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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
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第18話 槍の訓練

 公共馬車と言っても、一日で次の街まで辿り着けるような便利な物ではない。

 ここはゲームでなく異世界、距離と言う壁は厳然として存在しているのだ。

 なので夜になると馬を休める意味も込めて、揃って夜営する事になる。


「やぁ、済まないね。少々保存食が心許なくて」

「いいえ、孫を助けていただいたのですから、これくらいは」


 婆ちゃん、だから孫を助けたのは俺だ。

 というか、堂々と俺の隣を陣取るなカツヒト。


「お兄ちゃん、スープできたよー」


 お孫さんのリディアちゃんは誰が助けてくれたのか正確に把握している。

 甲斐甲斐しく俺に食事を運んだりして、世話を焼いてくれる様は見ていて微笑ましい。


 食事時はさすがにマフラーを外さないといけないので、人の輪から外れ、孤独に飯を食らう。

 子供のリディアちゃんや、目の弱った婆ちゃんだから気付かれていないが、カツヒトはどうなんだろう……と思ったら、こいつも気付いてやがらねぇ。

 そう言えばこいつもトーラスの生き残りなんだから、言わばお尋ね者になるのか。


 脛に傷を持つ者同士で、会話に花が咲く――とかよく聞くが、コイツに限ってはそんな事は無い。

 とにかくよく喋る。無駄にうるさい。今も俺に絶え間なく話しかけてくる。


「それにしても君もなかなか強いな。技はいまいちだが――それにその髪と瞳……」

「うるさいな、お前みたいに戦闘向けのスキルを持ってる訳じゃないんだ。それと、そこはご察しの通りと答えとく」


 俺の戦い方は、あくまで身体能力に頼った物だ。そこに技とか技術と言う概念は一切存在していない。

 それでも他者を圧倒する、無茶苦茶な強化が施されているのだから、何も問題ないのだ。


 それと、俺達日本人は明確にこの地域の人間とは顔つきが違う。

 黒い髪と瞳、やや平坦な顔つき、細いあご。

 それはこちらの地元民とは一線を画し、目立つ特徴として知られている。

 マフラーを使って顔を隠すのは、そういう部分の隠蔽効果も得られるので、便利ではある。


「そうか、君も日本人――」

「ダマレ」


 迂闊に俺の正体をバラしかけたカツヒトの頭を軽く叩いておく。

 本気で殴ると、頭が胴体にめり込んでしまうからな。


「いたた……だが、それはそれとして。技がないと真の強者が敵になった時に困るぞ? 力は容易(たやす)()なされる。能力に劣る人間が、この世界に覇を唱えることができたのも、知恵と技のおかげだ」

「知ってるって」


 身体能力で言うなら、人間は犬にすら劣る。

 だが、それを補って余りある知恵と道具、そして技で世界を制覇しているのだ。

 カツヒトの言っている事は実に正しい。

 もし俺の力を往なせる人物が現れたら、俺はこれ以上なく苦戦するだろう。


 ――だが、そんな奴はいるのか……?


