表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
22/178

第22話 首都の被害

 とりあえず出来たて金貨を握りしめて食堂へ向かう。

 どんな時でも腹は減るのである。

 あと、この金が実際に使えるか試してみたい気持ちもあった――というか、持ってると危険な気がしてならない。


 食堂につくと、給仕の娘が席まで案内してくれた。先ほど部屋まで案内してくれた娘だ。

 席に着いて水を運んできたところで、周囲の様子がおかしいことに気が付いた。


「なんだか騒がしい気がするけど、いつもこんな感じなの?」

「あ、申し訳ありません。最近首都の方で大事件があったから、そのせいだと思います。落ち着かないなら個室のお席に御案内しますけど……」


 俺が不快感を示したと勘違いしたのか、ペコペコと謝ってくる娘さん。実に教育が行き届いているな。

 彼女が差し出したメニューを受け取りながら、手を振って勘違いを正す。


「ああいや、別に不快とかそう言うんじゃないんだ。ちょっと気になっただけで」

「そうだったんですか」


 ホッと胸に手を当てて、息を漏らす。その仕草が実に可愛らしく見える。

 小動物を愛でる気分で、俺は水を口に運び、喉を潤す。


「いえ、なんでも首都が魔神に攻撃されたとかで……結構大きな被害が出たそうですよ」

「ぶっふぉ!?」

「きゃっ!」


 待て待て、俺はまだアロンの首都に行った事なんて無いぞ?

 それなのになぜ、俺のせいになってるんだ?

 いや、そもそも俺以外に魔神と呼ばれる存在がいたとかか? それなら納得も――


「もう、咽るほど勢いよく飲まなくても……でも迷惑な話ですよね、魔神ワラキアって」


 やっぱり俺の仕業にされてた!?


「い、いや……でもそれって、本当に魔神の仕業だったの? ほら、見間違いの可能性とか?」

「この世界に100km以上も地面を割いて攻撃を仕掛ける存在なんて、ワラキア以外にいませんよー」

「100km?」

「ほら、ここからしばらく東に行った所にある平原。あそこから首都までずばーって」


 まさかあれか。カツヒトとのトレーニングの時の……?


「新設された魔神対応部隊の調査に拠ると、周囲には盗賊の死体もあったそうなんですよね。迷惑な話です」

「う、うわー、そうなんだ、こわいなー」


 死んだ魚のような目で、カタカタと震えながら水を口にする。

 まずいな、被害が出たって言うけど、どれくらいの被害なんだ? 城壁が壊れたとかか? 弁償とかいくら位するんだろう?


「なんでも評議員達が半数以上死亡したとか――」

「ぶふぇあ、げほっ、がはっ!?」


 死者が出てんじゃねぇか!

 しかも議員半数ってどれくらいだ? 日本の衆議院だと150人以上か。もう謝って済むレベルじゃない。


「そそそそ、それは、タイヘン――」

「それを受けて、魔神ワラキアに再度賞金が掛けられたそうなんですよ」


 ビバ、賞・金・首・復・活!


 マズイ、この街はヤバイ。早めに逃げ出した方がいいかもしれない。

 そこへ、二階からカツヒトが降りてくるのが見えた。

 ピンチだ。あのアホの口から真実が垂れ流されたら……死にはしないだろうが、面倒な事になるのは間違いない。


 ここで逃げ出すのは簡単だが、その前に真実を知るあいつの口を封じておかねば、せっかく変えた顔が無意味になってしまう。


「――いっそ、殺るか?」

「はい?」


 俺の一人ごとに首を傾げる給仕ちゃん。

 悪いがここは出来るだけ早く立ち去ってもらおう。


「いや、なんでもないよ。今日のお勧めは?」

「あ、すみません、雑談ばかりで。今日は鶏のグリルがお勧めです。それと野菜のスープのセットがお得ですよ?」

「じゃあそれとパンを……後、軽くエール酒を一杯」

「かしこまりました。しばらくお待ちくださいねっ!」


 クルンとスカートの裾を翻しながら厨房へ戻っていく。

 ああ、もったいない。元気で明るくていい子なんだけどなぁ。会話とか楽しめそうだったのに。


「やあ、アキラじゃないか。君も今から食事か?」

「ああ、今日は鶏がお勧めらしいぞ」

「そうか。あ、キミ。ボクにも同じ物を」


 通りすがりの給仕に、カツヒトがオーダーを出す。

 そしてさも当然と言う風な態度で、俺のテーブルに腰を落ち着けた。

 いつもならウザいと思うところだが、今回に限っては都合がいい。こいつが俺という存在をカムフラージュしてくれれば、恩の字だ。


「そうだ、カツヒト。この間の事だが――」

「なぁ、アキラ、知ってるか? この近辺に魔神ワラキアが出没したそうだぞ!」


 ガコンとテーブルに頭を打ちつけた。

 なんでこいつ、こんなに耳が早いんだ……?


「お前、いつその話聞いたんだよ?」


 俺だって、部屋で旅装を解いてから、金の合成の実験をしてすぐ降りてきたんだ。

 時間的にはほとんど無駄が無い。

 それなのにこいつは、すでに話を聞いている。


「ああ、部屋に案内された時に給仕の子から。少し意気投合してしまってね」

「あの子口軽っ!?」


 いや、これは言い掛かりかもしれない。

 そもそも魔神の風聞なんて、口を封じるような物でも無いのだ。


「そこでだ、アキラ――」


 ここでカツヒトは声を潜めて、俺に話しかけてきた。

 まるで、ヤバい儲け話でもするかのように……


「なんだよ?」

「俺達で、魔神を倒しに行かないかい?」


 これ以上無いくらいのドヤ顔で、カツヒトはそう提案して来たのだった。


複数更新はここまでとなります。

明日からは19時の1日1回更新です。御了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