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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第15章 アロン共和国編
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第140話 カチコミ

 取りあえず残された一人はグルグル巻きにして捕縛しておいた。

 コイツは後で、アジトに直接俺自ら配送(殲滅)しに行ってやろう。


 だが取りあえずは事情を聴かねば、どちらが悪いかは判断できない。

 世の中には被害者を装った悪人もいるのだ。

 実際彼等の借金の担保に実際に『娘』とか書かれていたのだとしたら、俺達の口出しは筋違いである。

 この世界には、非合法とは言え奴隷制度も実際に残っているのだから。


 俺達はエビフライみたいになるまでグルグル巻きにした男を担いで、家の中に案内してもらった。

 男も娘を助けた相手に『ありがとうございます、はいさようなら』と別れを告げるほど、非常識ではなかったようで、取りあえずお茶をごちそうになりながら、事情を聴くことになったのだ。


「この度は娘を助けていただき、本当にありがとうございます」

「いや、それはいいんだが、事情を聞かせてもらえないか?」

「ええ、それなのですが――」


 男はバァレと名乗り、このメインストリートを外れた立地で宿屋を営んでいると口にした。

 娘はトリィという名らしく、母親はいない。


「娘は早くに母親を亡くしまして……区画整理で通りも私の宿を外れた位置に通ってしまい、商売も上手くいかなくなってしまいまして――」

「通ってとは……この町は区画整理が頻繁に行われるので?」

「はい。この町自体歴史が浅いですから、今も日進月歩に発展しているのですよ。それだけに流行り廃りも激しいです」


 西側の河川を荷揚げ場にした事で、この町の西側も大きく発展した。

 しかしその際、新たな大通りから外れた場所に宿を構えていたこの店は、発展に取り残された事になってしまったのだと言う。

 そこに妻の死が重なり、営業意欲を大きく損なってしまったのだ。

 不運が重なり、借金もかさみ、ついには非合法な金貸しに手を出してしまったと言う落ちである。


「ですが来週には新しい荷が着く予定なんです。それで新作の魚料理を作って、再び再起しようと思ってた矢先に、急に返せと……期限まではまだあるはずなのに」

「期限が残ってるのに、娘を連れ去ろうと?」

「はい。あいつ等……ウォーレン商会の連中は人買いともパイプがあるそうなので、ひょっとしたら――」


 そこまで聞いた所で、カツヒトがエビフライ男のさるぐつわを外す。

 それまで聞いた事を確認するためだ。


「おい、今の話、事実か?」

「テメェら、こんなことしてタダで済むと思ってるのか!」


 質問には答えず、逆に脅し文句を発する男の頭を、カツヒトは強く床に叩き付ける事で黙らせた。


「ぐあっ!?」

「俺が聞きたい事はそれじゃないぞ。答えろ」

「チ、チクショウ……」


 それでも渋る男の頭を再度持ち上げ、叩き付ける予備動作を見せる。

 すると男は手の平を返すように、慌てた声を上げた。


「ま、待て! 教える、教えるから! その通りだよ、期日まではまだある。だけど取引先が急に女が一人欲しいって言い出したんだ!」

「つまりその数合わせに、彼女を?」

「ああ、そうだ! 俺達だってこんなヤベェ橋は渡りたくなかったんだが――むぐっ」


 再びカツヒトは男にさるぐつわを嵌めた。

 そしてテーブルに戻ってくる。その目は完全に『殺る』目になっていた。


「どうやら主人の言う事は真実みたいだな」

「そのようだ。という事は、バァレさんに非はないのだから、相手を潰す口実ができた。これは男の頭だけじゃなく『取引先』まで潰す必要がある」

「アキラ、そこまでやるのか?」

「もちろん、やる時は徹底的にやる主義だ」


 なにせ俺達の顔を知ってしまったのだ。余計な事とか口にされたら困ってしまう。

 ここは泣いたり笑ったりできなくなるくらい、きっちりと躾けてやらねばなるまい。


「あの、彼等は資産家とのやり取りもあるという話なので、あまり無茶な事は……私共としては今回の事だけでも充分に感謝しておりますから」


 恐らくは俺達の身を案じての言葉だろうが、そうはいかない。

 リニアを連れていてなんだが、奴隷商売というのは正直気に食わないのだ。


「とりあえず、ご安心を。それと、非合法な金貸しは今夜、この町から消えますので」

「へっ?」

「よし、カツヒト。行くぞ」

「おう!」

「あ、俺達今夜泊まる場所がないので、ここに泊めてもらっていいですか?」

「あ、はい。それはぜひに……」


