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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第84話 落とし前

 シノブ命名の『こわい棒』が一通りの完成を見た事で、俺の工房では爆発系マジックアイテムの販売も始める事になった。

 売値は銀貨5枚。数打ちのノーマルソードの半値程度と、決して安いものではないが、魔術師がいないパーティでも先制で範囲攻撃を放てるとあって、結構な売れ行きを見せ始めている。

 特にこの町の近辺では、甲殻系の昆虫型モンスターの数も多いため、このアイテムの需要は高い。

 普通に戦って、武器の刃を痛めるよりは安上がりになるからだ。無論腕のいい戦士なら、武器を傷めたりしないが。


 できるなら炭酸飲料なども売りたい所ではあるが、その製法が俺の『能力』頼みである以上、これを(おおやけ)にする訳には行かない。

 こちらはしばらく、俺達身内だけの楽しみとして、内密にしておく事にしよう。


 そんなある日、俺達の住む店にダーズが訪れてきた。

 その顔は珍しく苦虫を噛み潰したようにしかめられ、申し訳なさそうに小さくなっている。

 原因は彼の連れてきたもう一人の男……傭兵団団長のダリルだと紹介された。


「やぁ、君達がシノブとカツヒト? 少し話をしてもいいかな?」


 目の細い、どこか飄々とした男はそう切り出してきた。

 明らかに不穏な雰囲気を発してはいるが、とりあえず客としてきた以上、茶くらい出さねば主人としての沽券にかかわる。

 2人を別室に案内し、そこで普通に出回っている豆茶を振る舞う。

 別室は商談用に作ってある部屋で、それなりに広く作ったつもりだが、さすがに武装した人間6人が入ると狭く感じる。

 席に着き、俺から茶を受け取るなり、ダリルは早速話を切り出した。


「今日ここに来たのは二人に少し話があってね」


 安い豆茶を啜りながら、細い目をさらに細くしてダリルがそう告げてくる。


「二人には少なくとも三年、我が傭兵団に加入してもらう」

「なっ!? おい、なんでそうなる!」


 激昂する俺を宥める様にダリルは左手を上げて俺を制した。


「まぁよく考えてもみろ。今回の件、俺たち傭兵団は盛大に顔に泥を塗られた結果になっている。このままでは町の連中はともかく、盗賊共にまで舐められる結果になってしまう」

「それは……そうだが……」


 シノブはダリルの説明を聞き、項垂れた様に首肯した。

 確かにたった二人に砦の城門を切り抜かれ、装備に大損害を与えられ、団員を斬り倒されたのである。

 城門も装備も俺やリニアが直し、怪我人は砦付きの治癒術師が癒したとはいえ、外聞が悪い事には変わりない。


「二人が『俺達の仲間になった』という話になれば、その悪評は収める事ができる。売り込みの為に暴れたとでも取り繕う事ができるからな。これからこの町は少し厄介な立場になるから、できるならばそう言う悪い噂の根は絶っておきたい」

「厄介?」

「それはまだ内緒だ」


 とは言え大体想像は付いている。

 おそらくはシノブ達の言っていた、中部の独立に関する騒動だろう。


「む……だが、損害自体は俺が修繕したし、この二人は言わば騙された被害者だ。それに未成年でもある。そんな連中を無理やり仲間に引き込むなんて、それこそ外聞が悪いだろう?」


 横から窺っただけだが、項垂れたシノブは泣きそうなくらい、くやしそうな顔をしていた。

 彼女としては依頼を受けた相手に対しギリギリの所で筋を通しつつ、被害が出ないように苦心していたのだ。

 そんな彼女を傭兵団に売り渡すなんて、年長者のやる事じゃない……そう判断したから。


「損害が無い訳じゃない。君には装備の補修分の報酬を支払っている。城門の修理は、ありがたくやってもらったがね」

「ならその金は返す。こいつらは俺の仲間で、筋の通らない事はしていない。お前達だって、仲間を売ったりはしないだろう?」

「彼女が依頼を果たしつつ、こちらに被害が広がらないように苦心していた事は、俺も理解しているさ。だが、それはあくまで俺達内部での話だ。噂を聞いた連中にはそれが判らない」

「そりゃまぁ……」

「子供二人に舐められた、そんな噂は放置できない。外聞を整えるためにも、彼等には何らかのペナルティを負ってもらわないと、こちらの面子が立たない。それは理解してくれ」


