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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第7章 ルアダン編-2
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第73話 神の如き力でも不可能な事

 シノブはどうやら俺の家に住み込むつもりらしい。

 考えてみれば、身を守るためとは言え、それまで住んでいた街を離れて俺を頼ってきたのだ。あまり無碍(むげ)に断るのも可哀想である。

 それに彼女は間違いなく美少女に分類される美貌の持ち主で、将来性は豊かだ。胸部以外。

 おまけに、これまた間違いなく俺を慕ってくれている。俺は鈍感系じゃないから、いくらなんでもそれくらいは判る。

 さすがに少々幼さが勝っているが、それでも一つ屋根の下で暮らすというのは、少々どころでない期待感がある訳で……


「ま、とにかく最初は住む場所だな。部屋はすぐ増設できるから問題ないとして、家具が無い」

「それなら問題ない。屋根がある分、野宿よりマシだ」

「いや、家の中で野宿するなよ……」


 彼女はどうも、微妙なところで残念な雰囲気を醸し出しているな。

 ともかく、【アイテムボックス】から寝袋を取り出そうとするシノブを手で制し、まずは部屋の増築に取り掛かる。

 壁の一角に穴を開け、その向こうに部屋になる四角い壁を立てれば、第一段階は完了である。


「まずは壁から。リニア、頼む」

「えー、受け入れるんですか、ご主人?」


 リニアとしたら、これからライバルが同居する訳だから、あまり気分がいいものではないだろう。

 だが俺としては彼女もシノブも、仲良くやってほしいと思っている。なんだかんだで、この2人の事は気に入っているのだ。


「そう言うな。シノブも付き合ってみれば悪い子じゃないぞ。なにせ命懸けで住人を守ろうとする熱血漢だ」


 アンサラでは騎兵隊相手に単騎で突入しようとしたくらい、責任感が強い。

 無責任な者が多いと噂の小人族(リリパット)でありながら、復讐に全てを捧げようとしたリニアと相性が悪いはずがない。どちらも一途さという点では遜色ないのだから。


「まぁ、ご主人の言う事は絶対ですからー、作れと言われれば作りますけどぉ」


 不満たらたらな表情でリニアが席を立つ。この辺りは、追々馴染んでくれれば、俺も嬉しい。

 それよりもまずは部屋を作る位置である。


「じゃあ、外に離れでも作りますか」

「そこにお前が引っ越すんだな? で、お前の部屋にシノブが入る、と」

「なんでそうなるんですか!?」

「お前が毎朝襲撃を掛けてくるからだ!」

「今後は自重しますので、それは勘弁してくださいよ!」

「なに!? ま、毎朝シているのか?」

「そこに食いつくな、してねーから! 何よりサイズ合わないだろ!」


 リニアに牽制を入れると、シノブが食いついてきた。彼女も気になるお年頃である。

 いろいろとレイアウトを考えた結果、俺の部屋の隣、リニアの反対側に一室を設ける事になった。


「なんというか……予想以上に馴染んでいるんだな。アキラ」


 そんな俺とリニアのやり取りを見て、カツヒトが口を挟んでくる。そう言えば居たな、お前。


「そうだ、カツヒトは宿はどうするんだ?」

「お前、シノブも一緒に過ごすというのに、俺だけ放り出す気か!」

「いや。俺、男と一緒に暮らすほど寛大じゃないぞ?」


 もともと根無し草のカツヒトの事だから、行く当てなんてないだろうけどな。


「そもそもお前は今までどこに行ってたんだ? 俺はあれだけ待ったというのに」

「はぐれてからか? ニブラスでアキラを待ってたんだよ。いつまでたっても現れないから、そのままキフォンまで戻ってみたんだぞ」

「逆方向かよ。なんでそっちに進んだし」

「普通はぐれた時ははぐれた場所に戻る物だろう? 山歩きの基本だぞ」

「そんな常識俺に通用するとでも?」

