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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第12章 エルフの集落編
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第121話 告白

「ハロー、世界。お前はどうして、いきなり滅びそうになっているんだ?」


 朝起きて、小屋(コテージ)のリビングに行ってみると、いきなり世界が滅びかけていた。

 いや、そう大層な事ではなく、単にシノブとリニアとラキアとカツヒトが睨み合って口論していただけである。

 ……やっぱり滅ぶかもしれない。


 それはそうと、日頃仲のいい四人が侃々諤々(けんけんがくがく)の口論をするというのは珍しい。

 武力行使に及ばない限りは見守ってやりたい気分ではあるが、この四人の強化具合――ラキア除く――を考えると、そう楽観もしていられない。

 俺ほどではなくとも彼女達の攻撃は衝撃波を生み出し、周囲を遠隔攻撃で切り刻むほどの威力を持っているのだから。


 つまり、俺だって迂闊に手を出せない空間なのである。


「だから、リニアさんが行くより私がアキラに付いて行った方が、効率的にいいんじゃないかという話なんだ。ほら、私は【魔力制御】のスキルが無いから、魔道具制作の効率が悪いんだ」

「それを言ったら、わたしは魔力が低いので、量が作れませんよ。それに通信器具だって過信する訳には行きません。いざと言う時に足で連絡しに戻れる私がベストなんです」

「待て待て、行き先は危険な場所なのだろう? ならば我の出番である。如何な敵が出てこようと瞬時に粉砕してくれよう」

「ラキアさん、目立ってどうするんだ? それに行先は正規軍が掻き集めている傭兵団なんだろう? そんな場所に女性を送り込むのはトラブルの元だ。ここは俺が行くのが最適だと思うんだ」

「魔力も制御力もあるカツヒトが行ってどうするんだ。お前こそ魔道具製作に最もふさわしい人材だろう」

「いや、俺はこれでも槍戦士だから!」


 どうやら、誰が俺に付いて行くかで、再び論争が始まってしまったらしい。

 いつもは素直なシノブですら、頑として退かない態度を示している。


「どうしたんだよ。昨日話は付いてたんじゃないのか?」

「あ、アキラ、おはよう。いや、昨日は戦争と聞いて少し動転していてな。落ち着いて考えてみたら、リニアさんが行く必要はないんじゃないかと気付いたんだ。それで私が立候補してみたら……」

