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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
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第24話 定番の……

 翌朝、俺とカツヒトは冒険者ギルドとやらに出向く事になった。

 俺はカツヒトの荷物持ち(ポーター)として。カツヒトは仕事を探すために。

 それなのに――


「なぜお前は、そう面倒を呼び込むんですかねぇ!?」

「いや、だって絡まれたし」

「何ごちゃごちゃ言ってんだ、あぁ?」


 俺は今、カツヒトと共にいかにも悪役と言う感じの冒険者と対峙している。

 なぜそんな事になったかと言うと、カツヒトが冒険者ギルドで素行の悪い冒険者に絡まれ、それにあっさり受けて立ったからだ。

 で、荷物持ち役の俺も巻き込まれた。


「どうすんだよ、さすがに殺すのは拙いぞ」

「俺の武器は槍だから、石突きで殴ればいい」

「俺は?」

「……がんばれ?」


 これほど激励されない肩ポンは初めてだった。

 さすがに鍬を持ち出して顔面耕すわけにはいかない。そんな真似をすれば、ただでさえ高額な俺の賞金がまた増えてしまう。

 今さら誤差の範疇に過ぎないけど。


「いい加減待たせんじゃねぇよ。おら、さっさと掛かってこい!」

「では、そうしよう」


 その宣言と同時にカツヒトは一気に駆けだした。

 同時に冒険者達も左右に展開する。俺だけが、どうしたものかと立ち竦んでいた。

 カツヒトは中央を突破し、リーダーと一騎打ちに突入。左右に別れた敵は回り込むようにして俺に向かってきた。


「おりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」

「死ねゴルアアァァァァァァ!」


 なんだかあっちでは、冒険者のリーダーとカツヒトの熱く、激しい戦いが巻き起こっていた。

 そして俺はと言うと――


「オラオラオラオラオラオラ!」

「この、このこのこのこの! なんでこいつ倒れねぇんだ!?」

「斬れねぇ、おかしいぞコイツ! なんか下に着込んでいるのか!」


 リーダー以外の取り巻き三人に、袋叩きにされていた。

 いや、ダメージないからいいんだけどね。


 こいつ等の使う剣は通常のブロードソードに+8相当の強化付与が施された、それなりの品だ。

 ブロードソードの基礎攻撃力は24、+8の強化付与でおよそ51まで上がっている。

 奴等の攻撃力を加味したとしても、せいぜい100程度の攻撃力と推測できる。


 俺の防御力は布の服だけなので装備的な防御は1しかない。

 だが強化が掛かった俺の生命力は30(+99)だ。数値にして、37万5834もある。

 そんな訳でこの程度の攻撃なら、何百回殴られても痛くも痒くも無かったりする。

 というか、皮膚に傷一つ付いていない。


「どーすっかなぁ?」

「な、舐めやがって!」


 考えてみれば、まともに攻撃受ける必要もないか。

 それに攻撃しない程度の反撃なら、死にはしないだろう。


 俺は攻撃をスルリと躱し、敵の背後に回り込んでしゃがみこむ。

 そして相手のズボンの裾をつまんで、ヒョイと持ち上げて見せた。

 結果片足を大きく持ち上げられた男は、すごい勢いで天地を逆転させ、顔面から地面に突っ込み意識を失う事になった。


「ふむ、これならいけるか?」

「野郎、ふざけた真似を!」

「ジャックの仇だ、覚悟しろぉ!」

「いや、死んでねーよ、こいつ」


 一段といきり立つ冒険者達だが、だからと言って俺に攻撃が当たる訳でもない。

 俺の敏捷度も生命力ほどでは無いが、それなりに高い。いや、基礎値は低いけど。

 とにかく、総合値ではこいつ等の命中力を遥かに上回っているので、攻撃をあっさり避ける事ができるのだ。


 にょろりとした動きで同じように背後に回りこみ、ズボンの裾をつまんで持ち上げひっくり返す。

 冒険者たちは攻撃中に強引に体勢を崩され、先の冒険者と同じように顔面から地面に倒れ込む事となった。


 二人とも意識が無いのを確認して、俺は手を叩いて汚れを落とす。


「よし、処分完了」


 三人の雑魚を片付け、俺はカツヒトの様子を窺った。

 そこでは、相変わらず熱い戦いが繰り広げられていたのだった。


「くっ、やるな小僧!」

「そっちこそ、なかなかにできる!」

「だがこの攻撃は躱せまい!」

「甘い、その程度躱すまでもない!」


 カツヒトも得意の風魔法の小技を封じて戦っているので、やや決め手に欠ける。

 とは言え、奴の槍の腕前はそこそこ以上に高いのだ。それと五分にやりあうあの冒険者の腕は、言うだけの事はあったということか。


 結局、カツヒトと冒険者が引き分けるまで、およそ30分に渡って激戦を繰り広げたのだった。





「やるじゃねぇか、小僧……」

「そっちこそ。タダのオッサンじゃなかったようだな!」

「オッサンじゃねぇ、ガロアだ。名前で呼べ」

「そうか、俺はカツヒトだ。小僧と呼ぶな」

「お前等、無駄に友情深めるくらいなら最初っから暴れるなよ」


 傷だらけでがっしりと握手するガロアのオッサンとカツヒトを見て、俺は溜息を禁じ得なかった。

 30分の激闘の間、俺は雑魚3人を縛り上げた後、見学する羽目になった。

 雑魚共も途中で目を覚ましたが、縛り上げられては悪態を吐くしかできる事が無い。


 カツヒト達は、そろそろ日も高くなり始めた頃になって、ようやく引き分けで妥協することにしたらしい。迷惑な話だ。

 だが、こうして目立つ行動を取ったおかげで、俺とカツヒトがコンビを組んでいる事が周囲の人間に認知されたのは、不幸中の幸いだろう。


「そっちのお前も、三人まとめて倒せるとは良い腕だな。荷物持ち(ポーター)にしとくにゃ勿体無いぜ」

「そりゃどうも。俺はまだ下積み段階なモンでね」


 冒険者の下積みに、荷物持ちを請け負うのは別に珍しい事じゃない。

 先輩冒険者の立ち回りを学び、知識を積み上げる事は有益だからだ。

 それに、冒険者として戦う事に挫折した者が引退しきれず、荷物持ちをやる事もある。

 冒険の主役になれなくても、その空気の中に居続けたいと願う者も少なく無いのだ。


「面白れぇ奴等だ。気に入った! なんかあったらこの『赤竜の牙』を頼りにしな!」

「赤竜の牙ぁ?」

「俺達パーティの名前だ。そう言やこの街の連中なら理解できる」

「ゴロツキの仲間と思われたく無いんだがな……」

「そう言うな、アキラ。人の好意は素直に受け取る物だぞ!」


 その結果がこの世界に来た時の惨劇なんだが……まぁいいか。

 カツヒトに言っても仕方ない事だ。


「それじゃ、俺たちはもう行ってもいいか? この後仕事があるんだよ」

「ああ、手間取らせて悪かったな!」


 無駄に爽やかに謝罪してみせるオッサン共。

 そう思うなら最初から絡まないでくれ。


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