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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第5章 南方魔王編
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第49話 新しい魔法

 砂漠の淵で水芸を披露してから一ヶ月。

 俺はクジャタの町で、こそこそと日々を過ごしていた。

 時折リニアが冒険者ギルドで依頼を受け、生活費を稼いでくる以外は基本引きこもりの生活である。


 なぜこんな暮らしをしているかというと、これはもう砂漠での事件のせいだとしか言いようがない。

 砂漠の外縁部が水浸しになるというのは、意外と話題性があったらしく、結構な速さで噂が広がることになったのだ。

 さらに放水の流れ弾が近隣の町の外壁を崩したりもしていたので、俺は念のため、ほとぼりを冷ましていたのである。

 場所が悪かったらしく、魔王復活なんてバカな噂も広がっていたりするくらいだ。


 アレから一ヶ月が経ち、いい加減行動を開始しようとしたところで、リニアが俺に話しかけてきた。


「ご主人、実はお願いがあるのですよ」

「何だ、藪から棒に?」

「新しい魔法、ほしーなぁ」

「自分で買え」

「どけちー!」


 とはいえ、新しい魔法というのは、中々に魅力的な提案だった。

 俺はあれから魔力の放出量を調整する訓練しかしていないので、使える魔法はいまだに【創水】クリエイト・ウォーターだけである。

 リニアにしても、水魔法を自在に使いこなす魔力を得たので、別の属性魔法を覚えたくなる気持ちも、判る。

 別に戦力が欲しい訳ではないが、覚えて便利な魔法は手に入れておきたい気持ちがあるのだ。


「ふむ……だが、悪くない提案だな」

「でしょ、でしょ!」


 我が意を得たりと拳を振り回すリニア。見た目は子供っぽいが……やめろ、その拳は人を殺せる拳だ。

 資金にしても、俺は余り贅沢をする性質ではないし、いざという時はその場で石ころを金に変える事だってできる。

 余りやりすぎると無用な注目を浴びてしまうのだが、ここは必要経費として割り切るのも手だろう。


「俺は魔法がどこで売っているのか判らんし、お前が案内してくれるか?」

「お、デートですか? デートですね! ついにわたしの魅力にコロリときましたか!」

「俺は家族サービスの父親の気分だ」

「ご主人がツレない……」


 無駄にテンション上げるリニアをあしらい、外出の準備を整える。

 金貨が必要になるだろうし、前もって五十枚ほどを生成しておいた。

 これでも足りない可能性は充分にあるとのことだ。その場合は宝石でも代わりに出すとしよう。そのために炭をダイヤモンドに生成して【アイテムボックス】に仕舞っておく。

 こちらは百粒ほど用意しておいた。日本円に直すと、きっと億は超える価値はあるだろうな……


 マントを羽織り、フードをかぶって顔を隠す。これはもう、習い性になっているといってもいい。

 待ちくたびれた表情でベッドに座り、足をぷらぷらさせていたリニアに準備が整ったことを告げる。


「よし、準備完了だ。行くぞ」

「わーい!」


 ぴょんと飛び降り俺の手を取って宿の外へ駆け出していく。お前は日曜日にデパートに連れて行ってもらう子供か?

