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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
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第26話 ゴブリンに出会った

 正に絹を裂くような女の悲鳴。

 この世界の住人に義理はないが、それでも女の叫びとあれば駆け付けてしまうのが男の(さが)だ。

 とりあえず顔面に集っている蜂を撫で落としておいて、周囲を見渡す。


「うわぁ……」


 そこには先ほど腕を振り回した影響か、衝撃波で薙ぎ倒されまくった森の姿があった。

 結構先の方まで木が倒れているので、被害はかなり広そうだ。


「実はこの衝撃波に当たったとかじゃないよな……?」

「いや! 来ないで!?」

「グゲゲゲゲゲ!」

「っと、そんな場合じゃないか」


 再び響いた悲鳴に、俺は正気を取り戻す。

 叫びはかなり切羽詰った様子だった。少しでも早く駆け付けた方がいいかもしれない。

 それに人ならざる叫び声も一緒に聞こえた。

 ひょっとすると、ゴブリンに襲われているのかもしれない。


「方角は……ああ、もう! うるさいぞ、蜂共! 寄るな、(たか)るな!」


 未だ周囲をブンブン飛び回り、身体に集ってくる蜂に拳を飛ばして薙ぎ払う。

 数匹が消し飛び、更に向こうに衝撃波が飛んで行ったが、それ所では無い。


 とにかく、この蜂の巣は依頼の品でもある。

 蜂が俺に集まっている今が収穫のチャンスだ。【アイテムボックス】には生物を入れる事ができないため、幼虫などが入ってない部分を収納しておいた。

 また回収に戻る暇があるか判らないからだ。

 それに、【アイテムボックス】に収納するのは、ほんの数秒で済む。


「悲鳴は――こっちか!」


 位置を見定め、駆け出す俺。

 その俺を追い掛けてくるジャイアントビー。

 まるで黒い雲に囲まれているかのような有様で、俺は救援に向かったのである。





 そこには数名の冒険者の姿があった。

 男3人に女2人。そして、ゴブリンが6匹。

 男達は怪我でへたり込んでおり、女は一人気を失っている。

 悲鳴を上げたのはゴブリンに捕まっていた、小柄な少女だった。


「おい、無事か!」


 とにかく俺は冒険者達に声を掛けた。いきなり現れた見知らぬ男を、敵と間違えるなんていう話は結構よく聞く。

 俺がその笑い話の餌食になるのはゴメンだ。

 だが、冒険者たちは俺を見て更なる悲鳴を上げた。


「う、うわああぁぁぁ! なんだ、あれ。化け物ぉ!?」

「ヒィ、見た事も無い――なんて邪悪な!」

「タスケテ……おかあさん、ママァ!?」


 ゴブリン達に襲われたのが、よほど怖かったのか泣きだしてこの場にいない家族に助けを求める者まで現れはじめた。

 そんなか細い神経で、よく冒険者なんてできたな?


「待ってろ、今助け――ぶぇっくしゅ!」


 カッコよく決め台詞を言いたかった所だが、タイミングよく顔に止まっていた蜂が鼻の中に針を突っ込んできやがった。

 思わずくしゃみをして、鼻に止まったジャイアントビーを吹き飛ばす。


 運良くその蜂が飛んだ先にゴブリンがいた。少女を捕らえていた奴だ。

 蜂はゴブリンの頭に勢いよくぶつかり、ぐしゃりと言う音を立てて、盛大に潰れた。


 ゴブリンの頭と一緒に。


「ヒ、ヒアァァァァァ!?」

「なんだ今の! ブレスか!?」

「あの異形に遠距離攻撃まで。しかもあの威力……ダメだ、敵うはずがねぇ。みんな、逃げろ!」

「は、蜂の化け物だ――新種のモンスターだ!」


 その言葉と同時に男達は尻に帆を掛けたような勢いで逃げ出していく。

 気絶した女をキチンと回収しているところは評価してやろう。


 少女を捕まえていたゴブリンは、先程のくしゃみで頭が潰れ息絶えている。

 自由になった少女も、男達を追って腰を抜かしながらも這いずって逃げて行った。


「ま、待って、置いて行かないで! こんなところに、いやぁ!?」


 なんだか俺に怯えていたような気もしないでもない。

 とにかく、今はゴブリンの残党を退治する方が先決だ。放置しておくと、逃げた連中を追いかねない。

 残るゴブリンは5匹。こいつ等は全滅させるより、1匹だけ残して集落に案内してもらう方がいいか?


 俺は4匹を殺し、1匹を見逃す方針を固めてから、【アイテムボックス】から鍬を取り出す。


「さぁ、来いよゴブリン――耕してやるぜ」

「グギャギャギャ!」

「ギャグァ?」

「グケケケ」


 なにやら俺の方を指差して、笑っているような仕草をする。

 蜂に集られたままの俺がおかしいのか?

 それとも、この鍬+50を舐めてるのか?


「……だったらより恐ろしくなってやろうじゃないか」


 現在、俺の服は耐熱耐寒性能を付与してある。

 これさえあれば、凍える夜の野宿でも快適に眠る事ができるようにするためだ。

 そして俺の身体も外的要因によるダメージはほとんど受けない。

 ならば、この蜂を一網打尽にするために思いついた方法――


「必殺、ファイアスタンピード――!」


 そう宣言して、俺は【アイテムボックス】から油を取り出し、頭からかぶる。

 そして火種を取り出して、わざと引火させた。


 轟、と音を立てて燃え上がる俺の身体。

 自然、俺に集っていた蜂達にも、炎は引火して行く事になる。


 そして黒い雲の如き蜂の群れ全てに炎は燃え広がり――





 ――森に引火した。





「おーおー、よぅ燃えとるわ」

「『燃えとるわ』じゃない! 一体何をしたんだ、アキラ!?」


 もうどうにでもなーれ、という心境で燃え広がる森を眺めながら、呆然と呟く俺。

 カツヒトは異常を察知して駆け付けてくれたが、時すでに遅し。

 すでに森への延焼は本格的になりつつある。


「いや、蜂に集られたから燃やしただけなんだ。とにかくヤバイから、お前なんとかできねぇ?」

「く……こうなったら、俺の風の魔法で!」


 素早い詠唱から、全力の風魔法を起動して、火を吹き消そうとするカツヒト。

 だが――


「なあ、煽られて余計に燃え広がってないか?」

「…………俺たちは、できる限りの事はしたよな?」

「ああ、全力を尽くした」


 全力でやらかした、ともいう。


「そうだな、俺にできる事はもう何もない。なら――帰ろう、街へ」

「うむ、待ってる人がいる」


 蜂蜜を待ってくれている人がいる。

 幸い、蜂に集られながらも、蜂の巣の一部を【アイテムボックス】へ放り込んである。

 少なくとも、蜂蜜採取の依頼だけは達成できるだろう。

 ゴブリンの集落だって、この火勢だ。無事では済まないだろう。


 こうして俺達の初仕事は、みごと成功したのである。

 成功だよな?


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