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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
序章 魔神降臨
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第4話 魔光炉


「おい、お前等! なにやってるんだ!?」


 俺は状況も忘れて、思わず声を上げた。

 だってそうだろう? 目の前で子供が黄色い光に満たされた炉に放り込まれているんだ。

 しかも放り込まれた子供達は絶叫と悲鳴を上げ、まるで糸が(ほど)けるようにバラけて、光に溶けて行く。


 そこはまるで製鉄所の溶鉱炉のような場所だった。

 炉の中には、鉄の変わりに黄色い光が満たされている。

 そして炉の真上には、足場になる板が張り出し、その上に子供達を担いだ屈強な男達が列を成して並んでいた。

 俺もまた、その列に並ばされている。


 手足はピクリとも動かない。

 見ると、腕も足も頑丈なロープで身動きできないよう縛り上げられている。


「いだいいだいいだいいだい! お願いタスケテ!?」

「ぎゃあああああぁぁぁ手が、俺の手が、脚も、無い無い無い無い!」

「やめて、お願い! ごめんなさい、謝るから! 痛いの、死んじゃうがらあぁぁぁぁ!」


 絶え間なく響く悲鳴、懇願、絶叫。

 そして、それが途絶える前に、また放り込まれる子供。


「おや? もう目を覚ましたのですか。どうやらあまり水を飲まなかったようですね」

「お前! なにしてる、早くやめさせろ!」


 ガラス張りでできた炉の中を見守るように、例の神官風の衣装を纏った男が語りかけてきた。

 奴は炉に張り付いた、コンソールのような物体を指で操作している。


「やめさせるなど――私がやらせているのに? あなた馬鹿でしょう?」

「てめぇ!?」


 人道派を気取る訳じゃないが、目の前の惨状は酸鼻極まる。

 こんな物を見せられて、心穏やかでなんて居られるか!


 俺は屈強な男に担ぎ上げられているので身動きが出来ない。

 そんな俺の前には十数人の列。全員が眠り込んだ子供を抱えている。

 あいつ等を全員放り込むつもりか?


「なんでこんな真似をしている!」

「そう聞かれたのは、初めてですね。いいでしょう、説明しましょう!」


 炉の前に立った神官風の男は、トーガ風の衣装を来た男と密談していた奴だ。

 そいつは芝居がかった仕草で両手を広げ、俺に状況を話し始める。


「あなた達召喚者は我々によって呼び出された者です」

「なぜそんな事を――」

「召喚者は、通常の民間人よりも強力な力を持つ者が多いのですよ。そして我々は彼等を戦力として扱う。ね、効率が良いでしょう?」

「ざっけんな!」


 俺が唾を飛ばして声を上げる。

 この叫びに反応して、誰か目を覚ませば救いはあるかもしれない。


「そう、ふざけんな、ですよ。呼び出した連中はあくまで『力を持つものが多い』程度なのです。一人呼ぶのに8~10人も生贄が必要なのに、ですよ?」

「だったら、やめればいいじゃねぇか!」

「それこそ本末転倒。物事は工夫さえあればどうにでもなる物です。私は考えたのです。そして、その結果生贄にあなた方召喚者を使えば、効率がいいのではないかと!」


 感極まったように炉を振り返る男。

 また一人、子供が放り込まれていく。

 泣き叫び、(ほど)けて行く子供を、俺は見ているしかできない。


「我々なら10人が必要でも、同等の存在であるあなた方なら一人で済む。有用な力を持つ者だけを残し、残りを次の生贄に回す! どうです、経済的でしょう?」

「貴様……」

「戦力になれそうな召喚者はおよそ4人に1人。残りを次の召喚に回せば、75%はリサイクルできます。この炉はそのための保存庫でもあり、純粋な魔力を抽出するための炉でもあるのです!」

「そんな事のために……子供を殺すなぁ!」

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そこに被さる、甲高い悲鳴。

 見ると、炉の中に新たに放り込まれたのは――あの森の中で声を掛けてきた女生徒だった。


「あ、ああぁぁぁ……」


 助けたい、その思いだけで手を伸ばそうとする。

 だが、俺は完全に縛り上げられ、身動き一つ出来ない状態だった。

 なにもできず、見る事しかできない。


「お前等……殺してやる……!」

「ええ、聞き慣れてますよ、その台詞」


 砕けんばかりにはを噛み締め、搾りだすように、呻く。

 そのありったけの殺意を、まるでそよ風のように受け流す男。


「ぎゃああぁぁぁぁ! 溶ける!? 俺が!」


 続いて聞こえてきた悲鳴。

 そこにはあのやんちゃ坊主がいた。

 すでに顔が半分溶けて無くなっている。右半身も溶けて消えていた。


「小僧! おい、やめろよ! なんで……なんでこんな事ができるんだよ!」

「国のためですよ。我が国は他国と戦争状態にありますからね」

「畜生があぁぁぁ!」


 叫んでいられるのも、そこまでだった。


「さて、無知な者に得意気に語るというのも、なかなか気分のいい物でしたね。次はあなたの番です。まぁ、あなたは特別力が弱かったので期待は出来ませんが、何かの『足し』にくらいはできるでしょう」

「殺してやる、絶対殺してやるぞ、お前えええぇぇぇ!」


 順番が回ってきた俺は、担いでいる男に担ぎ上げられ、炉の中に――投げ込まれた。




 音も無く光の中に沈んで行く。

 その光の中は、まるで無重力空間のような感触だった。

 そこに沈むでもなく、上に浮かぶでもなく、まるで水の中にたゆたうかのように、その場に留まる。


 そして、『分解』は唐突に始まった。

 身体の表面がまるで糸のように(ほど)けて溶けて行く。


 痛みは普通に存在した。

 生きたまま、皮を剥がれるような苦痛。

 目を抉られ、爪を剥がされるかの如き感触。


「ああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁ!?」


 あまりの苦痛に絶叫が漏れる。

 死ぬ? このままだと、苦痛だけで死んでしまう!


 どうすればいい、どうすれば――生き延びられる?


 触れるものすらない炉の中で暴れ、もがき、叫ぶ。

 このまま本能に任せて暴れるだけじゃ、何もできずに死んでしまう。あの子達のように。

 そんなのはいやだ!


 だが、どうすればいい? なにが出来る?


 空回りする思考を掻き集め、ふと脳裏に浮かんだ事があった。


 ――【物質練成】。


 あの謎の空間で天使達が俺に与えた能力。

 能力を最大限に拡張したそれは、あらゆる物を【練成】する拡張が成されていたはず。


 ならば、俺の身体を【練成】で強化する事だってできるかもしれない。


 無茶苦茶な理論かもしれない。

 だが、その思考を最後の頼りに、俺は必死に『自分』を掻き集め始めたのだった。


序章なのでハイペースで進めてます。

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