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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第17章 西方鎮圧編
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第161話 南方探索

大変お待たせしました。再開します

 それから俺達は順調に南に進み、ついにキフォンとクジャタへ向かう分かれ道に到達した。

 ここからカツヒトとネフィリムは東のキフォンに、俺達は西のクジャタに向かう事になる。

 

 それなりに長く一緒に生活してきた仲間との別れに、微妙な表情で向かい合う。

 ちなみにラキアはいつも通りだった。付き合いが浅いので。


「じゃあ、お別れだな」

「ああ、アキラも元気で……っていうのもおかしいか。お前なら殺そうとしても死なない」

「そんな事は私がさせない」

「シノブ、そういう事はへっぴり腰で言うセリフじゃないぞ」


 昨夜の激戦の疲労から、シノブとリニアはいまだ足が震えている。

 剣を杖代わりにしながら、ようやく立っている有様だ。


「アキラも二人にはあまり負担をかけるなよ?」

「おい、ここでそういう下ネタを振ってくるのか……いや、お前こそ、ネフィリムに吸い殺されるなよ?」


 ネフィリムはラキアをベースに身体が作られている。

 つまり奴は、巨人の身体能力と、サキュバスの魔力を併せ持つ、ある意味超存在になっていた。

 本人に魔法関係への興味が無いのが、救いと言えば救いか。

 

「安心しろ、彼女――と言っていいのか? とにかく、今のネフィリムは俺には興味を持ってないさ。自分の身体に興味があったから、協力者として俺を選んだだけだって言うのはわかってる」

