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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第7章 ルアダン編-2
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第69話 謎の襲撃者


 翌日、準備を整えてからダーズの案内で砦へ向かった。

 『一刻も早く』という依頼だったのに翌日出発になってしまったのは、ひとえに補修した装備を町に運ぶ時間が無かったからだ。

 ついでにしばらく店を空ける事も連絡しておかなければならない。客の品を預かっている以上、最低限の連絡は入れておくのが礼儀だろう。


 更に預かり品の装備を盗まれないよう、仕舞い込んでおくのも忘れてはならない。

 俺の店が留守になれば、そこには70個程度の半壊した装備品が放置される事になる。これはこのままでは価値は低いが、キチンと補修してやれば、それなりに高価な品ばかりなのだ。

 それをsec○mすらないこの世界で放置していいはずがない。


 貴重品は貴金属と一緒に地下室へ放り込み、周囲の壁ごと出入り口を石で固め、石壁+99にしておいた。

 これでこの世界に壁を破れる者はいないはずである。固さで言うとダイヤモンドよりも固いのだ。


「この石壁の破片に柄を付けるだけで結構いい武器になるかもしれないな……」

「やめてくださいよ、変な色気を出すのは。正体バレちゃったらまた逃げ出さないといけなくなりますよ?」

「お、おう。そりゃそうだな」


 過去の惨劇が脳裏をよぎる。俺は良かれと思って行動したのに、なぜか巻き込まれる町々。場合によっては人死にも出るあれやこれやを思い出して頭を抱えた。

 それはともかく、今は依頼に集中する事から始めよう。


「それで、その襲撃者ってのはどんな連中なんだ?」

「君らは武器を修繕してくれればいいだけだから、それは直接関係ないだろう? 我々の名誉に誓って、危険には晒さないから安心してくれ」

「そうは言っても、そいつらが襲い掛かってくる場所に行くんだぜ。知っておいた方が身を守る上でもいいだろ」

「ふむ……」


 ダーズは顎髭を扱いてしばし黙考し、重々しく口を開いた。


「そいつらはまだ若い男女の四人組でな。それぞれ見た目もいい、全員二十歳にならないような連中ばかりだったから、最初は傭兵団に加入希望かと思ってたんだ」


 襲撃っていうから野盗の内部抗争みたいな印象を持っていたが、少年少女達だったか。しかも見た目がいいとな?


「そんな連中だったから、最初はからかい半分でちょっかい出した連中がいてな。それがあっさり返り討ちで斬り伏せられて、俺ぁ顎が落ちたぞ。あの腕はかなりのもんだ。ぜひウチに欲しい」

「いや、倒せよ。いきなり勧誘すんな」

「まぁ、襲撃してきたのは確かだからなぁ。けど、あっちも余計な殺生は避けたいと思っていたのか、斬り伏せた奴も致命傷は避けられていた。交渉の余地はあると思ったんだ」

「だが無かった、と?」

「ああ、四人の内二人が実戦要員だったんだろうな。剣と槍を使う二人組だ。その二人が主立って戦っていたのだが、これがまた、つえーのなんのって。鎧や盾はあっさり斬り破られるし、腕前も半端ない。瞬く間に10人ばかり無力化されて帰っちまったんだ」

「なんでだ? そのまま乗り込めばよかっただろうに」

「ボス――隊長が不在だって知ったんだよ。それから数日おきに訪れては、部下を切り刻んでいきやがるんだ。こっちだってこんな仕事してるだろ? だから砦には治癒術を使える連中も控えている。おかげで死者は今のところ出ていない」

「あくまで狙いは隊長一人って事か。それにしても、傭兵団を丸ごと敵に回して、平然と帰っていくってのはすげぇな」


 目的地の砦は、街から四時間ほど離れた森の中にある。

 四時間と言えばかなり離れているように感じるが、森の中を進むので、距離的にはそれほど離れてはいない。せいぜい2,3kmと言う所だろう。


 山の中腹にある店からも、その姿は見て取る事ができた。

 森の中にある、ボロボロの廃城っぽい建物。それが彼らの言う『砦』らしい。

 篭る傭兵団を正面から打ち破る十代4人。プロの傭兵団を追い詰めるとか、末恐ろしいな。


 それに余計な被害を出さないように配慮しているのも、悪くない。

 これならば傭兵団としても落とし所は探しやすいのではなかろうか?


「リニアの復讐相手と言い、この世界は意外とバケモノレベルのツワモノが多いんだな?」

「少なくともあんなのは、頻繁にそこらをうろついてたりしませんからね! 極小数例です」


 リニアはそう主張するが……今、この世界では、魔王が復活して炎の城を作って籠城してるらしいし、召喚者はうろうろしてるし、腕利き戦士も結構いる。意外と修羅の国なんじゃないかな?

