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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第8章 開発と旅立ち編
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第82話 たまには錬成師らしく


 少し遅くなったがお説教を受けた後は夕食である。

 シノブもしつこい性格ではないので、一通り言うべき事を口にした後は実にさっぱりしたモノだった。


 とりあえず今日の戦果であるワイルドバッファローと言うモンスターの、いわゆる牛肉でバーベキューしながら、もう1つの戦果である炭酸飲料を披露した。

 この世界で発泡飲料と言えばエール酒や特殊なワインのような微炭酸飲料程度しかないので、リニアはこういう類を見るのは初めてである。


「これ……なんかすごくシュワシュワしてますよ? 飲んで大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ、カツヒトで毒味済み」

「おい、俺に真っ先に飲ませたのはそういう意味があったのか!?」

「ああ、懐かしい味だ……アキラ、こんなものを出されたら、なおさらお前から離れられなくなってしまうぞ」


 疑心暗鬼の視線を向けるリニアに、感激の涙を滂沱のごとく流すシノブ。

 ちなみに透明な方は見事な噴水を披露してくれた。こちらの期待した通りにやってくれる、良いリアクション芸である。

 この世界でも重曹と砂糖があれば、炭酸飲料は作れない事はないんだろうが、その重曹の製作手順がまだ見つけられていない。


「フッフッフ。シノブはすでに堕ちたようだな?」

「む、堕ちるだなんって、そんな……でもこういうジャンクな食べ物の魅力は確かに逆らい難い!」

「わわ、舌がピチピチしますよ、これ!?」


 ルアダンで仕入れた調味料に漬けて肉を焼き口に運ぶ。合間にトウモロコシや玉ねぎ、ジャガイモを鉄板の上に並べ、思い思いに自分の皿に取り分けていく。

 シノブもリニアも、今回の試みを心から楽しんでいた。

 どうやら、炭酸と牛肉を仕入れた行動自体は間違いじゃなかったらしい。

 どうでもいいがリニアよ……炭酸を一気飲みして盛大にゲップしているんじゃありません。見た目美少女なのが台無しだ。


「こうなると、味噌とか醤油も作れるんじゃないか?」

「あー、そうだな、多分作れる。【錬成】は俺のイメージが元になってるから、むしろ他の物よりも簡単かもしれない」


 毎日のように口にした、定番の調味料だ。イメージを元に【錬成】するのだから、これほど思い浮かべやすいものはない。


「となると、主原料は……大豆か? 豆があればアキラならどうとでもなるんじゃないかな?」

「麹菌とかも必要だろうけど、そんな細かいところまで要求してくる能力じゃなさそうだしな」

「日本酒とかも作れるのか?」

「カツヒト……お前、転移してきたときは未成年だったよな?」


 俄然盛り上がる、シノブとカツヒト。

 彼らが何を言っているのかは、リニアには理解できなかった。


「むぅ、なんだか仲間外れな気分です」

「俺達の中で唯一の現地人だからな。でもお前が仲間外れとか、そんな事は絶対ないから」


 ふくれっ面で拗ねるリニアの頭にポンと手を置いて、そう告げる。

 こいつは時折、こういうかわいらしい態度を取るのが反則である。

 これが俺の気を引くための手管だったとしたら、実に恐ろしい。さすがロリババアと言うしかない。


「元よりお前を仲間外れにするつもりだったら、お前の身体強化を解除して放り出してるさ。それがある以上、お前を手放す事はない」


 俺の正体を知り、俺の力の恩恵を受けている以上、彼女が自由になれる選択肢は少ない。

 いつか奴隷の身分からは解放してやるつもりではあるが、その部分の問題を解消してからの事になるだろう。

 もっともリニアが俺達の正体を吹聴するとか、考えもしていない。その程度には、彼女を信頼している。


 そこで俺はシノブの視線に気が付いた。

 彼女はカツヒトをあしらいながらも、時折リニアの首元に視線を飛ばしている。やはり隷属の首輪が気になるのだろうか?


