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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第4章 クジャタ編
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第37話 リニアの覚悟

 元より【アイテムボックス】に荷物を詰め込んでいる俺は、すぐにでも山賊退治に出かける準備が整っていた。

 リニアの半ば強制的な誘いに乗るのは癪だったが、無理に断って、騒ぎを起こす必要も無い。

 そもそも彼女にして見れば、魔神の噂を持つ俺を巻き込む事自体が非常に危険なはずだ。

 それでも強引に連れ出したのは、なにか理由があるかも知れない。


「その、ゴメンね。アキラ」

「うん?」


 準備もそこそこに街を出て、根城があるという山へ向かって行く途中、不意にリニアはそう切り出してきた。

 小人族(リリパット)にしては珍しい、申し訳なさそうな表情。


「本当はね……わたし、アキラに強化して欲しかっただけなんだ」

「俺に?」

「そう。アキラの【世界練成】って存在する世界そのものを書き変える、すっごいスキルなんでしょ。それでわたしの魔力を上げて欲しかったの」

「ああ、そういえば、魔力低かったっけな」


 リニアの魔力は一般人より少し低め。魔導師をいう職業をこなすには、いささか物足りない数値だ。

 彼女がそれにコンプレックスを持っていると言う話は、充分にあり得る。


「ほら、わたし魔導師を始めて、かれこれ50年になるんだけど、魔力が低くて、あまり役に立ったことがなくて……」

「むしろ50年も続けれたことが驚きだ」


 水魔術のスキル値自体は高いし、知力も高いので魔法のバリエーションは多そうだ。

 だが魔力が低いので、攻撃魔法などの威力は物足りないだろう。


「いつもは【回避】スキルで引っ掻き回して、なんとかやり過ごしてたんだけどねー」

「それで【回避】が鬼のように上がってるのか……」


 Lv9ともなると達人級である。

 敏捷度の高さもかなり高いため、彼女に攻撃を当てるのは至難の技だろう。

 この回避能力の高さを活かして、ちまちま魔法を当てて敵を倒してきたのか。


「そりゃ、戦いに生き抜く事はできるけど、それはわたしに求められた戦い方じゃない。魔導師のわたしは魔法の力を求められている。それなのに、わたしにはその威力がない。それが、すごく……くやしかった」

