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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第1章 アンサラ編
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第7話 付与師としての依頼

 ジャガイモを降ろし終わって、代金をサリーから受け取る。

 市場に卸すより一割ほど高い値段に、軽く首を傾げる。


「あ、アキラの野菜はよく売れるからね。少し色を付けさせてもらったわ」

「そりゃありがたい」


 正直、金が無くても【練成】の能力さえあれば、そこらの草でも食えないことはない。

 『食えない草』を『食える』様に作り変えてしまえばいいのだ。

 だが、それはそれで味気ない。食えるならばちゃんとしたものが食いたいのは、人間の性だ。


「ああ、そうだ。アキラって【物質練成】持ちだったわよね?」

「ん? ああ、そうだけど」

「鍛冶屋のウォーケンさんが助っ人お願いしてたわよ」

「またかぁ?」


 俺は【練成】と【識別】の能力があるので、商人や鍛冶屋からよく助っ人を頼まれる。

 名前や顔を出さない事を条件に、手伝うことはよくある。


「まぁ、街まで来たついでか。帰りに寄って見るよ」


 あくまで頼まれ事なので受ける必要も無いのだが、サリーには日頃世話になっている。

 そのサリーの面子も考えるならば、ここらで借りを返しておくのも悪くない。


「そうしてくれると助かるよ」

「じゃ、またな」

「お疲れさん」


 お互い軽く手を振り合って、俺は大八車を引いていく。

 俺の身体は筋力も限界まで強化してあるので、荷が有ろうと無かろうと羽のように軽く感じる。

 早朝、人の増えてきた街の通りを一つ二つと曲がって行き、目的の鍛冶屋に辿り着いた。


 ウォーケンと言う鍛冶屋はドワーフの腕利き、この店は街でも知る人ぞ知る名店と呼ばれている。

 俺はそんな鍛冶屋に、どういう訳か気に入られているのだ。

 いや、【練成】の能力を考えれば当たり前かもしれないけど。


 俺は、大八車の隅に置いてあった顔の上半分を隠す仮面を取り付ける。

 さすがに鍛冶場に入るのに、ひらひらしたマフラーを付けたままでは、危ない。

 ヒラヒラに引火したら大事件になってしまう。炎は俺にダメージを与える事は無いが、無傷というのもそれはそれで問題なのだ。

 それに、見た目がな……やはり怪しい。そのうちマフラーにも耐熱属性を付与しておくことにしよう。


 そこで仮面をかぶって顔を隠し、マフラーを外して正体を隠す事にしているのだ。

 怪しさは更に倍増だけど。


「ちぃーっす。アキラだけど、お手伝いにあがりやしたぁ」

「おぅ、来たか! 相変わらずふざけた顔と挨拶だが、まあいい」


 俺のフレンドリーな挨拶に、店の奥から髭もじゃのオッサンが顔を出す。

 身長は低く、せいぜい140cmしかないが、その肉の厚さが尋常じゃない。

 まるでどっかの格闘マンガの登場人物を上下に圧縮したような圧迫感を感じる。


「相変わらず無駄に肉ついてますね、オッサン」

「うるさいわい。サリーの嬢ちゃんから話は聞いておるか?」

「手が足りないって事だけ」


 そもそも詳しい話なんてサリーに言っても理解できないだろうしな。

 彼女は良くも悪くも八百屋の娘だ、野菜の事しか判らない。


「外の手を借りるなんぞ、恥ずかしい限りなんだが……さすがにノーマルソード20本を+8にしてくれって言われちゃな」

「+8か……そりゃ厄介だな」


 この世界、物を強化しようとすると色々と制約が掛かる。


 まず強化しようとする素材の限界値。

 木と鉄が同じ強度まで強化できる訳が無いのだ。俺以外。

 鉄を普通に強化して行くと、+5の辺りで壁に突き当たる。

 それ以上の強化は職人の腕か付与術師が必要になってくる。


