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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第1章 アンサラ編
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第6話 一年後の日常

 ラスキア大陸には三つの大国が存在した。

 南方に位置するトーラス王国、西方に位置するファルネア帝国、東方に位置するアロン共和国。

 その他小国が複数存在してはいたが、概ねこの三ヶ国によって大陸の趨勢は決められていたと言っていい。

 だがこの十年、その趨勢はトーラス王国に大きく傾いていた。


 異界人の召喚である、


 召喚された異世界人は強大な力を持ち、戦場でその勇名を大きく馳せる事となった。

 だが、異世界人の召喚には大きな犠牲を伴う。

 これを連年実行するトーラスは、周辺国からは狂気の沙汰と思われていた。


 国土をじりじりと食い千切られるファルネアとアロン。

 追い詰められた両国が、事態を打開しようと、ついに召喚の儀式を行おうとした矢先……


 突如としてトーラス王国は消滅する。


 もちろん国土の全てが消え失せた訳ではない。

 王都を含む、周囲数十キロ。

 これらが突然発生した爆発と、それに伴う地盤沈下に飲み込まれ、数十万の命と共に王都は消滅した。


『トーラスは間違って魔神を召喚した』


 まことしやかにそう噂されたこの崩壊事件を機に、一つの手配書がトーラス全領土に発布されることになった。


 ワラキア=キラー。


 そう名付けられた、この手配書の男こそ魔神の姿である。

 世間ではそう推測されたが、事実は今なお闇の中だった。


 崩壊事件により、国の中枢を失ったトーラスは事実上壊滅。

 これにより大陸南方に、大きな政治的空白地帯が発生した事になる。


 これを見て、ファルネア帝国とアロン共和国は逆撃に出た。

 トーラスの領地は二大国に蹂躙され、食い荒らされ、完全にその痕跡を消す。

 魔神の正体は、手配書を発布したトーラス旧貴族が消滅してしまったが故に、不明と化してしまった。



 だがこれで戦乱が終わった訳ではない。



 二大国はついにその領土を接し、そこで元トーラスの領土の奪い合いが発生したのだ。

 お互い拮抗した戦力ゆえに、この奪い合いは泥沼の消耗戦と化した。


 各地で局地戦が頻発し、敗残兵や逃亡兵が野盗に身を(やつ)し、前線地域での治安は乱れに乱れる事になる。


 大陸に戦乱をもたらしたこの事件は、後に『大消失(グレートロスト)』と呼ばれ、一年を経た今もなお、恐れられている。

 その原因となった魔神の姿は、今をもって確認されていない。



◇◆◇◆◇



「やあ、サリーさん。今日も芋買ってくれる? 今日のジャガイモ、出来がいいよ」

「いらっしゃいアキラ。あなたのところの野菜はいつも出来がいいでしょ!」


 元トーラス王国辺境地域、アンサラの街。

 それが今の俺、割木明(われきあきら)の住む場所だ。

 もっとも街の中に住んでいる訳じゃない。

 街の外壁の外側、小さな山の中に隠れ済んで、畑を耕して暮らしている。


 一年前、俺は自分の力を正確に理解せず、全力で地面をブッ叩いた結果、なんだかドエライ事が起こってしまった。


 俺がそれを知ったのは、後になってからだ。

 あの後俺はクレーターから這い出し、初めて使った能力による疲労と空腹から気絶しているところを救難部隊に保護された。


 崩壊の被害者数は数万に及び、その事実を知った俺は数ヶ月寝込むことになった。

 この鬱状態が功を奏したのか、俺は『事件に巻き込まれた被害者』として、被災地から運び出される事になる。


 助けられなかった者達はもちろん、助かるはずだった者まで巻き込んでの大爆発。

 更に無実の者まで巻き込んで、大量虐殺。