「シノブもリニアの首輪が気になるのか?」

「え、ああ……うん、少しな」

「まぁ、外聞の悪いアイテムではあるよな。コーネロって奴の親父から仕入れたんだっけ?」


 本来非合法の品を手に入れたのは、偶然リニアが奴隷商人と取引する機会があったからだ。

 この近辺で最近活動していた奴隷商人は、コーネロの父親しかいないらしい。


「そうですね。偶然というのは何とも恐ろしい……」

「私は今になって思うのだが、本当に偶然だったのか? なんだかタイミング良過ぎる気がするんだが」

「奴隷商が居たのは偶然ですよ? ただ討伐されたのは……どうでしょうね」

「お前……何かしたな?」


 ニマニマ気持ち悪い笑みを浮かべるリニアに、俺は悪だくみの気配を感じた。

 都合よく奴隷商が討伐されたタイミングは、確かに怪しい。


「わたしは何もしてませんよー。ちょっと足取りを残しておいただけで。鋭い人が見れば、後を付けて奴隷商に辿り着けるかもしれない程度ですけど」

「つまり、ダリル傭兵団が奴隷商を襲撃する事が出来たのは……」


 この辺りで長年活動してきた奴隷商。それが数か月前、唐突に足取りを掴まれ、襲撃されるに至った事件。


「非合法の商売ですし、酷い目に遭った方も多かったですしね。それにクジャタの山賊達もわたしを奴隷に売るっぽい事言ってましたから」


 つまり、こいつは仇討ちの一環として奴隷商を陥れていたのか。


「待て、と言う事は今回の騒動……元を(ただ)せば実はリニアさんの仕業になるのか?」

「ずーっと遠くの方の原因になるけど、そうかもしれませんね」


 俺たちは互いに顔を見合わせ、背筋を震わせた。

 あの時のリニアは復讐の為なら手段を問わない、言うなればコーネロやイライザ達と同じスタンスで行動していた。

 ただし彼女は、あくまで自分の手で格闘家の男を倒す事に拘っていた部分が違うだけだ。

 それ以外の所で、まさかここまで悪辣な事をしでかしていたとは……リニア、恐ろしい子! いや、ババアだけど。


「そ、それはともかく! 今は仕事も一段落しているだろう? 少しやってみたい事があるんだ」


 俺は場の空気を変えるべく、強引に話題を転換させた。


「え? あ、うん。なんだ、いきなり。確かに暇ではあるが」

「ああ、俺ってほら……【錬成】持ってるじゃん?」


 シノブが俺の意図を察して、話題に乗ってくる。ええ子や。

 カツヒトは我関せずと肉を食う作業に戻っている。壊滅した牛の群れ6頭分あるとは言え、少しは遠慮しろ。


「もちろん、それは知っている」

「そこでだ。こんなファンタジーな世界に来たんなら、試してみたい事があるじゃない?」

「試してみたい事?」

「それは――マジックアイテム作成だ!」


 ババーンと効果音が出そうなポーズを取って、俺は【アイテムボックス】から紫水晶を取り出した。

 日本では本来、価値のあまり高くない鉱石なのだが、この世界では違う。

 魔力を蓄える性質があるため、マジックアイテムの素材として重宝され、このルアダンの特産品の一つに数えられているのだ。


「マジックアイテム? それならアンスウェラーや闇影があるじゃないか」

「いや、それは純粋に武器の強化の延長上だし。そうじゃなくてさ、ほら……こう、投げたら爆発する水晶とか、作ってみたいじゃない」


 アースワーム騒動の時に腹マイトしてた奴もいたので、爆発物が拡散しても大丈夫なはずだ。

 この世界、火薬の存在はあるが、あまり普及はしていない。それは製法が安定していないのもあるのだろう。

 そこで安定しない火薬の普及よりも、マジックアイテムによる【火球(ファイアボール)】や【破裂(エクスプロード)】が封入されたアイテムを広げるのを思いついたのだ。


「爆発………………やめた方がいい」

「おい、シノブさんや。今何を連想した?」

「え、いや……爆発で山脈が消し飛んで、この辺り一帯が水没――」

「ゴメン、もういい」


 シノブの的確な指摘に、俺は激しく項垂(うなだ)れた。

 確かに俺が見境なく魔力を籠めたら、それくらいの惨事は起きるだろう。


「でも、魔力を籠める人間がわたしとかなら、上手くいくかもしれませんよ?」

「おお、それだ! 外部充電式にすればいいのか」

「それなら、大丈夫……なのかな?」

「もぐもぐ――俺もその発想には賛成したい。ほら、俺って攻撃魔法は弱いのしか使えないから、強い魔法には憧れるんだよ」

「ふむ、私も威力はそこそこあるが、発動にどうしても時間が掛かる弱点がある。リニアさんのように素早く強力な魔法を撃てるというのは、ちょっと……いや、かなり羨ましいと思っていた」


 カツヒトは魔力はそこそこだが知力が低かったため、魔法のバリエーションが少ないという難点があった。

 対してシノブは魔力はずば抜けていたが、【魔力操作】のスキルが無いため、素早く発動させることができない弱点があった。

 今なら強化を受けているので、カツヒトはこの弱点は多少緩和されているのだが、それでもシノブの【魔力操作】が無い弱点は致命的だ。

 そういった点を補うため、容易に攻撃魔法と同等の効果を発揮するマジックアイテムの開発は、無駄にはならないはず。


「これはこの町で紫水晶の特性を知ったから、思いついた事なんだけどな」

「やりすぎないなら、いいんじゃないか?」

「俺は賛成する! やっぱ男ならドカンと派手に行きたいからな」

「お前、キフォンで派手にやったじゃないか」

「あれはなんか違う……違うんだ……」


 ぶっちゃけるとキフォンで派手にやったのは俺で、カツヒトは被害を拡大させただけだ。

 いや、それも結局派手な事になるのか?


「とにかく、鍛冶仕事が来ない今の内に、ちょっと試してみたいと思っているんだ。良かったら手伝ってくれ」

「いいけど……わたし達で手伝える事なんてあります?」

「魔力を籠めるのはお前達じゃないと困る。俺じゃ詰め過ぎてしまうからな。それに、いきなり紫水晶が大量に降って湧いたら、怪しまれるだろ? だから町で多めに購入してきてくれ」

「ああ、その偽装工作がありましたね」


 俺ならそこらの土塊を紫水晶に作り替える事は容易いのだが、山に引きこもってる人間が鉱夫よりも大量の紫水晶を持ちだしたら、怪しまれるかもしれないのだ。

 多少町で購入しておけば、そういった疑いは緩和される事になる。


 こうして、俺のマジックアイテム作成ミッションが始まったのだった。


こちらの作品、6月は月水金の更新を目指します。

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