 まぁ、久しぶりの買い物を堪能するとしよう。





 連れてこられたのは、冒険者ギルドに隣接する魔法具店だった。

 ここには基礎級の魔法から上位の魔法まで多彩な品が安定して売られているのだとか。


「いらっしゃい」


 カウンターで俺たちを出迎えたのは、干物の一歩手前という風情の老婆だった。

 せめて若い娘さんだったら購買意欲も湧こうというものなのに。


「おばちゃん、地属性の魔法ある? レベル1から」


 リニアは慣れた口調で注文を出し、老婆は無言でリストを彼女に提示した。

 そこには魔法の名前と効果だけが記された一覧が記載されている。


「なんだ? 魔法陣は載ってないのか?」

「覚えりゃ使えるシロモノをメニューに載せれるかね?」

「それもそうか」


 魔法名と魔法陣さえ覚えてしまえば、あとは魔力とイメージのゴリ押しで使えてしまうのだ、この世界は。

 だからこそ、魔法陣の取り扱いは慎重に行われる事になる。

 リニアが俺に【創水】クリエイト・ウォーターを教えたのだって、破格の出来事だったのである。


 リストを眺めること三十分。結局リニアは土属性の基礎魔法、【落穴】(ピット)【土壁】(アース・ウォール)を購入した。


「あんたは買わないのかい?」

「俺は余り適性がなくてね。この間ようやく【創水】クリエイト・ウォーターを覚えたところなんだ」

「基礎も基礎だね。そうなると……こんなところか」


 老婆が提示した魔法は3種。

 風魔法の【微風】(ブリーズ)、火魔法の【天火】(ティンダー)、光魔法の【光明】(ライト)だった。


「なぜこの3種なんだ? 土の基礎とかないの?」

「土は有用性が高い分、一段難易度が高くてね。闇は単純に覚えるのが難しいだけ。イメージしにくいからさ」

「ふぅん……」


 老婆からこまごまと説明を聞き、選定に入る。


 【微風】(ブリーズ)は、その名の通りそよ風を起こすだけの呪文だ。

 ダメージを与えるような魔法じゃない。火種を大きくするのに使えるとか、夏の暑い日に少しだけ役立つとか、その程度の魔法。

 カツヒトのように動きを制限するほどの威力の魔法ではないらしい。


 【天火】(ティンダー)はこれまた名前の通り、物に点火する魔法。

 火がつくのはせいぜい紙か布程度で、薪に直接火をつけるのは難しい。

 薪に脂を染み込ませれば、可能という程度の火力だそうだ。


 【光明】(ライト)も、名前の通りの魔法で、物や空中にぼんやりとした光を灯すだけの魔法である。

 目に優しい程度の魔法なので、視界を奪う役には立たないそうだ。


 資金に余裕もあることだし、俺はこの三つの魔法をすべて購入しておくことにした。

 老婆に別室に案内され、そこでそれらの魔法の魔法陣を見せられる。

 この購入記録は帳簿に付けられているので、魔法陣を忘れたらもう一度訪れれば見せてもらえるらしい。

 ただし期限は一年以内。それまでに完全に記憶しないといけないのだ。


 俺もリニアも、知力の値は高いので物の数分で覚えきる。

 宿に戻って試しに【光明】(ライト)を使おうとしたところで、リニアに止められた。


「ご主人、前回の教訓を忘れたですか? きっとドエライ光量の【光明】(ライト)が出現しますよ!」

「ははは、まさか……」


 店主が説明した魔法の効果は、あくまで『一般的な魔力』での話だ。

 俺の魔力だと効果が上乗せされて、どんな不測の事態を巻き起こすか……確かに判らない。

 ここはリニアの言う通り、使うのは自重して砂漠かどこかで試し打ちしておく必要がある。


「それはそうと、ご主人」

「なんだよ?」

「自分のスキル、確認しましたか?」

「ん?」


 唐突な申し出に、俺は自分に【識別】を掛けてみる。

 するとスキル欄に【水魔法】Lv1の文字が増えていた。


「お、水魔法が使えるようになったからか? 一ヶ月前はなかったのに」

「魔力の制御ができるようになって、完全に思い通りに魔法が使えるようになったからじゃないですかね? 」


 魔法を偶然、1度だけ使った程度ではスキルは増えない。

 俺は【創水】クリエイト・ウォーターを使うイメージトレーニングを日々積み重ねた結果、完全に制御できるようになったという訳だろう。

 一度使って、後はイメージトレーニングでスキルを習得できるのなら、楽なものだ。


「魔法を習得するのも相性とかあるんですけど、ご主人は水魔法と相性良かったんですね、多分。それでも反則的な早さですけど」

「そうかな? まぁ、スキルが増えるのはうれしいけどな。スキルを覚えるのってそんなに時間かかるのか?」

「新規にスキルを覚えるのなら、大体三年は修行しないといけませんよ。一ヶ月のイメトレだけで覚えるとか、破格もいい所」

「へぇ……」


 おそらくは強化された知力によって、習熟に補正がかかったのだろう。

 とすると、俺は他の魔法のスキルも、かなり高速で覚える事ができるのかもしれない。これは今後のやる事リストに入れておく事にしよう。


 とにかく、今は新魔法の試し撃ちだ。

 こうして俺たちは新たな力を手にし、翌日には再び砂漠へ向って、試射する事になったのである。


ティンダーの魔法は、主人公は間違えて覚えています。

なので、主人公視点で名前を出すときは【天火】、その他の人が名前を出すときは【点火】と書いています。

ややこしいですが、これは意図的にやってますので、ご理解ください。

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