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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第16章 東方魔王編
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第153話 生まれ変わる魔王

ここからしばらくTSキャラがが登場します。苦手な方はご容赦ください。

 おはよう諸君。

 人間、朝起きて一番に目に入ったモノが正体不明の巨人だと、言葉を失うもモノですね。

 と言うわけで、俺の前には今、謎の巨人の前に立っています。


「ラキア、これはなんだ?」


 巨人を指さし、俺は引率してきたラキアに尋ねた。

 当の巨人は俺の言葉を気にした風でもなく、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。


「これとは失礼な。我の旧友だぞ?」

「帰ってもらいなさい」

「おいおい、ツレねぇな! 俺はネフィリムってんだ。よろしく頼むぜ」


 謎の巨人はガハハと豪放に笑い、俺の肩をバンバンと叩こうとした。

 無論サイズが違いすぎるので、俺の頭をバンバンと叩くことになる。

 その一叩きごとに俺の足が地面にめり込んでいく。この威力、一般人だったらぺちゃんこになっているぞ?


「痛い、いや痛くないけど。ウザいからやめてくれ」

「おう、すまねぇな。サイズが違い過ぎてどうも勝手が違うわ」


 意外な事に、巨人は素直に俺の事を聞いてくれた。

 その一瞬の隙で、俺は巨人を【識別】する。



  ◇◆◇◆◇



名前:ネフィリム・タイタンズ 種族:巨人族 性別:男

年齢:0歳 職業:魔王 Lv:MAX


筋力 12532

敏捷 127

器用 52

生命 15271

魔力 17

知力 32

精神 8240


スキル:

【アイテムボックス】

【肉体強化】 Lv9

【格闘術】 Lv9

【生存術】 Lv9



  ◇◆◇◆◇



「うわぁ……」


 俺はそいつの能力を見抜き、思わず声を漏らした。

 筋力と生命力()()ならば、ラキアすら超える。完全な筋肉バカ。外見と能力がこれほど一致する奴も珍しい。


「フフン、素晴らしい能力じゃろ? 我が友は」

「元いた場所に戻してらっしゃい」

「そんな捨て猫みたいに言うなぁ!?」


 俺をボカボカ叩いて抗議するラキアだが、その一発一発で人間が挽き肉になるような威力が秘められている。

 これも俺じゃなければ大惨事になっているところだ。


「やめなさい、痛いから。痛くないけど」

「どっちなのじゃ?」

「それよりなんだよ、こいつ? また魔王じゃないか」


 すでにラキアという最強の魔王を目にしているため、俺は驚きはしてもそれで冷静さを失うことは無かった。

 それでもこういう連中が、そこら辺にうろついている現状はどうにかならないものか?


「ウム、エルバハと聞いてやっと思い出したのだ。奴はネフィリムの配下だった種族なのだ」

「ほう……?」


 つまりあの一件の黒幕がコイツという事になる。ならばここで消滅させるのも悪くない。

 能力は確かに魔王の名にふさわしく、桁外れに高い。

 だがそれでも筋力は俺の十分の一程度。本気で戦えば敵にはならない。


「待て待て。俺は山が吹き飛ぶまでは地下で眠ってたんだ。残していった雑魚が何しているかなんて、わかるはずがねぇ」

「管理責任ってものがあるだろう?」

「いくらなんでも無茶苦茶だ。タロスに殺されて地下で再生中だったんだぞ。どうやって管理しろってんだ? それに俺が健在だったら、そんなみみっちぃ真似させやしなかったって!」