「ん? ああ、そうか。そういう考え方もあるんだな。いや俺は、カツヒトがそれなりの強者だったから選んだんだぞ?」


 俺達の別れを興味なさそうに見ていたネフィリムだったが、自分の話題を振られて、割り込んでくる。

 根が正直なこいつは、聞かれた事には素直に答える。男女としてカツヒトが好きなわけではないが、強者と認め好感を持っているのは確かなようだ。


「だってさ。良かったな、カツヒト。まだ見込みがあるぞ」

「そう言うモノかな……?」

「ネフィリム、カツヒトの事を頼むぞ。こいつはこう見えて、かなり抜けてる」

「おう、まかせとけ!」


 ズドンと胸を叩いで保証するネフィリムだが、その拍子に胸が波打った。

 さすがラキアベースのワガママボディ、破壊力がハンパねぇ……


「それじゃあな」

「カツヒト、元気でな。離れていてもお前の事は仲間だと思っている。困ったことがあったらぜひ訪ねてくれ」

「シノブの力を借りるほど切羽詰まってると、そんな余裕は無いと思うんだが」

「わたしはご主人ほど器用じゃありませんので、こんな物しか差し上げられませんが……」


 リニアは懐から、髪を編みこんだ腕輪を差し出した。

 それをカツヒトの腕に巻き付けていく。


「仲間や家族の髪を編みこんだ腕輪です。安全祈願のお守りとして有名なんですよ」

「へぇ……感謝するよ、リニアさん」

「む、なら我も何かやったほうがいいか?」


 そう言ってラキアはごそごそと身体を漁るが、元々が無一文の彼女にそんな餞別があろうはずがない。

 そこで彼女はこわい棒用の紫水晶を取り出し、首飾りにするよう俺に要求してきた。

 カツヒトへの餞別なのだから、俺にこれを断る道理はない。


「むふ、我とアキラの初めての共同作業じゃな」

「気持ち悪いこと言うな!?」


 いや、ラキアは美少女な外見なので気持ち悪い事はないのだが、そう言う作業は夜に床でお願いしたいものである。

 スパンと頭を叩かれ、それでもめげずにラキアは呪文を唱え、魔法をかけていく。


「こんな物かな? 我の魔力を込めた水晶じゃ。淫魔族なら、この魔力を感知したら尻尾を巻いて逃げだすぞ」

「それは金輪際サキュバスには襲われないって事かな?」

「まあ、そうじゃな。我と同程度の魔力を持つものなら効かんが」

「それって魔王クラスって事じゃないか。いや、ありがたく頂くよ」

「うむ!」


 満足そうに微笑むラキアを見て、こいつも少し変わってきたか、と俺は思った。

 我儘で自由奔放な奴だが、仲間意識はきちんと持っている。魔王と認定されたのが不思議なくらい、気のいい奴なのだ。


 それはネフィリムにも言える事だ。

 奴も傍若無人で乱暴者ではあるが、話せばわかるタイプの男だった。

 まともに対話が成されていれば、奴も魔王と呼ばれる事はなかったはず。


 転移してきた俺達に対する対応を見ても、この世界の施政者達は狭量と言わざるを得ない。

 俺に対して害を与えてきたのは、圧倒的に人間の方が多いのだから。


「じゃあ、気をつけてな。お前は俺と違って、殺せば死ぬんだから」

「ああ、ありがとう」


 俺は闇影をカツヒトに渡しながら、注意を促した。

 このカタナを持つ事で、カツヒトはその圧倒的身体能力を隠す事ができる。

 無駄に爽やかな笑みを浮かべながら、それを受け取るカツヒト。


 お互い居場所を把握しているわけだし、会おうと思えば会える。スマホモドキだってある。

 だからこれは今生の別れではない。

 それでもやはり、寂しさは拭えない。


 こうして俺達は、カツヒトと別れを告げ、帰路へ着いたのだった。





 カツヒトと別れてから、俺達はしばらく無言で旅を続けていた。そんな空気を察してか、ラキアもあまり騒々しくはしていない。

 そうして黙ったまま荷車を牽き続け、クジャタの町まで到着した。

 町のそばまで来て俺は荷車の速度を普通に見える速度にまで下げて、ゆっくりと牽いて行く。

 恒例の身元確認のための列に並んで、のんびりと順番を待つことにした。


「まさか、カツヒトが抜けるとはな――」


 口に出す意図はなかったのだが、無意識にそう漏らしていたらしい。

 俺の独り言を聞いて、リニアは心配げな表情でこちらを見やる。


「ご主人は特にカツヒトさんとは仲が良かったですからねぇ?」


 そう聞かれ、俺はリニアと一緒にカツヒトを探していた頃を思い出す。

 奴との付き合いはまだ一年ほどしかない。そういう意味では、リニアが不思議に思っていてもおかしくはない。


「同郷の出だったしな……それにこの世界じゃシノブに次いで長い付き合いになるかな?」

「少しばかり嫉妬しますよ。奴隷だから、そう言える立場ではありませんが」

「それだ!」


 リニアの発言で、俺は大事な事に思い至った。

 彼女の隷属の首輪は、元々彼女の覚悟を見せるための代物。

 リニア自身の能力が桁外れなので、その効果を十全に発揮で来ていないが、それでも付けている限りは俺の奴隷である事は変わりない。

 そして今まで、何度も『外すか?』と聞いてきたが、『情けの一つも掛けられないうちに外すわけにはいかない』と断られ続けてきた。

 その『情け』も、昨夜達成した。つまり今のリニアにはこれを外す言い訳は存在しない。


「リニア、お前いい加減その首輪を外せ。条件は昨夜達成しただろう?」

「え、これですか!?」


 俺の言葉に、まるで大事な物を奪われるかのような仕草で、首元を隠すリニア。

 身をよじって避ける仕草までしている。まるで俺が極悪人みたいじゃないか。


「そうだよ。それがなくなれば、お前は俺の奴隷の立場から解放されるだろう?」

「それはそうですが……いえ、断る理由もなくなったわけですが……」


 いつになく、歯切れの悪い態度。その態度があからさまに『嫌』と言う感情を表している。

 奴隷なんて身分に、なぜそこまで固執するのか、わからない。


「奴隷にこだわる理由でもあるのか?」

「その、わたしというより……えっと……」

「多分、リニアさんは私を気遣ってくれてるんじゃないかな?」


 そんなリニアに助け舟を出したのはシノブだった。

 だが俺にはその意味が分からない。


「シノブを気遣って奴隷に? なんでだ?」

