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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第7章 ルアダン編-2
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第71話 再会と初顔合わせ

 それから二日間、俺はリニアと交代で作業の見張りをしながら小屋に籠もる事になった。

 修繕作業自体はほんの数分で終わってしまうため、ほとんどは中で暇を潰さないといけない。だがそこはそれ、これまでの経験で内部で暇を持て余してしまう事は予想済みだ。

 今回は町で仕入れてきた本や絵巻物、チェスに似た戦術ゲームなども仕入れてきている。


「とは言え、暇であることには間違いないんだよな。F4に歩兵」


 俺は床に寝転がって盤面を眺めながら、端の歩兵を一歩進めた。

 これに屋根の上で監視についているリニアから、反応が帰ってくる。


「今回は見張りの事もありますし、小屋を離れる事が出来ないですしねぇ。普通D4から動かしませんか? F6に歩兵」


 リニアの指示通りに駒を動かし、序盤の攻防を開始する。

 今日の作業分は終了させているので、このまま暇を潰し、夕方にダーズに品を渡せばいいだけだ。

 つまり昼過ぎである今は、小屋の中で引き籠っていないといけない時間帯である。


「そう言えば、そろそろ襲撃者君がやってくる時期じゃないか? C4に騎士な」

「そんな待ち遠しそうに言わないでくださいよ、物騒な。C6に騎士です」


 こちらの騎士の進軍に、真正面から受けて立つ構えのリニア。

 とは言え、野郎ばかりでむさ苦しさ極まりない砦の中だ。女がいるという襲撃者に期待してしまってもおかしくはないだろう。

 リニアですら傭兵達から飴を貰って頭を撫でられているくらい、ここは女日照りなのだ。

 傭兵達の話を聞くと、襲撃者はかなりの美少女らしく、来訪を待ち焦がれている者すらいた。

 それはそれでどうなんだ、と思わなくもない。


 ともあれ、こんな場所に長く籠っていたら、まかり間違ってリニアに手を出してしまいかねない。これは非常に危険な兆候である。

 精神的な潤いが欲しい。切実に。


 そんな風に気怠い昼時を過ごしていると、突然絹を裂くような野太い悲鳴が巻き起こった。

 いや、むしろ生木を裂く様な悲鳴か? これこそ割木である。いや違う。


「お、来たみたいだぞ!」

「ご主人、声がうきうきしてますよ!?」


 愛刀闇影を鞘ごと手に取り、嬉々とした足取りで小屋を飛び出す俺。

 屋根の上からリニアも飛び降りてくるが、その足取りも実は軽い。暇を持て余していたのは俺だけじゃなかったらしい。正直になればいいものを。


 急いで城門の所に駆けつけると、斬り抜かれた城門の中に二人の少年少女が入り込んで、一人の傭兵を斬り伏せていた。

 一人は槍を担いだ、背の高い少年。もう一人は剣を手にした幼げな少女……って、あれ?