 例えば筋力で言うと、この世界の一般人の平均は10~20程度。

 優れた身体能力を持つ異世界人であるカツヒトでも82、シノブは42しかなかった。

 それに対して俺の筋力値はと言うと――


 10(+99)である。


 +99は強化値で会って加算値ではないのだ。文字通り桁が違う。

 能力は100を超えれば超一流と言われている。

 シノブの敏捷度や魔力は、英雄レベルと言ってもおかしくない能力だったのだ。


「確かに君の身体能力はずば抜けているが、そのままではいつか怪我をするぞ? そうだ、ならば俺が君に稽古を付けてやろう!」

「はぁ?」

「何、それほどの能力があるのなら、たいした修行は必要ない。多少の技を覚えるだけでも、大きく効果があるはずだ!」

「いや、まて。俺はそんな物必要として――」

「食事を終えたらすぐ始めるぞ! さいわい予備の槍くらいは持っている!」

「人の話聞けよ。つーか、飯食った後に動いたら横腹痛くなるだろ」

「俺達、転移――」

「バカ黙れ!」


 この男、前線に送られなかったのはおそらくこの性格のせいだ。

 口が軽い、行動が軽い、考えが軽い。

 とにかくやる事成す事、全てが『浅い』のだ。


 こんなアホを戦地に送れば、こいつだけでなく周りの兵が迷惑する。

 特にシノブ辺りだと、胃に穴が開くだろう。


 こいつ自身は召喚者を名乗ってすでに手遅れなのだが、俺はまだそんな状況にはなっていない。

 ここでバラされて面倒に巻き込まれるのは、真っ平御免だ。


 結局、カツヒトの口を閉じさせるために、強引に修行を受けることになってしまった。

 まぁ、そこそこの腕はある奴だし、今後の事を考えれば、無駄にはならないか。





 皆が寝静まった頃合を見計らい、少し離れた場所でカツヒトと対峙する。

 場所を移したのは、俺が目立ちたくないからと言うのもあるし、訓練の音がうるさいと言うのもある。


 カツヒトが寄越した槍は2mを超える長さを持つ、ロングスピアと呼ばれる槍だ。

 その攻撃力は比較的高い。


 手に持ったそれを鑑定して見ると――



◇◆◇◆◇


 ――ロングスピア+5。

 攻撃力:38 重量:5 耐久値:100

 長い柄を持つ両手槍。高い攻撃力を持つ。


◇◆◇◆◇



 ふむ、店売りとは言わないが、普通に街で手に入る程度の強化の施された、そこそこの代物だ。

 ロングスピアの基本攻撃力は確か24ほどだったので、5割ほどの威力強化が成されている事になる。

 ちなみにカツヒトの持つ槍はと言うと――



◇◆◇◆◇


 ――アルシェピース+10。

 攻撃力:67 重量:6 耐久値:88

 持ち手まで金属で覆われた中型槍。リーチがやや短いが取り回しがよく、威力はかなり高い。


◇◆◇◆◇



 こちらもそれなりの高品質。

 アルシェピースは柄まで鉄でできているので、ロングスピアより重い。その分威力が上がるので、熟練を要する武器だ。

 強化も、そこそこの街でないと行えないほど高い。

 アルシェピースの基本攻撃力は26。こちらはなんと2倍を超える威力増だ。

 ただし、昼の戦闘で少し耐久値が下がっている。


「お前の方がいい槍じゃん」

「当たり前だ。俺の愛槍だぞ。人には貸せん」


 それでも大した額にはならんとは思うけどな。

 槍は基本(ベース)の価格が低いのが特徴なのだ。


「それじゃ行くぞ。槍は突くのが基本形となるが、それでは囲まれた時などスムーズに戦う事ができない」


 確かに槍は突く武器だ。だが、それでは敵を一人刺した段階で肉に食い込み、続けざまの攻撃ができなくなる。

 それは戦場では致命的な隙になるのだ。

 なので戦場では小姓を一人連れ歩き、そいつに予備の槍を持たせて、一人刺す毎に槍を使い捨てるなんて戦法を取る事すらある。


 もちろんそれでは長く戦えない。そこで必要となるのが、相応の技術である。


「胸や腹を突くのは確実性が高く、致命傷を負わせやすいが、それでは死体に槍を持っていかれる可能性がある。そこで狙うのが、首だ」


 首は頭と違い余り動かず、しかも防御が薄く致命傷を負わせやすい。

 しかしその分敵も警戒しているので、当てにくい。


「だが君の速度なら充分射抜けるはずだ。こう、腰を捻って身体全体を加速させ――」

「こうか?」


 カツヒトの真似をして素振りすると、ヒュゴッと()()を突き破る感触が伝わり、槍先から衝撃波が飛び出す。

 それは大地を割り、夜営中の草原を突っ切り、遥か彼方まで飛んでいった。


「……………………」

「………………………………訓練、やめておこうか」

「そうだな」


 もうもうと舞い上がる土煙を見て、俺は自分の危険性を再確認したのだった。





 アロン共和国首都、クラウベル。

 その夜、大陸有数の首都が謎の襲撃を受けた。

 突如として襲いかかった衝撃波が首都を切り裂き、評議事堂すら粉砕したのである。


 折悪しく、ファルネア侵攻の会議が開かれており、これに参加した議員が多数死亡する事態に発展。

 これにより、議会は壊滅。議員が激減し、アロンの軍事行動は大きく制限される事となった。


 この攻撃はファルネア方面から飛来した事が後に判り、アンサラで現れた魔神の報復として、世に知られる事になるのだった。


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