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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第10章 央天魔王編
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第105話 食料問題解決


 まずはラキアの代用食を考えるのが喫緊の問題になるだろう。

 そこで俺はカツヒトと連れ立って、町中を探索してみる事にした。

 今回女性陣は留守番である。探すモノがモノだけに、女性を連れ歩くのは少し気が引けたからだ。

 まぁ、ラキアがまた誰かに襲い掛かっても、二人掛かりならば制御できるだろう……多分。


「という訳でラキアの餌が問題だ。カツヒト、お前喰われてみないか? 性的に」

「彼女は確かに美しいが、歩くウツボカズラは遠慮する!」

「お前もアレは食虫植物扱いなんだな」


 とにかく、今のラキアの嗜好が問題なのだ。精気と言うのがどういう物を意味するのかが、さっぱり判らないので、代用品の候補すら浮かんでこない。

 イメージすらできないのだから、【世界錬成】で作り出す事も出来ないのだ。


「せめて何か、取っ掛かりでも手に入れば違うんだがな」

「そこらの男をとっ捕まえたらダメなのか?」

「それが妙にグルメになっててな……」


 今のラキアは少なくともリニア程度の能力値(パラメータ)が無いと、食欲が沸かなくなってしまったらしい。

 そしてそれを上回る能力を持つ俺もまた、獲物候補に挙がっている。

 その辺をうろつく男など、捕食リストのの端にも登らないそうだ。


「……いや、待て。そもそも俺の能力は、そこらの一般人を遥かに下回るぞ? それにリニアは女なのに食欲の対象になっている」

「なにが言いたい?」

「つまり……あいつが見ている精気ってのは、俺が施した強化値になるのか?」

「もしくは総合値かもな。なら、そこらの人間に強化を施して、吸わせてから解除するとか」


 確かにそれなら彼女の食欲も満たせるだろうが、それはすなわち行く先々で性的交渉を行わせるという事に繋がらないだろうか?

 ラキアとはまだ一日程度の付き合いだが、美少女にそういう行為を行わせるのは、俺もさすがにドン引きしてしまう。

 やはり、きちんとした食糧で(まかな)うのが一番いいだろう。


 そんな事を考えつつ、俺はこの町唯一の知り合いと言っていい武器屋に辿り着いた。

 ここはグノーメ族の老人が経営していたはずだ。

 いや、正確には他にも知り合いは居るのだが、顔を合わせるのが少し気まずいのだ。あの漁師親子とは。


 それはさておき、グノーメ族は古くは妖精を祖先に持つほど、精霊的要素を持っていた種族である。そういう意味では有効な助言を聞ける可能性も高いだろうと期待して来てみたのだ。

 相変わらず埃っぽい、繁盛しているとはとても見えない店内に、傍若無人に踏む込んでいく。


「ちわーっす」

「ん? なんじゃ、いつやら見た顔じゃな。今日は一人じゃないのか」

「俺をボッチみたいに言うな」


 埃だらけの店内に入るのを嫌がり、逃げ出そうとしたカツヒトの襟首を取っつ構えながらドアをくぐる。

 中ではいつものように地蔵のごとくグノーメ族の老人、パリオンが鎮座していた。

 軽く店内を見渡してみると、相変わらず武器には埃が被っていて、良い品も置いていない。

 よくこれで経営が成り立つものである。


「この間の弓は役に立っとるかな?」

「あー、あれなぁ……スマン、全然役に立たなかったわ」


 最初に作ったロングボウは、シーサーペント戦でポッキリと折れた。

 その後もルアダン近辺では堅い装甲を持つ甲殻系昆虫モンスターの前には歯が立っていない。

 いや、強化値上げれば通用するはずなんだが、リニアと知り合ってからは遠距離攻撃の重要性が薄れたのだ。普通に投石でも倒せるし。


「そういや、今日は爺ちゃんに聞きたい事があって来たんだよ」

「孫みたいに気安く言うでないわ。で、何が聞きたいんじゃ?」

「あんた、実は寂しかったりする?」


 顔を(しか)めて抗議しておきながら、うきうきした口調で質問を促している。ツンデレかよ。

 いや、答えてくれる事はありがたいんだがな。


「実はな、サキュバスの好物を聞きたくてな」

「男じゃ」

「身も蓋もねぇな。そうじゃなくて、こう、食料なんかで『それ』を代用できないかと思ってるんだよ」

「食料ねぇ……聞いた事が無いな」

「なんだよ、使えねぇ」

「まぁ、代案は無きにしも非ずじゃが」

「お、なんかあるのか?」


 爺さんは髭を(しご)きながら、ニヤリと笑い、こちらを指差す。


「お主、最近のこの町の噂を知っておるか?」

「いや? 俺は昨日この町に着いたばかりで」

「なら知らぬのも無理ないか。最近この町には再び魔神ワラキアが現れたそうじゃ」

「へ、へぇ……」

「最近、奴は家畜ドロに手を染めておったがな。しかも昨夜は全裸で股間を屹立させながら町中を駆け回り、牛を盗んだとか」

「してねぇよ!? どこの変態だよ!」


 せいぜい下半身露出で走り回ったくらいだ。牛とか、どっから出てきた?

