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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第1章 アンサラ編
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第11話 生存者


 俺の投げた石が山頂部を粉砕。

 その衝撃で驚いたクマやイノシシ、野犬などが山から逃走し、その一部が街に向かって被害が出たらしい。

 ほとんどが城壁で食い止められ、街の人に被害が出なかったのだけが救いか。


「どうした? 汗が凄いが……」

「いえ、ほら……さっきまで追いかけっこしてたから」

「ああ、そのステータスであの兵士から逃げるのは苦労しただろう。水を入れてやるから飲むといい」

「すんませんッス」


 二重の意味で謝罪の言葉を口にする。

 まさか、こんなところで他所の仕事を増やしていたとは思わなかった。

 今後は地形にも注意する事にしよう。


 そう言えば、彼女のステータスを見て、ふと思ったのだが……



◇◆◇◆◇


名前:相川忍 種族:人間 性別:女

年齢:15歳 職業:騎士Lv12


筋力 42

敏捷 115

器用 34

生命 72

魔力 128

知力 90

精神 74


スキル:

【アイテムボックス】

【言語理解】

【剣技】 Lv7

【火属性魔法】 Lv5


◇◆◇◆◇



 うん、やっぱり俺よりも遥かにレベルが高い。というか、能力値に比して異常に若い。

 しかも、敏捷度や魔力が常人の枠を振り切っている。

 基本、能力は80を超えれば一流、100を超えれば英雄レベルと言われている。


 それに彼女はスキルも異様に高い。召喚時に与えられるスキルは、基本Lv1だ。

 俺のように無駄にポイント消費させられて、色々最高レベルになっている者の方が異常なのだ。

 それを考えると、彼女のスキルレベルの高さも、かなりとんでもない数値と言える。


「レベルも能力も凄い高いっすけど、結構な猛者で?」

「ああ、私は二年前に召喚されたクチでな。【剣技】持ちだから、即座に前線送りにされたのだ」


 フンと鼻息荒く胸を張ってみせる。幼くして戦地を生き延びたのは、彼女にとって自慢できることなのだろう。

 しかし……二年前と言うと、まだ十三歳じゃないか。それで戦場送りとか、やはりあの国は滅ぼして正解か。


「一年前に、突然補給が絶たれて最前線で孤立してな。まぁ見事に敗残兵と化した訳だ。私を保護してくれた領主が善人で無ければ、今頃は他のメンバーのように殺されていただろうな」


