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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
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第23話 悪巧み


 魔神を倒す? コイツが俺を?

 いや違う、落ち着け、俺。

 これはアレだ。こいつまだ気付いてやがらねぇ。


「それは――」


 返事を遅らせて怪しまれるのを防ぐため、一声発してから考え込む素振りをする。

 もちろん、それは魔神退治を行うかどうかでは無い。


 こいつが気付いて無いなら、俺の取るべき選択肢は三つだ。


 一つ、口を封じるため、殺す。

 二つ、何も知らない振りをして、逃げる。

 三つ、どうにかして、真実を知っても喋らせない様にする。


 一つ目は無いな。

 この世界の人間に愛着はあまり持ってないが、こいつは同郷の出だ。

 それに俺は基本的に善人である……はずである。


 二つ目……も無いか。

 こいつは俺の顔を知っているし、乗合馬車の人間にも数名見られている。

 せっかく顔を変えたのに、手配書を修正されれば元の木阿弥だ。

 ばらばらに散ってしまった乗客はあの衝撃波の真実を知らないが、カツヒトは知っている。

 最低限、こいつの口だけは封じておかねばならない。


 となると、取るべき手段は三つ目なのだが、どう事態に巻き込んだ物か……


「どうだ? キミの【過剰暴走】(スタンピード)なら勝ち目もあると思うんだが?」

「それは……やめた方がいいな」

「なんでだよ、名を挙げるチャンスだぞ」

「君子危うきに近寄らずっていうだろ。それに金を稼ぐだけなら、地道に仕事を受ければいいじゃないか。お前の腕ならすぐ名は知れ渡るさ」


 そう、こいつを巻き込むならば、地道な仕事を重ねて『俺の仲間』という認識を周囲に広げればいい。

 そうすれば、俺が噂の魔神と知られても、こいつは仲間と思われている訳だから、口外できなくなる。むしろ秘密を隠すのに協力してくれるようになるだろう。


「くっくっく――」

「どうした、いきなり含み笑いをして……気色悪いぞ?」

「うっさいな。とにかく、俺は攻撃力はともかく防御力は一般人並なんだ。だからそういう危険な仕事はパスだ、パス!」

「確かに俺一人では勝てそうに無いし、仲間を危険に巻き込むのも本意では無いか。ここは仕方ないな」


 よしよし……つーか、コイツはなぜ俺をナチュラルに仲間に認めてるんだろう?