 後カツヒト、こっそり後ろで笑ってるんじゃない。昨夜の事は知らないはずなのに、なぜ受けてるのか。


「別にお主がやったとは言っておらんのじゃが……」

「ああ、いや。スマン、先を続けて」

「うむ、そこでじゃ……そのサキュバスの餌が必要なら、ワラキアと食い合わせてはどうかと思ってな。魔神の精気ならば、魔王とて満足するじゃろう」

「あーそう……サンキューな。だが諸々の事情でその案は却下だ」


 俺は虚ろな瞳でパリオンの提案を却下した。

 それは俺が餌になると言う事と同意である。サキュバスに食われて童貞卒業とか、できるならば遠慮したい。


「そうか? では、そうじゃな……代用品……人間以外のモノは喰わんのかのぅ?」

「人間以外?」

「ほら、人間でも食うじゃろ? 魚の白子とか、動物の睾丸とか陰茎とか」

「ふむ?」


 俺は顎に手を当て、深く考える。

 彼女の食料として判っている事は二つ。

 一つは精その物を吸収すること。もう一つは力を内包した力を嗜好する事。


 それがどこを由来するのかは俺には判らないが、実際食材として、フグなどの精巣……白子は有名だし、タラやアンコウの物なんかも出回っている。

 トラの睾丸は精力剤としても有名だ。


 力があれば性的な干渉から、同性でも吸収できる……だとすれば、魚や動物からも吸収可能だろうか?

 白子を強化すれば、何が上がるのだろう……?

 精力の根源を強化する事になるのだから、意外といい考えかもしれない……のかな?