「で、強引に俺を巻き込んだ、と?」

「悪い事をしたとは思っているのだ! それでも、わたしは――力が欲しい」


 その時、俺の脳裏によぎったのは、力の使い方を知らなかったが故に、炉に放り込まれていった子供達の姿。

 俺が無能であったが故に死んでいった者達。

 無力の悔しさというのは、身に染みて理解している。


「お前の思いは判った。強化するのはやぶさかでは無いが――」

「やってくれるのか!?」

「でも俺は、お前を信頼できる人物かどうか見極めないといけない」


 強化というのは消耗アイテムじゃない。一度強化してしまった力は、何度でも利用できる。

 昨日今日であったばかりの人間に、気安く施せる能力では無いのだ。


「それはもちろん理解している。それでわたしも色々考えたのだ。その結果が――これ!」


 そう宣言して、懐から一つのアクセサリーを取り出した。

 粗末な帯状のチョーカーで、全く飾りっ気がない。黒い皮製のチョーカー。


「なんだ? 買収する気か?」

「馬鹿をいわない。アキラならこれを【識別】すれば、なにか判るだろー」


 言われてスキルを発動して――俺は息を飲んだ。


「これは……隷属の首輪?」

「うむ、奴隷契約をする時に使うアイテムだなー」

「お前、これがどういう物か判っていってるのか?」


 これを差し出すという事は、自分が身に着ける覚悟があるという事だろう。

 力を得る代償に、俺の奴隷になると言っているのだ、こいつは。


「もちろん。でも、あまり無体な命令をしないでくれると助かる……かなぁ?」


 そこまでの覚悟を見せられて、あまり渋るというのも大人気ない気がしてきた。

 もちろん、俺をお人好しと見抜いて、こうしている可能性だってない訳じゃない。


「……判った。そこまでの覚悟があるのなら、やってやろう」


 まずは彼女の奴隷契約を先に済ませる。

 チョーカーに彼女の血を一滴垂らし、それを首に着けさせる。

 そしてその上から俺が魔力を流して、所有者登録を行う。


 これで彼女は俺の奴隷になった事になる。

 俺の持つ魔力波でないとこのチョーカーは外れないし、俺の命令に背いたり、俺を害しようと思ったら、即座に首を締め上げ、場合によっては捩じ切る事になる。


「本当によかったのか?」

「うん、わたしが無力なせいで被害を受ける人が出る方が悲しい。それにこの首輪を付けている限り、アキラも一緒に行動してくれる事になるから」

「俺を巻き込むのも計算の内かよ。どこまでも計算高いな……それじゃ、能力の強化から行くぞ」


 そういうと彼女の背後に回り、頭に手を置いた。

 俺の【練成】は接触でないと発動しない。別に真正面から顔を見てやるのもいいが、それはなんだか気恥ずかしかったのだ。

 彼女はあまりにも、まっすぐ過ぎる。性格的な物ではなく、気性が。


「さて、どれくらいまで強化するか……」

「アキラと同じくらいでいいよ?」

「やめとけ、強すぎる力は逆に扱い難いぞ」


 一般的な魔導師は、50~70程度の魔力に攻撃力を強化する武器を装備して、魔法を放つ。

 他者に【識別】された時、加算値という言い訳で切り抜けれる程度に高く、それでいて強化値として役立つレベルの数値となると……


 彼女の基礎魔力が6、これが80台になるのは+28だ。そして+80だと12290になってしまう。


「ふむ、+50くらいにしておくか」

「えー? +99にしようよ」

「アホこけ。+99っつーと、75166になるぞ」

「いーじゃん、それで!」

「よくない。筋力12万の俺がどれだけ苦労してると思ってるんだ」


 とは言え、これを下げるのは、それはそれで怖い、臆病者の俺である。


「+50でも魔力は704になる。一般人の十倍近いんだぞ」


 というか、これだけあれば大魔導師並だっての。

 しかも俺の強化は細かい設定ができない。いや、できるのかもしれないが、そこまで詳細な設定を俺ができないのだ。

 俺の全能力が+99なのも、個別設定ができないせいである。


 敏捷値の元値が94なので、1.1倍の50乗は11034にまで跳ね上がる。音速超えれるんじゃないか、こいつ?

 生命力が少し低めだが、それでも2582もある。


 最終的なリニアの能力はこうなった。



◇◆◇◆◇



名前:リニア=ノートン 種族:小人族 性別:女

年齢:108歳 職業:魔導師 Lv:17


筋力 12 (+50) =1408

敏捷 94 (+50) =11034

器用 72 (+50) =8452

生命 22 (+50) =2582

魔力 6 (+50) =704

知力 83 (+50) =9743

精神 121 (+50) =14204


スキル:

【水属性魔法】 Lv8

【看破】

【魔力操作】

【回避】 Lv9



◇◆◇◆◇



 この敏捷度に【回避】のスキルが合わされば、高速機動砲台の完成である。

 そして万が一、俺を裏切ったとしても、この程度ならばダメージを受ける事は無いようなバランスなのだ。


 リニアも自分を【看破】して、その能力に満足の声を上げる。


「うわぁ、本当に強くなってるよ! ありがとう、アキラ!」

「その代わり、奴隷になっちまったけどな」

「アキラなら、きっとヒドイ事はしないって信頼しているよ」


 それはそれで、見透かされている様でイラッと来るな。


「そうやって油断してると、お前の言うヒドイ目に遭わせるからな」

「えー! あ、でもエッチな事なら多少はいいよ? こう見えても108歳だからねっ。アキラよりずっと経験豊富だしぃ」

「く、このロリババァめ……」


 こうして俺は、リニアという奴隷を手に入れたのだった……本当にいいのか、これ?


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