 俺的に言えば、不可抗力と主張したいところだったが、さすがに被害が多すぎた。

 結局、自己嫌悪の沼にずぶずぶと嵌り込んで、人並みの生活に戻るまで数ヶ月を掛ける事になってしまった。


『賞金首、ワラキア=キラー。生死を問わず』


 俺の首に掛けられた金額は正に天文学的数字で、そこそこ大きな地方の年間予算に匹敵する額だったとか。

 俺が復活する切っ掛けになったのは、そのニュースを聞いたからだ。

 勝手に呼び出し、反撃されれば賞金を掛けて殺しに掛かる。

 この世界の人間の……いや、権力者のあまりの身勝手さに、逆に死んでやるものかと言う反骨心が湧いてきたのだ。


 死んだ連中には悪いが、俺はこの世界で、何が何でも生き延びてやる。

 あいつ等トーラス王国の滅亡を、この目で見て、指をさして嘲笑(あざわら)ってやる。


 その一心で立ち直り、生き延びる決意をして、今は辺境で畑を耕していると言う訳である。


 およそ二ヶ月前、トーラスが完全に制圧され、目的を果たすことが出来た訳だが、だからどうしたというのが現状である。

 ぶっちゃけ、『滅んだ? ざまぁ!』という感慨しか湧いてこない。

 なので細々と正体を隠しながら、辺境の農民をやっている。


 異世界転移と言うと、まず真っ先に冒険者で生計を立てる事を思い浮かべるが、あいにく俺は世界的賞金首だ。

 手配書の大元の貴族はすでに死に絶え、手配は無効になっているのだが、それでもこの顔をおおっぴらに晒すのは、面倒を呼び寄せてしまう。


 今の俺は、夏だと言うのに鼻先までマフラーを巻いた、ちょっと怪しいナイスガイである。

 それでも取引をきちんとしてくれる八百屋のサリーには、感謝してもしきれない。


 ちなみにサリーは、年の頃なら二十歳前の肉感的なお嬢さんだ。

 ただしこの世界、魔力やら何やらが成長に影響を及ぼすとかで、見た目と言うのはほぼ当てにならない。

 噂では十歳くらいに見える100歳越えの魔女と言うのも実在するらしいのだ。


「ロリババア魔女ねぇ。本当にいるなら、一度会って見たいものだけどな」


 俺は大八車に積んだジャガイモの籠を降ろしながら、そんな事をつぶやいてみせる。

 それを聞き付けたサリーは、あり得ないと言う表情を見せた。


「ダメよ? そういう人達ってどこか普通と違うんだから。頭から食べられちゃっても知らないわよ」

「性的に食べられるのだったら大歓迎だけどね」

「あら、じゃあ今晩どう?」

「遠慮しときます」


 俺より少し年下だが、サリーは実に奔放だった。

 転移前だったら喜んでお誘いに乗っていただろうが、今の俺は『この世界の住人』と言うのを、心の底から信じる事ができない。

 けっして童貞だから腰が引けている訳では無いのだ。けっして。


「それにしても、よく週に一回のペースで野菜を収穫できるわね。それもいろいろ」

「山の中は土地が余ってるからね。畑をいくつも作ってるのさ。それに土の栄養状態もいい」


 本当は違う。

 俺は畑に【練成】で付与を行い、畑+30という謎の存在を作り上げただけである。

 おかげで作物が一週間程度で収穫できるようになってしまったのだ。

 しかも滋養溢れる、最高品質野菜である。


「でも山って危険でしょ? 猛獣とかいるし、野盗だって最近多いわ」

「柵を作って獣は入れないようにしているよ。それに山の農家なんて野盗も襲わないさ」


 これも嘘だ。

 獣なんてしょっちゅう襲ってくるが、全て返り討ちにして夕食にしている。

 野盗も数回現れたが、これも返り討ちにして金品を奪い取ってやった。

 死体は……今頃、芋になってるかな?


 まぁ、骨まで砕いて畑に撒いたのだ。うん、肥料代が浮いたな。必要ないけど。


 俺の生活は今、こんな感じで流れているのだった。

次は19時に投稿します。

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