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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第12章 エルフの集落編
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第115話 師事

お待たせしました、再開します。

 エルフの集落に到着し、荷を下ろした俺達は、そのまま村を出て帰途に就くという訳には行かなかった。

 キオさんとて商人である。往路に荷物を運び、復路は空荷のままでは損害が発生する……とまではいかないが、まぁ、効率は良くない。

 そこでルアダンに持ち帰る商品を品定めする期間が必要になるのだ。


 これには一週間以上かかるというので、俺達はエルフの村を堪能することにした。

 シノブはその風光明媚な風景を絶賛し、カツヒトはエルフの女性たちから珍しい果物を貰って喜んでいる。

 シノブの素直に集落を褒めちぎる無邪気さは大人達の好感度をアップさせ、まるで我が子のように可愛がられていた。

 この辺りの大人を惹き付けるカリスマは、さすが彼女と言う所か。


 そしてカツヒトは、黙っていればエルフに負けないイケメンだけあって、女性からの受けがいいらしい。

 そのくせ本人はというと、まだ色気より食い気なガキンチョ気質が残っているのだ。

 イケメンなのに、女にガツガツしていないという、実に理想的な紳士の外面が完成してると言える。

 エルフの美少女――まぁエルフは外見で年齢が判らないのだが――に囲まれる姿を見て、嫉妬で人を殺したい気分というのを初めて味わった。


 リニアはというと、案の定好奇心旺盛な子供たちに絡まれていた。

 よく見れば体型から子供でないのは判るのだが、その身長はそこらの子供より小さいので、親近感が湧くのだろう。

 また、ちょっとした事でもムキになる小人(リリパット)族の気質も、子供達と相性がいい。

 気が付くと子供と一緒に虫捕りに出かけ、ヘラクレスな感じのオオカブトを捕獲して、自慢気に俺に見せてきた。

 それでいいのか、百八歳?


 ラキアは村の男達を物色していたようだが、俺以上のゴチソウは見当たらなかったのか、ションボリしていた。

 だがエルフの女性達からは、その食生活から来る肌の艶を質問攻めにされ、しどろもどろになっている。

 逃げ出したい所だが、美容に掛ける女性の執着心は彼女の逃亡を許さず、日が暮れるまでペタペタムニムニと肌を弄られていた。

 敏捷度9999を誇るラキアを逃がさないとは、女性の執着心って怖い。


 そんな感じで初日の日は暮れて、夜になった。

 エルフ達は珍客をもてなす為、野菜や果物、狩猟で得た肉などを提供してくれたので、俺達の舌を満足させてくれた。

 逆に俺もサケの白子の唐揚げなどを提供し、女性陣の気を惹く事に成功していたりする。


 まぁ、大半は人妻だったりして、ガッカリさせられた訳だが……


 とにもかくにも、俺は旅の道中で考えていたことを実行すべく、バーネットの部屋を目指していた。

 正直言ってバーネット相手によるに二人きりというのは、この世界で最も忌避すべき状況かもしれない。

 だが、それでも俺の野望の為には必要な事なのだ。


 俺達五人は一つの小屋をあてがわれていたが、そこをこっそりと抜け出し、バーネットの宿泊する小屋を目指す。

 少し離れた場所にあるその小屋は、夜も更けた時間にあっても皓々と中の明かりを漏らしていた。

 どうやら起きてはいるらしい。


「バーネット、起きているか?」


 俺は控えめにドアをノックしながら、声を掛ける。

 すると、中から男の声が()()返って来た。


「おい、バーネット。客だぞ?」

「ん? こんな時間にか? 誰だ、無粋だな」


 聞き覚えのある声はアロンゾの物だった。まさか、奴もそっちの趣味か……?