「シノブってばズルいんですよ。すでに昨日話は付いていたのに蒸し返すんですから! ご主人、ここは私こそが相棒に相応しいとハッキリ宣言してあげてください」


 うまく自分が同行できるように運んだつもりだったが、それを覆されそうになってリニアがエキサイトしている。

 だが、その一言で他の面々も一気にいきり立った。


「待て、それは聞き捨てならないぞ。アキラの隣には私が立つ! これは誰だって譲れない」

「おいおい、相棒の座はすでに俺の物だぞ。勝手に取らないでほしいな」

「ご主人と一緒になって災害を撒き散らしている輩が何を言います。いいですか? ご主人にはしっかりと手綱を握る存在が必要なんです。貴方じゃ無理」

「言ってくれたな、このチビッ子!?」

「愛棒なら我の好物だぞ」

「うん、ラキアはお留守番確定な」

「なんで!?」


 下ネタをかっ飛ばしたので、とりあえずラキアには留守番を命じておく。

 コイツの魔法は確かに強力だが、攻撃を全て範囲魔法化するスキルを持っているため、隠密行動という物ができないのもある。

 今回のようにコソコソする任務には、ラキアは向いてないだろう。


「そんな……二人っきりになって、思う存分吸い取ってやろうと思ったのに」

「それだから来るなって言ってんだよ!?」


 後、コイツは油断すると、俺をオヤツ感覚で(むさぼ)ろうとする。

 心身ともに健全な童貞である俺は、初めてはやはり情緒とかそういうのが欲しいのである。

 喰われるのは遠慮願いたい。

 それに、一歩踏み出すと、俺達の今の微妙な関係が崩れる恐れもあるのだ。


 それにしても、なぜシノブのような純粋さと、リニアのような一途さを持った、ラキアのような外見の女性はいなかったのだろう。

 そんな存在が居たら、その日のうちに事に及んでいただろうに。

 そう思うと俺は深々と溜息を吐かざるを得ない気分になった。


「で、ラキアさんは脱落として、後は三人だな。アキラ、私はどうだ? 剣も魔法も一流レベル、指揮経験もある。戦闘力なら申し分ないぞ」


 対抗馬の脱落に、意気を上げて自分を売り込みにかかるシノブ。

 興奮して、少し鼻息が荒いぞ。


「シノブなぁ……正直、お前も結構トラブルに巻き込まれそうなんだよな」

「な、なんだって!?」


 シノブは外見だけなら文句なしの美少女である。しかもやや子供っぽい。そういう人物は掻き集めの傭兵団なんかではまず舐めてかかられる。

 腕試しをしろとか、酒の相手をしろとか言って絡まれる未来が、激しく目に浮かぶのだ。

 そしてそれはリニアでも同様だった。


「という訳で、どうやら同行者は俺に決定したようだな」


 立ち上がって鼻高々に宣言するカツヒトだが、コイツはコイツで問題があるのだ。

 俺以上に一般常識が存在しない点である。

 多少旅を重ねた事で得た知識はあるが、それを有効活用する思考の広さが無いのだ。俺が言えた義理ではないが。

 そう考えると、世間慣れした人材と言うと一人しかいないのである。


「という訳で、上手く立ち回れる人材をという観点から、元通りリニアに決定しようと思う。三人とも留守番よろしくな」

「そんなぁ」

「つれないぞ、アキラ!」

「うるさい。カツヒトは釣りは上手いだろ」

「そういう意味ではなく!」


 しょんぼりと落ち込むシノブに猛然と抗議するカツヒト。ラキアはすでに撃沈済みである。

 だがやはり、元々この世界の者で知識豊富なリニアは心強いのだ。

 戦力としてならシノブもカツヒトも、決して劣る物ではない。そこは勘違いしないように言い含めておく。


「俺達は先回りして傭兵団に潜り込むが、足止めが成功すると決まった訳じゃないんだ。もし失敗したら、お前達が軍の矢面に立って侵攻を押さえて欲しい。ラキアはその時のための切り札だな」

