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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第4章 クジャタ編
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第36話 厄介ごとの予感

 胃袋も満たされた事だし、今度こそ宿に戻るべく食堂を出る。

 本来なら酒を引っ掛け満腹になった訳だから気分がいい状態のはずなのだが……


「なんで付いて来るんだ?」

「うぃ?」


 俺の後ろを、ぴったりと貼り付いてくる小さな影が、その気分を台無しにしていた。

 ボロボロのローブで、小さな背丈にぽっこりと突き出たお腹。これは先程の暴飲暴食の成果だ。


「もちろん、宿が無いからなのだ」

「泊まれよ」

「食費にも苦労するわたしに、宿代があるとでも?」

「言っておくが宿代まではおごらないぞ」


 【看破】なんていう厄介な能力のおかげで、わざわざ偽装したスキルまで見抜かれたのだ。

 これ以上周囲を嗅ぎ回られて、痛くも無い……いや、痛い腹を探られるのは御免である。

 バグッたスキルは見抜かれたが、俺が巷を騒がしている魔神ワラキアである事は気付かれていないはずだ。


「もちろん、そこまであつかましく無いぞ。部屋の隅にでもチョロっと置いてもらえるだけで――」

「知らん。消えろ」

「そんなぁ! お願い、見捨てないでぇ!」


 俺の足元にすがり付いて涙を流して懇願するリニア。

 やめろ、その姿はまるで俺が悪役みたいに見えるじゃないか。


「人聞きの悪い事を言うな!?」

「もう行くあてないんだよぉ」


 その姿を見て、通行人達が俺を指差してひそひそと声を潜める。

 これが小人族(リリパット)が敬遠される理由だ。

 彼女たちには自重とか、遠慮とか、世間体とか一切気にしないのだ。

 人目を気にするという言葉は、奴等には存在しない。


「ちょっと……あの男、あんな子を捨てるとか――」

「見て、あのお腹。やる事やっといて、さいってー」

「ああはなりたくないな」


 ああ、なんだか訳の判らない誤解が広がっている……

 これ以上ここで騒ぐのは俺にとってよろしくない。俺はロリコンでも鬼畜でも無いのだ。


「あーもう、わかった! 宿代おごってやるから!?」

「ひゃっほぃ!」


 ピョンと飛び上がって喜びを表現する。

 滂沱の如く流していた涙は、すでに存在しない。あれだけ派手に泣いておいて、嘘泣きかよ。


 こうして俺はなし崩しにリニアを連れて宿に戻る事になったのである。


 宿の玄関をくぐると、俺達の姿を見て主人が怪訝な表情をする。

 しばらく思案した後、ポンと手を打ち……


「お客さん、いくらなんでも子供を孕ませるのはどうかと――」

「違う! こいつは行き倒れだ」

「えらく丸々とした行き倒れっすね」

「さっき散々喰いまくりやがったんだ」

小人族(リリパット)の胃袋は拡張性に富むのだ」


 リニアは胡散臭い生態を主人に説明している。

 その間に俺は彼女の部屋を用意するように話を進めておく。


「こいつを一番安い部屋に放り込んでおいてくれ。宿代は俺が出す。そうだな……3日分くらい」

「あぃよ、銀貨10枚になるね」


 最低レベルの個室をリニアに泊まらせ、部屋に戻る。

 元々俺も一番安い部屋だったので、隣の部屋だった。


「数日はこの町にいるから、その間に稼いで返せよ?」

「感謝するにゅう」

「なんだ、その語尾は……」

小人族(リリパット)の伝統的方言なのだ」

「あーはい、そうですか」


 言う事成す事、実に胡散臭い。

 小人族と会ったのはこれが初めてだが、この短い時間でその性質は的確に把握できた気がする。

 また余計な面倒事を起こされる前に、部屋に逃げ込んでおく事にした。


「じゃあ、おやすみ」

「おっやすっみにゅー」


 酒場を出てから無駄に長く感じた気がするが、ようやく眠りに付ける。

 小人族はやはり厄介な存在のようだ。





 翌朝、顔を洗って朝食を取る俺の前に、再びリニアが現れた。

 朝食のマッシュポテトとサラダをつつきながらコーヒーを愉しんでいると、いつの間に外に出ていたのか、玄関からリニアが戻ってきたのだ。

 彼女の手には、一枚の書類が握られていた。

 それを俺の前に突き出しながら、ほがらかな声で宣言する。


「アキラッ、一緒に仕事しよう!」

「なんでだよ。俺は人探しがあるんだよ」

「えー、そんなの後でいいじゃない。それより人助けしよーよ?」

「人助けぇ?」


 小人族のリニアが人助けとは、正直言って全く似合っていない。

 なにか裏があると疑ってしまうのは、俺だけじゃないはずだ。


 彼女は俺の向かいの席に腰を落ち着け、目の前の皿からポテトをつまんで口に運ぶ。

 もちろんそれは、俺の朝食である。


「この近くに山賊の根城があるんだって。お宝たくさんだよ?」

「なんでこんな街の近くに山賊がいるんだ?」


 アンサラの街にも山賊はいたが、あれは逃亡兵が身をやつした姿らしい。

 つまり、最初からあそこにいた訳では無いのだ。

 それに対して、この町の山賊は結構長くこの地に居座っているという話だ。


「なんでも、この近くの山賊のリーダーはすごい格闘家らしいよ?」

「そんなのを俺達で相手にできるのかよ。分不相応だ」

「そこはそれ。わたしの魔法でドーンとね!」

「お前、魔力低いじゃねぇか!」


 こいつの魔力は6しかない。

 俺の基本値もかなり低いが、彼女のそれはさらに下回る。

 この程度で放つ魔法では、大した威力にならないはずだ。


「そこでアキラの出番なんだよー。ほら、【世界練成】でわたしの魔力値を強化してぇ」

「遠慮する」

「そんなー。街の人も困ってるのよ。ほら、助けてあげようよ」

「だから、なんで俺がそんな面倒な……」


 そもそも勝てるとも限らないではないか。

 いや、俺なら問題なく勝てるだろうけど、個人的にはマジになって戦いたくはないのだ。

 また巻き添えで町に被害が出る可能性がある。


「でもアキラも悪名を(そそ)ぐ機会って欲しいんじゃ無い? ほら、魔神とか呼ばれてる訳だしぃ?」

「な、なんでお前がそれを!? いや、誰が魔神だって証拠だよ?」


 突如突きつけられた真実に、俺は虚ろな目で反論をする。

 だが、小人族にそんな機微が通じるはずもなく……


「そりゃ、あんな特殊な能力持ってたら、ちょっと考えれば連想できるよね」

「ぐっ、確かに……」

「その能力値(パラメータ)の後ろにくっついてる数字、練成強化で付けたヤツでしょ?」

「そこまでバレてんのか」

「わたしも魔力の低さで悩んでてね。もしアキラが強化してくれれば、嬉しいなぁって」


 つまりこいつは、俺に魔力値の強化をお願いしたいと言う訳だな。

 だが、そんな真似をおいそれとやる訳にはいかない。


「そんな真似、簡単にできる訳――」

「あ、なんだかわたし、突然叫び出したくなったかも?」

「てめぇ!?」


 こうして俺は、半ば無理やり山賊退治に参加させられる羽目になったのだ。


リニアの言動が少しウザくなってますが、その理由は後日に。

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