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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第6章 ルアダン編
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第52話 不本意な噂


 砂漠の試射からしばらくして、俺は周囲の視線に気が付いた。

 まるで汚物を見るような目。それはワラキアとバレた訳でもないのに、嫌悪を剥き出しにしていた。


 理由は簡単だった。

 俺の最近の生活は、ほぼ宿に引き篭りっきりである。

 その生活費はどこから出ているかと言うと、主にリニアの冒険者活動からだった。

 つまり世間の人はこう見ていたのだ。『幼女奴隷を必死に働かせ、自らは自堕落に生きるクズ野郎』、と。


 これではいけない。生活費はもちろん折半しており、リニアの報酬に手を付ける事はしていないのだが、収入の無い俺が何を言おうと、説得力がない。

 もちろん銅貨を金貨に【錬成】している事なんて、口にできようはずもない。

 この状況は早急にどうにかする必要があるだろう。





 その日、俺は一つの決心を固め、リニアを呼び出した。

 隣に部屋を取っていたチミッ子は即座に呼び出しに応じ、俺の部屋に飛び込んでくる。


「なんです、ご主人。部屋に呼び出すなんて……ハッ、もしかしてついにエロい事をしてくれるんで――」

「ダマレ」


 肉食系小人族(リリパット)のこめかみに拳をあててグリグリと抉る。俗にいうウメボシ食らわせて黙らせておく。

 こいつをフリーダムにしておくと、会話が全く進まないのだ。


「俺はついに決意を固めた」

「ほうほう?」

「この町を出よう」

「なんで今更?」

「お前のせいだよ!?」


 このロリッ娘が首に隷属の首輪をつけて俺の部屋に喜々として出入りし、時折奇声を上げるのだ。

 それを傍から聞いていた者がどういう反応するのか、想像に難くない。

 つまり状況はさらに悪化したのである。

 この宿の俺の評価は、『幼女奴隷のヒモ兼幼女とイチャエロする変態ご主人さま』にまで成り果てているのだ。


 正直これはよろしくない。

 いや、魔神とバレるよりは遥かにマシなんだが、それでもご近所さんの風評と言うのは気になるモノである。マジ勘弁していただきたい。

 ここは人の流れも多く、俺の宿泊地も宿屋なので大人しくしておけばいずれ悪い噂は消えるかもしれないが……いや、宿の主人は別か。


 結局のところ、一から出直すのが最も効率がいい。

 そして今度こそ、リニアの奇行が外に漏れても悪評の響かない場所に安住するのだ。


 つまり、人気のない一軒家が望ましい。


「という訳で心機一転、出直すことにしたいのだ。適正な場所はあるか?」

「適正、ですか……? まぁ人気がないなら田舎にすっ込むのが一番ですけど?」

「別にそれでも構わんのだが、多少利便性という物もあった方がいい」


 この世界の田舎というのは、本気で文明が存在しない。

 人間が生きていく上で必要な、水や油、食料の調達すら難しいのだ。

 もちろん俺なら水から油を生成することも、そこらの雑草を栄養ある食用野菜に変化させることも可能ではあるが、それはそれで非常に面倒くさい。

 火を熾すのも、水を飲むのもまずは錬成してから、なんていう状況はご免被りたい。


「そうですね、この近くで最近ご主人の悪名が広がっていない場所と言えば……ルアダンの街なんてどうでしょう?」

「ルアダン?」

「大崩壊でできたクレーターの縁にある町です。そういう意味ではニブラスに似てますね」


 ニブラスは湖になったクレーターを利用して、水産と観光で再建していた。

 ルアダンは逆にクレーターの反動で盛り上がった外縁部を利用して、鉱山町として再出発した町だ。

 この盛り上がった外縁部は、内側の鉱物資源が圧縮されたのか、多彩な宝石の鉱脈が発見されたのだとか。


 主な産業は金剛石――つまりダイヤモンドだ。

 この他にも紫水晶や紅玉なども見つかっており、今ではゴールドラッシュさながらの勢いで発展している町だそうだ。


「その分、無作為に冒険者やら山師が流入していて、治安は良いとは言えませんが……」

「むしろそういう町の方が、俺には都合がいい、と言う事か」

「ですね。現役犯罪者とか元犯罪者なんかも結構入っているはずですから、正体を知られたくない冒険者なんて、珍しくもないでしょう」


