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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第15章 アロン共和国編
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第144話 魔神襲来

グロいシーンが頻出します。ご注意ください。

 駆け付けてきた男達は三人。あからさまに不審者な俺を見て、腰に下げていた武装を抜く。

 基本的に取り押さえるのが目的のため、下げていたのはトンファーのようなバトンだった。

 L字の部分を関節に引っ掛けたりして、敵を拘束するのにも使用できる武器だ。


 だが今の俺は、その武器を慈悲の装備だとはとても思えない。

 取り押さえた不審者は、あの穴に放置されていた死体と同じ目に遭わされると確信しているからである。


「貴様、どこから入ってきた!」


 マントに仮面、マフラー、そして抜身の黒刀。

 どう見ても不審者な俺は、案の定男達から身元を尋ねられるより先に侵入経路を問われる。

 だがそれに答える気は毛頭ない。今もあの惨状を起こした奴がのうのうと生きているかと思うと、問答する時間すら惜しい。


「よう、レイノルズってぇのはどこにいる?」

「聞かれた事に答えろ、この――」


 不遜極まる俺の態度に、あっさりと『紳士的応対』をかなぐり捨てる警備の男。

 無論俺も、それに付き合ってやる理由はない。

 どの道ここで片棒を担いていた連中を生かすつもりはないのだから、見せしめに一人死んでもらっても問題は無いだろう。

 むしろ、その方が奴等も話しやすくなるだろう。


 俺は闇影の刃を返し、峰打ちの状態で男を横薙ぎに打ち払った。

 闇影は受けに回った男のトンファーを苦も無くへし折り、男をそのまま真横に吹き飛ばす。

 男は地面と平行に吹っ飛んでいき、そのまま敷地を区切る鉄柵に激突し――通り抜けた。


 鉄柵が破壊されたわけではない。

 頑強極まる鉄柵と人体では、強度に差がありすぎる。男はまるでエッグカッターに通された卵のように、鉄柵に細切れにされて通り抜けたのだ。

 だがこれは俺の失策でもある。

 被害にあった男は無残な姿を晒しているが、それは鉄柵の向こう側、街路の上での出来事だ。

 玄関口にいる、目の前の男の視界内ではない。

 男の惨状を俺が把握できているのは、俺の人並み外れた視力のなせる結果である。


「チ、これじゃ威圧にならないな。次だ」


 立ち塞がった護衛の男は三人。

 一人は今、街路で薄切り卵みたいな状態なっている。残りは二人だ。

 そして異変に気付いて逃げ出そうとする者がいれば、屋上のカツヒトが見逃さない。

 この屋敷の人間はもはや籠の中の鳥である。


「おい、お前は知っているか? レイノルズの居場所だ」

「教えると思うか!」


 仲間の一人が吹き飛ばされたとは言え、その惨劇の結果までは目にできない男は、強気の態度を崩さない。

 トンファーバトンを構えて俺に殴りかかってきた。

 よく見るとL字の部分を先にして殴りかかってきている辺り、闇影を絡め捕るつもり満々である。


 だがそれも結局、人の力であったならばの話である。

 常人の力では、俺から武器を剥ぎ取る事など不可能なのだ。


 逆に梃子の原理を利用してトンファーをへし折ろうとする。

 無論、男の腕力がトンファーの強度より高いはずもなく、武器をあっさりと手放さざるを得ない。

 そのまま屋根まで武器を跳ね飛ばしてやったら、トンファーと言う鈍器が屋敷の外壁に突き刺さってしまった。

 通常ではありえない状態の武器に唖然として動きを止めた男に、唐竹割りに峰打ちの刃を叩き込んだ。


 ゴキュリと鈍い音を立てて、男の首が消え去り頭が肩に埋まり込む。

 頸椎まで粉砕された男は、もちろん生存していようはずもない。

 だがそれでは見せしめにしては一味足りないので、俺はさらにもう一度、斬撃を叩き込んだ。


 今度は男の身体は縦に半分まで圧縮されて、地面にへばりついた。

 もはや人の形は残されていないと言っていい。

 それを目にして、残された最後の一人はようやく戦慄する。


「さて、お前は知っているか? レイノルズの居場所だ。知らないならそれでも構わない。この屋敷には話ができそう奴はまだ多いだろうからな」


 これだけの屋敷だ、維持するには相当の人数が必要になるだろう。

 ましてやメイドを趣味のために使い捨てているからには、メインになる労働力は男が大半になっているはず。


