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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第83話 怖い棒


 翌日から、俺はマジックアイテムの製作に取り掛かった。

 とは言え製造面では【世界錬成】スキルで、『そういう物がある世界』を限定空間で作り上げてしまえばいいので、制作作業自体は一瞬で終わる。

 問題は何を、どんな風に、どれだけ作るかの『設計』である。


 リニアとカツヒトには紫水晶を買い出しに行ってもらい、俺が実験的にマジックアイテム製造に乗り出した事を暗に広めてもらっている。

 いきなり大量の紫水晶製マジックアイテムをポンと出せば、さすがに怪しむ住人もいるだろうから、いわゆる下地作りである。


「さて、まず一番簡単なのは手榴弾だよな?」

「それがものすごく危険な発想に聞こえるのは気のせいだろうか?」


 俺の前で正座して、神妙な顔つきで作業を見守るシノブ。その手にはいくつかの紫水晶が握られていた。

 これは俺がそこいらの石ころを【錬成】して紫水晶に変化させた物だ。


「まぁ、俺の魔力をそのまま込めれば、そりゃ危険にはなるだろうさ」


 そう言ってまずは鉄くずを手に取り、イメージしたアイテムに錬成させる。

 一瞬後、そこには映画などでよく見る手榴弾が存在していた。


「お、おいアキラ! そんな危険な物を――」

「ああ、悪い。作れるかどうか試しただけなんだが……作れてしまったな」


 爆発するかどうかは別として、召喚者相手には威嚇する程度には使えるだろう。

 とにかくこれは危険なので、【アイテムボックス】に放り込んでおく。


「まぁ、効果的には似たようなものを作るつもりでいるんだけどな」

「判っていても、怖いものは怖いんだ」


 それからシノブと話し合い、いくつかのアイデアを候補に挙げていく。


 大きさは手に収まり、わずかに大きいくらい。

 重さはできれば軽い方がいいだろう。現実の手榴弾の重さは4、500gだったはずだから、その半分くらい……250gから300gくらいが適正か?

