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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第2章 キフォン編
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第17話 槍使いの少年

 少年は馬鹿だったが、戦闘力は本物だった。

 前に5人、後ろに4人。

 他にも左右を固める盗賊が2人ずつ。

 総勢13人を敵に回していたにも係わらず、平然と戦いを続け、一人、また一人と数を減らして行く。


 その槍の腕ももちろんだが、合間合間に使う風の魔法の使い方が上手い。


 槍に纏わせ、威力を強化する。

 体に纏わせ、攻撃を受け流す。

 敵に纏わせ、動きを制限する。


 自由自在に魔法を起動し、着実に敵を討ち倒していく様は、まるで英雄物語の一幕のようだった。

 ……アホじゃなければ。


「くっ、こうなったら……野郎共、人質を取れ! この正義馬鹿はそれで動けなくなる」

「なんだって!? 貴様、卑怯だぞ!」


 あからさまに自分の弱点を口外し、狼狽する少年。

 マズイと思うんだったら口にするな。


 盗賊の一人が俺のそばまで駆け寄り、婆さんを突き飛ばしてリディアちゃんを人質に取った。


「ああっ、リディアァァァ!?」

「お婆ちゃん!」

「動くなよ、動くとこのガキの首がわらばっ!?」


 まぁ、そばにいた俺をノーマークにしてる時点で、こいつ等も同レベルの馬鹿だな。

 俺は人質を取って調子に乗る盗賊の頭に、自慢の鍬を叩き込んでやった。

 顔面を耕された男は、奇声を上げてすっ飛んでいく。

 ちょっとリディアちゃんの顔にナイフが掠っちまったが、まぁ良しとしよう。


 上半身血まみれの彼女を確保しながら、こっそり【練成】を起動して、顔の傷を消しておく。

 痕が残ったら可哀想だし。

 そのまま婆ちゃんに押し付けるように預けておく。


「ほう、そこの君。なかなか腕が立つようだね。助勢感謝するよ」

「お前、そんな話し方で疲れないのか?」


 コイツといい、シノブといい、奇妙に堅苦しい話し方をするヤツばっかりだ。

 やはり戦場と言うのは、精神に一定の負担を与えるのだろうか?


「いや、いつの間にか、こうなっていたのだよ。それより俺の背中を預ける。さすがにこの数を相手取るのは時間が掛かる」


 無理とは言わないか。

 確かにそれだけの腕はあるようだ。

 だが――


「断る。男の背中を護る趣味はない」

「なっ、つれないぞ!?」

「俺は馬車を護っとくから、お前は思う存分盗賊共と戯れとけ」

「なるほど、後方支援と言うやつだな!」


 違う、というかコイツも視野の狭いヤツだ。

 馬車を護らないと、また人質にされちまうだろうが。


 だが、この一件で戦いの趨勢は決したと言える。

 馬車には俺がいて、盗賊どもが近付けない。近付こうものなら、乗客に配った石で投石が雨霰と飛んでくるからだ。

 それをかいくぐった運の悪い者は、容赦無く鍬で耕しておく。


 そしてその向こうでは謎の騎士様が盗賊相手に無双をしている。

 やがて半数以下に減らされた盗賊は、背を向けて逃げ出し、背後から風の魔法を撃ち込まれ、一人残らず殲滅されていった。





 少年は槍に付いた血を振るって、周囲を観察している。

 恐らくは死んだ振りをしている盗賊がいないのか、警戒しているのだろう。

 その隙を突いて、俺は【識別】を起動しておいた。

 【練成】の精査はごく僅かな静電気のような痺れが走るので、注意すれば気付くらしいが、【識別】ではそういう違和感は存在しない。

 そんな事をシノブが言っていたので、大丈夫なはずだ。



◇◆◇◆◇


名前:須郷克一(すごうかつひと) 種族:人間 性別:男

年齢:17歳 職業:騎士Lv10


筋力 92

敏捷 75

器用 80

生命 98

魔力 38

知力 25

精神 63


スキル:

【アイテムボックス】

【言語理解】

【槍術】 Lv6

【風属性魔法】 Lv3

【魔力操作】 Lv1


◇◆◇◆◇



 これはまた……シノブもかなり強いと思っていたが、コイツも負けないほどぶっ飛んでいる。

 シノブより身体能力のバランスは高いが、スキル的にはかなり下がるか?

 【識別】系は持ってないようだ。これは一安心。

 多彩に魔術を使用していたのは【魔力操作】のおかげだろう。

 だが魔力はそれほど高くない。補助的に使っていたのは、それが一番効率がいいからか。


「やあ、助かったよ。君がいてくれてよかった」

「そりゃ結構な事で。お前はもうちょっと周囲を見ろ」


 無駄にさわやかな笑みを浮かべながら、こちらに握手を求めてくるカツヒト。

 その手を握り返しながら、俺は忠告を発する。


 先ほどの戦いで判ったのだが、コイツは非常に視野が狭い。

 目の前の敵を倒すことに集中すると、馬車の乗客の事はスコンと抜け落ちていたのだ。

 このままでは、先ほどのように人質を取られて野垂れ死ぬ未来しか見えない。

 知力の低さが影響してるのかもしれないが……


「いやぁ、俺もそれは注意しているのだよ。おかげで一年前も最前線からは引き離されてしまってね」


 なるほど、コイツはシノブのように前線にはいなかったのか。

 トーラス本国にいれば、俺の破壊に巻き込まれて死んでいただろうから、後方支援か何かだったのかな?


「他の皆も怪我はないかい?」

「あ、ありがとうございます、騎士様!」

「孫を助けていただいて、感謝の言葉も――」

「いや、婆さん。孫助けたのは俺だぞ」


 このアホはただ出てきて暴れただけだ。

 まぁ、おかげで目立つことは避けられたので、感謝はしておく。


「俺はこの先のキフォンまで行く予定なんだ。君達もそこまでで良ければ一緒に行かないか?」

「それはありがたい! この馬車は街道を行く予定だったので、護衛は付けて無いのです。騎士様がいてくれるならば心強い」

「まてや、こら!」


 さすがにそこで俺は言葉を挟んだ。

 命を助けられてテンションが上がっているのだろうが、一つ重要な事を見落としている。


「コイツはトーラスの騎士だぞ。しかもその紋章を堂々と付けているアホだ! これを何とかしないと、この先面倒の方から寄ってくる事になるぞ」

「あ、そう言えばそうだったね。道理で検問のたびに兵士に襲われると……」

「気付けよ!?」


 こうして俺は、槍使いの召喚者スゴウ・カツヒトと出会ったのである。


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