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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第15章 アロン共和国編
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第143話 暗部

グロシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 壁の一部を崩して、クラウベルの内部に潜り込んだ。比較的新しい壁を崩して中に入り、再度作り直したので、汚れなどで侵入の痕跡を見抜かれる心配もないだろう。

 このままレイノルズと言う奴の屋敷に乗り込んで、きっちり締め上げれば任務完了である。

 俺はその目的を果たすべく、街路へ一歩踏み出そうとして、足を止めた。


「おい、カツヒト」

「なんだ?」

「レイノルズの屋敷ってどこにある?」


 そう俺はカツヒトに尋ねていた。

 目の前に広がるクラウベルの街は、首都の名にふさわしく大きく発展している。

 俺の与えた被害によって、あちこちで工事中の建造物も各所に見て取れるが、それでも基礎になる建物の立派さは見て取れる。

 それはキフォンのような雑多な繁栄ではなく、きちんと区画整理されて発展した、長期計画による発展を遂げた証拠である。

 つまり、なにが言いたいかというと……


「デカい建物が多過ぎて、どれが奴の屋敷か判らん」

「俺もこの街は初めてだから、知る訳ないだろう?」


 最初の一歩で躓いてしまった。

 そもそも人に場所を聞こうにも、朝が早すぎて人通りが少ない。

 人目があれば軍が隠密行動なんてできない訳だから、それも当然と言えば当然なのだが。


「まだ時間が早すぎて、店の開店準備をしてる人すらいないな」

「酒場すら開いてないな……どうする?」

「この時間に開いてる店って何か心当たりがあるか?」

「まったくないな」


 これからカチ込む予定なので、カツヒトはアールシェピース+( ビーストべイン)30を肩に担いでいる。

 俺も市街での惨劇を避けるために、闇影を腰に差したままだ。

 つまり、やや内陸寄りで治安の良いこの町に置いて、やや目立つ格好と言える。


「……まぁいいか。どうせ殴り込みをかければ目立ってしまうんだ。お前も今のうちから仮面を被っておけよ」

「ああ。で、どうする?」

「そりゃ、人が増えるまでは時間を潰すしかないだろう。幸い、保存食や酒は【アイテムボックス】に残ってる」

「おいおい、どこで酒盛りする気だよ」

「そこらの酒場の前でいいだろ。開店を待ちきれなかった酔っ払いに偽装できるぞ」

「こんな仮面を被ってる時点で、誤魔化せないと思うけどな……」


 そんな事を呟きながらも、大通りの酒場を目指す。

 一直線にカチコミを掛けるつもりだったので、俺もカツヒトも顔を隠す仮面をつけていたのだ。

 実際現状ではその程度しかする事が無い。密入国した段階で、衛士に尋ねるという選択肢は存在しなかった。


 表通りで飲んだくれていると衛士に連行されてしまうので、途中で方向転換して少し通りに入った所にある酒場を選ぶ。

 そういう店は客層もあまりよろしくないのだが、後ろ暗い事をしにきた俺達にとって、そういう客の方がふさわしいと言える。

 少々うらぶれた通りにある酒場の前で座り込み、酒瓶を一つ取り出してラッパ飲みに呷る。


「俺にもくれよ」


 朝の冷え冷えとした空気に晒されて、少々肌寒い。カツヒトは俺の方に手を伸ばし酒瓶を要求してきた。

 ちなみにこの酒は、エルフの村で仕入れたフルーツワインである。

 市場での取引価格は結構高い代物のはず。


「ダメだ。お前はまだ18才だろう」

「この世界では成人扱いだよ。飲んでも問題ないだろう?」

「日本人であることには変わりないだろう。成長に問題出るかもしれないから、あと二年はやめとけ」


 自分でも堅苦しい事を言っている気はするが、今は俺が彼等の保護者である。

 多少は耳に痛い事を口にするのも許して欲しい。


「寒いんだよ」

「じゃあ、これにしとけ」


 俺は【アイテムボックス】から、残り物のスープが入った器を取り出した。