「ほら、奴隷だったら『正妻』の座には就けないだろう? 私がそこにこだわっているから、彼女は奴隷としての身分にこだわっているのかと」

「そうなのか?」


 確かに奴隷を嫁にすると言う風潮は、この世界には無いらしい。

 だからリニアが奴隷である限り、俺の正妻の座はシノブかラキアのモノになる。

 そしてラキアは俺への好意がシノブより一段落ちる。必然的に、正妻の座はシノブのモノになると言うわけだ。


「その、はい……わたしが自由になれば、シノブは要らぬ心配をするんじゃないかと」

「リニアさんは気を使い過ぎだ。私はもうリニアさんを本当の姉のように思っているのに」

「じゃあ、わたしがご主人を独占しても許せます?」

「ぜったい許さん」

「いい話が台無しです!」


 リニアが頭を抱えて絶叫したところで、俺は周囲の視線に気が付いた。

 なんだか『いいもの見た』的な視線を向けられている。

 外から見れば、成長の遅いシノブと、小人族のリニアは姉妹のようにも見える。

 その二人と銀髪褐色肌の美少女のラキアが仲良さそうに騒いでいるのだから、微笑ましい気持ちになるのも無理はない。

 だがその一部の視線が、リニアの首の隷属の首輪に気付くと、やるせないような感情を俺に向けるのが感じ取れた。

 この視線は正直、あまり気持ちのいい物じゃない。


「俺としてはリニアに早く自由になってもらいたいところなんだが……周囲の視線も痛いし」

「まあ、そこはシノブと応相談と言う事にしましょう」

「いや、私は全然かまわないと――」

「わりと奴隷プレイも気に入ってますし?」

「プレイとか言うな」


 外聞の悪い事を吹聴するリニアを引っ捕まえ、こめかみをぐりぐりと抉る。

 みゃーみゃーと猫のように鳴きながら、暴れるリニア。


 そんな風に騒いでいると、ようやく俺達の入市チェックの番が回ってきた。

 例によってギルドカードを提示して、門を通されるのだが、そこで俺はいつもと違う雰囲気を察した。

 門のすぐ内側で武装した集団が隊列を組み、広場に集合していたのだ。


「なんだ……これ、なにかあるんですか?」


 俺はそばにいた門番に、その集団の事を尋ねてみた。

 いかにも物々しい雰囲気なので、また戦争絡みの問題でも起こるのではないかと危惧したからだ。

 だが門番は緊張した風もなく、町の人も往路の時と変わらない。

 いや、往路では俺が洪水騒ぎを起こして、緊張はしてたか?


「ん? ああ、これかい? これは南の砂漠への遠征隊だよ」

「南の砂漠?」

「ああ、南方魔王ガルベスが復活したって話があったろう? あれがホラだって噂があってね」

「ホラ?」

「いや、ホラって言うのは違うかな? 復活したのは確かなんだ。ほら、遠見の巫女様が予言なさったことだから」

「ああ、あの人ね……」


 イリシア、だったか。

 彼女の予言では俺も結構振り回されている。一度顔を合わせて、苦情の一つも言ってみたい気分だ。

 だがその情報の精度はさすがとしか言いようがない。俺は元より、カツヒトの存在にまで言及しているほどだ。

 解放軍とやらが情報源と確保しているのも理解できる。


「その後、炎の壁が立ちふさがって、自らの城に引きこもっているのかと思われていたんだけど、『ある筋』からの情報で、魔王はすでに死んでいるという話が舞い込んでね。それを調査しに行こうという集団が、あれだよ」

「ある筋の情報?」

「ああ、そうだ。その情報源は秘匿されていたけどな。そしてこの間、炎の壁が消え去ったのが確認されてね。探索に出ようという冒険者が集まっているのさ」


 俺はちらりとラキアに視線を流した。

 彼女は他の魔王の存在を感知できる風でもあったので、声を潜めて相談してみる。


「本当か、ラキア?」

「ん? ああ、本当だぞ。我とネフィリム以外の反応はないので、南天はすでに死んでいるか、または復活していない」

「高名な予言者が復活したって言ってるから、きっと死んでいるんだろうな」

「フン、南天がやられたか。だが奴は我等の中で一番の小物……」

「ヤメロ、どこからそのネタを仕入れてきた!」

「ん、昔『保護』した人間の中にそんな言葉を知っているのがいてな」


 どうも召喚以外でもこっちに来ている人間がいそうだ……だが今はいい。

 俺は再び門番に振り返り、話を聞くことにした。


「それで、集まっているは、依頼か何かで?」

「いや、自発的に集まった集団だよ。魔王の城ともなれば、財宝がある可能性が高いからな。それに町としても、魔王の存在は確認しておきたい」

「止める理由はない、と」

「そういう事だな」


 魔王が健在ならば、下手に兵を派遣するのは危険だ。

 しかし、それがただの民間人ならば、最低限の言い訳にできる。ましてや無法者の冒険者ならば、なおさらだ。

 そんな連中が、勝手に魔王城に乗り込む分には町としても気にしないし、それによって安否を確認できるのならば町側にはメリットしかない。

 強いて言えば、魔王城の財宝が手に入らないことくらいか。


「ふむ……」

「どうしたんだ、アキラ?」


 話を聞いて考え込んだ俺に、シノブが首を傾げて尋ねてくる。

 ここで俺が魔王城の探索に関わる義理は全くない。しかし、ラキア、ネフィリムと、俺が関わってきた魔王達は意外と気のいい者ばかりだ。

 もし生きているのなら、上手くすれば、仲間に引き込み、余計な軋轢を生む前に避難させられるかもしれない。

 もっともその可能性は、ラキアの探知によって皆無と言っていい。ならば安全にお宝探しに参加できるというわけだ。


「なあ、俺達も魔王城探索に参加してみないか?」


 俺は廃城探索と言う言葉に惹かれ、ついそう提案してしまったのだった。


10話ほどを1日おきに投下していく予定です。その後はまた英雄の娘の連載に戻ります。

一か月交代くらいで続けていければと思ってますので、ご了承ください。

またニコルをねこ吉様が描いてくださいました! よかったら見てください。

http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im7870653

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