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ポンコツ魔神 逃亡中!  作者: 鏑木ハルカ
第10章 央天魔王編
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第103話 お説教

前回の下ネタの後始末回ですので、少し性的な含みがございます。ご了承ください。

 その日の朝、珍しく、リニアとラキアが正座させられていた。

 目の前に仁王立ちで立ちはだかるのは、もちろん俺だ。


「……さて、釈明を聞こう」


 俺の重々しいセリフに、リニアは珍しくしょげ返る。

 場所はリニア達が泊まっていた部屋で、そこに俺が乱入した事になる。

 シノブは寝入ってて気付かなかったので、何が起きたのかとパジャマ姿のまま首を傾げている。


「その……夜中にラキアが部屋を抜け出そうとしたので、どこへ行くか聞いたんですよ。そしたら『夜食』って言うから――」

「サキュバスの『夜食』な……そこで察しは付いた訳だ」

「はい。なので主にわたしの矜持的な面も考えて、制止しました」

「そこは真っ先に俺の貞操的な面を考えてくれ」


 ラキアの種族はサキュバスである。つまり彼女には定期的に、アレな感じのアダルトでエロティカルなパゥワーが必要になるのだ。

 リニアがそれを制止したのはファインプレイと言えるだろう。


「まあいいだろう。リニアの正座は崩していいぞ」

「やったー」

「いや我は? これは生態的な不可抗力であり、断固として無罪を主張するぞ!」

「お前はダメだ! そもそもなぜ俺を狙った?」


 痺れる足でヘコヘコ立ち上がったリニアが椅子へ移動している。

 すぐさまシノブがリニアを抱き上げ、椅子の上で膝に乗せた。まるでヌイグルミのような扱いである。その扱いはどうなんだ?

 とにかく、俺のカミナリにラキアは必死に抗弁する。


「アキラよ。お前は極上の美酒を前に泥水を啜れと言うのか? それはいかにも、惨い仕打ちだと主張するぞ」

「いや、そもそも、俺とバーネットたちの間にそこまで差があるのか?」

「それはもう! あのカツヒトという男も極上ではあるが、アキラの場合は桁が違う。生まれ変わる前を含めても、最高の精力の持ち主だ。しかもいくら吸っても枯れぬほど強い。これほどの逸品を前に、我は……我は……じゅるり」


 思い出したのか、舌舐めずりして涎を垂らすラキア。その蕩けきった表情で美少女台無しである。

 彼女の言う精力の上昇は、おそらくは俺が自身を強化した際に得た物だろう。

 俺は30センチ砲を設定した時に、関連能力も強化しておいたのだ。彼女にとって俺がごちそうに見えるのは、仕方ない事かも知れない。


「いや、しかし……だからと言って俺を狙われ続けるのも、非常に問題がある」


 いつかお相手してもらいたいとは思っていたが、その相手がサキュバスで、しかも肉食系というのは色々と心情的に抵抗があるのだ。童貞とは時に叙情的(リリカル)なシチュエーションを要求するのだ。

 それにシノブのような世間知らずな少女の前でそれを語るのは、さすがに(はば)られるモノがある。というか、セクハラだ。


「だから【淫夢】で間接的に吸うに留めたのだ。これだと味は格段に落ちるし、吸収効率も落ちるのだが……それでもアキラのは極上だった。もうクセになっちゃった。てへ」


 ほぅ、と頬にて手を当て、恍惚の表情を浮かべるラキア。

 もし二人っきりだったらそのまま押し倒していたかもしれないくらい、その表情は魅力的だ。

 だが、あの顔は獲物を吸い寄せる食虫植物のそれである。もう俺は騙されないぞ。


「それで毎朝下着を洗う方の身にもなってくれよ……あれは凄く侘しいんだぞ」

「それなら洗濯はわたしが引き受けます? なんだったらその後、リアルで夢の続きを――」

「リニア、お前はやっぱり正座しろ」


 そういえばもう一匹、小型の肉食生物がいたのだった。こいつも虎視眈々と俺を狙っているのだ。

 【淫夢】を見せられて変な気分の時に、下着を剥ぎ取られた日には、間違いが起きてもおかしくない。


 シノブがリニアをちょこんと床に置いて、リニアが正座を再開する。

 この辺り、俺の言う事を聞いてくれる分には、非常に可愛らしい二人である。


「それにしても……ラキア、どうしても食料はそれじゃなきゃダメなのか?」

「ダメなのだ。主に嗜好的意味で」

「それだったら我慢できるって意味にならないか?」

「いや、それは……」


 あわあわと手をを振るラキアを見る限り、必ずしも食料は『それ』である必要はなさそうである。

 だが、言うなればそれは、『酒好きにいきなり覚悟も無く酒断ちをさせる』のと等しい行為なのかもしれない。

 だとすれば、禁止するのも可哀想という物だろうか?


