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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第6章 ルアダン編
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第55話 マイハウス

 ゴロツキから解放された俺たちは、ギルドで紹介された宿に泊まり、旅の疲れを取ることにした。

 この後の俺たちの予定としては、明日、町の外……少なくとも郊外に自宅を構え、安住の地を設営する事である。

 これは町中だと厄介ごとに巻き込まれる可能性が増えるというのもあるので、適度に住人から距離を置くためだ。


 そのためには町中だと都合の悪い職に就いておくのがいい。

 大量の水を必要とし、薪を消費し、騒々しい鍛冶師ならば、その言い訳には充分になる。

 最初はアンサラのように農夫でもやろうかと思ったのだが、この町で野菜の需要は限りなく低そうなので、鍛冶師にしたのである。


「という訳で明日は山の中に家を作るぞ」

「なに簡単に言ってやがりますか。家作るとか大仕事になりますよ」

「お前なら外壁は楽に作れるだろ?」

「しょせん土でできた壁ですよ? 心材も入っていないから、居住用にするには不安があります」

「俺が強化すれば何の問題もないな」


 確かにリニアの作った壁は頑強ではあるが、しょせんは土なので、地震などに弱く、脆い。

 だが俺がそれを鋼鉄並に強化すれば、外壁としての役目は充分に果たせるはずなのだ。

 ぶっちゃけ土砂崩れに巻き込まれてもその形状を保てるくらい、硬くしてしまえばよい。


「水とかはどうするんです?」

「山の向こうから引いてくればいいだろ? それにあのクレーターに溜まった水は地下水脈から流れ込んだものだから、この辺にも水脈はあるはずだ」

「そう言われれば、そんな気も……あれ、じゃあ何の問題もないんです?」

「食料調達がめんどくさいだけかもな。山の中に作るから」

「それなら町中に作ればいいのに」

「お前は実際付与はできないし、俺にも秘密はある。住人とはある程度距離がある方がいいんだよ」


 近所付き合いも夫婦仲も適度な距離感が大切だ。

 そうネットで聞いたので、間違いはないだろう。


「ほら、そういう訳だから今日は早く休め」

「はぁい」


 いい返事を返しながら、俺のベッドに潜りこんでくるリニア。

 俺はそれを問答無用で蹴り出した。

 貴様はあれか? 呪われた家に住み着いてる少年か何かか?


「出てけ。隣に部屋取ってやっただろ」

「部屋なんていりません、情けをください。具体的にいうと、精――」

「うっさい、俺にロリ嗜好はない」

「えー、奴隷の立場としては、主人の寵愛を奪ってこそ勝者足りえるんですよー?」

「そもそも奪うな! そういうのは与えられる物だろ!?」


 こいつは奴隷と主人の関係を決定的に誤解している。

 いや、この世界ではそれが正常なのかもしれないが、元の世界の奴隷とはそういうモノではなかったはずだ。多分。


「任せてください、大きいのにも対応するテクニックを開発――ふぎゅ!?」

「しつこい!」


 デコピンで部屋の外まで跳ね飛ばしてから扉に鍵を掛ける。

 なぜかこいつは鍵を掛けても開けてくるのだが、無いよりはマシだ。

 そもそもここに泊まっている客は俺達だけじゃないし、他の宿泊客が善良な客だとも限らない。

 用心はしておいていいのだ。





 幸いと言っていいのか、翌朝まではぐっすり眠ることができた。

 ギルドとしても、そういう不用心な宿は紹介していないと言う事だろうか?

