表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
序章 魔神降臨
5/178

第5話 魔神降臨


 与えられたスキルをどう使うのか判らない。

 だが、命がけの状況で必死に念じた結果、かすかな手応えを感じ取ることができた。

 自分に意識を集め、苦痛に乱されそうになる中、最善を模索する。


 まず、この『溶けていく状況』をどうにかしないといけない。

 どういう原理で溶けているのか判らないが、外側から溶けて行くのだから、外部からの干渉をカットする用に皮膚を作り変えればどうにかなるんじゃないか?


 そう考えた途端、どうすれば『それ』が出来るのかが脳裏に浮かぶ。


 幸い、俺を拘束していたロープも光によって分解されていた。

 中空に浮かぶ俺は自由に動く事ができる。

 手掛かりも何も無いので移動は出来ないが、身体は動かせる。


 自分の胸に手を当て、【練成】を発動させた。

 すると今の自分の状況が、【識別】で見るよりも詳細に把握することができた。

 【練成】するには、元のデータを知る事が必要と言う理由だろうか?


 まず、溶けていった『自分』を掻き集め、再構築する。

 そして、再び溶けださないように、外部刺激に対して『無効化』を付与していった。


 そう、これが俺の【練成】の能力。

 彼等の言っていた鍛冶屋が行っている【練成】など、この能力の一端に過ぎない。


 物質の構成そのものを【練成】し、強化し、場合によっては根こそぎ作り変える。

 それこそがこの能力の真骨頂だった。


 続けて失った内臓や眼球の再生も行う。

 もはや光に溶けた俺の一部がどこまでなのか判別付かないので、手当たり次第に光を取り込み、『俺』へと変化させていく。


 この一件は毒を飲んだ事によって起こった。

 ならば毒……いや、状態異常に掛からないように強化せねばならない。

 今後もこういう事が無いように、だ。


 それだけじゃ――足りない。

 ここから出た後、あいつを……あいつ等を一人残さずブッ殺してやらねば気がすまない。


 そのためには力がいる。

 誰にも取り押さえられない力。

 どんな障害も打ち破る力。


 ――敵に辿り着く力を!


 全身の筋力を強化できるだけ『強化』する。

 直接殴れない相手も殴れるように、『伝達』の効果すら与えておく。

 何度も何度も『強化』を繰り返し――気が付くと、床に足が付いていた。


 周囲に満ちていた光は、まったく存在しない。


「すべて……取り込んだのか……」


 俺の前に居た、十人以上の子供達。それ以前から溜め込まれていたであろう魔力。それら全てを、この身の内に。


「バ、バカな……ここには20人、いや、それまでの召喚者を溶かした分を合わせると100人以上の魔力が貯蔵されていたんだぞ! それがたった一人に吸い上げられるだと!?」


 炉の側面はまるでガラス張りのようになっていて、壁の向こうに驚愕に歪む男の姿が見えた。


「ありえん! そんな真似をしたら――耐えられるはずがない! 肉体が四散して跡形も残らないはず」

「そういや、俺の身体って428人分の力が濃縮されてたんだったな」


 俺がオッサン天使達の語っていた言葉を、男に告げる。

 それを聞いた男は、さらに顔を歪め、泣きそうな表情になった。


「貴様か……今回生贄が大量に消耗したのは、貴様が原因だったのか!」

「そのようだな」


 ぺたり、と一歩進み出る。

 その行動に反応して、男が三歩、後ずさった。


「よう、約束だぞ――ブッ殺してやる」


 自分でもこんな表情が出来たのかというくらい、凶悪に笑って見せた。

 今の俺は自分を【練成】した事で、強化に強化を重ねたこの体がどこまでの力を発揮できるのか、まったく把握できない。

 だが、いちいちあの男の傍まで歩いていく必要がない事は――判る。


 あの男をブッ殺し、あの男に従う連中をも、殺す。

 そのために必要な力は、間違いなく俺の中にある。


 拳を硬く握り締め、めきりという軋みがその場に響いた。

 ほんの微かな骨と筋の軋む音。ほんの微かなその音が、異様なほどに耳をつく。

 漏れだした濃密な殺意がその場に満ち……神官服の男が、俺を投げ込んだクソ野郎が、その他大勢の下種共がその場に腰を落とす。


 その場には、生き延びた子供達は一人もいない。

 俺が最後の贄だったのだ。

 最後に回された理由はただ一つ。水を少量しか口に含まず、真っ先に目を覚ましたから。

 その結果、神官服の男と会話し、自慢話を聞かされて――男を喜ばせていたから。


 ただの時間稼ぎ。

 子供達の目が覚めれば、助けがくれば、そんな甘い考えの、ただの悪足掻(わるあが)き。

 それが俺を生き延びさせ、その代わりに子供達が死んでいった。


 ひたすらに満ちる純粋な怒り。

 男達に本能が存在するならば、気付いたのだろう。


 ――もはや、逃げられない、と。


 怒りに任せて、全力で拳を床に叩きつける。

 その拳速は音の早さを軽々と凌駕し、そこに込められた破壊の意思は大地を、大気すら伝って、『伝達』して行く。


 あらゆる物を破壊する意思は、床を伝わり、大地を伝わり、大気を伝わり――周囲100mの全てを破壊していった。


 人を、建物を、土地を、原子の単位で破砕し、押し潰し、融合させる。

 それは周辺の物質、全てを利用した核融合反応だった。




 その日、ラスキア大陸に位置する三大強国の一つ、トーラス王国は謎の消滅を遂げた。

 王都周辺には数十kmに及ぶクレーターが出現し、何十万もの人々がその中に飲み込まれ、命を落としてしまったのだ。


 事件の真相は今をもって闇の中だ。

 だがまことしやかに流れる噂には、こうある。


 トーラスは、禁断の魔神を呼び出して、制御に失敗したのだ、と。


今日の投稿はここまでです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