 今夜の宿を確保し、意気揚々と席を立つ俺達。

 そんな俺達を見て、心配そうにする主人たちだったのだ。





 男の口を解放して、事務所の場所とやらを聞き出す。

 そしてその場所に向けて、夜の町を疾走したのだ。

 その速度は馬の全力疾走よりも更に早い。だがそれでも、俺もカツヒトも全力を出していないのだ。

 俺に担がれた男が、その速度に悲鳴を上げる。


「うわっ、うわああぁぁぁ!?」

「ダマレ」

「なんだよ、この速度! お前ら本当に人間かよぉ!?」

「俺達は手を出しちゃいけない存在なんだよ。そんな俺達に目を付けられた段階で、お前らはもう終わりだ」


 疾走しながら、最近出番の増したマスクとマフラーを装着する。

 これから先は人外染みた力を発揮するので、姿は念のため顔を隠しておきたい。


「アキラ、俺にも何か貸してくれ」

「じゃあ、これ」


 俺は【アイテムボックス】から馬の仮面を取り出してカツヒトに渡す。

 それを見たカツヒトは有無を言わさずポイ捨てしやがった。


「もっとマシなものを要求する!」

「贅沢な奴だなぁ」


 今度は能面のような仮面を出してカツヒトに渡した。

 翁面のような仮面を受け取り、カツヒトは微妙な表情をして見せた。


「せめて般若面とか無かったのか?」

「恐怖心は煽ると思うぞ?」

「いや、確かに夜道でこんな面をかぶった奴と出会ったら、有無を言わさず来た道を引き返すが」


 そんなバカ話をしている間に、男の言うウォーレン商会の事務所とやらに到着した。

 そこは職人達の作業場が隣接する区域で、日中人通りが多いわりに、夜になるとパッタリと人通りが途絶える場所でもある。


「ここか?」

「あ、ああ。だが事務所は夜でも人が多い。いくらお前らでも二人じゃ……引き返すなら今のうちだぞ」


 俺の肩の上でそんな事を(うそぶ)く男を無視して、俺達は事務所の扉を蹴り開ける。

 蹴られた扉は、そのまま壁から外れ、中にいた男を一人巻き込んだまま、奥へとすっ飛んでいった。

 突如巻き起こった破壊の嵐に、中に控えていた男達が呆然と突っ立っている。


「どーも、ウォーレンさん。宅配便DEATH!」

「んっだぁ、てめぇ!」


 突如扉を蹴り開け、アヤシイ仮面をかぶった二人組が乱入してきたら、こういう態度でも間違いでは無かろう。

 だがコイツ等は非合法の金融業者で、しかも人買いに繋がっているのだ。


 俺は肩に担いだ男をいきり立つ男達に投げつける。

 それをまともに受けた男二人が声もなく吹き飛ばされる。


「カツヒト、やれ」

「おう!」


 俺の言葉を聞いて、カツヒトは【アイテムボックス】から槍を取り出し、そのまま無造作に横に振るった。

 その穂先は壁を貫き、そのまま真横に抉りながら建物の土台を破壊していく。


「さて、お前らのボスはどこにいる? いや無理に言わなくてもいいぞ。このまま建物の下敷きになって死ぬだけだからな」

「無論逃がす気は欠片もないからな。出て行くなら俺を倒してからにしろ」

「ふっざけんなぁ!」


 俺達の口上を聞いて、数名の男がカツヒトに攻めかかってきた。

 それをまるで雑草を刈るかのように薙ぎ払いながら、問答無用で破壊を振り撒いていくカツヒト。

 俺は背中越しにそれを見ながら、二階への階段を上っていった。

 俺もカツヒトも、建物の崩壊程度では傷一つ負わないのだから、互いを心配する事は無い。


 一階の騒動に駆け下りてくるゴロツキ達を、まるで虫を払うかのように吹き飛ばしながら二階へ進む。

 片手で払い飛ばされたゴロツキはそのまま壁の染みになって、この世から退場していった。

 二階に上がると、廊下の奥で男が守ってる扉があったので、そこがここの商会の主の部屋なのだろうと当たりを付ける。

 俺は悠々とした足取りでそこに向かっていく。その足には靴越しにはっきりと感じるほど強い揺れが感じられた。

 どうやら一階ではカツヒトが張り切っているようだ。


「そこにここの社長がいるのかな? 悪いが通してくれないか」

「【炎弾(ファイアボルト)】!」

「【氷弾(フリーズボルト)】!」


 俺の言葉に答えようともせず、問答無用で攻撃魔法を放ってくる。

 これを俺は、避けようともせず歩を進めていった。

 もちろん、双方の魔法は俺の服に焦げ跡すら付けられず、掻き消えていく。


「効かない!?」

「怯むな、撃ち続けろ!」


 一人がそう命令を下し、剣を抜く。その声を受けて再び一人が【ファイアボルト】の詠唱に入った。

 だが俺も、無駄に攻撃を受け続けるのはいい気分がしない。

 なので、反撃にこちらも魔法を放つことにした。


「【創水(クリエイトウォーター)】」


 いや、これは攻撃魔法ではないのだが――俺の魔力で作り出した濁流が殺到し、二人を水洗便所の排泄物のごとく押し流していく。