 森の中を突き進み、保存食代わりの小麦粉を焼いて固めただけの――甘みの無いクッキーのような物を齧りながら、4時間。

 ようやく俺達は、砦へと辿り着いた。


「おい、今日は襲撃の日だったのか?」

「どうやらそのようだな」


 そこは分厚い城門が紙のように切り裂かれ、血塗れの男達がマグロのように地に転がる、まさに戦場だったのだ。





 俺たちは真っ先に城内の作業場に案内された。

 案内されたのは城壁のそばの小屋で、そこは壊れた装備品の山ができていた。これを修繕するとなると、金も時間も途方も無く掛かるという事だけは理解できる。


「怪我人の手当てとか、手伝わなくていいのか?」

「それは大丈夫だ。あっちもあまり派手に暴れて大事(おおごと)に……いや、派手に暴れてはいるんだが、死人は出ないように気を配ってくれているからな。治癒術師が手当てすれば、傷跡一つ残らねぇように手加減してくれている」

「それを今日もしてくれるという保証がある訳でもないだろうに」

「まぁ、それはそうなんだけどな……なんだかその辺は信頼できそうな連中なんだよ。いや、後ろで囃し立てている2人はできないんだが」

「後ろ?」


 そう言えば実戦要員は2人と言っていたか。と言う事は実戦要員ではない2人は、その辺りの気配りができない連中と言う事か。

 そうなると実戦要員の二人とやらは、雇われただけの存在かもしれない。復讐の片棒を担がされるとか、面倒な仕事を受けたものだ。


「そこまで気を回せる奴なのに、なぜ数日おきに兵士を斬り捨てていくんだ?」

「そりゃ、簡単ですよ、ご主人。居留守を使われているかもしれないじゃないですか。しょっちゅう部下が怪我させられてたら、隊長としては出てこざるを得ない。そういう状況に持って行こうとしてるんですよ」

「隊長とやらが、部下の怪我を無視し続けたら?」

「その時はクーデターでも起きるんじゃないですか? 部下を見捨てる傭兵団の隊長なんて、裏切られても仕方ないです」


 それもそうか。部下が毎日痛い目に遭ってるのに、それから隠れて震えているようじゃ、ボスとしての品格が問われる。

 もちろんボスが最強である必要はないのだが、そこはどうにか事態を切り拓く手を打ってこそ、リーダーの資質というモノだ。

 ここで部下を見捨てて隠れたり、逃げ出したりすれば、逆に傭兵団が追っ手になりかねない。

 それを計算してこの事態を引き起こしているのだとすれば、この襲撃者というのは意外と嫌らしい性格をしている。


「嫌らしい? そうでもないですよ。戦場では意外とよく使われていた手段です。わたしは戦場に出た事はありませんけど」

「あー、よくスナイパーがやる『釣り』って奴か?」

「釣り? それはよく知りませんけど……まぁ、そんな感じなんじゃないですかね」


 釣りとは、戦場で狙撃兵が敵を死なない程度に怪我をさせ、動けなくなった敵兵を助けようと近付く敵の仲間を射殺していく戦法の事だ。

 そしてそれは敵も理解しているので、すぐには助けに行こうとしない。そうしてぐずぐずしていると、死なない程度に銃弾を撃ち込み続け、目の前でいたぶり続けるのだ。

 敵からも味方からも、最も嫌われる、非常に陰湿な手段である。


「なるほど、同じ事をここでやってる訳だ……」


 部下を斬り伏せられ、いたぶり続ける事でボスを釣り出そうとしている。

 この世界では治癒術があるので、すぐに怪我を治せてしまうのだが、それでもここに『砦』という動けない理由があるのなら、時間を掛けても問題はない。

 この状況では、ボスが釣り出されて顔を出すか、それとも内部からの反乱で命を落とすかの二択しか残されていないのだ。


「もっともそれはボスが帰還していればの話ですけどねー」

「向こうに取っちゃ、いるかどうかもはっきりしないから、念のためやってるって事か」

「でしょうね。ですけど、それをこういう集団を相手にやってのける所は、とんでもない話です。正直肝が据わっているとかいうレベルじゃないですね」

「別に敵を褒めるのは構わんのだが……どうだ、この装備直せそうか?」


 俺達が砦の状況を推察していると、痺れを切らしたのか、案内してくれたダーズが声を掛けてくる。

 武器の山をざっと見渡し、検分すると、致命的な損壊を受けている装備も結構あった。


「せいぜい6……いや、7割ってところだな。直せるのは」

「7割直せるのなら充分だ。拘束期間は一週間。ボスが戻ってくるまで持てばいい」

「一週間後にはボスが戻るのか?」

「正確には5日後だな。少し余裕は持たせてもらう」

「問題ないな。代金の方だが……」


 ここにある装備はおよそ50個ほどだろうか。

 5日あればすべて直せるけど、致命的損壊をしているものまで直してしまっては、怪しまれるだろう。

 7割直せばまぁ、普通なのではなかろうか?

 35個の装備を銀貨3枚で修繕するとして……


「銀貨で250枚。これでどうだ?」

「安いな!? いや、こっちとしてはありがたい限りなんだが……」


 アースワームの時、冒険者が提示した装備の数が5個くらいで30枚だった。

 この数に直すと210枚。少々ボッている額なのだが……相手はそうは思わなかったらしい。


「代金は帰りに渡すって事でいいか? 代わりに食事は砦の物を提供させてもらうから、宿に困る事はないぞ」

「ああ、それで構わない。俺は一日でおよそ10個修繕できるけど、それ以上は無理だからな?」

「むしろ速いだろ、それ。腕がいいってのは本当だったんだな」


 お互いに納得した条件を提示し、ダーズとがっちりと握手する。

 こうして俺達の砦生活は始まったのである。


剣と槍の謎の襲撃者……一体何者なのか?

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