 手を突き出して責任を回避しようとするネフィリム。そこへラキアも援護射撃してきた。


「アキラ、こやつは我の同類じゃ。見ての通りの筋肉バカ。事がこじれる度に全てを力ずくで解決してきた。そしていつの間にか東の魔王と呼ばれるようになっておったのじゃ」

「ラキア、俺をかばって……ついに嫁に来る覚悟が!?」

「無いわい!」


 ネフィリムの顔面に向けて【爆裂(エクスプロード)】の魔法を叩きこむラキア。

 本来一撃必殺とも言える上位の火属性魔法なのだが、それはネフィリムの髪を少し焦がす程度で抑えられた。

 だが威力をまともに受け、のけぞった巨人はその場に腰を落として座り込む羽目になる。


「まあ、こやつは昔から我に懸想しておってな。正直迷惑なので、ここはダーリンであるアキラの力を見せて、潔く身を引いてもらおうと思ったのじゃ」

「実に迷惑千万だ」

「それと、出来の悪ぃ部下を折檻してくれた礼を言いたくてな。正面から戦いを挑むならともかく、弱者を脅して生贄を要求するなんざ、巨人族の風上にも置けねぇ」

「いや、正面から戦争を起こされるのも、相当迷惑だからな?」


 なるほど、こいつはこういう奴か。まさにラキアと同類。悪意なき大迷惑。

 本来なら監視の目を外さない方がいい輩ではあるが、この図体で俺につき纏われるのは非常に目立つ。

 そう考えると、ラキアと同じように一緒に行動する訳にはいかない。


「どうすんだよ、こいつ?」


 放置して知らない振りしてルアダンに帰ってもいいが、また魔王復活となれば、世間は大混乱に陥る可能性がある。

 ぶっちゃけると、ここでぶっ殺しておくのが、一番話が早い。

 しかし、ラキアの旧友ともなると、こちらの都合で手を出すのは(はばか)られた。


「また人間共が騒ぎ出すのは俺でもわかっけどな! それより今はこいつだ、こいつ!」


 そういってネフィリムは自分の腕をバシンと叩く。その風圧で周囲に土煙が起こった。

 だが腕を叩いているだけで、何を主張したいのかわからない。


「さっきラキアが言っただろう? 力試しだ、力試し!」

「はぁ?」


 そう言えばさっき、俺の力を見せるとか言ってたか。つまり俺とこいつで殴り合いでもしろと?