 他のメンバー……そうだ、俺以外にも召喚者はいる。なによりも俺以前に呼ばれた連中がどれだけ生き残っていたのか、まだ知らなかった。


「そう言えば、召喚者ってどれくらい生き残ってるんだ?」

「君の話が真実なら、前線に送られたのは100人前後。私が配属された頃にはその半数程度が生き残っていたよ。そしてあの崩壊で更に半数が戦死した」

「じゃあ、25人程度か」

「いや、その後捕虜になったり奴隷になったり……まぁ、女だと色々な。その過酷な状況で更に半数が死んだという噂だ」

「12、3人?」

「詳細は判らないが、それくらいだと思う」


 十年で400人近くが召喚され、生き残ってるのは10人ちょっと……なんて有様だ。


「私としても同郷の人間とはできるだけ仲良くやっていきたい。何かあれば、この街の領主館で私の名前を出すといい。いつもはそこで世話になってるんだ」

「俺は街の外に住んでますから、滅多に寄らないと思うけど」

「その能力でか。危険じゃないか?」

「俺の【練成】の強化力を甘く見ちゃイケないな」


 軽く指を振って格好をつけて見るが、見えてるステータスがアレだからな。

 だが、受けを取る事は成功したらしい。

 シノブは、俺の仕草にあっけに取られた表情をした後、くすくすとあどけない笑みを浮かべた。

 それは気張った口調とは裏腹に、年相応の幼さが見て取れる。


「ま、お互い苦労はしてるみたいだが、あんたも無理はするなよ」

「む、お前よりは地位は高いのだぞ、私は。苦労なんかしていない」


 ムンと胸を張って見せるが、その仕草はどう見ても小動物の虚勢にしか見えない。

 これで一流と呼ばれるに値する【剣技】レベルを持っているのだから、この世界は本当に見かけが当てにならない。


 ちなみにこの世界。1レベルで駆け出し。4レベルで一人前、7レベルで一流と認識される。8レベルを超えれば超一流だ。

 彼女のように、剣も魔法も標準以上となると、善人で無くとも確保したくなるだろう。

 それに将来有望そうな美少女でもあることだし。かなり各所にボリュームは足りないが、そこは将来に期待だ。


「じゃ、俺はこれで。納品してこなけりゃならんからな」

「足止めしてすまなかったな」

「なに、美少女とお知り合いになれたのなら、役得ってもんだ」

「お、お前――!」


 顔を真っ赤にして拳を振り上げるシノブ。

 俺はその場から逃げるように、詰所を出て行った。

 しかしあんなセリフ一つで顔を赤くするとか、チョロすぎだろ。先行きが不安なお子様だ。





 大分遅れたが、ウォーケンの鍛冶屋にようやく到着した。

 仮面をかぶってから、扉をガンガン叩いて中から親父を呼び出す。

 これは、仮にもノーマルソード+8と言う商品を運んできたせいで、目が離せないからだ。


 ノーマルソード自体はそれほど高価ではないし、強化も程々のいわゆる『よく見る』品なのだが、それでも小遣い程度の金にはなる。

 ましてや20本もあれば結構な額になるのだ。

 魔が差して持っていかれたりしたら、俺の信用問題になってしまう。


「おう、なんだアキラか。さっきシノブ嬢ちゃんが確認に来たから、もうすぐ来ると思ってたが……時間かかったな」

「俺で悪かったな。訊問が長引いたんだよ。それより手早く済ませてやったんだから、感謝しろっての」

「本当にもう済ませたのか!? こりゃ驚いた」


 ウォーケンのオッサンは慌てて店から飛び出してきて、荷車の上の剣を検品しだす。


「おいおい、店の中でやってくれよ。つーか、荷降しくらいさせろ」

「お、スマンスマン。つい興奮しちまってな。それにしても、もう終わらせたか……相変わらずいい腕しておるわい。農家をやらせるのがもったいないわ」

「褒めてくれるのはありがたいが、人付き合いが苦手なんだよ」


 ノーマルソードをまとめて20本抱え上げて、店に入るオッサン。

 背が低いだけに、大荷物をあっさり抱え上げる様はいつ見ても圧巻だ。


「にしても剣の付与を20本か。それもオッサンがやったって事は新規で購入なんだろ?」

「まぁな。うちじゃ中古の剣は扱っておらんからな」

「物騒な注文だな」

「この街は前線に近いからな。さっさと向こうに行ってくれりゃいいんだが」


 東の方を指差して溜息を吐くウォーケン。


「揉め事がオッサンの食い扶持だろ」

「それでも、街が巻き込まれるのは本意じゃないわい」


 カウンターに用意してあった皮袋を俺に投げ寄越し、顔をしかめる。

 ここで貰う代金は、一般的な術師の料金より、やや高い。


「相変わらず付与強度がべらぼうに高いな。これなら耐久値の減少が低そうだ」


 付与強度は数値には現れないステータスらしい。

 これが高いと耐久値の減少が下がり、武器が壊れにくくなるので、いい武器を見抜く目はこの付与強度を見抜く目に直結しているとすら言われている。


 威力を強化する強化値、武器の硬さを表す強度、そして武器自体の耐久値。

 ゲーム的に言うと威力が攻撃力、強度が防御力、耐久値はHPというところか?


 この三つが武器の性能を現す三大要素になっているのだ。

 強化値と耐久値はステータスに現れるが、強度は現れないので、俺には見抜く事ができない。

 これは長年鍛冶に携わっていないと見抜けないらしい。


 とにかく納品はこれで終了だ。

 日も暮れてきたし、早く山小屋に帰りたい。


「本当にうちの専属付与師にならんか? 客の相手なんぞわしがやるから」

「遠慮しとくよ。人の多い街中ってだけで色々……な。それじゃ俺はこれで」

「無理強いはできんか。仕方ないの、今回は助かった。また頼むぞ」

「ちったぁ遠慮しろ!」


 こうして俺は店を後にしたのだった。


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