第29話 ニブラスの武器屋
てくてくとカツヒトと連れだって次の町を目指す。
数日の旅の果て、ようやく次の目的地が見えてきた。
キフォンの北側は、一年前に俺が起こした核融合反応で巨大なクレーターができており、そこに河川の水や雨水、地下水脈が流れ込んで巨大な湖ができている。
今ではその湖が観光地になっており、多くの来訪者が訪れる土地になっている。
「で、次の街……ニブラスだっけか? そこにいい武器屋があんのか?」
「いや、そこはそれなりの物しかないけどな。質はともかくバリエーションは豊富だった。アキラなら質はどうとでもなるだろう?」
「いや、確かにどうとでもなるけどな」
【練成】によって武器を材質から作り変えてしまえば、数段上の物を作り出すことができる。
ぶっちゃけ弓であるならば、そこらの木の枝をひん曲げて糸張った物でもいいのだ。
「品としてはありふれているこのアルシェピースですら、この有様だからな」
今カツヒトが持っているのは、俺が+20まで強化した逸品である。
元々の攻撃力が26あるアルシェピースが、+20まで強化した事で174まで上がっているのだ。
これはもう、ちょっとしたお宝クラスである。
「こんな名槍を俺に与えてくれて感謝している」
「元が武器だけあって結構攻撃力上がったけど、強化具合はそれなりだぞ?」
「いや+20って現在できる最大の強化なんだが……」
シノブに与えたのは+30まで強化しておいたからな。
あの剣ほどではないにしても、この槍に匹敵する物はそうそう無いだろう。
この槍にカツヒトの能力値を加算すれば、かなりの威力になる。
「まぁいいや。それじゃ、さっそく次の町――ニブラスへ行こうぜ」
俺たちはこうして湖畔の町ニブラスへ到着したのだった。
まずは宿の確保をするのは、どの町に付いても同じ行動である。
だが、土地勘のない俺たちは、まずどの宿がお勧めか人伝に聞かねばならない。
「聞かねばならないんだが……なんか、この町活気がないんじゃね?」
「前はもっと賑やかな感じだったんだがなぁ」
「前来たのはいつだよ?」
「半年ほど前だ。元々湖畔にある町だったんだが、クレーターと融合して巨大湖になってしまってな。そこで、できた巨大湖を売りにするために、いくつも新施設を建ててる最中だった」
ギリギリ戦禍に巻き込まれずに済んだとはいえ、この町も損害がなかった訳じゃない。
その建て直しに、湖を売り出したのは迅速にして英断と言えるだろう。
「あ、武器屋発見。こうなったら先にアキラの武器から調達するか」
「そうだな……宿の事は武器屋の親父に聞けるか。ならそうしよう」
宿の話を聞いて宿に行って、それから武器屋に行くのも、武器屋でついでに話を聞くのも同じだ。
今、大通りにある武器屋が目の前にある。ならここで聞くとしよう。
門を押し開き、中を覗く。
そこは埃をかぶった武器が山と積まれていた。
「あ、俺パス。そこの屋台でリンゴでも食っとくとしよう」
「てめ、埃見て嫌いやがったな?」
「弓の事はよく判らないから、別に良いだろう」
「そりゃ、まぁ……」
別に無理に巻き込む必要なんて、欠片もない。
そもそもデートでもあるまいし、野郎二人で連れだって歩くのも味気ない。
俺だけで品を選んでも何の問題もないのだ。
「なんだ、こりゃ……立地は良いのに流行ってなさそう――」
「流行ってなくて悪かったな」
カウンターに座ったヒゲの小人が鎮座していた。
モップか何か置いてるのかと思った……
「あ、居たのか。アンタがこの店の主人?」
「おう、グノーメ族のパリオンじゃ」
グノーメ族とは地の妖精の一種が人の眷属へと進化(退化?)した種族だ。
ドワーフより更に背は低く、身長は130センチほどしかない。男は箒のように長い髭を蓄えているのはドワーフと同じだが、その肉体の頑健さは見た目からして違う。
こちらの方が身長相応に、か弱そうなのだ。
元が地の妖精だけあって、ドワーフと並んで鉄や鉱石に詳しく、こういう武器屋を営む事も少なくない。
「そっか、じゃあ弓ある? あと矢も」
「いきなりじゃな。それに弓だと? 男なら近接でブン殴らんかい!」
「パーティの都合ってもんがあるだろ!」
めちゃくちゃ先入観でモノ言ってやがるな、このチビ爺。
「前もって言っておくが、ウチは武器屋っつっても大したモンは置いてないぞ」
「それが武器屋の言い分か。品揃えはいいって聞いたぞ?」
「元々ここは田舎村じゃ。付与師がおらんのじゃ。それに戦線からも遠い」
俺の言葉に答えながら、奥の棚から弓をいくつか取り出してくる。
【識別】のスキルを使って性能を見極めるが、確かに大した物は置いていない。
ろくな強化もされていないので、どの武器も平均以下の性能しか出せていないのだ。
「こりゃまた……」
「言ったろ?」
「まぁいいや、じゃあ弓を3つに矢を――100ほどくれ」
「はぁ!? 多過ぎじゃわい。持ち運べんぞ」
「予備だよ、予備」
通常矢筒には10本程度しか矢を入れる事ができない。
矢筒を複数装備する事で持ち運べる数を増やすこともできるが、それでもせいぜい20が限界だ。
100はさすがに多すぎると言うパリオンの判断は間違いではない。
だが俺たちは【アイテムボックス】と言うスキルがある。
これに収納しておけば、大量に持ち運べるようになるのだ。
「俺たちは旅の途中だからな。特に矢なんて消耗品はいくらでも消えていく。数があった方がありがたいんだよ」
「そういうもんかの?」
弓を3つ頼んだのはアンスウェラーを作った時のように、合成してみようと思ったからだ。
ここの武器は性能がよくないので、いくらなんでもこのままでは使えない。
ある程度自分で手を入れる必要がある。
「それでさ。表歩いてて思ったんだが、なんかこの町活気がねぇよな?」
「あー、そうじゃろうな」
「なんかあったのかよ?」
「シーサーペントが出たんじゃ」
「は? 湖に?」
シーサーペントはその名の通り、海に出て来る巨大な海蛇のようなモンスターだ。
この湖は河川も流れているので、海に全く繋がっていない訳ではないが、海洋巨大生物であるシーサーペントが溯れるほどの川ではない。
「三ヶ月ほど前から被害が出ておってなぁ。冒険者ギルドに依頼を出して入るんじゃが……」
「こないのか?」
「水の中というのは勝手が違うらしくてな。受けがよくないんじゃ」
水中にいる相手を倒そうとすれば、こちらもそこに攻撃を届かせねばならない。
剣や槍では攻撃範囲に入らないから、冒険者が敬遠するのは当然と言える。
「そりゃ大変だなぁ」
「お主らも冒険者なら、引き受けてくれんかね?」
「今さっき弓を買ったばかりの新参にか? それに俺は冒険者じゃねーし」
登録してないから、今はただの農民である。
本来なら、このオッサンよりも戦闘には向いていない存在だ。
「それもそうか。スマンな、愚痴を言った」
「構わないさ。代わりにいい宿を教えてくれればな」
「交渉上手め。そうじゃな、飯なら湖沿いにあるせせらぎ亭が美味いぞ。風呂付なら通り沿いのかわせみ亭」
「両方は?」
「大抵湖で泳いじまうから、風呂は要らんのじゃ」
「あー、そういう事ね」
なら、せせらぎ亭と言うのに行って見るか。