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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第7章 ルアダン編-2
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第68話 新たな依頼

続けて新章を投稿していきます。


 ()()浸水により、メインの坑道が失われて一か月。

 ルアダンの町は新たなポイントを掘り始めて、失われていた貴金属の収益も再び上昇軌道に乗り始めていた。


 その間、俺こと割木明は何をしていたかというと……ずっと山の中にすっ篭って、依頼の装備の補修に励んでいたのである。

 当たり前だ。下手に町に顔を出して、坑道を沈めたのが俺だとバレたら、住人から八つ裂きにされる――いや、実力的にされないけど。


「幸いにして、サービスでやった+1強化がいい宣伝になって、客足は途切れないんだけどな」


 武器を手に取る。強化を施す。ポイッと強化済みの山に投げ込む。


「腕はそこそこだが仕事の速い鍛冶師って有名になっちまったのはまぁ、計算通りか」


 武器を手に取る。強化を施す。ポイッと山に――


「修理に出して、一割とは言え武器の威力が上がって帰ってきて、強化の味を締めたら……クックック、もう抜け出せないぜぇ」


 武器を手に取る。強化を――


「だからってよ……この量はないだろ!?」


 俺はうがーっと両手を振り上げて、抗議の叫びをあげた。

 それもそのはずで、俺の目の前には強化済みの山の3倍近い未強化の山があったのだ。

 これは味を占めた連中の他に、武器の修理を申し込んできた奴の分も含まれる。


 もともと金回りのいい鉱山町だ。いい道具の味を占めた連中が、こぞって強化付与にハマる事は、充分ありえる話である。

 さらに硬い外骨格を持つ昆虫系のモンスターとの連戦で、装備を壊した冒険者も多い。

 鍛冶師不足のこの町で、仕事が早いと噂の立った俺の腕を見極めてやろうという連中まで注文を出し、この始末になった次第である。


「ご主人~、次の山が来ましたよー」

「ヤメテ! 俺の正気度はもう0よ!」


 新しい装備の山を抱えてリニアが階段を下りてきた。

 俺の仕事場は地下に作ってあるからだ。これは俺の仕事振りを誰かに覗かれたら拙いからという配慮からであるが、そのおかげで地下室の空気は悪い。

 換気機構が上手く作れなかったからだ。


「仕方ないですよ。通常の三倍早く仕事を終わらすって有名になっちゃったんですから」

「いっそ家を赤く塗るか、コンチクショウ!」

「なぜ赤く塗るのかよく判らないですけど、『貴様塗りたいのか?』って返すんでしたっけ? でも趣味悪いのでヤメテね?」

「愛はないのか!?」

「性欲ならあります」

「そんな物ドブに捨てちゃいなさい」


 こいつはいまだに『奴隷の誉れは主人の寵愛を受けてこそ』という間違った常識に捕らわれている。

 俺にその気はないと何度も言っているというのに。


「それに良い方面で噂が立つのは悪くないじゃないですか。町に散々貢献しておけば、ワラキアだってバレても逃げずに済むかもしれませんよ?」

「そういうお前だって、変な噂が立ってるぞ。『金山潰しのリニア』さんや」

「え、なんです、その呼び名!? この町に金山なんてありませんよ」

「『金の入ったふくらみ』を叩き潰すから、そう呼ばれているんだと」


 補修が必要とは言え、この家には大量の装備品が運び込まれている。

 しかもそれを修復した代金も、ここに残されている。

 さらには補修するための鉱石素材などもあると(もく)されている。


 ここまで揃えば、この自宅兼商店にイチャモンを付けて代金を踏み倒そうとしたり、盗みに入ろうと考える不逞の輩も出てくる。

 そういった連中を問答無用で薙ぎ払うのがリニアだ。

 特に、その背の低さから撃ち出されるが故に、『金の入ったふくらみ』――つまり股間に直撃するアッパーカットは、恐怖の対象として瞬く間に町中に広まる事となった。


「どうせまた、ご主人が余計な噂を振り撒いたんでしょう? 無自覚に」

「なんで俺がそんな真似をせにゃならんのだ。無自覚に悪評を広めているのは判らんでもないが――ああ、そっちの山は今日の出荷分な」


 補修兼強化済みの装備の山をリニアに指示しておく。本来ならばもっと大量に強化と補修を終える事は出来るのだが、あまり早すぎると怪しまれてしまうので、ある程度セーブしているのだ。

 一日10個、これが俺の修繕能力として広まっている速度だ。

 これを三日程度溜めてから、まとめて町に運び込んでいる。急ぎの者は自分で取りに来るように指示しているが……それでも補修待ちのリストはすでに一週間以上に溜まっている。