「まさか……シノブ? それにカツヒトも?」

「あ……アキ、ラ?」


 そこにいたのはアンサラで世話になった召喚者の少女シノブと、キフォンやニブラスで『俺に』迷惑を振りまいてくれたカツヒトの姿だった。

 俺の声を聞きつけ、こちらに振り替えるシノブ。そのモーションにキラキラと星が掛かって見えたのは、女日照りな日常のせいだ。多分。


 こちらを見て硬直したように動きを止めるシノブ。それを見て慌てたのは、駆けつけてきたダーズである。

 カツヒトはこちらを指差し、口をパクパクさせていた。相変わらず間抜けな顔だ。


「待て! そいつらは外部の第三者だ! 彼らに手を出すというのなら、それはもう俺達との戦争になるぞ!?」


 外部から招き入れたものに手を出されたとなれば、それは傭兵団の沽券に関わる。

 ダーズはそれを危惧して声を上げたのだ。

 もちろん、今までの状況ですでに沽券もくそも無いほど名を汚されている訳だが、それでも彼等にも意地はある。

 これ以上の狼藉は本気で命のやり取りに発展し、血で血を洗う争いになる。そう警告しているのだ。


「俺達に手を出すのは良いが、外部の人間に手を出すのは、ダリル傭兵団全員がお前達を狙う事になると――」

「アキラアァァァァァァ!!」


 ダーズの宣言には一切耳を貸さず、シノブはその身体能力のすべてを発揮して、俺に突撃してきた。

 女の子が駆け寄ってきて、抱き着くという、召喚前ではありえないようなシチュエーションなのだが、彼女の手には聖剣レベルの攻撃力を持つ剣が抜身で握られており、その姿はまさに狂戦士。

