第12話 戦禍
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
と言うわけで、今日は12,15,19時の3回投稿しますね。
薄暗い街を荷車を引いて歩く。
外へと繋がる街門へ辿り着いたところで、騒動に気が付いた。
兵士達が門の傍に集まり、騒然としている。
その中にはシノブの姿もあった。
「よう、どうかしたのか?」
あまり騒ぎには関わりたくは無かったが、仮にも同郷の少女が関わっているとなると話は変わる。
彼女は数少ない、俺の同類だ。
「む、アキラか。いや……そうだな、お前になら話しておいた方がいいか」
「なんだよ、改まって」
「アロン共和国の前線部隊がこの街に迫っている。もうすぐここは戦場になるだろう」
「な、なに!?」
この街は元トーラス王国領にあるが、現在はファルネア帝国がその支配権を持っている。
そして前線に近いこの街の近くでは、幾度と無く両国が刃を交わしていた。
だがこの街に直接被害が及んだ事は無い。
それは、平民への配慮を両国が忘れなかったからだ。
いずれ支配する街の民に、反感を買うのは良策ではない。
その思いがあったからこそ、双方は一般市民を巻き込まないように配慮していた。
だが、アロンはその方針を捨てたのだろうか?
「待てよ、街に来るからって戦争になるとは……」
「なる。ここにはアンサラの領主がいて、私達兵士がいる。そこへ敵国の部隊が来て戦闘にならない方がおかしい。そして、戦闘が起きれば――もうそこは戦場だ」
「そんな……」
こと戦争に関しては、彼女は俺よりも遥かに経験が豊富だ。
いや、下手をすると平和ボケした日本の政治家よりも、遥かに戦争の現実が見えている。
攻められれば戦いが起こる、戦いが起これば戦場ができる、それはもう戦争そのものなのだ。
こちらにその気が無くても、戦争に巻き込まれてしまう。
「じ、じゃあ、街の人を早く避難させないと!」
俺の脳裏によぎったのは、サリーとウォーケンの姿。
彼女達が戦火に巻き込まれるのは、俺としても避けたい事態だ。
「それが……少し難しい」
「なぜ!」
「敵の足が早い。それに数がこちらの五倍はある」
斥候の報告に拠ると、敵は騎馬主体の騎兵部隊で数は500ほど。
対してこちらの守備兵は100名ほどで、練度もあまり高くない。
主力はここから離れた前線に送られているのだ。
「今から住民を逃がしても追いつかれる。それに、そのためには門を開かないといけない」
民を逃がすために門を開けると言う事は、敵も雪崩れ込んでこれると言うこと。
そして、その敵を支える戦力がこちらには無い。
「私達が執れる手段は……篭城して援軍を待つことだけだが……」
それだと、敗北した時――いや、戦闘中ですら住民を巻き込んでしまう。
そもそも砦攻めでも、持ち堪える事ができるのは三倍程度。
五倍の兵力となると絶望的。ましてやこの街の街門はそれほど高くない。
「隊長、ここはやはり篭城を選択すべきです。少しでも時間を稼げば、味方の増援も……」
「だが、それとてどれだけ持つか。今から前線の友軍に知らせを送っても……敵は明日の朝にはこちらに着くのだぞ!」
「そもそもなぜ、ここまで接近されて気付かなかったのだ!」
「それは兵力を最前線に集中させたからで――」
部下達は思い思いに話してるが、ここは街門だぞ。
案の定、街の人が不安そうな表情でこちらを眺めてる。
シノブもそれに気付いたのか、即時決断を下す事にしたようだ。
「部隊を二つに分ける。一つは住民を連れて後方の街へ避難。民衆の護衛だ。もう一つは……ここで敵の足止めをする」
「そんな、それじゃ残る部隊は……」
「足止めの部隊は志願制にする。別に私一人でも構わん」
決然とそう宣告し、次々と指示を飛ばすシノブ。
だが、その表情は泣きそうなくらい崩れていた。
「ラッセル、お前はお義父様――領主様をつれて、街から避難しろ。これは命令だ」
「隊長!?」
「お義父様はこの街の旗印だ。あの方さえ生きていれば、街の再興も可能だ。それに――私の様な人材には必要な方でもある」
この世界に十数人しかいない召喚者。
それを保護してくれる、貴重な貴族。彼を失う訳には行かない。そう判断しての事だろう。
そして、そのために彼女は命を捨てる決断をした。
「アキラ、お前も早く避難しろ。街には今から触れを出すから、知人達のことは安心してくれていい」
「あ、ああ……でもよ、街を出てゲリラ戦を仕掛けちゃダメなのか? それなら足止めだって……」
「数が違い過ぎるんだ。同数を対応部隊に置いて、残りが進軍されれば、街の方が無防備になってしまう。それに相手は騎兵だ」
「じゃあ、徴兵とか寡兵で戦力を……いや、ダメだな」
足の速さが違う。
歩兵主体のこちらがゲリラ戦を仕掛けたとしても、相手が馬の足に任せて突破してしまえば、結局街が戦場になる。
兵を雇うと言う事は、すなわち住民を戦場に立たせると言う事だ。
これでは本末転倒も甚だしい。
兵力が違う、装備が違う、練度まで違う。
こちらが勝っているのは、シノブと言う個の戦力のみ。
ダメだ、彼女達では到底対応できる状況じゃない。
「ああ、もう。判ったよ! お前等もちゃんと逃げろよ!?」
俺は決断を決め、街を飛び出していった。
俺の家が街の外にあるのはシノブも知っているので、これは何も言われない。
「無事で、な……アキラ。最期にお前に会えて嬉しかったよ」
背後から聞こえて来た呟きに、覚悟を決める。
――俺が、敵を殲滅すればいい……と。




