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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
番外章 キフォン編-2
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第67話 密談

第7章は主人公が出てこないので、番外章に変更しました。

 衝撃の発言を繰り出して、ガロアは自慢げに胸を張って見せた。

 シノブ達は一瞬その意味を理解できず、キョトンとした表情を返す。やがてその意味が把握できるようになると共に、驚愕の声を上げた。


「な、なん……そんな……!?」

「ようやく理解できたか。意外と混乱の耐性が低いな」

「そう言う問題じゃない!」


 叫び、テーブルを叩いて立ち上がるシノブ。カツヒトは頭を抱えて突っ伏している。

 かなり騒々しい様相だが、この部屋は商人などの交渉用に作られているため、防音はしっかりしている。

 この騒ぎが外に漏れる事はないだろう。


「そんな真似してタダで済むと――」

「まぁ聞け。トーラス王国の崩壊、これはある意味自業自得と言える。だがその後の混乱は、俺達生き延びた二国間の問題だ」


 召喚を繰り返し、召喚者を使い捨てたトーラス王国。

 そんな国がアキラと言う超存在を呼び出して、滅ぼされてしまったのは、擁護のしようが無い。

 だがその後の戦乱はファルネア帝国とアロン共和国の問題だ。


「三ヵ国あった時はお互いがお互いを牽制して、仮初の平穏が存在した時期もあった。だが、トーラスが滅び、大陸最大の二国が隣接する事で、その争いを止めるタガが外れてしまったと言える」


 互いの国を亡ぼせば、大陸統一の悲願が叶う。もはや状況は、元トーラス領土の陣取りゲームの域を越えつつあった。

 そのため国境付近の村や街は常に戦乱に怯え、糧食を拠出させられ、苦しい生活をしている。

 このキフォンですら、実は例外ではなかった。


「このままじゃ、大陸中部地区は壊滅してしまう。今、余力があるうちに対策を立てないといけない」

「だけど……たかが一都市が立ち上がったところで、どうにかなる問題じゃないだろう?」

「そこはそれ。この書簡では、アンサラの実戦部隊は前領主レナレスの意向に従い、中部の独立に力を貸す事を約束してくれている。問題は新領主をどう抑えるか、だな」

「実戦部隊……ラッセルの奴、私に内緒で!」

「アンタを巻き込むことを恐れて、半ば無理矢理出奔させた面もあるんだろうよ。そこは責めてやるな」

「だが、それでガロアの庇護を得るように動かしたのでは、本末転倒だろう?」


 頭を抱えていたカツヒトが顔だけを起こし、ガロアに問う。

 こういう内情を知っていると言う事は、ガロアはその独立運動の中核にいる存在のはずなのだ。


「それは俺がお前らを戦力として利用すればだ。この運動が決起すれば、中部地区は再び戦乱になる。今でも大概小競り合いは起きてるがな。そこで主要人物の後ろ盾が有るか無いかで、そこで生きる人間の生存率は変わるだろ」

「お前は私達を戦力にしないと言う事か?」

「それはお前ら次第だ。お前らほどの腕なら、俺としてはぜひ参戦してほしいね」


 彼が無用な腕試しをしていた理由が、これだ。

 この交易都市でひたすら腕試しを行い、有用な人材を発掘し、確保する。そのための(えにし)


「独立運動で、中部地区はおそらく数年は戦乱に巻き込まれる。だが戦乱はそれで終わる。二ヵ国がずるずると戦い続けるよりはよほど早く、戦争が終わるはずなんだ」


 二国間に緩衝地帯として中立地域が存在すれば、お互いに下手な手出しはできなくなる。

 現在、ファルネアの主力は魔王復活の報を受け、砂漠を監視するために動くことができない。

 アロンは首都が攻撃され、議員の半数が死亡。統率的な軍事行動はとれない状況にある。

 決起するなら、今しかないのかもしれない。


「だが大国2つを相手にアンサラとキフォンだけでは……」

「ああ、アンサラの主力は砂漠へ派遣されてしまっているから、実質キフォンだけになるな」

「それでは余計に無茶じゃないか!」

「同胞がアンサラだけとは限らないだろう? それに戦争に勝つために必要なものは何だ?」


 指を立てて問いかけるガロア。そのいかつい表情とそのポーズは、あまりにも似合っていない。


「ん? えーと、兵力と指揮官?」

「勇気と希望だ」

「カツヒトは黙ってろ」


 スパンとカツヒトの後ろ頭を叩いて黙らせるシノブ。ガロアはそんな二人を無視して、答えを述べた。


「俺は、金と食料と情報だとみている。兵士はこのキフォンから冒険者を多数派遣できる。アンサラは穀倉地帯だから食料の供給が期待できる。この2都市で半分の要素は確保できるんだ」