「しかしさすがに……そろそろ手を打たんと、問題が出てくるな」

「そうですねー」


 補修待ち一週間分。およそ70個の装備品の山。パーティとして換算するならば、10パーティ分以上の数だ。

 これはルアダンの町のほぼ三分の一近い冒険者の装備品と言う事になる。


 ここにある装備を順次始末をつけ返却する頃には、最初の方で返却した装備が修理に回ってくる。

 坑道のモンスターは駆除したが、町の周辺にもモンスターは多く、しかも盗賊の類も頻繁に確認されている。

 武器防具はいくらあっても足りないし、修理の必要性も途切れる事はない。


 普通の鍛冶屋ならば悲鳴を上げて喜ぶところだが、俺の本質としてはぐうたらなのである。もっとのんびり暮らしたい。

 いや、毎日10分、10個だけ修理していけばいいだけの話なのだが、仕事を溜める事にある種の脅迫観念を持つ、悲しい会社員の(さが)なのである。


 現状をどう打破するべきかリニアと二人頭を悩ませていると、上のカウンターから店員を呼ぶ声が聞こえてきた。


「おい、誰かいないのか? 至急依頼したい仕事があるんだ!」


 野太い濁声に俺の勤労意欲は大きく削がれる。が、これを無視しては仕事にならない。

 というか、この町では愛らしい声など、滅多な事では耳にする事ができない。俺の依頼人は大抵こんな声だ。


「はいはーい、今行きまーす」


 その貴重な愛らしい声の持ち主であるリニアがそう応え、一階へと駆け上がっていった。

 その後ろ姿を見て、俺はつくづく思った……


「この修理済みの装備、俺が持って上がるのか……」






 10個の装備品を風呂敷に包み一階へ上がると、リニアが客の対応をしていた。

 ムサいヒゲ面の革鎧を着たオッサンで、どう見ても堅気には見えない。


「お、山賊か? リニアさん、やっておしまいなさい」

「待て、誰が山賊だよ!?」

「そうですよ、ご主人。見かけはあれですけど、ちゃんとした依頼人さんです」

「『見かけはあれ』ってのも何気に酷いよな、お前ら」


 無駄にヒートアップした男だが、一つ息を吐くと俺に向かって頭を下げてきた。


「あー、話を戻すが、鍛冶師として依頼したい。出張で大量の装備を修繕してほしいんだ」

「はぁ?」


 今まで修理の依頼は山のように来たが、出張依頼というのは初めて受ける。


「とにかく、運べないくらい大量に武器が破壊されてな。しかも現在進行形で破壊され続けている」

「破壊『されて』ってのが穏やかじゃないな。リニア、奥の部屋に案内してお茶を用意してくれ」


 今は地下にある大量の在庫のから逃げ出したいという思いから、男の依頼を聞きたい気分になっていた。

 いや、この仕事を受けても大量の修理が待っているんだが。


 奥の部屋はこういった密談用に作った小部屋で、窓も無いし、防音性も高い。

 ここならば男との話を盗み聞きされる心配はないだろう。

 男は席に着いてリニアの淹れた茶を啜り、改めて自己紹介した。


「まず、話を聞いてくれることに礼を言う。俺の名はダーズ。ここから半日ほど行った先にある砦を拠点にする傭兵団に所属している」

「傭兵団? ここは前線から少し離れているが……」

「砦って言っても小さなもんさ。それに傭兵団も兵士って訳じゃない。むしろ冒険者の方が近いかもな。ここは大金が動く町で、出入りする商人も多い。冒険者も半数以上は鉱夫の方が稼げるので、護衛依頼を受けられるか不透明だ」


 一獲千金を狙う冒険者が集まるこの町で、最も大金に近いのは鉱夫だ。なにせダイヤの原石や、魔術に使う紫水晶がザクザク出て来るのだ。

 護衛依頼なんて言う、命の危険がある上に一定の収入しかない仕事は、この町では実は敬遠されているのが実情である。

 これが他所ならばそうでもないのだが、こういった風潮はこの町独自の物らしかった。


「そこで護衛として戦士を貸し出すために組織されたのが、俺達ダリル傭兵団って訳だ」

「なるほどな。そういう儲け方もあるか」

「ところが、その砦に最近攻撃を仕掛けてくる連中がいてな……」

「攻撃? 傭兵団なんだろ? 自力で追い払えばいいじゃないか」

「それがやたらと腕が立つ連中で……しかも隊長に親を殺されたとかいう言い掛かりで襲い掛かってくるから始末に負えない」

「親を――?」

「言っておくが、そういう心当たりが無い訳じゃない。俺たちは傭兵としてあちこちに派遣されているし、そこでは野盗どもと命のやり取りをしている。そういった恨みを買う可能性も無きにしも非ずだ」

「それは判らんでもないが……まぁ、そういう職の宿命だな」


 肩を竦めて同意した俺に、ダーズは溜息を吐いて項垂れた。


「本来なら隊長が出て話を付ける所なのだが、現在はキフォンに出向中でな。しばらくは帰ってこないんだ。それで……襲ってきた連中が暴れてな。本来ならば返り討ちにしてやりたいところなんだが、そいつらの腕がまた……」

「手に負えない、と?」

「しかも持ってる剣が半端ないんだ。こちらの鎧や盾が紙のように切り裂かれる。これじゃ兵隊の傷を癒しても、装備の方が持たない」

「それで俺に出向してほしいという話になるのか」

「そうだ。頼めるか?」


 この男の言いたい事は、まぁ判る。

 傭兵団なんてやっているならば、恨みを買う事は日常茶飯事だろう。

 だがそれを他者に放り投げる訳には行かない。だからこそ、『助っ人』ではなく、『鍛冶師』を雇いに来たのだ。

 それはなんとなく気分がいい気がした。彼らはあくまで、自分の手でカタを付けようとしている。

 少なくとも、ここで引き篭もってせこせこ修理を続けるよりは、建設的な気がする。


「いいだろう。気分転換にその依頼、受けようじゃないか」


 俺はそう言って、男の依頼を受ける事にしたのである。


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