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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第6章 ルアダン編
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第54話 穏便な解決法

 山間部にあるルアダンの町は、活気はあるが秩序がなさそうな町だった。

 漂う雰囲気が西部劇のそれと酷似しているといえば、理解いただけるだろうか?

 道の合間を回転草(タンブルウィード)が転がっていくのが、実にシュールである。


「こ、ここか……?」

「ここです。なにビビってるんですか、ご主人」

「ビビッてねーし! へーきだし!」

「いざと言う時は名前出せば住民の方がビビるんですから、しっかりしてくださいよ」

「住人逃げ出すだろ、それ!」


 いつものやり取りをしてから、冒険者ギルドを探す。

 ギルドは宿の斡旋などもやってくれるので、町を訪れたら真っ先に尋ねないといけない場所の一つである。


「そういや、門番とかいなかったな、この町」

「必要ありませんからね。これだけ人の出入りが激しいと、入り口で渋滞してしまいますし」

「税とかの管理はどうしてんだよ?」

「人ではなく土地に掛けてるみたいです。住んでいる場所に徴収官が訪れ、住人がいればその場で徴収とか。後は売買の際の税金でもうけは充分出ているようですよ」


 宝石の鉱脈が豊富なこの町では、そんなザルな税制でも充分やっていけるのだろう。

 現代日本人から見れば抜け穴は多そうだが……まぁ、そこはそれぞれだろう。

 埃っぽい街並みを抜け、盾と剣を模したギルドの看板が見つかる。

 この世界は識字率は意外に高いが、それでも日本並という訳ではない。そこで各職種ごとにマークのような物を決め、それを看板に出して読めない人にも対応しているのである。


「それじゃ手はず通りに」

「了解です、ご主人」


 街についてからの事は前もって打ち合わせしてあるので、その準備をしておく。

 リニアには、【アイテムボックス】からつるはし数本とシャベルを取り出して背負わせておく。

 これが今後の生活の糧となるのだ。


 ボロっちぃスイングドアを押し開け、ギルドに踏み込むと、中にいた男たちが一斉にこちらを振り向いてくる。

 全員が大柄でマッチョな体つきなので、かなり怖い。掘られそう。

 他所のギルドと違い、つるはしやシャベルを武器代わりに持っている者が多いのは、この町の特徴だろうか。

 俺とリニアはカウンターまで進み出て、そこにいたイカツイ男に話しかける。

 受付嬢くらい、女性にして欲しいものだ。


「あー、済みませんけど今日この町に着いたばかりなんで、いい宿を教えてくれませんか?」


 俺の代わりにリニアがオッサンに話しかける。

 これは俺があまり人前に顔を出したくない性質なので、仕方なく、だ。

 俺はと言うと、後ろで旅装用のマントを羽織り、フードを深くかぶって顔を隠そうとしていた。


 人が多い場所だと自然と顔を隠してしまう。

 こればかりは過去の習い性なので、目溢(めこぼ)ししてほしいところである。


「新人か? 発掘の仕事なら手が足りているぞ?」

「いえ、そうじゃないです。わたし達は鍛冶師と付与師ですよ」

「鍛冶師はともかく、付与師だぁ?」


 こちらの世界にきて驚いたのは、武器にあれほど付与を重ねるというのに、生活道具には全く付与を掛けないと言う事だった。

 特につるはしやシャベルなどは使い捨てにする場合が多く、付与を掛けると言う事はほとんどない。

 だが、俺が試した結果、+5程度の付与でも1.6倍くらいは楽に掘り進めるようになる。

 この鉱山の町で、これを生業にしない手はないだろう。


「一応御冒険もしますけどね。これはサンプルとして差し上げますので、鉱夫の方に使用感を試してもらってくれませんか?」

「まぁ、そこいらの隅に置いとく分には構わねぇが……無駄な事するなぁ」

「それは使ってみてのお楽しみです。良い道具は一度使うと癖になりますよ?」


 これは事実である。

 滑らかな書き味の万年筆や、よく切れるキッチンナイフなど、一度使うとそのメーカーの物に固執するユーザーは数多い。

 これは道具にこだわる日本人ならではの感覚かも知れないが、毎日のように坑道に潜る鉱夫ならば、理解してもらえるはずだ。


 ギルドに渡したサンプルはすべて+5まで強化してある。

 これで攻撃力は1.6倍。つまり、土を掘る労力は三分の二程度まで軽減されることになる。

 ただしそれだと2倍を超えるとおかしな計算になるから、別の場所でパワーロスが発生して、もう少し効率は悪くなっているのだろうが、それでも格段に掘りやすくなるはずだ。


 この道具を使ったら癖になる。それこそが俺の狙いである。

 日夜坑道を掘り進めるこの町では、毎日凄まじい量のつるはしやシャベルが消費されているはずだ。

 宝石を求める商人や、交付を目指す山師が大量に押しかけている以上、鍛冶師の不足は深刻なはず。そこへ一級品の道具を提供する俺が現れれば、普通に儲けは出せるはず。


 ちなみにリニアは付与師、俺が鍛冶師と言う役回りを演じる事にしている。

 どちらも俺一人で可能なのだが、それでは女のリニアの身の安全が少々心許ない。

