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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第6章 ルアダン編
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第57話 関節技、敗れる

 封鎖された坑道の中を、リニアと二人、進む。

 坑道は作業員のために、そこかしこにランタンが吊るされ、明かりを灯せるようになっているが、今はそのランタンに火は入っていない。

 これは常に火を入れておくと油の消費が大きくなり、無駄になってしまうからだ。

 この坑道が封鎖された時、作業員が消して回ったのだろう。


「それじゃご主人。【光明(ライト)】の魔法――は、わたしが使いますね?」

「なんでだ? 俺が使ってもいいんだぞ」

「やめてください、死んでしまいます」

「なんでだ!?」


 確かに俺は魔力の調整があまり上手くない。だがそれとて、日々上達している。

 【光明】の魔法も目が潰れるかのような閃光が、一晩中続く程度で収まったのだ。あの夜は眠れなかったな……しかも翌朝、リニアが宿の親父に『ご主人が一晩中寝かせてくれなくて』なんて言った物だから、俺の疑惑が加速してしまった。


 だが、それも仕方のない事なのかもしれない。【光明】の魔法は込めた魔力を明度、範囲、時間の3つの分野に振り分けて消費する。

 最小でも常人の百倍程度ある俺では、一般的な使用は難しいかもしれない。

 ここはリニアの判断に任せた方がいいだろう。俺はこういった仕事には不慣れなのだから。


「では魔法の明かりはわたしが担当しますので、ご主人はこのたいまつを持っていてください」

「明かり一つあれば充分だろ?」

「効果時間を測り間違えて戦闘中に消えたりしたら大惨事になりますから。それに魔法無効化の空間なんてものも存在します。明かりは魔法と物理的なものの2種類用意するのが定石なんです」

「用心深いな。でも、そういうのは確かに納得はできる」


 命は1つしかないのだ。

 ちょっとした油断や失敗、罠なんかで、それはあっという間に失ってしまう。

 念には念を入れる、それは冒険者にとって基本の心構えなのだろう。


 俺は言われた通り、たいまつを取り出して、それに火を着ける。

 クロスボウは【アイテムボックス】から取り出したら片手で打てるので、操作には問題ない。

 どうせ一発撃ったら装填の手間を省略するために使い捨てるのだ。


 準備を終え、坑道内をしばらく進むと、遠くの方で激しい金属音が聞こえてきた。

 どうやら先行した冒険者が戦闘を行っている様子だった。


「おい、もう始まってるんじゃないか?」

「いえ、アースワームはこんな浅い所に出るモンスターじゃありません。多分、アースワームに釣られて出てきた別のモンスターでしょう」

「そうなのか?」

「アースワームは本来地下数十m以上潜らないと出てこないです。なので基本的には地上の人間に害はないのですけど、こういう坑道や地下室、迷宮などで地下深くまで潜っていった場合は積極的に襲い掛かってくるんです」