 しばらくしてドアが開かれ、バーネットは俺を見て驚いたような表情を浮かべる。


「アキラじゃないか。どうしたんだ、こんな時間に?」


 俺がこの時間にバーネットを訪れるというのは、生活リズム的にも、性癖的にも有り得ない事だ。

 それはバーネット本人も自覚しているので、このタイミングで訪れた俺を驚いているのだ。


「ああ、相談事があったんだが……取り込み中か?」

「……いや、全然かまわないぞ」


 ごくわずかな間が存在したが、バーネットは俺を小屋に招き入れてくれた。

 小屋の中では今に座り込んだアロンゾが酒杯を傾けている。他にも酒のツマミなども散乱しているので、二人で酒宴を開いていたようだ。


「ようこそ、アキラだったか?」

「ああ、邪魔をする。楽しんでいた所、悪いな」

「なに、酒の相手は多いほど楽しい。気にするな」


 酒瓶はすでに三つほど床に転がっている。だがアロンゾはそれほど酔った様子が無い。

 そういえば迎えに出たバーネットもあまり酔った様子が無かった。二人とも酒に強い体質なのだろうか?

 バーネットは扉にカギをかけ、再び今に戻ってくる。


 酒宴はテーブルで行われていたのではなく、床に直接座り込んで開かれていた。

 見るからに、野郎同士の飲み会である。


「それで、こんな時間にどうしたんだ?」

「ああ、それなんだが――」

「まぁ、待て、バーネット。お前は少し事を急ぎすぎるクセがあるぞ。まずは一杯飲み干すといい」

「いや、俺は酒を飲みに来た訳では……」


 俺に向けて湯呑を突き出すアロンゾ。

 その目は酒に濁っている訳ではなく、真顔のままだ。


「アロンゾ。俺達人間はエルフほど気が長い訳じゃないんだぞ……」

「寿命の話ではないぞ。酒は気分も口も軽くする。そうなれば舌もよく回るという物だ。言いたい事があるなら話しやすくなるし、言いたくない事もポロリと漏れる」

「嫌な思惑だな。俺も気を付けるとしよう」

「そういう訳でアキラ。下戸でないなら一口呑むと話しやすくなるぞ」


 多少腹黒い事も漏らしてはいたが、アロンゾの言い分ももっともな所がある。

 とは言え、俺は酒に酔わないように体質が作り替えられているので、意味のない事だが。

 それでも酒杯を受けると言う事で、人間関係が進むと言う事はある。それにアロンゾも、悪意があって勧めているのではないので、俺としても断り辛かった。


 俺は言われるままに酒杯を受け取り、そのまま一気に呷る。

 エルフの作る酒は果物が原料の物が多く、まるでフルーツワインのような味わいがある。

 口当たりが軽く、やや甘めで女性向けな酒だ。それでいて鼻に抜けるアルコールのきつさは、蒸留酒にも引けを取らない。


「意外ときついな、この酒」

「意中の相手を酔い潰すにはいい酒だぞ」

「そんな相手いないよ。つーか、男二人でそんな酒を飲むなよ!?」


 こいつ、まさか本当にバーネットと同じ性癖か?

