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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第4章 クジャタ編
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第35話 練成の正体

 小人族(リリパット)のリニアを連れて食堂に入る。

 俺も酒しか口にしていなかったから、食事をするのは都合がいい。


 それに世間での魔人ワラキアの噂は、男の二人連れである。

 子供連れとなれば、疑いの目を避ける意味でも大きい。


 給仕に席まで案内され、適当なディナーセットを頼んでおく。

 寒い街路を歩いた生で身体が冷え切っている。早く温かい物を食べたいのだ。


「わたしは、こっちのフライの盛り合わせとカルボナーラのパスタを大盛りで。それと鴨のグリルに付け合わせにピクルスも」

「おいおい、人の金だと思って遠慮がねぇな」

「各2人前ずつ」

「本当に遠慮がねぇな!?」


 どれだけ食うつもりだ、このチビッ子。どう見ても身体の体積に収まりそうに無い。

 俺の心配を他所に、リニアは薄い胸をトンと叩いて、ドヤ顔を決めてくる。


「まかせて。大食いには自信がある」

「別に褒めてないぞ」

「ぬぅ……」


 会話しながらも念のため【識別】を飛ばしておく。

 そこに現れたのは、このようなパラメータだった。



◇◆◇◆◇



名前:リニア=ノートン 種族:小人族 性別:女

年齢:108歳 職業:魔導師 Lv:17


筋力 12

敏捷 94

器用 72

生命 22

魔力 6

知力 83

精神 121


スキル:

【水属性魔法】 Lv8

【看破】

【魔力操作】

【回避】 Lv9



◇◆◇◆◇



 異様に高い敏捷性と精神力はさすが小人族と言える。

 知力もかなり高いが……魔力があまりにも低い。能力値(パラメータ)と職業適性が全く噛み合っていない。

 それともう一つ注目を集める数値があった。


「108?」

「お? ああ、そっか。わたしを【識別】したんだ?」

「げ、判ったのか?」


 そこで運ばれてきたカルボナーラに、リニアは早速フォークを絡めて口に運ぶ。


「ふぉうひえふぇふぉ――」

「飲み込んでから話せ、行儀の悪い……」

「んく、こう見えてもわたしも識別系のスキルがあるからね」


 彼女は【識別】ではなく、【看破】というスキルを持っている。

 これは識別系のスキルなのだろうか?


「【看破】は【識別】の上位スキルなの。アキラがどのようなスキルを持っているか、一目で判るんだぞ」

「へぇ……」

「スキルに偽装を掛けている事も判るよ」

「なっ!?」


 そこまで見抜くのか。【看破】というスキル名はさすがと言うところか。

 だが、このようなスキルがあるのなら、これからは少しばかり注意して生活しないといけないな。


「それにしても珍しいのはそちらでしょ。なに、その【世界練成】Lv不可説転というのは」

「はぃ? 不可設定?」

「あるでしょ?」

「俺にはバグった文字しか見えん」

「そうなの?」


 レベルが設定されていないなら、バグるのも当然か。

 だが、このスキルに関しては、自身を練成した時でさえ詳細を見抜く事はできなかった。

 それなのに彼女は一目でその正式な名称まで見抜いたのだ。


「今まで見た練成師は大抵【物質練成】の能力だったからね。世界そのものを練成するのかな?」

「そうなのか……いや、大概なんでもありな能力だとは思っていたがな」

「それにレベルも――普通は10が限界なのだけど。はむ」


 まるで子供のような表情で食事をしつつ、俺の秘密をあっさりと見抜いて行く。

 こいつはもう、放って置いていい存在じゃないのかもしれない。


「でもアキラが悪人で無くてよかった!」

「あ? そんなのは最初に出会った時に見抜いてたんじゃないのか?」


 前科があれば、職業にそれが表示される。詐欺を行えば詐欺師、殺人を行えば殺人者と表示されるのだ。

 【看破】の能力があれば、真っ先に気付いたはずだ。


「私やアキラのような能力は、そう簡単に使っていい能力じゃないのよ。誰しも自分の本性を覗き見られて、気分がいいはずも無いでしょ?」

「そりゃそうだが……」

「だからわたしは自分が【識別】された時か、必要最低限の時しか【看破】しない様にしているのだー!」


 マナー的にはそれは正しいのかもしれない。だが、それは自身の身を危険に晒す決意だと思う。

 この世界ではちょっとした油断が命に関わるのだ。


「まぁ、気を付けとけよ」

「うむ、まだ4回しか騙された事はないから、安心するといいよ」

「4回もかよ!?」


 よく生きてたな、このガキ。いや、今はその他にも聞かねばならない事がある。


「それよりも年齢だ。108ってなんだよ。偽装か隠蔽しているのか?」

「いや、本当の年齢だよ? それよりも女性の年齢を覗き見るのはマナー違反だぞ」

「そういう問題かよ。小人族ってのはそんなに長生きなのか……」

「平均して200年ほどは生きるよ。もっとも寿命まで生き延びる小人族は少ないけどね!」

「そりゃなんでだ?」

「好奇心、猫を殺すのだ」


 エヘンとばかりに胸を張る。

 その様子は子供らしくて見た目的には可愛いのだが、何を言いたいのかさっぱり判らない。


「つまり?」

「余計な事に首を突っ込んで、大抵は寿命の前に殺されるのです」

「ああ、小人族ならば、さもありなん……」


 好奇心旺盛過ぎる小人族ならば、確かにそういう事は多そうだ。

 だがそんな中で100を超えるほど生き延びているという事は、彼女は好奇心の少ない小人族なのだろうか?

 それを尋ねると、心外とばかりに頬を膨らませて見せた。

 フライの盛り合わせが詰まっていたからでは無い。


「いや、わたしも人並みに好奇心は強いよ。だけど、危険かそうでないかを判断する高い知性が備わっているだけ」


 確かに彼女の知力は特筆すべき物がある。

 ここまで高い知力はシノブ以来では無いだろうか?


「危険を認識し、危ないと思ったら好奇心を押さえ込む精神力もある。だからこそわたしは長生きできたの」

「なるほどね」


 つまり彼女は、好奇心の誘惑に抗しきる事で危険を避けてきたのだ。

 それですら、4度も騙されたそうだが。


「で、なぜ行き倒れてたんだよ? しかも店の前で」

「それは……追い剥ぎに遭ったのです……」


 彼女は、魔術師向きなスキルがかなり高いが、基礎になる魔力が低い。

 回避スキルがあるので、戦闘で生き延びるのは得意そうだが、決定力に欠けるだろう。


「アキラが助けてくれて助かったよ。命の恩人だね、アキラは!」

「そうかそうか。なら適当に感謝しておいてくれよ」

「うむ! この恩は命に代えても返す」

「そこまでは必要ないから」


 鼻息荒く宣言するリニアを、適当に往なして食事を進める。

 その日のリニアはそれはもう、食べた。食べまくった。

 なんと一人で銀貨40枚分も食べたのだ。

 おかげで俺は、金貨をもう一枚【練成】する羽目になったのである。


不可説転と言うのは仏教用語で、とんでもなく大きな値の事を意味します。

不可設定はアキラが聞き違えたんですね。

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[一言] アキラ大量殺人してね?
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