「断固拒否する!」

「あぁん? 怖気付いたのか、てめぇ」

「何と言われようと、NO! 筋力一万越えのバケモンと殴り合って、この辺が無事で済むわけがない」

「ハッ、この期に及んで周囲の心配だぁ? 余裕じゃねぇか」


 戦いを避ける俺に、ネフィリムは嘲るような視線を向ける。

 どうやらこいつは、俺が敵わないと思って戦いを避けていると思っているようだ。

 そこへリニアが割り込んできた。こいつは俺より上位の【看破】という識別能力を持つので、奴の勘違いを知ったのだろう。


「言っておきますけど、ご主人はあなたより十倍は強いですよ?」

「ほぅ? 自信満々じゃねぇか、ちっこいの」

「確かにわたしはちっこいですけどね。それでもこれくらいはできるんですよ」


 背負い袋からフライパンを取り出し、くにゃりとへし折る。

 リニアの筋力は千四百を超える。それはこの世界の一般人の百倍に匹敵する筋力だ。それでもネフィリムの十分の一程度である。

 こんな奴を倒したタロスって奴もまた、シュルジーに負けず劣らずバケモノだったのだろう。


「はん、やるじゃねぇか。小人(リリパット)族でそこまでの剛力を見せる奴は初めて見たぜ」

「しょせん、小人族ですけどね。でもご主人はわたしの百倍は強いですよ!」

「へぇ……」


 そこでようやく、ネフィリムは俺を品定めするような視線を向けた。

 フライパンを素手でへし折るリニアよりも強いという言葉に、興味を持ったのだろう。

 だが俺はそれより先に、やらねばならない事がある。


「おい、なんで俺が戦う方向に誘導してんだよ?」

「あ、いえ。ご主人が侮辱されていたようなので、つい……」

「私もアキラがバカにされるのは、納得ができんぞ。アキラがやらないなら、私が――」

「やめとけ!?」


 シノブがアンスウェラ―を使えば、一方的な展開にはなるまい。それでも戦闘力で言うならまだネフィリムが圧倒している。

 おそらくカツヒトとリニアを含めて三人がかりならば、ネフィリムを倒す事も敵うだろう。

 彼女がそんな無茶を言い出したのも、俺が侮辱されたからというのも、男として嬉しい限りだが、無茶はいけない。


「あーもう、わかったよ! でも命のやり取りは勘弁だからな?」

「命のやり取りって、俺がちぃっと殴っちまうと大抵の人間は潰れちまうんだが?」

「いや、むしろお前の方が心配だ」


 俺の一撃は山すら砕く。こいつが山脈より頑丈だというのなら話は別だが、おそらくは無理だろう。

 闇影を使うという手もあるが、あれは俺の力を大幅に削り過ぎて、とてもじゃないがネフィリムに対抗できないくらい弱くなってしまう。

 純粋に力比べがしたいのなら……別の手を考えるべきだ。


「腕相撲、とかいいかもしれないが……」

「腕相撲?」

「こう、腕を組みあってお互いの力を比べあうんだ。カツヒト」

「おう」


 カツヒトは俺と腕を組み、腕相撲の手本を見せてくれる。それを見てネフィリムも興味津々という様子だった。

 奴は自分の姿を見下ろし、首をひねった。


「腕の甲を地面に付けられたら負けだ」

「それなら確かに安全に力を比べる事はできるが……俺とお前じゃ体格が違いすぎるぞ?」

「ふむ……?」


 言われてみれば、十メートルは超えるネフィリムと、中肉中背の目立たない体格の俺では、腕を組みあう事も出来ない。

 そもそも奴の二の腕は俺の身長よりも長い。


「かといって殴り合いでも公平さは出せないぞ? 俺の腕力は確かに高いが、体重が重い訳じゃない。お前に殴られてもダメージを受ける事はないが、質量差で吹っ飛んじまう」

「ム、確かに……」


 そこで考えることしばし。問題は体格なのだから、それを揃えれば問題ない。

 ならば、揃えてしまえばいい。俺の【錬成】は触れるモノ全てを変化させる事ができる。


「ならお前を俺と同じくらいに作り替える事も出来るが……」

「俺が弱くなっちまうんじゃ、話になんねぇよ」

「いや、力はそのままでできるぞ」

「へぇ、おもしろいな」


 小さな姿のまま、力を維持できる。そう聞いてネフィリムは興味を示した。

 こいつが小さくなれば、俺達と一緒に旅することも出来る。体格差という問題を突破できれば、ラキアに言い寄る口実にもなる。良い事ずくめだ。


「ラキアとの間にあった体格差の問題をクリアできるか。そりゃいい! ぜひやってくれ!」


 バンと膝を叩いて即決するネフィリム。なんだか簡単に決め過ぎてる気もするが、こいつの事だ、どうせ深くは考えていないのだろう。


「いいのか? お前を弱体化させようとしている罠かもしれないんだぞ」

「そんときゃ、ラキアが俺の仇を討ってくれるさ。それにまた復活すればいい」

「おい、もう復活の儀式とかやってんのかよ」

「おうよ。念には念をってやつだ。これもラキアの知恵だがな!」

「ラキア、余計な事を――」


 俺がジトリとした視線を向けると、ラキアは音の速さで視線を逸らせた。

 誰よりも人間の怖さを知っていた彼女は、仲間の魔王にも復活の儀式を行うよう進言していた。その結果がこのポコポコ復活する魔王達である。


「一応姿も変えられるけど、希望はあるか?」

「いや、とくにそういうのはないな。好きにしてくれ」

「じゃあ、そうだな……ちょっといいこと思いついたから、【錬成】を受け入れてくれよ?」

「おう、さっさとしてくれや!」


 自分の事だというのに、実にアバウトな奴だ。こういう性格は実は嫌いじゃない。

 俺はネフィリムの足に手を触れ――肩とか顔には届かないからだ――【錬成】を発動させる。

 肉体がまるで圧縮されるかのように小さくしぼんでいき、やがてラキアと同じくらいの身長にまで低くなる。

 そこに現れた姿は、ラキアと瓜二つの美少女の姿だ。いや、見分けがつくように銀髪を金髪に変えてはいたが。


「お? おお! おおおおぉぉぉぉおおおぅ!?」


 自分の身体を見下ろし、その変化に驚愕の声を上げるネフィリム。

 以前ラキアを【識別】した際のデータを元に再構築したのだが、なかなか上手く行ったようだ。


「どうだ?」

「これは……女か!? なぜこんな姿を選んだ?」


 ネフィリムは俺に向けて怒声を挙げる。まあ、それもわからないではない。

 だがここで俺は鏡を奴の顔に突き付けた。


「見ろ。お前が憧れていたラキアの姿だ。これでお前は名実ともにラキアと一心同体!」

「なるほど! そういう解釈もあるのか!?」

「しかもこの姿なら、俺達と一緒に……いや、ラキアと一緒に旅をすることもできる」

「なんとすばらしい!」


 単純なネフィリムは俺の言葉に納得の表情を浮かべる。普通ならこうはいかないが、こいつの単純な性格ならば充分に勝算はあった。


「どうだ、力の具合は? 前より力が入らないという事はないか?」

「いや、まったくないな。むしろ身体が小さくなった分、力が圧縮された気がするぜ」

「ならこれで問題ないな」

「おう! むしろこれは感謝せねばならん!」

「ごめん、アキラ。我はちょっと気持ちワルイ」


 唯一ラキアだけが微妙な表情を浮かべていたが、こいつの場合、ちょっとは懲りてもらわねばならない。これはバツの一環でもある。

 後カツヒト。お前の外見的好みがラキアだったのは知っているが、さすがに見惚れるのはちょっとどうかと思うぞ。


「じゃあ、そういうことで」

「次は力比べだな!」

「それは忘れて欲しかったな」


 ぼろ布を腰に撒いただけの美女が地面に寝そべり俺に手を差し伸べてくる。

 こう言うと実に官能的に聞こえてくるが、そこに色気は全くない。

 俺は溜息を吐いて、ネフィリムとの腕相撲に挑んだのだった。


ネフィリムの出番はこれから2章だけですので、TS苦手な方はご容赦を。

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