「どうだ? 話す気になったか?」

「ま、待て、待ってくれ! 本当に俺は知らないんだ!」

「じゃあ、この屋敷で何が行われていたかは?」

「そ、それは……」


 その反応だけで充分だった。

 この男も、あの惨劇に関わっている。もしくは知っていても、黙って見過ごしていた。

 事に加担していたと判断するに足る反応である。


 俺は男の言葉を待たずに刀の刃を返し、今度は刃のある方で一刀両断する。

 男は声もなく絶命し、左右に分かれて倒れていった。


「さて、他には――」


 俺は肩に闇影を担いで玄関に入っていく。

 中からはようやく表での騒動を聞きつけ、執事を始めとした男達が駆け出してくるところだった。

 コイツ等も、女達を拷問した、もしくは見捨てた連中である。

 俺は誰一人見逃すつもりもなく、問答無用で男達へ斬りかかっていった。





 屋敷はまさに戦場の如き惨状に陥っていた。

 あちこちに散らばる、男だった肉の破片。

 飛び散った血飛沫が壁と言わず天井と言わず染め上げ、壁にへばりついた内臓が異臭を放つ。


 そんな中で男が二人、俺の目の前に残されていた。


「さて、残るはお前達二人だな。どうやら屋敷の中にレイノルズはいないようだが、どこに行った?」

「……………………」

「言う気はないか? 別に構わないぞ。お前達が喋らなくても、街で話を聞けばいいだけの話だ。いや、別の有力者を襲ってもいいな」

「そんな真似をして、ただで済むはずが――」

「ああ、そう言えば名乗ってなかったな。俺の名はワラキア。かつてこの街を攻撃した、魔神と呼ばれる存在だ」

「ワラ――まさか!」

「この有様を見てまだ納得できないか?」

「ぐぅっ!?」


 屋敷で待ち受けていた男達は、人に斬られたとは思えない無惨な姿を晒して朽ち果てている。

 屋敷そのものも、壁や扉があちこちで破壊されており、まるでモンスターが暴れまわったかのような惨状である。

 それらの痕跡は、人間に出せる破壊の限界を超えているといっていい。

 ここまで人体を破壊できるのは、俺を除いたら今は亡き破鎧の勇者タロスくらいの物だろう。


「もし話すのなら、そっちだけは生きて屋敷から出させてやろう」

「どうせ、屋敷を出た後で殺すつもりだろう!」

「安心しろ、俺はそんな真似はしない。なんなら、この街にいる間は俺は手を出さないと誓ってもいいぞ」

「ほ、本当だな?」

「ああ、神に誓って。結構なクソ野郎だったけどな」


 俺が出会ったのは神じゃなくて、オッサン天使だったが、あんないい加減な連中を雇う神がマトモなはずもあるまい。


「話す、俺は話すから助けてくれ!」

「貴様、レイノルズ様を裏切る気か!」

「ワラキアに目を付けられたんだ、あの野郎だってもう終わりだよ! 元々やってられねぇんだよ、女をいたぶる手伝いなんてよぉ!」

「それを承知で雇われたのは貴様だろう!」


 目の前で醜い争いが繰り広げられるが、それを愉しむ趣味は俺にはない。

 そもそもこんな血生臭い場所はさっさと立ち去りたいのだ。自分でやらかした事とは言え。


「別にどっちが話してくれてもいいんだけどな。さっさと話さないなら、両方首を刎ねる」

「議員宿舎だ! ハギスの町でワラキアの仕業って……火柱が……」

「ああ、それも俺だな。あそこの人買いの事務所を焼いてやった」

「そ、そうなのか。そのせいで軍を秘密裏に派遣して、ワラキアへの防衛線を築くと言っていた」

「それで早朝に軍がこそこそ出ていったって訳だ?」

「早朝って、ワラキアがこっちに来てるって連絡が入ったのは、昨夜だぞ?」

「ハギスとここくらいの距離なら、一晩も掛けずに走り抜けられるな」


 そう言い捨てておいて、俺は刀を真横に振り脱いた。

 その剣閃は喋らなかった男の首だけを刎ね飛ばす。


「ヒィ!?」

「約束だからな。喋らなかったコイツは殺すし、お前は見逃してやろう」

「た、助かった……のか?」

「さぁ? 早くいかないと気が変わるかもしれないぞ」

「ひ、ヒャアアアアァァァァァ!」


 俺がジトリとした視線を向けると、男は悲鳴を上げて屋敷の外へ駆け出していった。

 無論、俺があの男を見逃してやる義理なんて、欠片もない。

 だが約束した以上、あの男には手を出さない。


「……ただし、俺はな」


 そう呟いた直後に、ズドンという衝撃が前庭から響いてきた。

 屋根の上で監視していたカツヒトが、逃げだした男を発見して襲撃したのだ。


 その後、俺は屋敷の中を荒探しして、金品を【アイテムボックス】に収納していく。