「で、残り半数は?」

「ルアダンの資本。こちらはすでに協力を取り付けている。しばらく後にあそこに駐留している傭兵団の団長とも会う予定だ。後は情報の一手を揃えれば万全と見ているな」


 新興鉱山のルアダンは、その豊富な鉱脈故にファルネア帝国に大きな税を掛けられている。

 今はまだ余裕があるとはいえ、今後十年以上に渡って重税を掛けられるというのは、あの都市の町長にとっても、うれしい事ではなかったのだろう。

 そして最後の難関……情報についても、そう簡単に用意できるものではない。


「情報って言っても、諜報機関はそう簡単に作れる物じゃないぞ」

「ところが、だ。そんなモノを必要としない存在がいるだろう?」

「そんな存在に心当たりは――」


 そこまで口にしたところで、シノブは思いついた。

 誰も見ていないはずの、魔神の似顔絵を提供した存在に。


「まさか、遠見の巫女姫――」

「そう、現ニブラスの領主様だ」


 現在はアロンの一地方に過ぎないニブラスだが、元はトーラス王国の都市だ。

 それゆえに自治権を得て、共和国に無い貴族制を残している。

 あらゆる障害を無視して情報を集める事の出来る彼女ならば、諜報機関なんて必要なくなる。


「現在交渉中でな。ここの協力を取り付けれれば、すぐにでも決起できる」

「見込みはあるのか?」

「それは仲間になってからじゃないと話せないなぁ」


 ニブラスの領主、イリシア。

 彼女はニブラスの領民の事を第一に考える領主として、民衆の評判自体は悪くないと聞いていた。少々以上に箱入りで、世間知らずではあるが。

 両国の戦闘地域にあるニブラスも、現在の小康状態がいつまで持つか判らない以上、国防の手段は考えておきたいはずだ。

 その選択肢にキフォン、アンサラの協力と言う項目が加入すれば、彼女も頭を悩ませるだろう。


「勝ち目は――あるな。彼女が参加すれば、だが」


 キフォンの有力な冒険者達、それを養えるアンサラの食料、賃金を払えるルアダン、そして戦況を見抜くイリシアの目。

 兵力的には大きく劣るだろうが、これらが手を組めば充分以上に対抗できるはずだ。


「で、だ。俺としてはお前さんたちにも参加して欲しいと思っている。だが戦友のレナレスから、それは強要するなと手紙を貰っちまった。ここで断ってもシノブの後ろ盾にはなるから、心配はするな」