 正直言ってちょっと――いや、かなり怖かった。


 抱き着くというより、半ばタックルのような勢いで俺を押し倒し、腰の上にまたがったまま、シノブは俺の胸元に縋り付いてくる。

 惜しい、ミニスカートだったら中身が見えたのに、彼女は濃い緑のハーフパンツを履いていた。

 いや、今はそれどころじゃない。


 胸元に縋り付いたシノブは、そのまま襟首にしがみ付き、力一杯締め上げてくるのだ。

 さすが戦場育ち、的確に急所を押えてくる……ぐぇ。


「まったく、どこで何をしていたんだ! 探したんだぞ、随分と! 行く先々で町は壊れているし、カツヒトはギルドに近寄りたがらないし!」

「いや、そりゃアイツはある意味有名人だから――」


 俺に次ぐ賞金首のあいつが、ギルドに寄り付く訳ないか。考えてみれば当たり前の話である。

 ギルドの連絡網を利用しろというのはリニアの考えではあるが、彼女も微妙に抜けている所がある。これは小人族(リリパット)の宿命とも言える特性である。


「しかも私の誘いを断っておいて、仲間に女を……女――? 誰だコイツは!」

「いや、今更かよ!?」

「ご主人、誰です? このイケ好かない女は?」

「お前もいきなり戦闘態勢取るなよ」


 俺を押し倒したシノブを見て、リニアの視線がかつてないほど鋭くなっている。気のせいか、目の中の光も剣呑極まりない。

 これはリニアが復讐を果たした時以来の、危険な目だ。ちょっとゾクッと来た。Mッ気は無いはずなのに。


「こっちはシノブ。俺がアンサラに住んでた時に世話になった騎士様だ」

「今はフリーだ。父も亡くなって、アンサラともなんの(しがらみ)も無くなった」

「確かに乳はありませんね」

「そこじゃない! というか、お前に言われたくないぞ!?」


 言ってやるな、リニア。

 別れてから一年経つというのに、俺の胸に当たる彼女の柔らかさは……まるで成長していない。


「こっちはリニア。訳有って俺の奴隷をやってる」

「奴隷? まさか、アキラ。お前……そんな趣味が……」

「ないから! もう全っ然、これっぽっちも無いから!」

「俺と別れた後、どこに行ったのかと思ったら……奴隷商で幼女を買っていたのか。見つからないはずだ」

「違うと言ってるだろう、カツヒト!」


 暢気な口調で俺に語り掛けてくるのは、あの湖ではぐれたカツヒトだ。

 こいつがなぜシノブと一緒にいるのかも謎だが、それは後で聞く事もできるだろう。


「それにしてもアキラは……1年で大分変ったな。なんだかカッコよく見えるぞ!」

「そ、そうか? 俺も苦労と冒険を重ねたからなぁ」


 顔付きが変わったのは気のせいではない。微妙に似顔絵とずれるように微調整を重ねた成果である。

 それでも一目で俺と見抜いたのは、さすがの観察眼と言うべきか、愛の力と言うべきか。


「お前達こそ、なぜこんな厄介な依頼を受けているんだ?」


 まさか腕利き剣士がシノブだとは思いもよらなかった。だが考えてみれば、思い当たる節はあちこちにあった。

 そもそも傭兵団を、たった2人で敵に回すような腕利きがそこらにいる訳が無い。

 ここに来た時に目にした斬り抜かれた城門。あれもシノブ並の腕と彼女に託したアンスウェラーの切れ味がなければ不可能な事だ。


 剣の腕と、それを支える名剣。この二つを併せ持つ存在が、この世界にどれほどいるというのか。

 鎧の切断面や、剣を断ち切る斬撃も彼女ならば納得できる。


 よく見ると、彼女によって蹂躙されていた傭兵達が、突然の展開に呆然とこちらを眺めて動きを止めていた。

 まるで鬼神のように暴れまわっていた少女が、いきなり歳相応のヤンチャ振りを発揮したのだから、それも無理はない。

 この場面で騒がしいのは二人だけだ。


 リニアとシノブの事ではない。

 城門の陰に隠れて、彼女達に指示を出していた二人組だ。


 こちらは見かけはイケメンと美少女の二人組なのだが、体格や雰囲気があまりにも荒事に向いていなさそうだった。

 彼らが恐らく、復讐騒ぎの当人なのだろう。


「うむ、旅の途中で盗賊に襲われていた商人の子供達を見つけてな。それを助けた縁で――」

「なにをしてるの、シノブ! そんな一般人に構ってないで、早く傭兵団を斬り捨てなさい!」

「そうだ、なんだったら殺してしまえ! 俺は前からそう言っているだろう!」

「ダリルの奴を誘い出すなんて面倒な事をする必要はないわ。ここにいる者を皆殺しにして、砦で待ちかまえればいいじゃない」

「シノブならそれができるな。カツヒトもいるんだ、こいつらなんて雑魚だろ」


 城門から半身を乗り出しながら、そんな勝手な事を喚いている。


「なんだ、あいつらは……?」

「その、今回の依頼者なんだ。ちょっと……いや、かなり我が儘だけど」

「いや、最悪だろう? あいつらは復讐するためだったら何を犠牲にしてもいいという考えの奴らだぞ。俺としては早く見切りを付けろとシノブに言っているのだがな」

「カツヒトがそう言うって事はよっぽどだな。で、シノブは……ああ、言わなくていい。なんとなく判る。どうせ持ち前の無駄な義理堅さが邪魔して断れなくなったんだろ?」

「う……」


 そんな事はない、と否定しきれないところが、彼女の本音を現している。

 元の世界にたまに見かけたが、被害者になる事でまるで王様のように振る舞えると勘違いしている愚か者が、こちらにもいたと言う事だ。

 しかも、それが力ある者の援助を手に入れると、際限なく増長する傾向がある。


「なにをしてるの、シノブ! 早くそこのクズ共を始末なさい!」

「そんな一般人に関わってる暇はないだろ! 俺達の言う事を聞けよ、依頼人だぞ」

「あー、そういう人達ですねぇ。たまにいるんですよ」


 リニアも一連の流れで『被害者』の性格を把握したようだ。


「なにをやってる、この愚図!」

「早くこいつらを殺しなさいよ!」

「いや、彼は――」

「――ダマレ」


 困ったように戸惑うシノブに向かって、ついには罵声を上げ始めた二人。

 そのあまりの理不尽さに俺は聞くに堪えなくなって、つい彼等に向かって石を投げつけてしまった。

 威嚇なので命中はさせる気はなかったが……軽く投げただけのその石は、音速を突破し、融解しながら衝撃波を撒き散らし、その余波で二人をゴミのように吹き飛ばしてしまった。

 そういえばまだ闇影を抜いていない。攻撃力低下の恩恵を受けていなかったか。

 まぁ、吹っ飛んだのがあいつ等なら、気にするほどの事は無かろう。


 問題は投石によって発生した衝撃波が、半壊していた城門を木っ端微塵に粉砕し、砦の周りの森を一直線に抉り取り、山の中腹に大穴を開けた所でようやく燃え尽きた事である。

 あー、これはやっちまったかもしれない。


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