 まぁ、この際、好都合だけど。


「じゃあ、明日にでも冒険者ギルドに行って、仕事を探そう!」

「お? あ、いや、それは困る!」


 冒険者ギルドというのは、いわば何でも屋の組合である。

 何の後ろ盾も無い、冒険者と言われる存在を支援をするための組織だ。

 彼等はゴロツキから英雄までピンキリな存在があるだが、大半が後ろ盾を持たないゴロツキモドキだったため、様々な場面で切り捨てられる事態が多発。

 これを受けて、彼等の身分を保障する大型組織を作り上げ、冒険者の地位を保護しているのだ。


 冒険者という名の何でも屋は、意外と需要が高い。

 兵士達が国に縛られて動けない場面などで、彼等の出番は多いのだ。

 他にも、国と国をまたぐ仕事などの場合も、彼等の出番がある。


 だが、この冒険者の汎用性の高さこそが、俺にとってはネックなのである。

 この何でも屋という特性上、彼等は賞金首の知識も豊富だ。

 つまり、ギルドに顔を出してしまうと、俺の手配書とご対面してしまう訳だ。

 顔を変え、名前も違っているので、そう簡単にバレる事は無いと思うが、できるなら近付きたくない事に変わりは無い。


「俺はほら……冒険者に登録してないから――」

「アキラの腕なら問題ないだろう。それに俺はギルドでは結構顔が利くから、試験も俺が保障すれば免除を受ける事ができる」

「いや、そうじゃなく……ほら、えーと……」


 問題なのは登録してできるギルドカードだ。

 手配書の面影が残る顔に、魔神ワラキア=キラーとワレキ=アキラ。

 勘の鋭い人間なら、まず怪しむ。


「あれだ、俺は基本スペックが低いから余計な揉め事を呼び込むんだ。ほら、『新入りに稽古付けてやるぜ』とか『こんな弱っちい奴に冒険者が勤まるか』とかあるじゃん?」

「そんなやつは俺が蹴散らしてやろう」

「いや、だからそれが余計な揉め事なんだよ! 俺はお前の荷物持ちって事でいいから、登録は御免(こうむ)る。そう、これは下積みの修行なのだよ」

「そういうなら、俺は別に構わないが……もったいないな」

「気を使ってくれてありがとうよ」


 そう、この男……馬鹿で口が軽くてお調子者だが、根は悪い人間では無いのだ。

 力尽くで口を封じるのは、さすがに忍びない。


「まあいい。それなら明日に備えて今日は英気を養うとしよう!」

「お前、よくそんな古臭い言い回しを知ってたな」

「俺を馬鹿だと思ってるな、アキラ……?」

「知力低いじゃん」

「うるさい、それは言うな!?」


 カツヒトはのスキルに【風魔法】と【魔力操作】があるのに、肝心の知力が低い。

 魔力値は魔法の強さに、知力は記憶力や魔法の精度、習得力に影響を与えてくる。

 知力の低さは、【魔力操作】のおかげで精度をかなりフォローできているのだが、記憶力という点で弊害が出ているようだ。

 こいつのお調子ものな面は、この影響なのかもしれない。

 とにかく、こうして俺たちは賑やかに散々飲み食いしたのである。




 宴が終わって、もう一つ……俺はやらねばならない事がある。

 それは先程作り出した金貨の処理だ。


 食堂の受付で支払いをする時、俺はその金貨を差し出してみた。

 使えない様だったら間違えた振りをして普通に支払えばいい。今日の支払いの分くらいは持ち合わせはある。


「金貨だけど、いいかい?」

「あ、構いませんよー」


 給仕の娘は金貨を受け取り、軽く表面を叩いて怪訝そうな顔をする。


 ――まずいな。やはり、使えないか?


 俺は背中に冷や汗が流れる。まるで偽造通貨を使ってる気分だ。いや、まるっきり偽造通貨だけど。


「お客さん、この金貨――すっごく純度が高いですね!」

「え、そうなの?」


 にっこりと笑顔を見せた娘に俺は心の底から安堵した。

 どうやら問題はなさそうだ。


「これだけ純度が高いと、普通の金貨よりは価値が上がりそうなんですけど……銀貨で3枚分くらい?」

「ああ、じゃあ差分はキミへのチップと言う事で」

「え、いいんですか? 銀貨で3枚ですよ?」


 銀貨3枚。ちょっと豪勢な夕食が楽しめる程度か。ちなみに今日の宴の価格が、二人分で銀貨5枚である。

 まぁそれくらいならば許容範囲だ。つーか、元は銅貨1枚だっての。


「いいって、お嬢ちゃん可愛いし。今度来た時サービスしてね」

「ありがとうございます、わっかりましたぁ!」


 びしっと敬礼してくるところはお世辞抜きに可愛い。


「いいのか、アキラ。おごってもらって」

「気にすんな、明日からは寄生させてもらうんだから」


 寄生というのはネットゲームなどである、他プレイヤーに付いていって経験値などを吸い上げるプレイスタイルのことだ。

 違反行為では無いが、総じて嫌われる。


「寄生って、俺はそんな事は全然――」

「判ってるって、口が悪かったのは謝る」


 【練成】で作り上げた金貨は利用できる。それが判っただけでも充分だ。

 おつりの銀貨95枚を受け取りながら、この日はお開きになったのである。


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