「ともかく、対応は必要になるな……ともかく今のところはできるだけ我慢しておいてくれ。直接吸いに来るのは厳禁だ」

「えー」

「リニアやシノブがいる手前、お前を優先してやる訳には行かないんだよ。渡世(とせい)の義理というか、そういうので」

吐精(とせい)の義理……なるほど、よく判った」

「なんとなく判ってない気がするが、まあいい」


 とにかく、ラキアの問題は喫緊の問題ではないので、先送りにしても構うまい。

 それより今日の予定の事がある。


「そうだ、シノブ。今日はカツヒトと一緒に少し手伝ってもらう事になるぞ」

「ん、なにかあったか?」

「こわい棒をルアダンの傭兵団事務所まで送らないといけないからな」

「あ、それがあったか。クジャタでは色々あって発送できなかったんだっけ?」

「コイツのせいでな!」


 ぐりぐりとラキアの頭頂部に拳を押し付ける。

 こいつは強化してない状態でも、かなりの耐久力を持っているので遠慮はいらないのだ。


「でも、ラキアは本当に討伐軍を倒していないと言っていたぞ?」

「だとすりゃ、誰がそんなヒドイ事をやったんだか。他人に罪を擦り付けるとか、外道のする事だ」

「またご主人が絡んでたりするんじゃないでしょうね……南の炎の壁みたいに」

「大丈夫だ。だって俺、遠征軍とか、全然関係なかったし」


 まったく無関係という訳ではないが、俺が立てた炎の壁を間抜けにも見学しているだけの連中に、なんの恨みがあるというのか。

 俺が遠征軍を攻撃する理由も、ラキア同様にまったく存在しないのだ。なので、その壊滅事件に俺が関わっているとは考えられない。

 よって俺は、遠征軍壊滅とは無関係なのだ。


 そんな訳で着替え始めた女性陣に配慮して、俺は部屋を出たのである。

 リニアとラキアは全然気にしないので、そのまま見ていたくはあったが……





 部屋に戻って着替えを済ませ、顔を洗うために裏の井戸に向かうと、そこにカツヒトが待っていた。

 歯ブラシを口に咥えたままの間抜けな姿だが、コイツも朝はいつもこんな感じだ。


「おっす。おはよう」

「う」


 俺のあいさつにカツヒトも手を上げて挨拶を返す。歯ブラシを咥えているので、言葉は帰ってこない。

 隣に立って俺も洗顔を始めた。【アイテムボックス】から俺用の歯ブラシを取り出し、歯磨き粉は存在しないので、塩をまぶして磨く。

 こればっかりは口の中がしょっぱくて仕方なく、かれこれ二年経った今でも慣れない。


「ペッ……そういえば、昨夜はどこ行ってたんだ?」


 どうやら昨夜の留守には気付いていたようだ。

 口をゆすいだカツヒトが俺に尋ねて来るが、それに正直に答えるのは、俺のプライドが断固として許さない。


「うー、少し、ラキアと話があってな」

「まさかイカガワシイ事をしてたんじゃなかろうな? 彼女、サキュバスらしいし」

「そそそそそんな事は――無いぞ?」

「なんで疑問形なんだよ」


 イカガワシイ事をされたのは俺の方だが、これも答える事が出来ない。こんな質問に答えられないなんて……くやしい、ビクンビクン。


「そもそもシノブもリニアもいるのに、イカガワシイ事ができるか」

「それもそうか。彼女を連れ出して朝まで帰ってこないとなると、間違いなく疑われるものな。リニアさんがそれを許すはずがない」


 シノブもカツヒトも、リニアの事は年上と言う事もあって『さん』付けで呼ぶようになっている。

 多少悪戯好きではあるが、彼女は事情を知る貴重な『こちら側の人間』だ。

 ムードメーカーでもあるので、カツヒトもリニアには一定の敬意を払っていた。その性癖は別として。


「それにしても厄介な物を拾って来たものだ。あれか? 類友?」

「俺が厄介みたいに言うな。まぁ、うっかり(たら)し込まれたのは否定しないが」


 彼女の美貌が無ければ、俺も勘違いして保護するなんて暴挙には出なかったはずだ……多分。


「まぁ、あいつの食事に関しては少しばかり工夫がいるようなので、要改善ってところだな」

「確かにそれは対処しておかないとな。そういえばこの辺、なんか嗅ぎ慣れた臭いがしないか? 栗の花っぽい――」

「しないったらしない!」


 この世界にも、消臭剤は必要だと強く思った朝の一幕であった。





 キオさんに足止めの原因のラキアはここにいますと告白する訳にも行かないので、まだ今日の所はニブラスに駐留する事になっている。

 その合間を使って、以前購入してもらったこわい棒を、ルアダンの砦へ発送する事にした。

 材料の紫水晶はキオさんが運んでいる物もあるけど、あちらは先約があるので、現地調達である。


 宿屋の前で俺は各自に指示を出す。

 今日の要件を果たすために、だ。


「って訳で、カツヒトは俺と紫水晶の買い出しな」

「【アイテムボックス】がご入用って事か」

「そ。で、シノブはその後、魔力の注入を頼む。俺だと破裂するので」

「了解した」

「それからリニアとラキアにはすごく大事な用がある」


 俺は神妙な顔つきで、二人に命じた。


「まずラキア――なにもするな」

「ええ!? 我、役に立つよ? 本当だよ?」 

「お前はきっと俺と同類だ。何もやってないのに騒動を巻き起こす」

「ご主人の場合、余計な事をして騒動を巻き起こす、ですけど」

「うるさい。そしてリニアはラキアを見張れ。『ちょっとご飯』とか言って通りすがりの男を食わないように。性的に」

「それはありそうですね、承知しました」

「しないし! アキラの味を知ったら他の男なんて相手にできないし!」

「人前で、大声で誤解を招くようなことを叫ぶな!?」


 案の定、話を聞いていた他の客たちが『ち、うまい事やりやがって』とか、『朝からお盛んだこと』とか、言い出している。

 この調子では、俺が『襲われた少女の不幸に付け込んでモノにした極悪人』になってしまうではないか。

 ここは誤解を解くため、反論の一手を打っておかねばならない。


「いやー、俺の料理を気に入ってもらえて、光栄だなー!」

「アキラは料理ができたのか? それは楽しみだな!」


 そんな俺の一手をラキアは遠慮なくぶっ潰しにかかる。


「チクショウ、お前は俺に恨みでもあるのか!?」

「え、恩しか感じてないんだぞ? 本当だぞ?」


 こんなやり取りを経て、俺はニブラスの町で『ハーレム野郎』の名を確たる物にしてしまったのだった。


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