第22話 首都の被害
とりあえず出来たて金貨を握りしめて食堂へ向かう。
どんな時でも腹は減るのである。
あと、この金が実際に使えるか試してみたい気持ちもあった――というか、持ってると危険な気がしてならない。
食堂につくと、給仕の娘が席まで案内してくれた。先ほど部屋まで案内してくれた娘だ。
席に着いて水を運んできたところで、周囲の様子がおかしいことに気が付いた。
「なんだか騒がしい気がするけど、いつもこんな感じなの?」
「あ、申し訳ありません。最近首都の方で大事件があったから、そのせいだと思います。落ち着かないなら個室のお席に御案内しますけど……」
俺が不快感を示したと勘違いしたのか、ペコペコと謝ってくる娘さん。実に教育が行き届いているな。
彼女が差し出したメニューを受け取りながら、手を振って勘違いを正す。
「ああいや、別に不快とかそう言うんじゃないんだ。ちょっと気になっただけで」
「そうだったんですか」
ホッと胸に手を当てて、息を漏らす。その仕草が実に可愛らしく見える。
小動物を愛でる気分で、俺は水を口に運び、喉を潤す。
「いえ、なんでも首都が魔神に攻撃されたとかで……結構大きな被害が出たそうですよ」
「ぶっふぉ!?」
「きゃっ!」
待て待て、俺はまだアロンの首都に行った事なんて無いぞ?
それなのになぜ、俺のせいになってるんだ?
いや、そもそも俺以外に魔神と呼ばれる存在がいたとかか? それなら納得も――
「もう、咽るほど勢いよく飲まなくても……でも迷惑な話ですよね、魔神ワラキアって」
やっぱり俺の仕業にされてた!?
「い、いや……でもそれって、本当に魔神の仕業だったの? ほら、見間違いの可能性とか?」
「この世界に100km以上も地面を割いて攻撃を仕掛ける存在なんて、ワラキア以外にいませんよー」
「100km?」
「ほら、ここからしばらく東に行った所にある平原。あそこから首都までずばーって」
まさかあれか。カツヒトとのトレーニングの時の……?
「新設された魔神対応部隊の調査に拠ると、周囲には盗賊の死体もあったそうなんですよね。迷惑な話です」
「う、うわー、そうなんだ、こわいなー」
死んだ魚のような目で、カタカタと震えながら水を口にする。
まずいな、被害が出たって言うけど、どれくらいの被害なんだ? 城壁が壊れたとかか? 弁償とかいくら位するんだろう?
「なんでも評議員達が半数以上死亡したとか――」
「ぶふぇあ、げほっ、がはっ!?」
死者が出てんじゃねぇか!
しかも議員半数ってどれくらいだ? 日本の衆議院だと150人以上か。もう謝って済むレベルじゃない。
「そそそそ、それは、タイヘン――」
「それを受けて、魔神ワラキアに再度賞金が掛けられたそうなんですよ」
ビバ、賞・金・首・復・活!
マズイ、この街はヤバイ。早めに逃げ出した方がいいかもしれない。
そこへ、二階からカツヒトが降りてくるのが見えた。
ピンチだ。あのアホの口から真実が垂れ流されたら……死にはしないだろうが、面倒な事になるのは間違いない。
ここで逃げ出すのは簡単だが、その前に真実を知るあいつの口を封じておかねば、せっかく変えた顔が無意味になってしまう。
「――いっそ、殺るか?」
「はい?」
俺の一人ごとに首を傾げる給仕ちゃん。
悪いがここは出来るだけ早く立ち去ってもらおう。
「いや、なんでもないよ。今日のお勧めは?」
「あ、すみません、雑談ばかりで。今日は鶏のグリルがお勧めです。それと野菜のスープのセットがお得ですよ?」
「じゃあそれとパンを……後、軽くエール酒を一杯」
「かしこまりました。しばらくお待ちくださいねっ!」
クルンとスカートの裾を翻しながら厨房へ戻っていく。
ああ、もったいない。元気で明るくていい子なんだけどなぁ。会話とか楽しめそうだったのに。
「やあ、アキラじゃないか。君も今から食事か?」
「ああ、今日は鶏がお勧めらしいぞ」
「そうか。あ、キミ。ボクにも同じ物を」
通りすがりの給仕に、カツヒトがオーダーを出す。
そしてさも当然と言う風な態度で、俺のテーブルに腰を落ち着けた。
いつもならウザいと思うところだが、今回に限っては都合がいい。こいつが俺という存在をカムフラージュしてくれれば、恩の字だ。
「そうだ、カツヒト。この間の事だが――」
「なぁ、アキラ、知ってるか? この近辺に魔神ワラキアが出没したそうだぞ!」
ガコンとテーブルに頭を打ちつけた。
なんでこいつ、こんなに耳が早いんだ……?
「お前、いつその話聞いたんだよ?」
俺だって、部屋で旅装を解いてから、金の合成の実験をしてすぐ降りてきたんだ。
時間的にはほとんど無駄が無い。
それなのにこいつは、すでに話を聞いている。
「ああ、部屋に案内された時に給仕の子から。少し意気投合してしまってね」
「あの子口軽っ!?」
いや、これは言い掛かりかもしれない。
そもそも魔神の風聞なんて、口を封じるような物でも無いのだ。
「そこでだ、アキラ――」
ここでカツヒトは声を潜めて、俺に話しかけてきた。
まるで、ヤバい儲け話でもするかのように……
「なんだよ?」
「俺達で、魔神を倒しに行かないかい?」
これ以上無いくらいのドヤ顔で、カツヒトはそう提案して来たのだった。
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