 爆発半径はあまり大きくない方がいい。下手に大きいと使い道が限定されてしまう。

 手榴弾と同等の5m程度が目安だろう。


 他にも形状や爆発の起点となる要素などを決めていく。

 通常の手榴弾はピンを抜いて5~7秒後に自動的に爆発するが、この世界での戦闘にそんな余裕はない。

 その時間があれば、敵だって爆発系の魔法を使ってくるのだ。それよりも早く発動できるというアドバンテージが無いと、使用は難しいかもしれない。

 だが、あまり爆発が早すぎると自分を巻き込んでしまう。この辺りの匙加減が難しい。


「となると、やはり衝撃で爆発するように設定した方がいいのではないか? 地面に落ちた衝撃でドカーンとか」

「だけどそれだと、輸送中にひょっこり爆発する事態が起きるぞ。安全性は確保しないと、この家が吹っ飛ぶとかゴメンだからな」

「じゃあ、こういうのはどうだ? ピンを抜いたら衝撃で爆発するようになる」

「刺さってる限りは安全って事か。それなら管理も簡単になりそうだな」


 形状は投げやすいように、長さ20㎝程度の棒状。先端部がやや膨らんだ形状にした。いわゆるポテトマッシャーと呼ばれるタイプの手榴弾の形状だ。

 これなら投げる際、先端部が遠心力を得て、少ない力で遠くまで投げられるようになる。

 膨らんだ部分にピンが刺さっており、それを抜くと【爆破(エクスプロード)】の火魔法が解放される仕組みだ。


「そのまま魔法を解放するのではなく、水晶の内部に【爆破】を発生させて破片を飛び散らせるようにしよう。その方が殺傷力は高いし」

「なんだか、自分がテロリストになった気分がしてきたぞ、アキラ」

「どれくらいの衝撃で発生する事にしよう……あまり感度を高くすると投げる時の衝撃で爆発するよな?」

「敵にぶつける衝撃で爆発するようにしたいから、結構鈍くても大丈夫なのじゃないか?」

「でもスライムみたいに柔らかい敵だと、衝撃が吸収される可能性があるぞ」

「あ、そういう敵もいたな……じゃあ高さだ。敵に当たって衝撃を吸収されても、その場に落ちる事は免れない。落ちた衝撃で爆発させるようにすればいい」

「おお、頭いいな。じゃあ……リニアを基準にして1mくらいから落ちれば爆発するようにしよう」


 この世界には小人族のように背の低い種族も存在する。

 それにスライムなどは高さ1mも無いほど平べったい。直接ぶつけるのではなく、手前に落とし、その衝撃で爆発させれば、効果はあるだろう。


 【爆破】の魔術式はシノブが知っていた。

 彼女は本職ではないとは言え、Lv5の火属性魔法が使える。【爆破】はLv4に存在する攻撃魔法で、これが使えて初めて一人前の火属性魔術師として認められる。

 この魔法を覚える事で、魔術師の殺傷力が飛躍的に増大するからだ。


「で、この魔法陣を先端部に刻んで……ここにピンが通れば魔力は遮断されるから――」

「ピンの固さはどうする? すぐ抜ける方がいいか?」

「いや、むしろ安全面を考えれば固い方がいいだろう。どうせ戦闘中に力加減なんてできないんだし、慣れないうちは思いっきり引っこ抜くと思う」

「じゃあそれで」


 なんだかんだでシノブもノッてきている。こうしてシノブに監修を受けながら、初のマジックアイテム『こわい棒』が完成したのである。

 シノブよ、そのネーミングセンスはどうなんだ?