 ついでに不正の証拠になる書類を見つけ出し、それも懐に入れておいた。


 無人になった屋敷を捜査した結果、隠された地下室には一人だけ少女が残されていた。

 地下牢に閉じ込められ、頑丈な手枷で床に繋ぎ留められ、逃げられない状態で。

 顔は無事だったが身体の各所の皮が剥がされ、悲惨な状態だった。


「ヒ……あぁぁぁ……」


 俺を見て、少女は声にならない悲鳴を上げた。

 それはそうだろう、この屋敷で蹂躙の限りを尽くされたのだ。しかもそれは全て男に、である。

 同じ男である俺を見て、彼女が怯えるのはまったく道理に適った事と言える。


「あまり騒ぐな。助けに来ただけだ」

「え……」

「まずは治療だな。すまないが、元通りとは行かないぞ?」


 暴れられると面倒なので、俺はまず手枷を外さずに少女に手を当てた。

 接触した場所から彼女の情報が流れ込み、元通りの状態に【錬成】していく。

 剥がれていたのが顔だったら、元の顔を知らない俺には治しようがない所だったが、まだ身体だけだったので、治療するには事が足りた。

 周囲の皮膚を延長させる感じで傷痕を癒したので、ほくろや傷痕なんかがあっても消えてしまっている。だが、これくらいは勘弁してもらおう。


 続いて手枷。こちらは簡単だ。

 鍵の外れた状態に作り直してやればいいだけである。


「あ、ありが……」

「礼はいい。だけどさっさと出ていった方がいいぞ。この屋敷はもうすぐ炎上するからな」

「え、炎上!?」

「俺が焼く。そしてレイノルズも今日中に始末する。何か問題があるか?」

「いえ……あの、本当に?」

「魔神ワラキアは嘘は付かん」


 今は悪鬼の仮面で顔を隠しているからこそ、こう名乗れる。

 囚われた、傷付いた少女を助け出し、外道を断罪する。

 こういった行為が俺の悪名を上書きして行ってくれれば、いずれは今よりはマシな扱いをされるかもしれないのだ。


「ヒッ――ワラキア!?」

「ああ、その前にこれを持っていけ。レイノルズの悪行の証拠になる」

「は、はい……!」

「きちんと届いてなかったら……今度は国ごと焼くからな」

「ヒィ!?」


 どうせ例のクズは俺の手によって裁く。だが魔神に殺されただけで終わったら、奴はただの被害者になってしまう。

 きちんと、奴の悪行を外に公表して――するまでもなく評判は悪いが――まぁ、奴の名声を地に落としておく必要がある。

 下種は下種として死んでもらわねばならない。


 少女は俺が差し出した書類をおずおずと受け取り、後退りしながら地上へと逃げ出していった。

 俺の今の扱いだと、そういう態度を取られても仕方あるまい。ましてや過去に、この街の議員を半数近く殺してしまったらしいし。


 少々どころではない憂鬱な気分で、俺は地上に戻る。

 そして他にも囚われている少女がいないか念入りに調べた上で、屋敷を出た。

 先に逃亡した男は、まるで昆虫標本のようにカツヒトの槍で地面に縫い付けられていた。


 屋根から飛び降りてきたカツヒトが、俺に向かって歩いてくる。

 屋根の高さも十メートル以上あるのだが、こいつには苦にならない高さだ。


「終わったのか?」

「ああ、レイノルズは議員宿舎だそうだ。俺達がハギスでやらかした襲撃事件の報告が、もうここに届いていたらしい」

「冒険者ギルドの連絡網を使ったんだな。軍が出ていったのはそのせいか」

「ワラキアの襲撃なんて、表沙汰にできないだろうからな。それじゃ、この屋敷も焼き払うぞ」

「ああ、見せしめにはちょうどいいな」

「……【天火(ティンダー)】」



 俺の呪文詠唱により、屋敷が火柱に包まれる。

 ハギスより少し多めに魔力を籠めておいたので、屋敷の敷地全体が火の海に包まれ、高々と火柱を巻き上げた。

 恐らく数か月はこの屋敷を焼き続けるだろう。先程の娘に証拠を渡しておいたのは、屋敷ごと焼き払う気だったからだ。

 なお、林の中の死体は焼かないでおく。ひどい状態だが、発見されれば親元に戻され、弔われるだろうから。


「行こう、カツヒト。後はレイノルズだけだ」

「アロンとは因縁があるからな。少しばかり痛い目に遭ってもらうとしよう」


 そう言葉を交わし、俺達二人は炎上する屋敷を後にした。

 議員宿舎と言っていたが、すでに日は登り始めている。おそらくレイノルズは議事堂にいるだろう。

 議事堂の場所は誰かに尋ねるまでもない。この街の中心にある一際巨大な建物、それがこの国の象徴である議事堂なのだ。


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