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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第7章 ルアダン編-2
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第76話 彼女の葛藤

ちょびっとシリアスです。

 森林火災は思わぬ恩恵を俺に与えてくれた。

 それは、投石によって抉られた痕跡を、洪水で作った泥濘が覆い隠してくれた事だ。

 しかも山腹に刻まれた大穴は、俺本人によって叩き潰されている。


 この二つの結果、『砦から森を割り、山腹を抉った謎の攻撃』の証拠が消え去ってしまったのだ。

 残されているのは、見たという証言だけ。


 もちろん、こんな事実を他の町の人間が信じるはずがない。

 森を割った謎の攻撃は、ルアダンの町の人間が見た幻想と処理され、やがて消え去っていくだろう。


「クックック、計算通り」

「絶対ウソですね」


 夜、自宅でシノブとカツヒトの強化を行いながら、そんな含み笑いを漏らしたのだが、リニアに速攻却下されてしまった。

 そう言えばリニアはリニアで問題を抱えていたな。これは後で話し合わないといけない。


「リニア、後で2人で話ができるか?」

「おお、ついに夜伽の命令ですか? それならぜひ!」

「待て、それは聞き捨てならないぞ。なぜわたしより付き合いの浅いリニアさんが先なんだ? 順番的に私の方が――」

「付き合いの長さよりも深さと言う事です。後輩は指をくわえて見てなさい」

「そう言う所を話し合おうってんだよ」


 スパンとリニアの頭を軽く叩いて、牽制をやめさせる。


 どうも、別れていた間にシノブの中の俺はかなり美化されているようだ。それ故に俺への憧憬は天井知らずになっている。

 これは俺にとってはうれしい誤算と言うか、なんというか……まぁ、俺も男だから、可愛い女の子に慕われて悪い気はしない。

 だが、そんなシノブのアプローチを、リニアは快く思ってはいない。


 事あるごとにシノブに突っかかり、ややもすれば暴走気味に自己主張する。

 もちろん、リニアはリニアなりに俺を慕ってくれるが故の反応とは理解できているが、できるなら愛らしい少女2人には、仲良くしていてもらいたいのだ。

 その方が精神的にも安らぐし、見ていても幸せになれる。


「2人は家具の設置とか色々やる事もあるだろ。強化は終了しているから、家具も自分で配置できるはずだ」


 +40の強化を施された二人の筋力は、すでに人外の域に達している。シノブですら、筋力値1900だ。ベッドくらい指一本で持ち上げる事ができる。

 カツヒトに至っては、3258まで上がっている。アンスウェラーの攻撃力2093よりも高い。


 そう言えば、2人の能力をまとめておいた方がいいか。



◇◆◇◆◇


名前:相川忍(アイカワ・シノブ) 種族:人間 性別:女

年齢:16歳 職業:騎士Lv12


筋力 42(+40) =1900

敏捷 115(+40) =4254

器用 34(+40) =1538

生命 72(+40) =3258

魔力 128(+40) =5793

知力 90(+40) =4073

精神 74(+40) =3349


スキル:

【アイテムボックス】

【言語理解】

【剣技】 Lv7

【火属性魔法】 Lv5

【過剰暴走】 Lv4


◇◆◇◆◇



◇◆◇◆◇


名前:須郷克一(スゴウ・カツヒト) 種族:人間 性別:男

年齢:18歳 職業:騎士Lv10


筋力 92(+40) =4163

敏捷 75(+40) =3394

器用 80(+40) =3620

生命 98(+40) =4435

魔力 38(+40) =1719

知力 25(+40) =1131

精神 63(+40) =2851


スキル:

