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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第4章 クジャタ編
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第41話 魔法vs格闘

 俺を放り出したまま事態は推移し、リニアと男の戦いは開始された。

 まぁいいけどな。俺はその間に盗賊達の身包みを剥いでおくことにしよう。


 この世界の魔法には段階的なステップを踏む必要がある。

 一つは中空に魔法文字と陣を描き、魔力を誘導し準備を整える工程。

 さらに目標を視認し、どこに起動しどこへ発現させるかの照準作業。

 続いて魔法名を口にする事で発動する最終段階。


 故に魔法を使うためには、最低限片手の自由と発声が必要になってくる。

 カツヒトやシノブが前衛でありながら盾を持たなかった理由は、ここにある。

 前線で戦いながら魔法を使いこなす彼らは、本来の魔法使いとしての戦い方ではない。


 そしてそれは、リニアについても同じことが言えた。

 距離を取り、安全圏から大威力を打ち込める魔法使いでありながら、回避を主軸に接近戦をこなすリニアは異色といえる戦い方をしている。

 最も今まではその大威力が出せなかった訳だが。


 素早く中空に魔法文字をつむぎだすリニアに、それを見て鼻先で笑い飛ばす男。


「俺を前に魔法を唱える暇なんてねぇよ!」

「【アイスボル――ひゃっ!?」


 魔法が完成するより早く距離をつめて拳を振り下ろす男。

 そしてそれを間一髪で躱すリニア。


 今度は男の方が驚きの声を上げる。

 格闘がLv9に達している彼の拳を躱せるものなど、ましてや魔法使いでそれを成す者がいるなど思いもよらなかったのだ。


 転がるように距離を取り、再び文字を描く。

 男は驚愕が次の動きを妨げていた。一瞬の隙にリニアが魔法を完成させる。


「【アイスボルト】!」

「ん、にゃろぉ!?」


 リニアの魔法により、氷の矢が数え切れないほど精製され、凄まじい速度で男に迫る。

 男はこれを、身を捻って躱し、逸らし、受ける。

 直撃をまったく受けなかったのは、さすが戦闘系高レベルというところか。


「あ、こいついい剣持ってるな」

「そこー! わたしが戦ってるのになにやってるですかー!」

「いいだろ、やること無いんだし」


 俺にツッコミを入れながらもリニアの指先は止まらない。

 目まぐるしく文字を刻みながら、次の魔法を紡ぎだす。短く小さな文で男の機先を制し、足元に小さな穴をあけて動きを封じる。

 男はバランスを崩しながらも体勢を瞬時に立て直して肉薄し、一撃を見舞う。

 これを紙一重で躱し、再び距離を取るリニア。


 格闘Lv9と回避Lv9のせめぎ合いは、まるでダンスのように、互いの位置を入れ替え、すれ違い、交錯を繰り返した。

 その華麗とも言える激戦に、俺は戦利品の回収すら忘れて、しばし見惚れる


 互いに何度も不発を繰り返し、先に痺れを切らせたのはリニアの方だった。

 男は躱される都度、好敵手の登場にテンションを上げていたので、当然の結果だったかもしれない。


「あー、もうしつこい! これで勝負!」


 リニアが一声叫んで、さらに大きく間合いを取る。

 彼女の敏捷度は俺に匹敵するほどに高いので、その動きを封じることは男にはできなかった。

 だが大魔法を座して受ける理由も、男には存在しない。


 即座に後を追い、間合いを詰めにかかる男。

 その時間を利用して、今までに無い規模の魔法を構築するリニア。


 崖のぎりぎりまで飛びのいて稼いだ時間。

 男の接近は間に合わない。そう確信してなお油断せず、文字を刻み陣を展開するリニア。


 だがここで、男は指先から何かを弾き飛ばす行動に出た。

 石だったのか貨幣だったのかは判らない。

 確実に言える事は、それがリニアの意識の外の攻撃だったという事だ。


 彼女の生命力ならば直撃を受けてもダメージは無かったかもしれない。それでも目の前に飛んできた『何か』を反射的に避けてしまう。

 その回避運動によって雨散霧消する魔法文字。

 そこへ駆け込んでくる男。

 背後は崖があるため、再び距離を取ることはできない。


「もらった!」


 完全に裏をかいたと、歓喜の混じった声を上げる男。

 指弾という牽制手段をここまで秘しておいた作戦勝ち。後は間合いさえ詰めてしまえば、後ろに逃げる事のできない魔法使いなど、どうとでもできる。

 そう思っているのだろう。


 勝利を確信した表情は、次の瞬間一転する。


 逃げ場を失ったリニアが、逆に前に踏み出していったからだ。

 魔法の間合いの内側、拳の間合いのさらに内。


 小さな体格の彼女に密着され、男は逆に攻撃手段を限定されてしまう。

 だが男とて歴戦の拳士、この距離でも打つ手が無い訳ではない。

 即座に腰を引き戻し、ゼロ距離でも有効な打撃技――寸勁を放つべく拳を当てる。


 しかし、ここではリニアの方が速かった。

 持ち前の敏捷度と、前に出た勢い。それらに任せた技も技術も何も無い稚拙なパンチ。


 小人族の打つそんなパンチなど、本来の彼ならば、何の脅威にもなりえない。


 だが彼女は、俺の強化を受けていた。

 全身に+50という強化付与を施され、元の子供並みの筋力は、今では1000を越える豪腕になっていたのだ。


 その速さと筋力は小さな拳の一点に威力を収束し、まるで銃弾のように男の腰を穿った。


「ああああぁぁぁぁぁぁああああああ!」

「なっ、がふぁっ!?」


 自分の頭の少し上、足と背中、肩、そして拳を一直線に突き上げたその一撃は、男の筋肉の鎧を突き破るに充分な威力を持っていた。

 股間の少し上を強打され、腰骨が砕ける音が周囲に響く。

 この位置を殴ったのは身長の都合もあるのだろうが、正直見てるだけで痛い。


 腰という重心の基点を砕かれ男は前のめりに崩れ落ちる。

 膝を着き、顎が落ち――そこへリニアの第二段のアッパーが撃ち上げられた。


 まるで漫画のように吹っ飛ぶ男。

 軽く10mほどの空中遊泳を終えて地面に落ちた時、すでに息絶えていた。

 顔の下半分が完全に潰れ、ひしゃげたトマトみたいになっている。

 これだけの威力を受けたのなら、頚椎も無事にはすまなかっただろう。


「はぁ、はぁ、はぁっ……」


 荒く息を吐くリニアに俺は歩み寄り、優しく肩に手を置いた。


「あ、アキラ……わたし、仇、討てたよ……」

「ああ、見事な――魔法(物理)だったな。プッ」


 噴き出した直後、俺の身体は空を舞った。

 遥か彼方の地上で『台無しだよ、このバカ主人!』と叫ぶ声が聞こえたような、聞こえなかったような。


結局勝者は魔法? 格闘?

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