 こわい棒完成からしばらくして、カツヒトとリニアが帰ってきた。

 購入してきた紫水晶は100㎏にも及び、町の人たちも訝しんでいたそうだ。

 その度にカツヒト達が『アキラがマジックアイテムを開発してみるって言いだしたんだ』と説明し、なぜか町の人達はそれで納得していたらしい。


「でも、この程度ならすぐになくなってしまうぞ?」

「いいんだよ。大量に買い込んだって事実が大事なんだ。仕入れの量はこの際どうとでもなるしな」


 重量的に計算するなら、100㎏の紫水晶からこわい棒は333本作り出せることになる。

 試験の意味も兼ねて、失敗などの消費も考慮するならば、これはかなり少ない量と言えるだろう。

 だが『足りなければ作ればいいじゃない』という存在が、俺だ。

 あくまでこの買い物は口実作りである。


 この後、こわい棒の他に専用の収納ベルトを作り出しておいた。

 ベルトに棒を収納するケースを取り付けただけの代物だが、ケースから棒を引き抜くと自動的にピンが抜ける様にギミックを組んでおいたのだ。

 これはケースの底にピンを引っ掛ける鉤を付けておくことで解決した。


 そして今、俺達は山を越え、湖の畔に来ている。

 ここならば多少派手な爆発を起こしても、町の人達には迷惑にはならないだろう。


「よし、じゃあまずシノブは魔力を籠めてくれ。この中ではお前がダントツで魔力が高いからな」


 シノブの魔力は5793、カツヒトの1719やリニアの704に比べると圧倒的な魔力がある。

 だが悲しいかな、彼女には【魔力操作】のスキルが無い。そのせいで、膨大な魔力を効率的に使う事が出来ないでいた。

 大きな魔法を使うためには大きく複雑な魔法陣を描く必要がある。そして素早くそこに魔力を注ぐ事も重要だ。

 彼女はその、魔力を注ぐ作業に欠点を抱えていた。


 だがこのマジックアイテムに魔力を注ぐのは、それは関係ない。

 このこわい棒、外部から魔力をすばやく取り込み、後は一年くらいその魔力を維持し続けるようになっている。

 シノブほどの魔力があれば、ほんの数秒で充填は完了するのだ。


「で、このケースの底は開く様になっている。ここの鉤にピンを引っ掛けて底を固定すれば、棒を引き抜くだけでピンが外れるようになる訳だ」

「ほうほう」

「で、底の方はこっちの側面のフックに固定すれば、外れなくなる」


 まず、頑丈な俺が実演しながら取り扱いを説明する。俺ならば万が一こわい棒が暴発しても怪我一つ負わないからである。

 こうして説明を終えた俺は、畔に立って実験を開始する。


「まずは抜いて爆発しないかどうかの問題だ。それから投擲。地面に落ちた場合と水面に落ちた場合の比較な」

「気を付けてくれ、アキラ。本当にそれ、怖いから」


 木の陰に隠れながらシノブがそう言ってくる。

 これは彼女が薄情なのではなく、念のため身を隠してもらっているのだ。

 リニアに至っては自前の【土壁】でトーチカを作っていた。カツヒトも一緒に入れてもらっていた。


「よし、抜くぞ!」


 腰の後ろに3つ、収納するケースを取り付けられたベルトから、1本を掴んで引っこ抜く。

 俺は思わず目を瞑って爆発に備えたが、どうやら爆発は起きなかったようだ。


「よし、第一段階成功。まずは地面に投げてみる」

「こっちには投げるなよ」

「投げるか!」


 茶々を入れてくるカツヒトに怒鳴り返し、俺はこわい棒を軽く()()()

 指でコインを弾くだけで音速を突破する俺が、軽くとは言え、投げたのである。

 その結果――





 俺の手の先で、こわい棒は盛大に爆発した。





「あ、アキラー!? 生きてるか? 大丈夫か!?」


 至近距離で爆発をまともに受け、俺はその場に突っ伏すように倒れていた。

 全身には水晶の破片がまんべんなく振りかけられており、その爆発力の検証は、不幸にも身を持って体験したことになる。


「お、おう。俺はこの程度では怪我しないけどな。それにしても……腕が音速の壁にぶち当たってしまったか?」

「いやもう、なに言ってるか判らない」

「ご主人、怪我はないですよね? なんだったら、わたしが代わりに投げます?」


 小人族はこういうオモチャが結構好きだ。

 そしてリニアの筋力は1408。俺よりも遥かに低く、シノブの1900やカツヒトの4163よりも低い。

 暴発の危険性を考えれば、彼女が投げるのが最適だろう。その分生命力も二人より低いのだが、実体験した爆発の結果を見ると、彼女でも充分耐えられそうだ。


「おし、任せる。取り扱いには気を付けろよ?」

「はーい」


 ベルトをリニアに巻き直した直後、彼女は問答無用で棒を引っこ抜いた。

 慌てて木の陰に駆け戻るシノブと、トーチカに潜り込む俺とカツヒト。

 そんな周囲に頓着せず、無造作に投げた先でこわい棒は盛大に爆発した。


「おー、これは面白いかも」


 爆発半径は、想定通り5m前後だが、破片の飛散はそれ以上に広がっている。

 殺傷力は想像以上に高そうだが、10mも離れれば被害は格段に軽減できるし、実用に問題はなさそうだ。


「よし、次は湖な。水面でも爆発するか見てみたい」


 水面と言うのは予想以上に硬い。40mの高さから落ちればコンクリート並みの固さになるというのは有名な話だ。

 そこまで行かなくとも、20m程度投げて水面に落ちれば、その衝撃は結構なモノになる。

 目論見通り、水面で盛大に爆発が起き、プカリと魚が浮かんできた。


「お、おお……想定外の収穫……?」

「昨日は肉だったが今日は魚だな。よし、アキラ。白味噌作ってくれ」

「おいィ! カツヒト、お前、俺を便利に使いすぎやしませんかねぇ?」


 なんにせよ、こうしてマジックアイテムの開発は成功に終わったのである。


コワイ棒1本10円(嘘

この後白味噌を作って西京焼きに挑戦したそうな。


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