「ああ、そうだと思ったよ、チクショウ!」


 リニアとの会話もそれなりに遠慮が無いものだったが、カツヒトのそれは男同士と言う事もあり、さらに遠慮が無い。

 こういう感触も、実は結構懐かしい。


「冗談だよ。ここに住むのなら部屋くらいは用意してやるさ」

「そうしてくれると助かるよ。せっかく再会できたんだ。すぐお別れなんてのは寂しいからな」

「……ほぅ、これが」


 珍しく素直な感想を返すカツヒトに、シノブがなんだか感心したような声を漏らした。

 なんだか不穏な気配も感じた気がするんだが……


「どうかしたのか、シノブ?」

「いや、なんでもない。召喚者の先輩に教わった極めて稀な特殊事例を目の当たりにして、感心しただけだ」

「事例?」

「男同士の友情について、とても……とても熱く語る人だった」

「そうか……?」


 なんだかその人とは出会わない方がいい気がする。とにかくまずは部屋を作ってしまおう。

 まず壁に干渉して、通路になる大穴を開ける。その向こうにリニアが壁を四方に立ててから、屋根を作った。

 後は床の高さを調節し、その壁に強化を施し、薪を持ってきて床板に変化させて貼っていく。


 カツヒトの部屋はリニアの隣に作る事にしておいた。現在シノブはリニアの事を警戒はしているが基本的に積極的(アクティブ)に対応しようとはしていない。

 対してリニアは、シノブに対してあからさまな警戒心を剥き出しにしている。無いとは思うが、彼女がどのような行動に出るのかは想像がつかない。

 さすがに実力行使に出るようなことはないと信じてはいるんだが……念には念を、だ。


 4人がかりで作業すると、さすがに仕事が早い。

 ほんの30分ほどで床板貼りを終えて、後は家具を運び込むだけとなった。

 だがいくら俺の【アイテムボックス】の容量がでかいとはいえ、予備の家具なんて入っていない。こればかりは町に買い出しに行かねばなるまい。


「ベッドとか椅子とかの予備はないから、町に買い出しに行こう。別に俺が作ってもいいんだが……」

「私はそれでも……」

「いや、素人の設計だと体を痛めるかもしれないぞ。いい寝具は健康の秘訣だ。というか、アキラの手製となると、何が材料になっているのか判らないから怖い」

「カツヒト、言ってくれるじゃないか……」

「い、いや、悪意はないぞ! 本当に」


 だがまぁ、カツヒトの言い分もよく判る。

 しょせん俺は設計の素人なのだ。人の体にフィットする寝具や、座り心地のいい椅子などの生活用品の細かな違いまでは判らない。

 実際に寝てもらって微調整するくらいはできるだろうが、それならプロが作った品の方が安定感が違うだろう。

 そんな訳で、4人揃って町へ買い出しに出る事になったのだ。もちろん、地下は封鎖して。





 数日振りに訪れたルアダンの町は、どこかざわついた雰囲気が流れていた。

 通りの商人を捕まえて話を聞くと、なぜか昨日、唐突に山の麓に大穴が開いて、そこが坑道として利用できそうだという話だった。


「へぇ、何が幸いするか判らんな……もうちょっとで町に当たってたんじゃないのか?」

「当たる……? ああ、なんでも魔神ワラキアがどっかで暴れた流れ弾じゃないかって噂もあるな」

「うぇ、なに、その核心を突いた噂は」

「奴は最近、この大陸中部をうろついてるらしいからな。大陸中部の草原から東部にあるアロンの首都まで攻撃できるバケモノだ、それくらいはするだろうさ」

「いや、できるけどな……」

「そんな訳で、明日には新しい坑道の調査と、ワラキア警戒のためにダリル傭兵団から部隊が派遣されるって噂だよ」

「そ、そう……大変だな」

「お前さん、最近町で噂になってる鍛冶師だろ? うっかり出会わないように気を付けなよ?」

「おう、サンキューな」


 そんな話を聞いて、俺は冷や汗が流れる思いだった。

 今回の砲撃、残念ながら目撃者が多数いる。だが、彼らは俺をワラキアだとは知らない。

 この辺の矛盾から、俺がワラキアだとバレる可能性も出てきた。


