「ああ、身をもって知っている」

「あの、その節は本当に申し訳ない事を……」


 バーネットの言葉に、シノブはペコペコと頭を下げる。

 途中から手を抜いていたカツヒトは軽く手を挙げて会釈しただけで済ませていた。


「いや、幸いそちらに殺意が無かったお陰で死者は出ていない。こっちとしてもいい訓練になったし、若い女性とお近付きになれたと喜んでいた仲間も多いから、あまり気に病むな」

「そう言ってもらえると、助かる。私はどうも、融通が利かなくて――」

「まだ若いんだ。欠点を理解しているのなら、これから直せばいいさ」


 傭兵団と互いに挨拶を交わすシノブ達を他所に、俺は一人の少女の姿を目にしていた。


「キオさん、その方は?」

「ああ、娘のクリスです。まだ十になったばかりなので、礼儀ができておりません。そこはご勘弁を」

「いや、そういう意味ではなく。よろしくね、クリスちゃん」

「………………ん」


 俺は少女に手を伸ばし、挨拶を交わす。

 彼女もおずおずと俺の手を握り返してくれたので、第一印象は悪くないようだ。

 意外と俺も、カツヒトに負けず劣らず幼女受けはいいようなのだ。成人に近付くと離れられるんだが……まぁ、あまり深く考えないでおこう。


 こうして俺達は、一か月の長旅に出発したのだった。


実はまだ……ヒロインが一人出てきていなかったりします。

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