 とにかく、一杯呷った事で、俺はこの酒宴に参加する資格を得た事になる。

 バーネットが席に――(むしろ)で編んだ座布団だが――着いた所を見計らって、俺は相談事を口にした。


「バーネット。俺に――剣を教えてくれないか?」

「剣? それならシノブに習えばいいじゃないか。彼女の腕は俺よりはるかに上だぞ」


 その事実は俺も理解している。

 聞いた話では……というか、俺の【識別】にも出ているが、バーネットの剣技レベルは5だ。

 これは腕利きの領域ではあるが、シノブ達のような一流には少し物足りない。


 それでも俺は、バーネットを選んだ。

 それは身内に習うと甘さが出てしまうからという点と、俺自身が抱えるコンプレックスを知られたくないと言う想いからである。


 俺は大抵の敵には負けないほど身体能力は高い。

 だが、そこに技や型は存在しない。


 俺の横でシノブやカツヒトが華麗に敵を倒す様を見て、どうしても自分と比べてしまうのだ。

 シノブ達の剣技は言うなれば、達人が披露する演舞のような美しさがある。もしくは時代劇などで見る、計算されつくした動きのような物だ。


 対して俺の使う剣は、そういった美しさが無い。

 まるで海外の子供が日本刀のオモチャを振り回して格好をつけている、カンフーもどきのような印象を受けてしまうのだ。


 闇影を得た事により、俺は前に出て戦う機会が増えた。

 そしてそれは、シノブやカツヒトの隣で戦う機会が増えた事でもある。

 大概の敵は苦も無く蹂躙できるが、その勝ち方に大きな差をどうしても感じてしまう。これが今の俺のコンプレックスである。

 そのために、戦闘系スキル欲しさに色々と苦戦しているのだが、魔法のようにうまく習得できてはいない。


 あの格闘家の男――ヘルヴォルとの戦闘を経ても、刀剣系のスキルは習得できなかった。


 正直、こういう事をシノブに言うのは少し恥ずかしいのだ。彼女達なら『そんな事ない』と言ってくれるのは判っているし、剣技を得る必要もないとすら言いかねない。

 そしてその相手と今後も長く暮らしていかねばならないのだ。やはり、わだかまりというか、恥というか、そういうのは晒したくなかった。


 俺が素直にその事をバーネットに話すと、彼は得心したかのように頷く。


「ま、気持ちは判らんでもないが……そりゃ独学では効率は良くないな。如何な達人と言えど、基礎の部分はきちんと先達に学んでいたりするものだからな」

「そうなのか? 俺の故郷では、独学で強くなった剣豪の話とか、結構あるんだが……」

「それは例外的な天才の話と考えろ。アキラは素人で、上手くいかないと言う事は天才じゃないんだろう?」

「う……まぁ、そうなんだろうな」


 師匠の必要性を懇々と諭すバーネット。だが、そこにアロンゾが口を挟んできた。


「まぁ、そう言うな、バーネット。アキラが格好をつけたいと思う気持ちは俺も判る。いいじゃないか、お前が剣を教えてやれば」

「だが、シノブと言う少女は本当に俺なんかでは手も届かないほど、いい腕をしているんだぞ?」

「素人が学ぶ手頃な師匠って事で納得しろ」

「その発言でどうやって納得しろっていうんだ」

「三人の美女に囲まれて、無様な姿を晒したくないと言うアキラの気持ちも汲んでやれと言っているのだ。その本人に剣を習う訳にも行くまい?」

「む、最初からそう言えば、話も早かっただろうに」


 そんな言い合いをしながらも、グイグイと酒杯を開けていく二人。

 俺はともかく、コイツ等は底なしか?


「まぁいいか。どうせキオ氏が荷の選定を終えるまで、一週間程度は身動きが取れん。護衛中は訓練なんて言っている余裕はないが、ここでの滞在中なら問題はあるまい。アキラ、それでいいか?」

「教えてくれるのか!?」

「俺なんて、本当に大したことないんだぞ」

「今の俺には充分だ!」

「それ、結構失礼な発言なんだけどな……」

「あ、スマン」


 そう言うとバーネットはやおら席を立って、自分の荷物を漁り始めた。

 だが目当ての物が見つからなかったのか、再び席に戻ってくる。


「やはり訓練用の模擬剣なんて仕事に持ってきてなかったか」

「なんだ、そんな物でよければ、俺が用意するぞ」

「お、いいのか? 世話を掛けるな、アロンゾ」

「なんだったら俺が作ってもいいよ。バーネット、俺は鍛冶師だぞ」

「ああ、アキラなら訓練用の剣くらい自分で作れるんだったな。なんだ、何の問題もないじゃないか」


 呵々と笑い、再び酒杯を呷るバーネット。さすがに顔が紅潮しつつある。

 翌日から秘密の訓練を受けてくれることを確約し、その日の夜は更けていったのである。





 翌朝、俺はバーネットの小屋で目を覚ました。

 その事実に驚愕し、戦慄した俺は即座に自分の身だしなみを確認する。

 なぜかズボンは履いてなかったので、絶望に襲われかけたが、尻に怪しい痕跡が無かった事に安心した。

 どうやらトイレに行った時にベルトが緩んでいただけのようだ。


 だが、その恐怖と戦慄は俺の心に深い深い傷を残すことになった。

 今後、二度と夜のバーネットには近寄らねぇ……


月曜からと言ったな、あれはウソだ!

すんません勘違いしてました……

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