【アイテムボックス】

【言語理解】

【槍術】 Lv6

【風属性魔法】 Lv3

【魔力操作】 Lv1

【過剰暴走】 Lv4


◇◆◇◆◇



 こうやって見ると、2人とも初期値からバランスよく能力が整っていただけに、まったく穴が無くなっている。

 リニアのように5桁と3桁が入り混じる能力とは違って、実に見栄えがいい。


 後、2人には【過剰暴走】Lv4というスキルを偽装しておいた。+40なんて値が付いている以上、Lv1では識別されたら疑問に思われてしまう事もあるだろう。

 そう言う時の言い訳用に付けた偽装スキルである。実際は何の効果も持たない。

 これは後でリニアにもやっておいた方がいいだろうな。それを説明すると、シノブななぜか嬉しそうな顔をしていた。


「これは……『お揃い』という奴だな!」

「男と『お揃い』は嫌だな……」

「ならカツヒトの分は外すか? 言い訳は自分で考えてくれ」

「いや、冗談だ! 毎回そんな面倒な事やってられるか!?」

「ご主人、わたしは! わたしは!?」

「はいはい、後でやってやるから。犬かお前は」


 ピョンピョン跳ねて主張するリニアの頭を押さえながら、俺は自室へと戻っていった。





 リニアを椅子に座らせ、俺はベッドに腰かける。


「さて、俺がなにを言いたいかは、判るよな?」

「うー……」


 リニアは頬を膨らませて唸り声を上げていた。その様子に100歳を超えた威厳は見当たらない。

 だが彼女だって頭が悪い訳ではない。むしろ他の小人族と比べると、頭抜(ずぬ)けて『キレる』と言っていい。だから俺の言いたい事はすでに理解しているはずなのだ。


「わたしとしても、この態度は良くないとは思ってます。実際彼らはご主人の客分ですし、奴隷の身分のわたしが口を挟んでいい問題じゃないのも理解はしていますよー」

「理解はしているけど、止められないって?」

「そんな感じです」


 リニアにしては新入りの恋敵が気になって仕方ないのだろう。これを止めろというのは確かに無理がある。

 感情というのは理性で制御するのは難しいのだ。


「別にシノブが嫌いって訳じゃないんだろ? もう少し穏やかにだな……」

「意識してそれができれば苦労しませんよぅ」


 しょんぼりと肩を落として見せるリニアには、反省の色が見て取れる。これは彼女にとってもどうしようもない問題なのだろう。

 だがよく考えてみれば、そもそもリニアの好意と言うのはかなり不純な面から発生している。

 今までは軽く冗談として流していたが、そろそろキチンと問い質しておいた方がいいのかもしれない。


「だいたいお前、『奴隷の格は主人からの寵愛の深さで決まる』とかよく言ってるけど、今俺がお前を解放したら、その好意はきれいさっぱり消え去るのか?」

「それは……」

「いや、この聞き方はなんか悪いな。これじゃ『違います』としか答えられないか」

「いえ、どう言葉を変えても、その答えは同じです。わたしの気持ちは決して変わりません」

「それがよく判らない。どうしてそこまで……」


 俺は鈍感キャラじゃない。リニアやシノブが俺に好意を向けている事くらい理解しているし、カツヒトだって並々ならぬ友情を持ってくれている事も理解している。

 単純なシノブやカツヒトならばまだ判らなくもないが、リニアはこの世界の住人で、しかも100年を生き抜いてきた猛者でもある。

 そんな人間が俺にあっさり惚れるなど、納得いかない面が多いのだ。


「わたしはご主人――いえ、アキラに多大な恩を受けました。あの復讐は命に代えても行う覚悟でいましたし、事実そのために奴隷に身をやつした訳ですが、アキラはそんなわたしにとても良くしてくれています」

「そうか? わりと殴ったり叩いたりしてる気がするが」

「本気でやったら、わたし死んでますよ。それに初めて会った時に出した取引は、今思い出しても厚かましい物でした。脅迫まがいで力を与えさせたんです。それを考えたら、事が済んだ後のわたしをもっと悲惨な目に遭わせていてもおかしくない」

「お前って見かけ子供だしな。それに、あまり悲惨な事はしたくないし……」


 俺の言葉にリニアは驚いたように目を丸くし、そして口に手を当ててくすくす笑い出した。


「それはアキラが召喚者だからこその感情ですね。普通なら小人族なんて、厚かましくて小煩い厄介者扱いですよ?」

「そんなに酷い扱いなのか?」

「自業自得な面もありますけどね。こればっかりは種族の性質なので変えられません。まぁ、そんな訳で恩人であるアキラに好意を持つのは当然なんです。それに……一緒に暮らしていて、とても楽しいですから」


 俺とリニアのこれまでの生活を振り返ると、確かに賑やかで……厄介事に満ちていて、楽しい日々だった。

 それは平穏を求める俺にしては、騒々し過ぎる日々だ。だが確実に言える事は、そんな日々を俺は別に(いと)うていないと言う事だ。


「もうちょっと落ち着きは欲しいけど……そうだな、俺も悪くないとは思っているよ」

「わたしはこれからもアキラと共に居たいですし、そう願っています。ですが、あなたが彼女と結ばれてしまうと、わたしの居場所が消えてしまいかねません。その不安がどうしても刺々しい態度に出てしまうんです」

「まぁ、お前の言い分は判ったよ。だが、そうだな……シノブの事だから事情を話せば、多少は納得してくれるか?」

「え……この話、彼女に話すんですか!?」

「そりゃお前、話すだろう?」


 そもそも、リニア側の態度の変化を期待できない以上、シノブに事情を話して我慢してもらう必要があるのだ。


「それに事情を知らないでいると、お前……このままじゃ『嫌な先輩』ってイメージが定着してしまうぞ?」

「ぐぬ、それはそれで気に入りませんね」


 腕を組んで顔をしかめて見せるリニア。嫌われるのを嫌がっていると言う事は、シノブに対する印象も悪い物ではないのだろう。

 ならば、後は時間が自然と解決してくれるはずだ。

 俺は今日の会話をシノブに話す事だけ許可を取り、その日の話し合いを終えたのである。





 翌日から、シノブはやたらとリニアに纏わりつくようになった。

 これは彼女なりに早く打ち解けようとする努力の表れなのだろうが、リニアの微妙な顔を見ていると可笑しさを堪えきれない。

 それに小人族の彼女がシノブの膝に乗せられていたりするのを見ると、仲のいい姉妹を見ているようで微笑ましい気持ちになる。


「なんだ、急にべたべたして……」

「うらやましいか? これが女子同士の距離感というモノだ」

「じゃあ、俺はアキラを膝に乗せてみるか」

「却下だ!」


 アホな提案をしてくるカツヒトを一蹴してから朝食の準備を整える。

 いつもはリニアが食事を用意しているのだが、いま彼女はシノブに捕獲されていて動くことができないのだ。


 適当にパンを切り、適当にハムを焼き、適当に卵を焼いて乗せる。

 そんな雑な朝食を済ませて、俺は重々しく2人に告げた。


「んじゃ、今日から2人は力を確認する作業をしておいてくれよ。昨日と違う次元まで跳ね上がってるから、注意するんだぞ」

「ああ、いつものアキラを見ていると理解できる」

「それ、何気にヒデェな……」


 そうして3日、カツヒトとシノブは自身の力を調整し、使いこなせるようになっていった。

 俺はその間に溜まっていた修繕依頼をすべて済ませて、砦へ向かう準備を整えていたのである。


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