「切り札!? そうか、我は切り札なのだな!」

「シノブとカツヒトもこわい棒を使った戦闘の第一人者だ。エルフ達だけにぶっつけ本番で使わせる訳には行かないだろう?」

「それは確かにそうなんだが……アキラ、大丈夫なのか?」

「そのためにリニアについて来てもらうんだろ」


 むしろ俺の場合、周辺被害への心配の方が大きいと言える。

 いや、まさか……


「なぁ、リニア。ひょっとして傭兵団に潜り込むとか言い出したのは……?」


 そこで俺が騒動を起こすと見越しての事なのか? ふと、そんな疑問が脳裏によぎった。

 最近は息をひそめていたが、彼女はトラブルメーカーで有名な小人(リリパット)族なのだ。

 俺の疑惑の視線を受け、リニアは即座に目を逸らして、口笛を吹き始めた。


「お前――!」

「いや、冗談、冗談ですよ。本当にこれが最良だと判断したんです。ちょーっとだけ、そんな騒動を間近で見学してやろうとか、思ったりもしましたけど」


 やたら慌てた様子で言い訳を口にするリニア。まぁそういう要素を込みにしても、彼女が今回は適任であることは間違いないので、拳骨一つ落とすだけで許してやった。


「ふぎゅうぅぅぅぅ……」


 もちろん俺の拳骨なので、一般人のそれよりもはるかに威力が高い。

 生命力を強化したリニアとて、それなりに苦痛を与える事には成功したようだ。


 こうして俺とリニアは傭兵団へスパイをしに、シノブとカツヒトは守備隊を鍛え上げ、ラキアはその溢れんばかりの魔力で畜魔石に魔力を籠めるという布陣が整ったのである。





 出立に際して、やはりエルフ達は俺の事を疑ってかかった。

 やはり翌日になってアロン側に向かうと言う事が、あまりいい印象を与えなかったようだ。

 だが予備のこわい棒を100本ほど押し付け、せっせとラキアが畜魔石に魔力を籠めているのを見せると、その疑念はあっさりと氷解した。


 まず旅立つ前に一人会っておきたい男がいる。

 それは密偵として捕らえられた、あの男だ。


 一応地下の牢屋に捕らえられた男の元に案内されると、縛られたままの密偵の男が二人床に転がされていた。

 地下牢は木の根を利用した造りになっていて、意外と強靭な造りになっている。

 ただし植物を利用しただけあって、湿気が激しく、住環境はあまりよろしくなさそうだ。

 俺は見張りのエルフに案内され、その牢にやって来た。


 俺の目論見はワラキアの存在を匂わす事だ。そのためにはこの密偵の男を利用しない手はない。

 その前段階として、俺は仮面とマフラーで顔を隠して、男の元を訪れたのだ。 


「よ、元気にしてたか」

「誰だ――?」

「この村の客人さ。ただの、な」


 俺とこの男は昨夜の会議で顔を合わせている。

 人間でありながらエルフの側に立つ俺に、コイツはあまりいい感情を持っていないように見受けられた。

 だが目の前の俺が、昨夜会議に居合わせた男とは気付いていないようだ。


「お前と、出発前に少し話をしてみたくてな」


 できるだけ気楽な振りを見せつつ、俺は【識別】を発動させた。

 そして驚愕する事になる。


 そこには【隠密】、【潜入】、【罠】、【剣技】、【格闘】、【薬学】と今まで見た中で最も多彩なスキルが並んでいたからだ。

 しかも、それぞれがLv6以上。つまり一流レベルで習得していることになる。


 先天的に、ここまで多彩なスキルを持つ者はこの世界には存在しない。

 つまり、彼のスキルは後天的に努力によって習得した物だ。その才能の高さと努力は感嘆に値する。


「見た所、人間なのにエルフについた裏切り者だな。何の用だ?」

「いや、様子を見に来ただけ」


 俺は仮面で顔半分を隠してはいるが、耳は隠れていない。

 耳が短い……つまり人間がここにいるという事は、エルフの協力者として判断されたのだろう。

 その判断は間違っていない。


 そして、俺がここに来た目的は、『見る』事だったのだ。

 この村の村長であるフーリオは識別系の能力を持っていなかった。

 つまり、斥候であるこの男の能力を見抜けないと言う事だ。現にこのような簡素な檻に放り込むだけで満足している。


 この男のスキルならば、ここを脱獄する事も容易いだろう。

 それなのにいまだにここに居座っているのは、おそらく別の目的が存在するから。


「ならばさっさと去れ。俺は裏切り者に開く口は持たん」

「でもお前、逃げようと思えばすぐ逃げれるだろ?」


 俺の発言に、付き添ってきたエルフはぎょっとした表情をして見せる。

 ここまで頑丈に縛られていて、脱獄できるとは思わなかったようだ。

 だが、罠レベルが7に達しているこの男なら、縄抜けして脱獄する事も可能だろう。


「そんなバカな! これほど頑丈に縛ってあるのに――」

「【罠】がLv7あるんだよ、彼。この程度なら抜け出せるだろうな」

「なっ!?」

「貴様、【識別】技能持ちか」


 見抜かれたと知った男が、舌打ちして俺を睨む。

 【識別】はある意味希少な能力だ。戦力を欲していたトーラス王国では軽視されていたが、人や物を見抜くと言う事は、様々な場面で事を有利に進められる。


「そう言う訳だ。お前の名前も『見えて』はいるが、直接聞いておきたいな」

「リーガンだ。こっちはケンプ。俺の部下だ」


 見抜かれている以上黙っていても無駄と悟り、大人しく白状するリーガン。

 この能力を持ってまだ牢屋にいると言う事は、おそらくはこの村の情勢を調べようとしていたのだろう。

 だとすれば、昨夜のうちにすでに村内を見て回ったはず。


「もう村は見て回ったか?」

「黙秘する」

「いい村だろ。のどかで、穏やかな気分になる」

「知らんな」

「そんな村にお前達は攻めこもうとしている。なぁ、やめにしないか?」

「そんな義理はない!」


 男としたら、国に忠誠を尽くしている訳だから、裏切る訳には行くまい。

 この村を調べ上げ、情報をアロンに持ち帰る。その一点に目的は絞られている。


「子供もいるし、女もいる。そんな場所に攻め込むのって、なんか間違ってないか?」

「その情報を持ち帰るのが俺の任務だ」

「まぁ、逆らえないのは判るけどな。でもこのままアロンから逃げるのも、有りじゃないか?」

「知らんと言った」


 頑強に首を振るリーガン。もちろんそんなあっさりこの男が裏切るとは思っていない。

 ならば、もう一つの手を打つ事にしよう。


「俺の見立てじゃ、お前はこの村で拘束して置けるような人材じゃない」

「ならさっさと解放しろ」

「そうはいかないのはお前も判るだろ。だが逃げたいなら逃げればいい」

「おい!?」


 俺の言葉に見張りのエルフは目を白黒させて抗議する。まぁ、それも当然である。

 だが俺は、それを前提として打つ手があるのだ。


「だからお前に俺の名を教えておく。俺は世間では――魔神ワラキアと呼ばれている」


 俺の告白に男は大きく目を見開いたのだった。

 この情報は俺にとってもリーガンにとっても、諸刃の剣だ。

 例え脱獄したとしても、この情報を持ち帰って報告すべきかどうか頭を悩ませることになる。


 誰だって、魔神ワラキアの滞在する村になんて攻めたくはない。それに、この報告して信じるかどうかも問題だ。

 これを信じさせるために、俺は財布から銅貨を一握り取り出し、それをまとめて握り潰して見せる。

 銅貨を一枚指先でへし折るのはよくあるパフォーマンスだが、十数枚をまとめて握り潰し、銅塊に戻すというのは初めて見るだろう。


「これはほんの序の口だぞ? それを信じるかどうか、知らせるかどうかはお前に任せる」


 この情報がそのまま伝わり、それを信じればアロンの侵攻は止まるだろう。

 だが、信じなければ侵攻は止まらない。これはあくまで抑止力に過ぎないのだ。


「そこの君も。この話を外に漏らしたら……村で暴れるからな?」


 俺の脅迫に、エルフの青年は首をブンブンと縦に振りたくったのだった。


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