表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
21/178

第21話 スキルの真価

 カツヒトと共に紹介された白樺亭にやってきた。

 見た感じ、二階建てで一階が食堂、二階が宿と言うオーソドックスな作りの宿だ。

 食堂は客でごった返しており、相当賑わっている。


「ほう、ここまで客が入っていると言う事は料理には期待できそうだ」

「お前の料理よりは、よっぽどな」


 この一週間、カツヒトの世話を受けてきた俺が言うのもなんだが……こいつは生活力がない。

 肉は味付けせずに焼くだけ、野菜も水に突っ込んで煮るだけ。

 こいつの作る料理とは、そういうレベルの物ばかりだったのだ。


「お前、ステータスの器用度は高いのに、料理は酷いものだよな?」

「あれは……まぁ、なんだ。基本的な知識の欠如というか、だね――」

「まぁ俺も、野郎料理で心ときめかせたりはしないけどな」

「当たり前だ! 何を気色の悪い……」


 本気の鳥肌を立てて、カツヒトが少し離れる。

 安心しろ、俺はノーマルだ。ややロリコンに目覚め掛けてはいるが――シノブのせいで。


 仕方ないだろう、職場に女っ気がまるでなかったのだ。

 家族以外の女性と触れ合うとか、本気で一年ぶり位だったかもしれない。


 宿に入るとそこは灯を大量に使った、明るい雰囲気の食堂だった。

 よく見ると、家族連れの顔まで見て取れる。

 近所の美味しい料理屋と言う雰囲気があって、アットホームで良い。


「いらっしゃいませー、白樺亭へようこそ。お食事ですか? それともお泊りで?」


 入店した俺達を出迎えてくれたのは、十代半ばの給仕服の少女だった。

 シノブよりは少し年上に見える、素朴な雰囲気の少女だ。

 彼女にカツヒトが気取った顔でオーダーを出す。そういえばこいつ、あの子と年齢的には釣り合うのか。


「泊まりでお願いしたい。男二人別々の部屋で」

「判りました――うん、お部屋は空いてますね」


 カウンターまで戻って宿帳を取り出し、空室を確認してこちらに差し出してくる。


「こちらにご記入お願いしますっ。あ、お部屋は少し離れてますけど問題ないですか?」

「まったく問題ない。むしろ、宿の端から端まで離れてても問題ない!」


 妙に力説するカツヒトがおかしかったのか、少女は口元に手を屋ってクスクスと笑い出した。


「あ、ベッドはありますけど、寝るときは鎧脱いでくださいね? たまに居るんですよ」

「鎧着たままとか、寝れるのか……?」

「戦争中ですから、後ろ暗い人もいるみたいで――」


 声をひそめる様に告げる少女に、俺は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

 まさか見抜いているんじゃないだろうな?


「は、はは……物騒だな」

「本当ですよねー」


 奥の鍵掛けから鍵を取り出し、こちらに渡してくる。

 その表情に悪意は無い。先ほどの牽制は偶然の産物だろう。


「じゃ、お部屋に案内しますね」


 別の給仕に後を任せ、俺達の部屋へと案内してくれる事になった。





 案内された部屋は、豪華では無いが小ざっぱりしたいい感じの部屋だった。

 質素ながらも掃除が行き届いていて、清潔感がある。


「山小屋の万年床とは大違いだな」


 荷物を放り出し、旅装を解きながら、そんな事を口走る。

 埃まみれの服を新しい物に着替え、手拭いを取り出して水差しの水を掛けておしぼりを作る。

 それで顔や手を拭いて、大きく息を吐き出した。


「本当なら風呂に入りたいところなんだがな……」


 この世界でも風呂は一般的な文化の一つである。

 だが、こういった小さな宿では大浴場というのは期待できない。

 せいぜい、裏手の井戸で水浴びする程度だろうか?


「金を払えば、部屋に湯を運んでくれるんだろうけどな」


 とは言え、俺も所持金に余裕がある訳では無い。

 農業で稼いだ僅かな蓄えと、アンサラで倒した騎兵の馬具などを売った金程度しか持ち合わせてはいないのだ。


 それに顔を変えたとは言え、大きく変わった訳では無い。

 言い掛かりを付けられ、濡れ衣――ではないか。冤罪紛いの罪を押し付けられ、投獄される可能性だって、なくなった訳では無い。

 派手な真似はやはりできない。


「いっそ、【練成】で金とか作れたらいいのに……」


 そこまでボヤいて、ふと気が付いた。


 ――本当に、できないのか?


 俺の【練成】能力は常識を大きく跳び超えている。

 剣の金属を混ぜ合わせ、別の金属に精製するくらいの事はできた。

 あの、アンスウェラーと言う剣は、まるでチタンのように軽く硬い金属になっていたはず。


「ひょっとして分子構造を【練成】で変化させて、別物質を精製するとか……できる?」


 試しに銅貨を取り出して、【練成】を掛けて見る。

 貨幣のデザインは金貨も銀貨も、銅貨もまったく同じである。

 原子の構造を並べ替え、別の分子に作り変え、銅を銀に、銀を金に――


「――できたし」


 パリパリと小さな放電を繰り返した後、俺の手の中には金貨が一枚納まっていた。

 確認のため、二つに割ってみたが、きちんと中まで金でできていた。


「なんだよ、これ。今までの労働って無駄かよ!?」


 これなら山に引き篭もってだらだら暮らしてても良かったじゃないか。

 そんなダメな方向に走る思考を無理やり引き戻す。

 とりあえず金貨は元の形に戻しておこう。


「いや、畑仕事も楽しかったからいいんだ。今はそれどころじゃない」


 物質の成分にまで【練成】できるとなると、俺のできる事は大幅に広がる。

 この一年、自分や武器の強化に【練成】を使うことはあっても、成分にまで【練成】した事はなかった。

 というか、普通ならそこまでやろうとは思わない。


「いやー、無から有を生み出す事はできないけど、有から何でも生み出すことができるってか。もはや神じゃね?」


 あの時、あの白い空間で、この能力のポイントだけが異様に高額だった訳が判った。

 神に等しい影響力。それこそが、この【練成】の本質だったのだ。


「うわー、なんか怖ぇ……」


 魔神の二つ名も、あながち間違いじゃなかったと言うことか。

 俺はほのかに発熱する金貨を握りしめて、そんな事を呟いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