「私は――」


 突きつけられた選択肢に、シノブは頭を悩ませた。

 派遣された新領主グラッデンは正直アンサラの為にはならない。第二の故郷であるアンサラの為を思えば、この条件を呑まない手はない。

 だが彼女は、アキラを追うという目的もある。ここで足止めを食らう訳にも行かないのだ。


「いや、むしろ……ここで追わないと余計酷い事になるな」


 あの根底からトラブルメーカーな男の事だ。中部地区で戦乱が起きれば、必ず巻き込まれるに違いない。

 その時、ストッパーになる人物がいないと、街の1つや2つは確実に巻き添えになるだろう。


「私はアキラ――ワラキアを追う。本来それが目的だったし」

「俺もアキラと合流しないとな。俺は奴の『相棒』らしいから」

「なに! 待てカツヒト、その立場は私が――いや、もしやこれが俗にいう掛け算!?」

「どっちに思考を飛ばしているんだ!?」


 腐った泥沼に溺れかけたシノブの意識をカツヒトが強引に引き戻す。

 ガロアは2人の拒否の答えを聞いて、予想していたかのように肩を竦めて見せた。


「ま、そんな答えだろうとは思っていたけどな。どうせ元はこの世界の住人の問題だ。召喚者のシノブを巻き込む筋じゃない」

「いや、その……」


 きっかけになったアロンの首都攻撃とかは、明確にアキラのせいである。

 更に彼らは知らないが、ファルネアが軍を動かせなくなったのも、アキラの行動の結果だったりする。

 関わっていないどころか、思いっきり原因を作っていたのだ。


「済まない。だが私にはやる事があるんだ」

「ああ、判ってる。そんな訳だから、特にアンサラとキフォンにはしばらく近付かない方が良いかもな」

「了解した。と、言いたいところだが、それはアキラ次第かな?」

「ああ、魔神ワラキアか。そう言えばあいつ、クジャタの町のそばで、イリシアお嬢様を襲撃したとか……」

「なんだとぅ!?」


 襲撃と聞いて、シノブはいきり立った。

 自分には手を出さなかったくせに、通りすがりの貴族のお嬢様には手を出した、という風に聞こえたのだ。

 実際に出したのは蹴りである。


「あの、どスケベ男め! 私という者がありながら……」

「いや、別にアキラはお前と付き合っていなかっただろう? 知人としか聞いていなかったぞ」

「命の恩人だし、助けられて興味が沸かない方がおかしいだろう!」


 バンバンとテーブルを叩き、カツヒトの襟を締め上げるシノブ。

 その姿を見てガロアは溜息を吐いた。


「あの兄ちゃんも、とんだジャジャ馬に魅入られたモンだな」


 そうして、宿屋での密談は終了したのである。





 個室から出ると、リディアが心配そうに待っていてくれた。その頭をシノブが撫でて、安心させてやる。

 そうしていると、一つの疑問が彼女の脳裏によぎった。


「なぁ、ガロア。事を起こすなら……街の人たちはどうなる?」


 心配事は、そこだ。

 彼らが独立運動を起こせば、この街は戦場になるだろう。

 そうなれば、リディア達一般市民は多大な迷惑を被る事になる。場合によっては命を落としかねないほどの迷惑だ。


「なに、そこは考えてある。街には災害用のシェルターを拵えている最中でな。もうすぐ完成なんだぞ」

「シェルター? 街の人全員を収納できるほどのか?」

「おぅよ!」

「えらく手際がいいな……さては前から考えていたのか?」

「いや、それだけじゃないな。おそらくは前から工事していたんだろう? 俺達が騒ぎを起こしたのをきっかけに、大々的に手を加え始めただけで」


 シノブの言葉をカツヒトが引き継ぐ。

 キフォンは大きな街だ。その人数を収納できるシェルターとなると、かなり長期間の工事が必要になる。それがもうすぐ完成と言う事は、すでに着工していた可能性が高い。

 カツヒトの言葉を聞き、ガロアはニヤリと相好を崩した。その笑みは見る物を竦ませるほどの威圧感がある。


「兄ちゃん、聞いちゃいけない事も世の中にはあるんだぞ」

「……判った、聞かない」


 この街の機密に関わる話だ、深入りするなという警告なのだろう。


「そうだ、リディア。私は明日にでも出発する事になった。短い間だったけど、世話になったな」

「え、もう?」

「うん、探し人の手掛かりが見つかったんだ……とても大事な人」


 シノブにとって、アキラはアンサラの町を救ってくれた、命を救ってくれた恩人である。

 そして自分が義父以外で初めて興味を持った人物だ。

 その足取りが掴めたのだ。できれば今日にでも出発したいくらいの焦燥感が、彼女にはあった。


「また、来てくれる?」

「もちろん。アイツを捕まえたら必ず寄らせてもらう」


 リディアを抱き寄せ、その背中を軽く叩いて約束を交わす。

 こうしてシノブのキフォン来訪は、ほんの2日で終了したのであった。


番外編はこれで一旦おしまいになります。

いつもならトップランナーの方の連載に切り替えるのですが、さすがにヤマが全くない状態でこちらを投げるのもどうかと思うので、もう一章こちらを続けたいと思います。


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