「ま、物は試しでやってみるか。邪魔したな」

「待てや。なんか買って行かんかい!」

「だってろくなもん置いてねーじゃん。なんだったら、俺がもっと売れる物に加工してやろうか?」

「なんじゃ、付与術でも使えるのか?」

「多少はな。ただし今はルアダンに居を構えているから、すぐには無理だぞ」


 本来付与術というのは時間が掛かるモノだ。普通の術師なら+1の強化を行うのに1時間はかかる。

 そんな付与を瞬時に行えば怪しまれてしまうだろう。ましてやこの近辺ではワラキアの偽物がいるらしいのだから。


「せいぜい明日までで一品、+5にしてやるくらいかな」

「ほう、なかなかの腕じゃな。ただなら一つ頼もうかの?」

「いいぜ。じゃあ……剣が一番売れ筋かな? この剣一つ、貰ってくぜ」

「持ち逃げするなよ」

「こんなもん持ち逃げしても、飯一食分程度にしかならないだろ」


 試すに値するアイデアを貰ったのだ。剣一本強化するくらい安い物である。

 俺はパリオンに手を振りながら店を出る。そして、ドアをくぐる頃には強化を終えていたのだった。





 カツヒトと共に魚の白子を購入してから宿に戻る。

 幸いこの町は漁師も多く、鮮魚店が豊富だったので、簡単に入手する事が出来た。

 そこそこの量を確保して、宿に戻ると、そこかしこから突き刺すような視線が飛んできた。そういえば、俺は誤解を受けたまま宿を出たのだったか。

 こそこそと二階に上がり、リニア達が待つ部屋へ潜り込む。


「よう、ただいま」

「お、おかえり、アキラ! 待ってたんだぞ」


 部屋の中では、リニアとシノブが臨戦態勢でラキアと対峙していた。

 ちなみにラキアは別に襲い掛かろうとしていた訳ではないらしい。

 どうやらリニアがシノブに告げ口して、警戒心を煽ったらしいのだ。まぁ、その気持ちも判らないでもない。


「ちょっと面白いアイデアを提供してもらってな。それを試そうと思って来たんだ」

「面白いアイデア?」

「これだ。カツヒト」


 俺がカツヒトに合図を出し、サイドテーブルにある木皿の上に白子をぶちまけてもらった。


「わ、生臭っ!?」

「まぁ、調理前だし仕方あるまい」


 その魚臭さに思わず鼻をつまむシノブとリニア。

 ラキアは臭いには強いのか、興味津々で食材を覗き込んでいた。


「これがわ我の食事になるのか?」

「おう、サケの白子だ」


 食用として有名なのはフグ・タラ・アンコウなどだがサケの精巣も食用に適している、この近辺は川と湖しか存在しないので、サケの方が入手しやすかったのだ。

 時期的には夏の盛りで少々早かった感は否めないが、まったくいないと言う訳ではない。むしろ産卵の秋を控えて、この時期に遡上してくる種が結構いるらしい。

 そこで地元民があまり食べない、廃棄予定の遡上してきたサケの精巣を大量に仕入れてきたのだ。


「うろ覚えだが、ニンニクなんかで臭みを消してフライにすると美味いらしいぞ」

「へぇ、フグとかタラはよく聞いたけど、サケは初めて聞いたかも」

「知名度は一歩及ばないのは確かにな。でも味は劣らないらしい」


 そんな訳で俺は四人をぞろぞろ引き連れて、町の外へと出向いて行った。

 本来ならば設備の整った厨房を借りたい所だが、そろそろ日も暮れ始め、忙しくなってきていたので遠慮したのだ。

 それに、白子に強化を施すと言う極秘行動も行わねばならない。一目は避けておいた方がいいだろう。


「……という訳で、その……『あれ』や『これ』やの根源たる白子に強化を施せば、ひょっとしたらラキアの好物になるかもしれないとか思った訳だ」

「ふむ、精液を作り出す大元である白子を強化して、ラキアに食わせようという訳ですね?」

「俺がなるだけボカシて言ってるのに、年頃の娘がはしたない事を口にするんじゃありません!?」


 年頃と言っても、リニアは100を超えている。だが見かけは身長四割減の十代半ばなだけに、微妙な気分になるのはこっちの方だ。

 俺は夜営用のコンロを設営しつつ、リニアを叱り、カツヒトは大雑把な手つきでニンニクをすり下ろしていた。

 これをパン粉に混ぜ、適当なハーブと一緒にまぶして油で揚げればいい。


 まず白子を水洗いしてぬめりと汚れを取り、清潔なタオルで水気を切ってから、溶き卵に漬ける。

 そして粉をまぶして、高温の油に流し込んだ。


 火力の調整は火魔法の得意なシノブにやってもらっているので安心だ。

 適度に火が通った所で引き揚げて、網の上に置いて油を切る。

 必要な調理道具は全て俺の【アイテムボックス】にしまってあるので、野外でもそれなりの調理はできる。


 パチパチと音を立てる白子フライにまずは強化を掛けてみる。

 これは実験の第一段階である。想定するのは強壮剤としての効果。

 続いて先に白子に強化をしてから、フライにして見た物も用意。

 どのタイミングで強化したモノが効果が高いのか、実験してみたいのだ。


「もういいのか?」

「ちょっと待て、食べる前にレモンを絞って……ほら、熱いから気を付けろよ?」


 油物の上にニンニクを使用しているので、かなりヘビーな食感になっている。

 そこでレモンなどを絞って、なるだけ軽く食べれるように工夫しているのだ。


 フォークでフライを突き刺し、恐る恐るといった表情で口元に運ぶラキア。

 小さな口を精一杯開いて、しゃくりと一口。


「お? おお……これは……うまい、美味いぞ、アキラ!」

「いや、味はこの際どうでもいい。精気の補充はできているのか?」

「む、それは……ダメだ。できてない」

「そうか。じゃあ、こっちのはどうだ?」


 そう言って差し出したのは、揚げる前に強化を施した方だ。

 味は問題ないと理解したので、今度は勢い良くかぶり付く。


「ふむ、ふご! はぐ!」

「飲み込んでから喋れ」

「んく……すごいぞアキラ! こっちは精気の補充ができている。しかも極上だ!」


 なるほど、完成品を強化した場合『料理』を強化した事になって補充の役には立たず、その前の段階だと生物的な機能が強化された状態で『料理』になると言う事かな?

 白子フライ+99と、白子+99をフライした料理の違いと言うべきか。


 サケ一匹の精気などたかが知れているだろうが、それが1万2千倍になると話は変わる。

 人のそれを充分に上回るので、彼女も満足できる料理に仕上がったという訳だ。


「うま、うま! さくふわー」


 シャクシャクと口に運んでは咀嚼するラキア。

 それを見て、リニアとシノブも喉を鳴らす。美味しい料理は万人の弱点である。

 シノブとリニアとて、例外ではない。


「アキラ、その、私達も食べてよいだろうか?」

「ご主人、このままじゃ生殺しです。わたしも食べたい!」


 しゅたっと手を上げて主張する二人に、俺は笑いながら許可を出した。

 こうしてラキアの食料問題は解決されたのである。


ここで一旦章を切ります。次からまたトップランナーの連載に戻ります。

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