 バーベキューをやっていた時に作った野菜スープの残り物だ。森で採れた野菜がたっぷりと入ったヘルシーな一品である。

 肉が多い食事が続いていたので、こういうメニューも必須なのだ。肉ばかりでは肌にも悪い。


「肉が欲しい」

「贅沢言うなよ」


 そんな事を言いながらも、バーベキューの残りを取り出し、ついでに焼肉も取り出して渡す。


「さんきゅ」

「心がこもってねぇよ!」


 カツヒトは一言、感謝の欠片も感じさせない礼を口にしてから、早速串に齧り付いた。

 俺もアテ代わりに串焼きを取り出して齧り付く。店の開店準備が始まるまで、まだ一時間以上はあるだろう。

 仮眠を取る時間が無くなったのだから、こういう方法で英気を養っても、罰は当たるまい。





「お前ら、何やってんだよ」


 たっぷり二時間以上経ってから、ようやく店の人間が開店準備を始めた。

 ドアを開けて看板を出そうとしたら、入り口で男が二人宴会を開いていたのだから、この感想も無理はない。

 店の前には食い散らかされた木串が散らばり、空になった空き瓶が数本転がっていた。

 しかも野菜スープの皿も数枚転がっていたのだ。店の人間にしたらいい迷惑である。


「おー、ようやく店が開いたか。商売熱心じゃないなぁ」

「うるせぇよ。うちの店は夜が本番なんだ、朝から開くだけでも感謝しやがれ――っつーか、そうじゃねぇだろ!」

「あー、わりぃわりぃ」


 店を開きに来た男は(ほうき)でザカザカと木串を掻き集めて掃除する。

 そして転がってたワインの瓶を見て、顔をしかめた。


「あぁあぁ……いい酒をこんな飲み方しやがって」

「寒かったんだよ。宿も開いてなかったし」


 街に入ったのが深夜と早朝の境目みたいな時間だったので、宿もまだ開いてなかったのだ。

 俺は尻に着いた埃を叩き落としながら、立ち上がった。カツヒトもそれに続いて立ち上がる。

 俺の身長はそれほど高くはないが、顔には悪鬼を模した面を付けている。カツヒトに到っては高身長に加え顔の上半分に能面を引っ掛けて、槍を担いでいた。

 そのプレッシャーは一般人にとって計り知れないだろう。


「悪い、邪魔したな。少し聞きたい事があってな」

「な、なんだよ」


 俺達の異形にようやく気付いたのか、店の男は腰の引けた態度を取る。

 荒くれ共を相手にしていても、俺達のように得体の知れない相手は少ないだろう。

 この格好のおかげで会話の主導権を取れたのだとすれば、僥倖と言える。


「ちょっとレイノルズ卿とやらに用があってよ。この街は初めてだから場所を知らないんだ。アンタは知ってるかい?」

「レイノルズ……ああ、あのクズ野郎」

「知ってるのか?」

「有名人だよ。悪い意味でな」


 酒場の男の話によると、レイノルズと言う男は金に飽かして評議員の座を手に入れた、悪名高い男だそうだ。

 特に非合法の奴隷などを買い上げ、メイドとして雇い入れて屋敷で乱暴を働くことで有名だったらしい。

 最近ではそれらの暴行が過ぎて、さすがに隠しきれなくなってきたのか、町の外からそう言う犠牲者を仕入れているという話だ。

 事実、トリィちゃんはそう言う被害に遭いかけたのだから、裏付けはバッチリと言う所である。


「かれこれもう2、30人は雇われてるよ。でてきた女は一人もいないがね」

「官憲は? いくらなんでも露骨すぎるだろう?」

「悪事をするにゃ、まず役人を抱き込むのがセオリーだよ。この国も腐って来たモンだぜ」


 吐き捨てるように愚痴る男。どうやらレイノルズは、処断しても問題ない男で間違いないようだ。

 俺達は男からレイノルズの屋敷の場所を聞いて、その場を立ち去ったのだった。

 礼代わりに酒場の男には、エルフ産のフルーツワインを一瓶渡しておいた。珍しい酒だけあって、喜んでくれた。





 さすがにそのままレイノルズの屋敷に乗り込める訳ではない。

 レイノルズの屋敷は高級住宅街の一角に存在し、広大な敷地を鉄柵で覆った場所にあった。

 巨大な門の前には門番が常駐しており、槍と刀を携えた俺達は、一目で門前払いされそうな雰囲気を発していた。


 敷地の周囲を囲む柵は鋼鉄製の頑丈な物で、高さも五メートル程度はある。これを破壊しようと思えば、かなりの苦労を強いられるだろう。