「人間の方が縄張りを荒らしちまったって事か」

「ぶっちゃけると、そう言う事ですね。別に彼らとしてはこちらに悪意はなく、ただ目の前に珍しい、美味しいご飯が飛び込んだだけなのです」

「それはそれで、充分に害じゃねーか?」


 坑道は蜘蛛の巣の様に四方に伸びて無差別に広がっている。

 それはもはや迷宮と言っていいレベルであり、200もの冒険者を飲み込んで、なお余りある広さがある。

 実際ここまで別の冒険者とすれ違ったことはない。この先で戦っている連中が、坑道内で出会う初の冒険者なのだ。


「くそ、そっち行ったぞ!」

「うわ、来るな!?」

「逃げたぞ、2匹!」

「おい、そっちは誰か来てるんじゃねぇか?」

「マジか? おーい、そっち行ったぞ! 気を付けろ!?」


 どうやら取り逃がした敵が、こちらに流れてしまったらしい。

 大声で注意喚起の警告を飛ばしてくる。その声と同時にガシャガシャと忙しない足音が響く。


「来たようですね。2匹のようですので、1匹はお願いしますね」


 結構広いとはいえ空間の限定された坑道では、リニアの真価は発揮できない。

 本来ならば前衛(フォワード)が敵の足止めをして、その隙に攻撃を挟むのがベストなのだ。

 だが今回、俺は弓を装備しているので、後ろに下がっている。

 リニアはその回避力を活かして、代わりに前衛に立たねばならないのだ。

 そうなると大きな魔法が使えないため、担当できるのはせいぜい一匹となる。


「任せろ、俺のサブミッションが火を噴くぜ!」

「サブミッション?」

「こっちにはそういう言葉はないのか? つまり、関節技だ」

「関節……まぁ、頑張ってください」


 リニアは虚ろな視線をこちらに送ってくる。

 その真意を察するより先に、敵がこちらの明かりの範囲に入ってきた。


 わしわしと地面を蹴りつける足。

 2mを超える巨体。

 うねうねとうねる身体。


 そこには人間よりも巨大な、ゲジゲジの姿があった。


「足、多っ!? 関節、多っ!?」

「これはジャイアントガレーですね」


 ゲジゲジとは正式にはゲジとだけ呼ばれる昆虫の一種だ。

 15対30本もの足を持ち、16節の体を持つ。ちなみに肉食である。

 英語ではガレーワームとも呼ばれている。ガレー船と言う名の元になった虫でもあるのだ。


 それが地面を滑るようにこちらに駆け込んできた。

 リニアは即座に背後を【土壁(アースウォール)】で覆い、逃げ道を塞ぐ。


「おい、これじゃ俺が逃げられないだろ!?」

「敵を逃がさないためです。駆除が目的なんですよ、わたし達」


 確かにこんなのが徘徊しているようでは採掘なんてできやしない。

 封鎖を解くためには、こいつも始末しないといけないだろう。だがこれは――


「正直言って気色わりぃ!?」


 【アイテムボックス】からクロスボウを取り出し、撃っては捨てる。

 念のため、10機用意してあるが、あっという間に撃ち尽くしてしまった。

 矢はすべて、ゲジの頭部に直撃し太矢が突き刺さっているが、弱った素振りは見せない。と言うかダメージを認識していないのか?


 すさまじい勢いでこちらに迫ったゲジはそのまま跳躍し、上から迫ってくる。

 俺は襲い来る牙を躱し、足を一本捕まえ、捻りあげようとする。が……ぷちっと妙な手応えを残し、足は千切れてしまった。


「関節も取れねー!」

「あ、ジャイアントガレーの足はちぎれますから注意してください」

「注意が遅い!?」


 リニアは【創水(クリエイトウォーター)】の魔法でゲジを押し返し、濡れた体をそのまま凍結させて動きを封じていた。

 昆虫だけに、気温を下げられると一気に動きが鈍るようだ。

 動きの速いゲジを倒すには、とにもかくにも素早い動きを止めねばならない。

 この坑道の中は足の多いゲジにとって、壁も天井も地面と同じだ。全方位を多角的に襲われたら、とてもじゃないが対処しきれない。


 当然のことながら、特殊な攻撃方法を持たないゲジでは俺にダメージを与える事は出来ない。

 だが、それでも気持ち悪い外見の虫に飛び掛かられて、いい気分になろうはずもないのだ。


「お、俺も――」

「ご主人の魔法は遠慮してください!?」


 考えてみれば、この状況で使える魔法という物を、俺は持っていない。

 被害無く使えるのなら【創水】だろうが、最小魔力では効果が薄く、最大魔力では通路が水没してしまう。その中間と言うのは実は訓練していないので、力加減に不安がある。

 【天火(ティンダー)】に至っては、この山脈ごと焼き尽くしてしまいかねない。

 【微風(ブリーズ)】だとどうなるだろうか……いや、ぶっつけ本番はよした方がいいだろう。今までの経験から、ロクなことにならない気がする。


「う、打つ手が無い――!?」


 もちろん真の意味で無い訳ではない。

 関節技は無理でも、絞め技に入る事は可能である。引き千切ってもいいだろう。

 だが、気門が体節ごとにあるから、絞め殺すのは不可能かもしれない。

 それに相手は虫である。それで即死するとは限らない。


 俺の躊躇を見抜き、嵩にかかって襲い来るジャイアントガレー。

 その雨のような足を掻い潜り、牙を躱し、どうにか事無きを得る。

 その合間にも、俺は脳内を高速で回転させ、新たな打開策を考案する。


「ろ、ロープ!」


 【アイテムボックス】からロープを取り出し、ゲジの体に絡めていく。

 ゲジも足を切り離したり、体をくねらせたりしてこれを躱そうとするが、山のようにある足の数がこれを邪魔していた。

 ロープは足に絡み、絡みついた足を切り離し、切り離された足はロープの先でフックのような役割をもって、更に他の足に絡む。

 大量の足は見る見るその数を減らし、体を支える最小限の数にまで減らされてしまう。

 こうなれば、自慢の回避力は使えない。


「リニア!」


 すでに片方のゲジを氷結粉砕して始末し、寛いでいたリニアが俺の声に応じて魔法を放つ。暇になってたのなら、ちょっとはこっちを手伝えよ!

 俺の合図でリニアが【土壁】を起動し、ゲジの前後を壁で封じ、通路に閉じ込めた。

 後は密閉空間内に、俺が【創水】するだけである。


 陸上生物であるゲジは水の中で生きて行く事は出来ない。

 人間のように息を止める知恵もないため、瞬く間に溺死してしまうだろう。


 こうして俺たちの坑道攻略は、前途多難な幕開けをしたのである。


予約失敗してしまい申した……次は予定通り、土曜日に投稿しますw

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