 水流はそのまま壁にぶち当たり、それを押し崩して街路へ流れ出していった。

 しかも水流は床がその重量を支えられず、そこが抜けて一階へと流れ込んでいく。


「あ、しまった。まぁいっか」

「アキラァァァァァ! 貴様かあぁぁぁぁぁ!?」


 一階からカツヒトの声が聞こえた気がしないでもないが、ここは気にしないでおこう。

 俺にはまだやる事があるのだ。


「お邪魔しますよっと」

「な、なんだ、貴様!」


 この日何度目か判らない位の誰何の声。

 俺は鍵のかかった扉を周囲の壁ごと引っこ抜いて、部屋に押し入った。

 室内にはでっぷりと太った男が一人と、その妾婦らしい女が一人。


「通りすがりの正義の味方……じゃないな。結構悪人だし。なら悪人同士、仲良くやろうぜ?」

「なにを言って――」

「お前、人買いと繋がってるんだって?」

「なぜ、それを……ハッ!?」


 突然の大惨事に、あっさりと口を滑らせる男、おそらくはウォーレン。

 俺はその男の眼前に闇影を叩き付けて威嚇する。

 闇影は切れ味が欠片もないため、その破壊力はそのまま床に伝わり大穴を開けた。


「教えてくれよ。取引相手をよぉ。嫌なら……死ぬぜぇ?」


 俺の付けている仮面は顔の上半分だけを隠すタイプだ。下半分は丸出しなので口元が丸見えである。

 その口元を邪悪に歪ませながら、俺はウォーレンを脅しにかかった。

 無論、喋ろうが喋らなかろうが、死んでもらうつもりだ。


「き、貴様こんな真似をして……」

「それも今日何度も聞いたよ。で、それでお前はどうなった?」

「クッ――」

「な、悪ィ事は言わないからよ。俺が我慢してるウチに喋っちまえよ?」

「ふざ――ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 男の罵倒の声を聞かず、俺は男の右手の平に剣を突き立てた。

 剣の切れ味が悪いために、手の平を綺麗に突き通らず、手首から先が粉砕されていた。


「手が、俺の手……」

「安心しろよ。もう一つあるじゃないか」


 ウォーレンの左手は傷口を抑えようと動くが、俺はそれを踏みつけて動きを、封じ切っ先を向ける。


「それに手が無くなっても足がある。な? 早く言った方がいいだろ?」

「レイノルズ卿だ! 首都のクラウベルで議員をしている! 奴はサディストでメイドに暴力を働くから、女の消費が激しいんだよ!」

「へぇ? そいつが今回の騒動を大元か」

「そうだ、だから……喋っただろぉ! 早く治療させてくれぇ!」


 泣き叫びながら懇願するウォーレン。

 左手は俺に踏み押さえられ、右手は手首から先がなく、断続的に血液が噴き出している。

 手首を押さえて出血を止めたいところだろうが、その手を俺に抑えられているため、垂れ流しになっているのだ。


「そうか。悪かったな、邪魔して」


 聞きたい事は聞いた。

 元はレイノルズという議員。そいつを潰せば、今回の騒ぎは収まる。


「ああ、そうだ。外の廊下、濡らして悪かったな」

「そんな事はいいから、さっさと消えてくれ!」

「そうか? じゃあ詫びに事務所を乾かしていってやろう――【天火(ティンダー)】」


 俺の魔法の発動に従い、建物全体が炎に包まれた。


 一瞬にして蒸発する、ウォーレン。

 その場から這いずって逃げ出そうとしていた妾婦もまた、炎に包まれる。

 無論建物も無事ではなく、瞬く間に崩壊を始めた。俺は瓦礫と一緒にそのまま一階へと落ちていく。

 一階ではゴロツキを始末し終えたカツヒトが慌てて壁を崩して飛び出していくところだった。


「おい、俺を置いていくな!」

「ふざけろ、俺まで一緒に焼こうとするんじゃない!」


 気絶したゴロツキ達は、炎に巻かれてすでに息をしていない。

 砂漠の一件から制御力が成長した俺の【ティンダー】の魔法は、建物の敷地からはみ出る事無く天へ火柱を伸ばしていた。


 表に出ると、騒動に顔を覗かせ始めた、近所の住人たちの姿が見えた。

 炎の中から現れた、悪鬼と翁の仮面をつけた男。それを見て、慌てて家へと逃げ帰っていく。

 俺はその様子を確認して、宿へと戻ったのである。



  ◇◆◇◆◇



 この日、ハギスの町に魔神ワラキアが現れたという伝説ができた。

 これは近隣にワラキアと思われるクレーターの痕跡があったので、そう推測されていた。


 ワラキアは町の中で火柱を作り、十数人の住人を焼き殺してから、悠々と町を去ったという。

 その火柱は丸一年の間燃え続け、周囲を照らし続けた。

 その火柱は昼も夜も決して途絶える事無く、皓々と町を照らし出し、気温を引き上げ――多くの者を不眠症に陥らせたのだった。


書籍発売まであと三日です。

ワクワクしますね!

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