 俺達の腕力の前にはあまり意味は無いだろうけど。


 そうやって屋敷の周囲を観察していくと、妙な臭いがする一角が存在した。

 それは俺にとっては嗅ぎ慣れない、何とも言えない不快な臭いだった。


「これは……」


 その臭いを嗅ぎつけ、カツヒトは眉間にしわを寄せた。


「覚えがあるのか?」

「ああ、戦争があった時はよく嗅いでいたよ。肉の腐る臭いだ」

「おい、それって……」


 今も戦闘は起こっている。それでも首都であるこの街では、縁の薄い臭いのはずだ。

 それが高級住宅街であるこの屋敷で漂ってくる。それが意味する所は明白極まりない。


「ここから中に入ってみよう」

「ああ、臭いの元も確認してみたいからな」


 そう言うと俺は軽くジャンプして鉄柵を軽々と飛び越えて見せた。

 カツヒトも俺に続いて、柵を飛び越えてくる。

 柵の向こう側は目隠しの為か植樹されており、敷地内とは思えないほど深い林になっていた。

 逆に言えば、ここは外からも内からも目が届かない場所と言える。


「こっちだ」


 カツヒトは真剣な表情のまま、俺を先導する。

 森の深い場所、それでいて、獣道のような踏み固められた道がつけられている場所に行き当たった。

 臭いはその道の先から漂ってくる。

 ここまでくると、さすがに鼻を押さえないと厳しいほど、悪臭が漂ってくる。


 しばらく進んだところで、森が小さく切り抜かれた場所に辿り着き、そこでカツヒトは足を止めた。

 そこは大きな穴が掘り抜かれており、そこには――


「死体……か」

「ああ」


 穴の中には十数人にも及ぶ死体が積み上げられていた。

 目に見える範囲では全員が女性。しかもまともな形を残している方が少ないほど、無残な。


「ひでぇな、これは」

「……ああ」


 カツヒトは言葉少なに返事を返す。その拳は固く握りしめられ、彼の怒りの深さを示していた。

 腕のない死体。足のない死体。耳のない、鼻のない、顔のない死体。

 顔が残っている者は全て苦悶の表情を浮かべていた。


「許せないな」


 ポツリとカツヒトが言葉を漏らす。俺もそれに同意すべく、一つ頷いた。


「行こう。レイノルズは生かしておいてはいけない奴だ」


 カツヒトが踵を返し、俺もそれに続こうとした。

 だがその時、一人の……いや、一つの死体が俺の目に留まった。


 背の低い、1メートル程の女性の死体。

 恐らくは小人(リリパット)族。その首には隷属の首輪がついている。

 その首から先が存在しない所を見ると、機能が正常に発揮され、首がねじ切られたのだろう。

 彼女はその方がマシと思える目にあったのだ。


 それを見て、俺は真っ先にリニアを思い浮かべた。

 無論、ここにいる彼女はリニアとは別人だ。それでも、俺は彼女にリニアの姿を重ねてしまった。

 その瞬間、俺の感情に一気に火が着いた。

 

「……気が変わった。レイノルズだけじゃねぇ。この屋敷の人間、攫われた女以外、皆殺しだ」

「ん? ああ、反対はしないが……」

「カツヒト、お前は屋根から周囲を監視して逃げる奴を捕らえてくれ。被害者じゃないなら殺せ」

「中は一人でいいのか?」

「むしろ一人の方が存分に暴れられるってモンだ」

「……そうか」


 別にカツヒトが頼りないという訳ではない。

 だが俺が本気で暴れるとなれば、それについて来れる訳でもない。

 それをカツヒトも知っているからこそ、不本意そうな顔をしながらも納得してくれたのだ。


 俺達は足早に森を抜け、中庭に出る。

 カツヒトは軽くジャンプして、屋敷の屋根に飛び上がった。そんな真似ができるような男が、頼りない訳がないのだ。


 俺はそのまま、闇影を引き抜いて玄関口に回る。

 そんな俺を見て、屋敷の警備の男達が数人駆け寄ってきた。

 それを見て、俺の顔に凄惨な嗤いが浮かぶ。シノブ達を連れてこなくてよかった。こんな表情、彼女達に見せる訳にはいかないからな。


「さぁ、一暴れしてやろう。今度はお前達が絶望する番だ」


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