 木を隠すなら森の中とは昔からよく言った言葉だ。

 今の俺は、言わば超大物犯罪者。

 その俺が隠れ住むなら、これは犯罪者の中に隠れるのが、最も正解に近いだろう。

 そして現状その環境に最も近い場所が、ルアダンの町という訳だ。


「ふむ、悪くない……な?」

「でしょ?」

「なら明日にでもその町に向けて出発する事にしよう」


 一か月以上逗留したクジャタの町だが、カツヒトの噂は全く出てこなかった。

 これ以上この町にとどまっても無意味だろう。おそらく奴は別方向に難を逃れたとみるべきだ。

 場合によってはリニアと同じ思考をして、ルアダンに向かった可能性だってある。


「ですがご主人。できれば出発前に少しやっておきたい事もあるのです」

「は? 何を?」

「冒険者登録です」


 冒険者に登録すると、その身元の保証をギルドがしてくれる。

 街への出入りや、依頼の斡旋、生活のサポートなどなど、様々な恩恵を受ける事ができる。

 しかし、それは同時に俺の身元を確認される事にも繋がる。


「俺の正体がバレたらやばいだろ。却下だ却下」

「ところがそうでもないのですよ。まぁ聞いてください」


 犯罪者や賞金首が身元を隠して冒険者に登録するという事例は、結構存在するらしい。

 もちろんその場合、識別の水晶をごまかすための工夫は必要らしいが。


 俺の場合名前も顔も知れ渡っているが、名前は本名のワレキアキラと言う名前を使えばいいし、顔も変えている。

 通常の違法登録よりも遥かに簡単に事が済むはずなのだ。

 名前も顔も今は『多少違うか?』という程度の違和感しかないが、これを大幅に変更すれば、怪しまれる事もないとリニアは言う。


「特にギルドカードには顔は記載されません。大幅に顔を変えるとか、いっそ性別まで変化させて登録してしまえば、『ワラキアである』という事実から大きく目を逸らせる事ができるでしょう」

「でも性別を変えた所で、ギルドカードに残るデータに問題が出るだろう?」


 例えば、その変化を見抜かれ男と記載された場合。

 登録しに来た人物が明らかに女なのに、男と出れば違和感を覚えられるだろう。

 見抜けず、女と記載された場合も同様だ。

 その場合は元に戻ってもカードは女と記載されたままなので、これも問題が残る。


「ところがそうでもないのですよ。むしろそこが狙い目です」


 女っぽい格好の新人冒険者。その性別はカードにあるとおり男だとすれば、注目はそっちに向くはず。

 それはワラキアに似た名前という問題点から大きく目を逸らせる事が可能になる。

 つまりリニアは俺に男の娘に変装して、登録してこいと言っているのだ。


「それに男の娘なら、わたしも押し倒すことが可能――おおっと」

「あぁん?」

「いや、なんでもないです。はい」


 まぁ、このバカ娘の目論見はともかく、そういう手段があるのなら取っておいても良いかもしれない。


「それに、ギルドの連絡網を利用できるというのは大きな利点です」

「連絡網?」

「はい。冒険者にとって、情報はまさに命綱です。どこの領主がだれに変わったとか、どこでどんなモンスターが出現したとか、どこで何が不足しているとか、どこでワラキアが出現したとか……」

「最後のは少し異論を挿みたい所ではあるが、言いたいことは判る」

「この連絡網にはもちろん、人探しの物もあるんですよ」

「ほう?」

「誰それへ、どこで待つっていう感じのものですが、多少の金銭でギルド全体へ連絡が回るので、待ち合わせなどには便利に使われています」


 電話などの利器がないこの世界では、非常に有用なサービスかも知れない。

 もちろん、この世界にも通話用の魔導機は存在するのだが、個人がおいそれと手を出せるものではない。

 冒険者ギルドは、その経営形態から必須のアイテムになっているようだ。


「これを利用して、カツヒトさんに『ルアダンで待ってる』と伝言を残しておけばいいのですよ」

「だがその発信元はワラキアになってしまうんじゃないか?」

「アキラって本名だけにしておけばいいんです。そっちなら似てませんから」

「ああ、なるほど」


 カツヒトは俺の本名を知っているから、それでも問題はない。

 この町を離れるに当たり、そういう機能を利用するために登録しておくのは悪くない。


 こうして俺は、冒険者ギルドへ登録へ向かう事になったのだ。


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