 そして、鍛冶職人の腕。

 通常、鉄製の剣を+4まで鍛錬できて一人前、ウォーレンのオッサンのように+8までいければ一流と呼ばれている。

 これだって、長年修行を積んで腕を上げてようやく辿り着ける境地なのだ。俺以外。


 更にそれを強化する付与術師の腕。

 【武装練成】で、付与を行う人間の腕も更に強化に影響を与える。


 鍛冶師の腕と、付与師の腕。双方の強化の総合が武器の強化値となって現れるのだ。


 オッサンは単独でも普通のノーマルソードを+8まで鍛える事はできる。

 ただの鉄を限界を超えて強化できるのだから、これだけでも大した腕なのだ。

 だが、それでは一本辺りに時間が掛かりすぎてしまう。


 だがオッサンが+4の数打ち……とまでは行かないが、並より少し上の剣を量産し、俺が更に+4の付与を【練成】で与える。

 すると、出来上がったものはオッサンの名剣と同じ+8の強化値を持った剣になるのだ。


 ちなみにこの店には一本だけバスタードソード+16と言う剣が安置されている。

 これはオッサンの+8の名剣を、俺が更に+8に強化した結果、でき上がったものだ。


 なぜ俺が+8までしかしなかったのかと言うと、この世界ではスキルの壁が+10位のところにある。そして強化の限界値が+30と思われているからだ。

 壁に付き当たる+10を作れるとなると、各国の上層部から勧誘が殺到してくるらしい。

 それ以上の強化を施せる術師は、現状確認されていない。


 それなのに+30が限界と思われているのは、その付与を施された聖剣が存在するからだ。

 普通の人の限界が+10、世界の法則の限界が+30。

 これが、この世界の強化の認識である。 


 +8が限界のウォーケンのオッサンですら、あちこちから誘いが来ている。

 それ以上をこなせる俺の存在が知られると、凄まじく厄介な事が起こるだろう。

 だから俺の強化限界も、オッサンと同じ程度に設定しているのだ。

 そんな訳でオッサンと同等の【練成】強化が出来る俺は、実に重宝されている。


「それで、どれが完成品なんだ?」

「おう、こっちじゃ」


 オッサンに導かれて店の裏手に回る。

 そこには20本のノーマルソードが山となって積まれていた。


「オッケー、これをいつまでに完成させりゃいいのさ?」

「締め切りは来週じゃな。一日3本になるが……できるか?」


 出来るどころか、今この瞬間にでも終わらせることは可能だ。

 俺の【練成】は並列起動と瞬間発動が搭載されているのだから。

 だが、一般的な付与術師はおよそ一時間の時間を掛けてようやく+1にできる。

 つまり+4を付与するには、1本当たり4時間、20本だと80時間が必要になって来る。

 平均的術者なら1日に2本が限界だろう。


「ま、余裕だから安心しろ。五日後には持ってくるよ」


 一日4本、16時間の付与。

 正に掛かりっきりでギリギリ達成できる時間を提示する。

 これくらいなら、怪しまれる事は無いだろう。


「おいおい、いいのか? こっちはありがたいが……」

「そう思うならサリーをダシに使うのは遠慮してくれ。オッサンなら喜んで……とは行かないけど、できるだけ便宜を図ってやるからさ」

「……ワリィ、感謝する」


 深々と頭を下げるドワーフの肩を、ポンと一叩きしておく。


「おい、お前等。この剣を表の荷車まで運べ」

「へい、親方!」


 オッサンは俺を気遣って、弟子に剣を運ばせた。

 俺のステータスは表示的には非力極まりないからだ。

 まさかオッサンも、筋力を強化しているとは思うまいよ……普通は自分の体を強化するなんて考えない。というか、できない。


 こうして俺は、剣20本を持って自宅へ戻ることになったのだ。


今日はここまでです。続きはまた明日の昼になります。

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