 とにかく、一泊した後はロビーに降りて、主人に予定を告げておく。


「今日は山の方で、宿泊できる小屋でも作ってくるから、部屋は引いてくれていいよ」

「は? 小屋を作る……ですか? そう簡単にはいかないですよ?」

「こっちは魔術師だからな。そういうのは色々と裏技があるのさ」


 【土壁】で囲いを作るだけなんだけどな。

 まぁ、ゴーレムを使って一夜にして屋敷を作った魔導士の逸話とかもあるそうなので、特に問題はないだろう。


「ただ、上手くいくか分からないから、空いている部屋を確保してくれると助かるんだが……」

「それは……保証できかねます。お客さんが来れば、案内しない訳にはいかないですし」

「ですよねー。まぁ、その時は馬小屋の隅にでも泊めらせてもらえるかな?」

「まぁ、その程度でしたら構いませんよ」


 快い返事を貰った所で、宿を出る事にする。これはチップを弾んでおいた事が役に立っているのだろう。

 そのまま宿を出て、山道に向かう。

 坑道への道とは少し外れた方向なので、鉱夫たちの姿は少ない。


 この町の鉱脈は他所にあった鉱脈がクレーター騒ぎの影響で一か所に集められた事でできた物だ。

 しかもその際の膨大な圧力や熱量で、更なる鉱脈が生成され、その埋蔵量はすさまじい事になっている。

 まさに掘れば出る状況に限りなく近いので、一獲千金を狙う、鉱夫ではない冒険者の姿なども頻繁に見受けられた。


 彼らにとって、他の冒険者や鉱夫はライバルである。

 それ故に独特のギスギスした疑心暗鬼も満ち溢れているのが、この町の特徴とも言える。

 つまり、全然爽やかな雰囲気が漂っていないのだ。朝なのに。


「これはたまらんな」

「まぁ、町に住む気はないんでしょ? 関係ないです」

「そりゃそうだけどなぁ……」


 八百屋のサリーや鍛冶師のウォーケンとのんびり暮らしていた時期が懐かしいぜ。

 アンサラは本当にいい街だった。領主が変わって今は大変らしいけど。


「ま、住めば都って言葉もあるし、何とかやってみるかな。どうせ元手はタダだし」

「ご主人って、金銭とか権力が意味ない領域に住んでいるのに、妙に俗っぽいっすね」

「だまりゃ」


 相も変わらず余計なことを口走るリニアの後頭部を、べしっと平手で叩いておく。

 すると空中で二回転して着地するという器用な技を決めて見せた。


「いたた――ご主人、ちょっとは手加減してください!? わたしじゃなかったら死んでますよ、これ!」

「充分手加減した。と言うか、お前じゃなかったらこんなに簡単に手は出さん」


 俺にだってその程度の常識はあるのだ。

 このあたりの山は基本的に禿山が多い。

 それもそのはずで、2年ほど前にクレーターが迫ってきて地殻に大きく影響を与えた訳だから、その時に吹き飛ばされた草木がまだ再生していないである。

 元々は緑豊かな牧歌的光景が広がっていたそうだから、この先10年単位の時間を掛けてゆっくりと再生していくのだろう。


 山道を三十分程度登ったところに、都合のよさそうな壁面を見つける事に成功した。

 壁の向こう側は山が削り取られたような形状の崖になっていて、クレーターの湖が眼下に見る事ができる。

 水の補給と排水の便を考えれば、これ以上好都合な立地はないだろう。


「よし、リニア。この壁に沿って小屋を建てるぞ」

「崩れませんかね……これ?」

「こうしておけば問題ない!」


 俺は壁面に触れて強化を施す。

 強化の効果は伝達し、壁面+5と言う謎の存在になった。

 1.6倍の強度がある壁だ。ちょっとやそっとの地震では崩れないだろう。


「あとはこの崖沿いに箱状の【土壁(アースウォール)】を建ててくれ」

「それだと出入口がありませんよ?」

「そこは俺が何とかする」


 箱状の土壁にの一部に干渉し、出入口を開けていく。

 俺の干渉能力はリニアの魔力を遥かに上回るので、この作業は難なくこなすことができた。

 同様の手順で窓を開けたい場所も作っていく。


 さらに内部を4つの区画に分け、部屋を作っていく。

 1つは工具の売り場。2つは俺とリニアの私室。残り一つは客間っぽく作っておいた。

 小屋の裏手にトイレと風呂場を作り、配水管を崖の向こう側に伸ばしておく。これで生活排水は湖にポイだ。

 シーサーペントすら生息していた湖である。多少の生活排水位あっさり浄化してくれるだろう。


 続いて俺とリニアの部屋の床に穴を開け、地下室とその通路も作っておく。

 俺に鍛冶の技能なんてないので、鍛冶仕事は【錬成】頼りになる。

 この作業は人に見られる訳にはいかないので、秘密の作業スペースはどうしても必要になるのだ。


 ベッドやカウンターなどの生活用品は後で買い出しに行くとして、今日の所はこれで完成としていいだろう。

 地下を抉りとった土や石は、後で鉄に【錬成】してつるはしなどの工具に作り替えておけば、リサイクルになる。


「ご主人、とりあえず適当に工具類を並べておかないと、カモフラージュになりません」

「あ、そうか」


 一応鍛冶師兼付与師として店を出すのだ。品が無ければ始まらない。

 こうして俺たちは、自宅を手に入れたのだった。


今更ですが、街より少し小さめの都市を町と表記してます。

意図的な物ですので、これは誤字じゃないです。

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