「どうすっかな……」

「今度は目撃者が多いですからね。一番の安全策はあの砦ごと消す事ですが……?」

「それはさすがに残虐が過ぎるんじゃないか?」

「なら次善の策は……言い張る事ですかね。幸いご主人には偽装した【過剰暴走(スタンピード)】がありますし」

「ああ、キフォンで使った手だな。あれの魔法版だと言い張るのか。それなら寝込んでいた方がよくないか?」

「まぁ、それはこの後だな」


 偽装したスキルの存在を知るカツヒトが、察しよくリニアの提案を理解する。

 一発撃って寝込むスキルだと言い張れば、それなりに言い訳は聞くかもしれないが……それはそれで軍事目的に絡まれそうな気配があるな。


「やっぱり、一度あの砦で口止めをお願いしてこないといけないか……」

「む、なら私も行くぞ。仕事とはいえ酷い事をしてしまったからな。きちんと謝罪しないと」

「わたしとしては、あの兄妹の気持ちも判らなくはないですけどね。復讐したくても力が足りない。そうなればどんな手段でも講じたくなるものです」


 あの兄妹の取った手段はあまり褒められた事ではないが、手段を択ばないという点ではリニアと共通する所が多々ある。

 これは実際に復讐に走るほどの憎悪に染まらないと、理解できない感情だろう。

 ()くいう俺も、トーラス王国崩壊の時の気持ちを思い出せば、判らなくもない……それはともかく、そこで思い出した事がある。


「そうだ、シノブとオマケのカツヒト。お前たちに話がある」

「なんだ?」

「俺はオマケかよ!?」


 まるで名前を呼ばれた飼い犬のように、目を輝かせて乗り出すシノブと、言葉の端々にツッコミを入れてくるカツヒト。

 いつもならもう少しからかってやるところなのだが、今回は重要事項の伝達である。シンプルに内容を伝えるとしよう。


「俺と一緒に暮らすなら、リニアのように肉体改造を受けてもらうぞ。うっかりで事故に巻き込まれるかもしれないし、何かの拍子にツッコミ入れてしまうかもしれない。デコピン一発で脳髄ぶちまけるとか言う愉快な芸はやめてほしいからな」

「確かにアキラの馬鹿力なら、そういう事故が起きてもおかしくないよなぁ」

「カツヒト、今デコピン食らってみるか?」

「やめてください、死んでしまいます」


 カツヒトはいつもノリだったが、反対ではなさそうだな。

 対してシノブはと言うと……


「肉体改造……それはひょっとして、胸とか乳とか大きくできたりするのか? アキラが好みそうな体型に!」

「何を期待しているのかは知らんが……おそらくできない」


 俺の持つ【世界干渉】能力は、俺のイメージによる補正が大きく入る。

 例えば闇影などはグラフェンと言う非常に硬くしなやかな物質を利用しているが、これは俺が『なんだか知らないけど硬くてしなやかな、炭っぽい物質』というイメージを具現化してるに過ぎない。

 正確に調べてみたら、グラフェンとは全く違う物質の可能性だってありえる。


 何が言いたいのかと言うと……そんなイメージを具現化する能力だからこそ、『シノブが巨乳』というイメージを俺が全く持っていないのが問題なのだ。。

 イメージが沸かなければ、『創る』事は出来ない。だから、シノブの胸を増やす事は不可能になる。

 それを伝えると、シノブはがっくりと地面に手を付き、項垂れた。


「そ、そんな……」

「まぁ、シノブはまだ若いだろ。将来に期待しておけ」

「む、そうだな……未来……そう、未来に期待だ」


 立ち上がってぐっと拳を握るシノブ。それを見て微妙な顔をしているのはリニアだ。

 こう見えても100歳超え。もはや成長の余地はない。


「いーんです。わたしには小娘にはない『てくにっく』がありますし!」

「実用する機会は欠片も無いけどな」


 そんなツッコミを入れながら、俺達は家具屋に向かったのである。


前にカツヒトがシノブを腐女子と言ったのは、この先輩と仲が良かったからです。

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