 この町では鍛冶師の不足より女の不足の方が心配なのだ。


 町にとって有益な人物ともなれば、迂闊に手を出す馬鹿者も減る事だろう。

 もっともこのチビッ子を押し倒せる剛の者がいるとは思えないが、念のためだ。


「まぁいい。借りてった奴にはお前らの名を告げておいてやるよ。えっと――」

「リニアです。わたしは付与師。そっちはアキラ。鍛冶師ですね」

「おう、了解した。下手なもの作ったらこの町じゃ物理的に叩き出させるから注意しろよ」

「それこそ望むところですね。職人の技を見せてやるです」


 だがそこで俺の肩に手を置く者が現れた。


「よう兄ちゃん、鍛冶師なんだって?」


 もたれかかる様にして話しかける男は、俺よりも数段体格がよく……酒の匂いがした。


「なぁ、鍛冶師なら結構金持ってるだろ? ほら、素材とかよ。結構かかるじゃん?」

「悪いが、持ち合わせはないな」

「そういうなよ。ここで仕事しようってんなら、場所代くらい払ってもいいだろ」

「それはギルドに支払うさ」


 いつもなら適当に酒でもおごって追い払うのだが、今回ばかりはそうはいかない。

 なにせこの町には腰を据えるつもりでいるのだ。

 カモと思われ、連日纏わりつかれるのは勘弁願いたい。


 それに、こういう町で一人がいい思いをすれば、芋蔓式に何人も同じ目を見ようとする者が出てくるのだ。

 ここはガツンと追い払った方が、後々のためになるだろう。


「なぁ、こっちが優しくしている内に、支払った方が身のためだぜ?」


 男はそう言って俺の肩に置いた手に力を籠める。

 威嚇しているつもりなのだろうが、俺には何のダメージにもならない。

 俺はカウンターのオッサンに目をやると――


「揉め事は外でやってくれ」


 というありがたいお言葉をいただいた。

 俺は溜息を吐いて、男に外を指差して返す。この段階で暴力沙汰は覚悟した。


「いいだろう、外に出ろ。その代わり、そこのチビッ子に恥を掻かされる事を覚悟しとけ」

「ええっ、わたしっすか!?」

「お前のご主人様のピンチだぞ。ほら、助けろ」

「全然必要ないじゃないですか!」


 俺とリニアの心温まる主従の会話が男の琴線に触れたのか、男は顔を真っ赤にして怒り出した。


「てめぇ、いい加減に――いだだだ」

「いいから手を離せって。ほら、外に行くぞ」


 無造作に手を掴んで、そのまま外に引っ張り出す。

 ドラマや映画だと捩じりあげて取り押さえるのだろうが、俺にはそんな技は必要ない。掴むだけで攻撃になるのだ。某漫画でも握力は武器だと言っていた。


「てめぇ、ジョンを離せ!」

「やる気か、こらぁ!」


 口々にそんな声を上げて立ち上がったのは、ニヤニヤこちらを眺めていた鉱夫もどきの冒険者たち。

 その数十人。


「ちょ、多いな、お前のお友達!?」

「だから今の内だって言っただろ!」


 まぁ、この程度ならリニア一人でも充分だ。

 こいつが強い上に魔術師だと知られれば、付与師の肩書にも説得力が出るだろう。





 表に出て俺たちを取り囲む鉱夫十人。

 向こうはこちらを叩きのめして、身包み剥ぐ気満々だ。町中の住人まで野盗もどきとは恐れ入ったよ。 


「それじゃ、こういうシチュエーションならコイントスは欠かせないよな?」

「ああ? 何言ってんだ、てめぇは」

「ご主人、あの……本当にわたし一人?」

「おう、がんばれ」


 リニアに爽やかな笑顔を向けてから、俺は懐から銅貨を一枚取り出す。


「お前らも力尽くで事を進めたいんだろ? だったらこれが一番手っ取り早い。コインが落ちたら戦闘開始だ」

「おもしろい、やってやろうじゃねえか!」

「オラ、さっさとやれよ、ゴルァ!」


 つるはしを構え、威勢よく返してきた男たち。

 了承が取れた所で、俺は一つ頷き、コインを弾く。


 直後、ズドン、と腹に響く音が周囲に響き渡った。

 重低音は周囲の建物をビリビリと揺らし、グラスを始めとしたガラス製品が砕け散る。


 跳ね上げたコインは高く、高く――雲を貫き、天へと消えていった。


「ご主人、落ちてきませんね」

「……ああ」


 空には淀んだ曇り空が円形に吹き飛ばされ、太陽が顔を覗かせていた。

 ちょっとばかり、力を入れすぎたのかもしれない。


「大気の摩擦熱で蒸発したか、それとも重力を振り切ってしまったか……?」

「これ、コインが落ちてこないので、戦いは無しって事になりませんかね?」

「それはあのオッサンたちにお聞きなさい」


 ポカンと口を開けて空を眺めていた男どもに、俺は拳を向ける。

 その指先にはコインがセットされていた。

 つまり、次はお前らに向かってコインを撃つぞ、と言う意思表示である。


「お、落ちてこねぇなら、しか、仕方ないよ、な……?」

「そうだな。それに無駄な事して怪我したくないし」

「お、俺、まだ仕事が残ってたんだ。じゃあこの辺で――」

「おい、卑怯だぞ! 俺も連れてけ!?」


 口々に言い訳しながら、その場を逃げ出す男たち。実に他愛もない。

 こうして荒くれ者どもは尻尾を巻いて逃げだしたのである。


「フッ、計算通り……」

「絶対嘘だ!」


 後に残されたのは、口うるさいリニアだけだった。


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