 ダリルの言いたい事も、判らないでもない。

 彼らはヤクザではないが、それに近い武闘派組織である。

 そんな連中が、正面からねじ伏せられたなんて噂は、放置していい物ではない。


「だからと言って……こいつ等を再び戦場に送る気は、俺にはないぞ。そうなったら俺とアンタ達の縁もここまでになると思ってくれ」

「こちらとしては、腕のいい鍛冶師と付与師の縁は切りたくはないんだが……そうも言ってられないんだよ」


 お互い目を睨み合ったまま、言葉を切る。

 噂と違い、ダリルは積極的にシノブ達を囲い込もうとしている。彼の真価は『今ある戦力で最大限の戦果を』だったはずだ。

 それなのに今回の話の運びは、少しばかり強引に過ぎる気がする。

 それ程までに早急に戦力を確保したがると言う事は、中部はよほど不利らしい。

 ならば……と、俺はカードを一枚切る事にした。


「こいつ等の身元はキフォンの街のガロアと言う男が後見を務めている。もし身を請けるというのなら、そっちに話を通す方が先じゃないか?」


 これまでの経過を話し合った際、ガロアが後見を務める事になった事は、シノブから聞いている。

 その話の中で、ルアダンの資金も独立運動の重要な要素だと彼女は言っていた。

 町の護衛を受け持つ彼らが、ガロアと接触していないはずがない。

 俺はそう判断して、ガロアの名前を出す事にしたのだ。


「ガロアの……?」


 案の定、その名を聞いてダリルは考え込むように顎に手をやった。


「その様子だと、あいつが何を企んでいるかは知っているようだな?」

「ム、それは……いや、すでに知っているのなら話は早いか。ああ、そうだ。俺がキフォンに向かったのは、あいつに会うためでもある」


 やはり、こいつも一枚噛んでた訳だ。ならばなおさら、彼等にシノブを預ける訳には行かない。


「なら判るだろう? あまりこの話を強引に進めると、俺達だけでなくガロアとも軋轢を生むぞ」

「ああ、それは理解した。だが……この噂はどうやっても放置する訳には行かないんだ。下手をすれば、ルアダンがこの同盟の穴とみなされる可能性だって出て来る」


 アンサラ・ルアダン・キフォン・ニブラス。他にも参加する都市はあるが、主となるその四都市同盟の中で、ルアダンのみ、たった二人に引っ掻き回されるような実力しかないと知られれば、この町が集中的に狙われる事になる可能性も確かにある。

 ダリルが危惧しているのは、その部分だろう。


「なら落とし所を話そうじゃないか。俺としても、進んで得意先を潰したい訳じゃない」

「そうだな」


 彼らを力尽くで撃退するのは、俺だけでなく、カツヒト一人でもできる。

 町を守るのも、俺が本気を出せば問題ないだろう。だが、そんな真似をすれば俺は今後この場所に住めなくなる。

 ここは彼らと協力して、事を収めた方がいいと判断した。 


 ダリルも同じ思いがあったのだろう。不承不承という態で、俺の提案に首肯したのだった。





 翌日、俺たち四人は珍しく揃って冒険者ギルドへ顔を出していた。

 だが、今日の目的は依頼を受ける事じゃない。俺達は依頼を物色する振りをして、相手を待つ。


「君がシノブ……かな?」


 そこへ、先日と似たような声を発し、ダリルが話しかけてきた。

 もちろん先日に顔を合わせているので、確認する必要はないのだが、ここは他の連中に見せるための説明的な演技が必要になる。


「そうだが……お前は?」


 これにまるで棒読み口調でシノブが答えた。そして先日と同じ詰問口調でシノブ達を責め――不意にカツヒトがダリルに斬りかかる。


 目にも止まらぬ槍の一閃。


 だが、ダリルはこれを『知っていた』かのように、受け止め――さらに、反撃まで加えて見せた。

 俺の目からしたらあまりにも遅いその攻撃。だが、一切の無駄が省かれたその剣は、反応が遅れるに値する鋭さがあった。

 現にカツヒトも一瞬反応が遅れ、喉元に切っ先を突き付けられてしまう。


「待て! 話があるなら私が聞く。だから彼には手を出さないでほしい」

「そうかい? なら続きだ。君達の身柄は我々傭兵団が引き取る事にする」

「それは……困る!」

「断れる筋だとでも? 俺のいない間にいいように暴れて、どれだけの損害を出したと思っている」

「す、すまない……だが、私達も騙されて……」


 あくまで棒読み口調が抜けないシノブ。

 そう、これは言わば芝居だ。


 人前でシノブ達がダリルに敗北し、謝罪し、そして罪を償う機会を与えられる。

 俺達はダリルに仕事を一つ与えられる事で、その機会を得る。


 このやり取りで、俺達よりダリルが上位であるという認識を、町に広める。

 そういう認識が広がれば、彼らの汚名も(そそ)がれるという思惑だった。


 問題があるとすれば一つだけ……シノブの演技力が……あまりにも低かった点である。


 それを察したのか、ダリルは手早く話を済まそうと、要点を述べてきた。


「なら一つ仕事を請け負ってもらおう。依頼は湖北側への商隊護衛。俺たち傭兵団から10名が付く事になっているが、それに君達も参加してもらう。これで手を打とうじゃないか」

「それは……それで、いいのか?」

「ああ、幸い死者は出ていない。城壁も装備もそこの鍛冶師が直してくれた。ならばこの辺りで手打ちにするのが妥当だろう。嫌なら入隊してもらうか、それとも……死ぬか、だ」

「……判った、それでいい」


 悲しそうな……と本人は思っているであろう表情でシノブが頷く。すまんシノブ、それはどちらかと言うと変顔だ。

 隣ではリニアが声を立てずに腹を抱えて笑っている。俺はその足を無言で踏みつけた。


 ズガン、という凄まじい音が発生し、ギルドの床が踏み抜かれる。

 リニアもここは邪魔をしてはいけないと思ってはいるのか、声を上げずに足を抱え、転がりまわった。

 ギルド中の注目が一瞬にして俺達に移るが……


「あ、お気になさらず。ちょっと床板が腐っていたようで……」

「荒くれ者揃いのギルドの床が、そんな簡単に抜けるかぃ」


 俺の言い訳にカウンターからムサい受付の男の声が飛ぶ。

 俺は頭を掻いて愛想笑いを浮かべ、二人に話を促した。


「ささ、どうぞ先に。先に」

「あ、ああ……では、そう言う事で彼らはしばらくウチで借り受ける。異論ないな?」


 カウンターの男にダリルが話しかけ、依頼を成立させた。

 こうして俺達は、護衛任務に就く事になったのだ。


これで、しばらくルアダンから離れる話になる予定です。

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